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【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター6

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176/195

ターン176 星の海のパラディン

 樹神暦2642年11月(スコーピオ)

 

 世界耐久選手権(WEM) 第9戦


 マリーノ国


 ドリームシアター10時間




 母国凱旋レースだ。


 戦いの舞台となるのは、お馴染みドリームシアター。


 立体映像装置で、幻想の世界に連れて行ってくれる。


 今回も大空に浮かぶ浮遊大陸と、空を飛び交う飛竜の群れを拝みながらレースするのかと思いきや――




「まさか宇宙に来て、レースすることになるとは思わなかったよ」


『本物の宇宙やないで』




 無線からケイトさんの突っ込みが入らなければ、本当にそう錯覚してしまう。


 今回サーキットの背景として映し出されている立体映像は、広大な星の海と暗黒の宇宙空間だ。


 土星のような、リングをもった巨大惑星も見える。


 俺と〈レオナ〉は、その宇宙空間に配置されたサーキットのアスファルト上を走り抜けていた。




 もちろんただの映像だから、実際には空気も重力もある。


 コースレイアウトだって、GTフリークスで散々走ったいつものやつだ。


 だけど景色が変わると、全然別のサーキットに感じるもんだな。




 変なことに感心しながら、俺は高速コーナーの「オー・ルージュ」へと飛び込む。


 下り坂から急激な上り坂へと変化した際の衝撃で、体中がギシリと(きし)んだ。


 そのまま壁みたいな上り坂を、火花を散らしつつ駆け上がる。




 上り坂の頂上付近は、以前も(そら)しか見えなくて気持ち悪かった。


 今回は星と暗闇しか見えなくて、さらに気持ち悪い。


 俺は恐怖と不快感を押さえ込みつつS字コーナーを切り返し、メインストレートの「アナザー・ケメル」へと入った。


 グランドスタンドには、シャーラとレイヴンの大応援団が陣取っている。


 両社にとって、母国レースだからな。


 いつもより、応援団の規模がデカい。


 この人達の前で、無様な走りを見せるわけにはいかないな。




 俺はオーバーテイクシステムと、ドラッグ()リダクション()システム()をオンにした。


 シャーラ社のファン、〈レオナ〉のファン、ロータリーエンジンのファン達よ、4ローター1500馬力の(ほう)(こう)を聴け!



 

 大気の壁を食い破る、光の精霊。


 〈レオナ〉は白き流星となって(きら)めき、星空を飛翔する。




 俺はすぐ前を走る〈ライオット〉GT-YDの陰に入り、空気抵抗を減らした。


 DRSで空気抵抗を減らしていても、ゼロになるわけじゃない。


 前走車を風よけに使うスリップストリームは、やっぱり有効だ。




 750mしかない直線で350km/hまで加速し、俺と〈レオナ〉は〈ライオット〉の横に並びかける。


 走っている〈レオナ〉の運転席(コックピット)内からでも、観客席が大いに湧いているのが感じ取れた。




 2台横並び(サイドバイサイド)のまま、ハードにブレーキング。


 DRSが解除されてハイダウンフォースモードに戻った瞬間、マシンは大気の壁に激突。


 大砲みたいな轟音を上げた。




 さらにカーボンとホロウメタルの複合素材でできたブレーキローターが、莫大な運動エネルギーを超高熱へと変換。


 速度を叩き落とす。




 隣に並んでいる、〈ライオット〉のブレーキローターが真っ赤だ。


 多分うちの〈レオナ〉も、同じようにブレーキローターが赤熱してるんだろう。




 1コーナーへの飛び込みで完全に横に並ばれた〈ライオット〉は、大人しく俺に順位を譲り渡した。




 ――これで4位!




『ランドール! やるではないか! 17秒前方に、3位の〈イザベル〉がいる。どうせなら、そいつまでブチ抜け』


「ニーサ! ずいぶん気軽に言ってくれるな。レース終了まで、残り20分しかないんだぞ?」


『私なら……やる!』




 言い切られて、俺もそれが実現可能なプランか考えてみる。


 1周1秒以上、詰めないといけない計算だ。


 タイヤに余力は――ある。


 ウチの〈レオナ〉は、タイヤにとって優しい――つまりは長持ちする足をしているんだ。


 燃料は――もつ。


 オーバーテイクシステムを多用しても、ギリギリ大丈夫だろう。


 今回のレースからパワフルな新型エンジンが投入されて、速さも()()のマシンと(そん)(しょく)ない。




「ヴァイ監督は、なんて言ってる?」


『自信があるなら、追いかけても構わんそうだ』




 ふーむ。

 今から表彰台を狙って猛プッシュするのは、リスクが(ともな)う。


 ここまできて、車を壊すとか勘弁だぞ?


 次戦は最終戦、「ユグドラシル24時間」なんだからな。


 大事故(クラッシュ)でもやらかしたら、修復が間に合わなくて大変だ。


 できれば監督に判断を丸投げしたいところなのに、ドライバーに意見を求めるとはね。




「……そうだ、ニーサ。表彰台に乗れたら、なんかくれよ」


『はあ? なんで私が? チームオーナーのマリーさんかシャーラ本社に、ボーナスでも貰えないか交渉してみろ』


「いーや、ニーサが寄越せ。3位を狙えと焚きつけているのは、お前なんだからな」


『くっ……。なにを要求する気だ?』


「それは、ゴールしてからのお楽しみ。……(いっ)(しょ)に登るぞ! 表彰台に!」




 俺は走りを切り替えた。


 4位を守り通し、無事に20分後のチェッカーフラッグを受けるための走りから、リスクを背負ってでも3位表彰台を奪うための走りに。




 まだ視界に入っていない〈イザベル〉に向けて、〈レオナ〉の4ローターエンジンが吠えた。


 「表彰台を、明け渡せ」と。


 4本の極太スリックタイヤで地面を蹴飛ばし、光の精霊は(どう)(もう)な加速を見せる。




 先程追い抜いた〈ライオット〉は、いつの間にか後方(バック)モニターにも映らなくなっていた。




『なんてペースだ……。ランドール。貴様本当に、なにを要求するつもりなんだ? その鬼気迫る走り、ちょっと怖いぞ?』




 俺はニーサの無線に、応えなかった。


 全力でプッシュ中だから、そんな余裕が無かったというのもある。


 もうひとつは俺がなにを要求するのかビビっているニーサを想像して、ニヤニヤしてしまっていたから。


 ここは返答しないことによって、彼女の不安を(あお)るほうが楽しいだろう。


 


 くっくっくっ――

 ビビれビビれ。


 それはもう、とんでもないものを要求してやるぞ。




 ホームストレートの「アナザー・ケメル」に入り、俺はオーバーテイクシステムを作動させた。


 星の海が、激しく流れる。


 まるで、SF映画でワープする宇宙船みたいだ。




 少しずつ、()()の彼方に赤い光が見え始めた。




 あれは3位を走る、マーティン・フリードマン〈イザベル〉のテールランプ。




 さあ、もう逃がさないぜ?


 覚悟はいいか?




 俺はアクセルペダルを踏む右足に、力を込めた。






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 世界耐久選手権(WEM) 第9戦


 ドリームシアター10時間


 55号車 〈シャーラ・BRRレオナ〉


 ランドール・クロウリィ/ニーサ・シルヴィア/ポール・トゥーヴィー組




 決勝3位






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 世界最高峰カテゴリーの表彰式というものは、言葉で言い表すのが難しいぐらい気持ちのいいものだった。


 GTフリークス時代よりさらに大勢の観客が見守ってくれていて、世界中から祝福されているんだなと実感できる。


 表彰台の上も、賑やかだ。


 ドライバーは3人1組だから、9人も(いっ)(しょ)に登っている。


 これだけ(いっ)(しょ)に表彰される人数が多いと、大勢から見られる緊張も(やわ)らぐぜ。


 観客の視線は俺よりも、隣でバタバタとハシャいでいるポール・トゥーヴィーに集まっているしな。




 逆隣りではニーサが、嬉しさ半分緊張半分といった感じで表情を引きつらせていた。


 いつもは人前でも、威風堂々としている奴なのに。


 普段は俺が、こんな表情で表彰台に立っているんだろうな。


 ニーサがこんな風になってしまっているのは、俺の要求する表彰台ボーナスがどんなものかあれこれ想像してビクビクしているんだろう。




「ああ、素晴らしい! 無慈悲なほどに暗い漆黒の()()を斬り裂いて飛ぶ姿は、まるで英雄譚(サーガ)(うた)われる星の海の聖騎士(パラディン)! 光の精霊を従えし英雄達の凱旋に、(いにしえ)の時代に封印されし私の魂が(うず)く!」




 表彰式を終えてピットに戻ってきた俺達を迎えてくれたのは、ニーサのお母さんのヴァリエッタ・シルヴィアさんだった。


 今日は応援に、駆けつけてくれたんだ。


 相変わらずの中二病っぷりで、なにを言ってるんだかあんまり分からない。


 要約すると「かっこよかった」とか、「走り屋時代の血が騒いだ」とかそんなところだろう。




 顔を覆った指の隙間から瞳を覗かせつつ、立つのがキツそうな奇妙なポーズで称賛してくるヴァリエッタさん。


 そんな母親に、娘のニーサはげんなりだ。


 WEM初表彰台の喜びなんて、(いっ)(しゅん)で吹っ飛んでしまったみたいだな。




「ん? ヴァリエッタさん、旦那さんは? ガゼールさんは、来てないんですか?」


「ああ。ニーサが1500馬力のモンスターに乗るところなど、怖くて(なま)で観るのは無理だと言い出してな。家で布団を被って震えながら、テレビ中継を観ている」




 そこまで怖いのに、中継は観ちゃうんだ。


 あのオッサン、レース自体は大好きだからな。


 娘が速いマシンに乗るのが、怖くて仕方ないだけで。


 ニーサがGTフリークスに乗ってた頃、ルドルフィーネ・シェンカーの大事故があった直後なんか半狂乱になったと聞いた。


 泣きながらニーサに、GTフリークスドライバーを辞めてくれと訴えたらしい。


 その訴えがあまりに必死だったから、ニーサは家出を中断して実家に戻る選択をしたんだそうな。


 GTフリークスを降りない代わりに、家族の(そば)にいると――




 大事な大事な娘が現在乗り回しているのは、GTフリークスマシンよりずっと速いGT-YDマシンだもんね。


 繊細なガゼールさんの心臓は、もつのか?




「ランディ(くん)。そういえば今日、クロウリィ夫妻は来ていないのだな。(きみ)にとっても母国(ラウンド)だし、てっきり観に来るものだと思っていた。わが友シャーロットと会えるのを、楽しみにしていたのだが……」


「本当は、来る予定だったんですけどね……。なんか今朝、母さんの体調が悪くなっちゃって……。念のため、病院で診てもらうそうです。父さんは、付き添いで。……なあ、そうだよな? ヴィオレッタ。……ヴィオレッタ?」


 ニーサママのヴァリエッタさんと俺の妹ヴィオレッタが(いっ)(しょ)にいると、名前が似ているからややこしい。


 そんなことを思いながら、俺はヴィオレッタに呼びかけた。




 ――あれ?


 ヴィオレッタは、どこに行った?




 ピット内に視線を走らせても、ヴィオレッタの姿が見当たらない。


 戸惑っていると、ヴァイ・アイバニーズ監督が俺を呼んだ。




「ランディ、ちょっと来い」




 ヴァイさんはそう言いながら手招きし、俺をピットの隅っこへと誘導する。




 なんだろう?


 3位表彰台を獲得したのに、ちょっと怖い表情だ。


 終盤の猛プッシュを、怒ってる?


 「無茶すんなよ」とか、そういうお説教だろうか?





「ヴィオレッタお嬢ちゃんは、レース途中で家に帰した。お前も、すぐに帰れ」




 ヴァイさんの押し殺した声に、表彰台獲得で熱くなっていた全身がスッと冷えるのを感じた。






「お前のお母さんが、倒れたそうだ」






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本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[一言] あぁぁぁ! お母さぁぁぁん! 何か起こるだろうとは思ったけど! ランディくん、せっかくニーサにあんなことやこんなことしてもらおうと楽しみにしてたのに、それどころじゃなくなっちゃいましたね……
[一言] >ニーサママのヴァリエッタさんと、俺の妹ヴィオレッタが一緒に居ると、名前が似ているのでややこしい。 わかる(わかる ママアアアアアアアアアアア!!
[良い点] ニーサへの要求は、恋愛関連のキザなことでも言うんだろうと、下世話な想像を膨らませていたら、そんな場合ではなくなってしまいましたね(汗) 以前感想欄で仰っていた伏線、読み返してみましたが、…
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