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【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター5

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140/195

ターン140 欲張りジジイの要求

 俺達のピットに、怒鳴り込んできた男。


 なによりもまず、彼の個性的な髪型が目に付く。




 ボリュームたっぷりのアフロヘアだ。


 頭上には、ヤマモト企業チーム(ワークス)「バウバウ」の赤いキャップを被っている。


 だけど髪の毛がボワンと氾濫していて、帽子としての役目を果たしていない。


 丸型のサングラスが、なんとも()(さん)(くさ)かった。


 針金のように細い手足は食生活が心配になるほどで、売れないミュージシャンかアーティストって雰囲気だ。


 でもこの人――

 アッツ・ミレーさんの肩書は、ヤマモトワークスの中でもエース格チームである「バウバウ」の監督だったりする。




「ミレーか……。どういうつもりもなにも、レーシングアクシデントだろうが? お互い、リタイヤしなくて良かったな」


 興奮(エキサイト)してるっぽいミレー監督に応じたのは、我らがアレス・ラーメント監督。


 腕を組み、悠然とした態度だ。




「けっ! よく言うぜ! ウチのラムダを、コースアウトに追い込んどいてよぉ」




 なんだと?


 それは、聞き捨てならないな。




「ちょっと! ミレー監督! おたくのラムダさんだって止まり切れてないんだから、ブレーキングミスをしているんでしょう? ヴァイさんがわざと押し出したみたいな言いがかりは、やめてくれませんかね?」




 俺の抗議に、ミレー監督の(くちびる)(ゆが)む。


 目はサングラスに隠れて見えないけど、どうやら不可解って感じの表情だ。




「んん~? ランドール・クロウリィ。てめえ、分かんなかったのか? 純粋っつーか、(わけ)えっつーか。……まあウチのニーサも分からなかったみてーだし、しゃーねーか。……とにかく! この後は、フェアに頼むぜ! フェアによぉ!」




 ミレー監督はビシリとアレス監督を指差すと、足早に自分のピットへと戻っていった。




「なんなんだよ!? まったく! ヴァイさんだって、突っ込み過ぎたのはわざとじゃないに決まってるだろ!」


「いや……。たぶん、わざとだ」


 その言葉に驚いて、俺はアレス監督の方を振り返る。




「ヴァイは曲がり切れなかった(てい)で膨らみ、ペナルティにならない範囲でラムダ・フェニックスにプレッシャーを掛け、当てずに押し出すつもりだった。ブレーキング時や曲がり始め(ターンイン)の走行ラインが、それを物語っている」


「ええっ!?」


(いっ)(ぽう)のラムダも、ヴァイの思惑には気づいていた。ブレーキングの我慢比べに乗ったフリをしてヴァイをオーバーランさせ、ラインを交差(クロス)させて抜き返す。あるいは今度は自分が、内側(イン)から押し出すぐらいのつもりだったのかもな」


「マジですか……。2人とも、黒い」


「いや。黒じゃなくて、グレーゾーンさ。黒なら絶対にやってはいけない。ペナルティを食らって、負けるからな。グレーなら勝つために、やることもある。プロの世界っていうのは、そういうもんさ」


「失敗すれば、順位を落とす可能性が高かったでしょうに……。現にこうして、最後尾近くまで落ちてるわけですし」


「それでもお互いに、ポイント争いをしているライバルを潰しておきたかった。後ろのランキング3位までは、少しポイント差が開いていることだしな。このレースの順位より、年間(シリーズ)王者(チャンピオン)になれるかどうかの方が遥かに重要だ」




 涼しい顔をして答えるアレス監督。


 この人も、腹黒いな。




「アッツ・ミレーの奴が怒鳴り込んできたことは、気にするな。あれはパフォーマンスだ。後半走るお前に、プレッシャーを掛けたかったんだろう」




 黒い人だらけ。


 GTフリークス界って、恐ろしいね。




「俺、素直過ぎるんですかねぇ……」




 幼児期や少年時代は中身が大人なだけに、腹黒い子だった俺。


 けれども百戦錬磨の(つわもの)が多いGTフリークスでは、どうも単純過ぎるような気がしてきた。




「駆け引きや戦略、それもプロドライバーにとっては大事な要素だ。だが何よりも、周りがドライバーに求めるもの……。それは……」




 そこでアレス監督は、モニターに映る映像へと視線を向ける。


 ちょうどヴァイさんが、前を走る19号車に追いついたところだった。


 車種は同じ、タカサキ〈サーベラス〉。

 

 マシンセッティングが思うように決まらず、予選では最後尾に沈んだマシン。




 ヴァイさんはブレーキングを遅らせて、19号車の内側(イン)に飛び込んだ。


 そんなヴァイさんに便乗し、ラムダさんも続いて内側(イン)に飛び込む。


 2台はまるでクラス下のマシンを処理するかのように、軽々と19号車をかわしていった。




「……それは、速さだ」






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「2台とも、なんて速さですの……」


 タイミングモニターを見上げながら、マリーさんが呆れたように(つぶや)く。




 レースは65周中、すでに15周を消化。


 この15周の間に、ヴァイさんとラムダさんが抜いたマシンの数――なんと13台!


 順位はヴァイさんが16位、ラムダさんが17位まで戻してきている。




「これは……36号車(ウチ)と1号車が速いというのもありますが……。周りが遅いですね」


 けっこう酷い言いようだけど、タイムを見るとジョージの言う通りだったりする。




「ひょっとしてみんな、路面温度にタイヤが合っていない……?」


 俺の推理に、ジョージが軽く(あご)を引いて応じる。




「ええ。ミディアムタイヤ勢は路面温度が想定より上がり過ぎていて、思うように食い付かないようです」




 ウチと1号車だけが、硬めのハードタイヤを選択(チョイス)していた。


 普通は柔らかいタイヤの方が食い付きが良く、周回(ラップ)タイムも速くなるもんだ。


 だけどこういう風に路面の状況や温度と噛み合わないと、逆転現象が起こることもある。




「そうか……。よそは気温と路面温度の変化を、甘く見積もり過ぎたな」


「ええ。このドリームシアターは、地下にある屋内施設。天候の影響は受けない。だからフリー練習走行(プラクティス)や予選の時と、大して変わりないと踏んでしまったようですね」




 実際には、昨日、一昨日(おととい)と比べるとかなり暑い。


 原因はおそらく、決勝日ゆえの観客数の増加。


 もうひとつの原因は、立体映像関係の機器を長く使用していることによる発熱。


 それらに対して空調(エアコン)設備が、追いついていないんだ。


 初めてのサーキットで初めてのビッグレース開催だから、誰もそんな変化を予想できなかった。




 ラウドレーシング(ウチ)バウバウ(1号車)以外はね。




「よく考えると、凄いことですわね。周りより硬いタイヤを使ったのに、予選1番手と2番手なんて……」


「エンジニアとメカニック達による、努力の(たま)(もの)ですね」


「ジョージそれ、俺達ドライバーが言うやつ」


 自分で言っちゃったら、自画自賛な感じがして感動が半減しちゃうだろ?


 でもまあ、ジョージの言う通りではあるんだけどさ。


 確かにマシンは、最高の仕上がりだよ。


 これで速く走れないドライバーなんて、クビになっても文句は言えない。




「この展開だと……ミディアムタイヤ勢は、最小周回数(ミニマム)でピットに戻ってきますね」


 ジョージの言葉を裏付けるように、周りのピットではタイヤ交換やドライバー交代の準備が始まった。


 路面に合っていないせいで、タイムも出ないし摩耗も早いタイヤ。

 そんなモノは、とっとと交換してしまいたい。


 だけど1人のドライバーがレース全体の2/3以上走っちゃうと失格になっちゃうから、1/3までは頑張って走らないといけない。


 このレース距離で2回以上ピットインするなんて、確実に負ける戦略だからな。




「いいぞ~。ウチはタイヤが長持ちするから、まだまだ長く引っ張れる。そしたら給油時間は短くて済むし、俺も後半タイヤを温存せずにハイペースで走れる」




 ヴァイさん達が飛び出しちゃった時は焦ったけど、流れは完全に俺達へと向いているな。




「やれやれ……。さっきは『単純すぎるかも?』なんて言っていましたが、今のランディも充分腹黒い顔をしていますよ?」


 ジョージとマリーさんの白い視線に気づいて、俺は顔を(そむ)けた。






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 40周目。


 ウチと1号車が同じタイミングで、ようやくピットイン。


 コース上で生き残っている27台中、1番遅いピットインだ。




「ふぃ~、疲れたぜ。後は任せるぞ! ランディ!」


 ドライバー交代作業を終えた(あと)、ヴァイさんはドアを閉める前にそう言ってきた。


 「疲れたぜ」なんていう台詞の割に、あんまり疲れてなさそうな声で。




「任せられました! あのドラゴン娘は、俺が撃墜します!」


「おいおい、そりゃ意味深だな。レースで勝つって意味か? 車をぶつけて、リタイヤさせるって意味か? それとも恋愛的な話か? ……なあランディ。オレはよ、人生であと1回ぐらいGTフリークスのチャンピオンになりてえ」


「3回も獲っておいて、まだ欲しいんですか? 欲張りですね」


「そうだよ。欲張りジジイなオレに、プレゼントしてくれよ」


「俺もチャンピオン欲しいですからね。……奪い取ってきます!」




 強く打ち合わされる、俺とヴァイさんの手の平。


 託されたんだ。


 想いを、夢を、勝利を。




 これに応えられなきゃ、レーシングドライバーじゃない。




 ドアが閉められたのを確認して、視線を前方へ。


 同じくピット作業中だった、〈ヒサカマシーナリー・バウバウベルアドネ〉のドーナツ型テールランプが見えた。


 すでにドライバーはラムダ・フェニックス選手から、ニーサ・シルヴィアへと乗り換え作業が終了している。




「……えっ!? 速い!?」




 俺の〈サーベラス〉とニーサの〈ベルアドネ〉は、同時に作業が終わりジャッキダウン。


 タイヤが地面に着地する。


 俺達ラウドレーシングの方が、手前にピットがある。


 つまり向こうの方が、作業時間が短かったということ。


 そして同時にピットから出たんじゃ、先に行かれてしまうということ。




「クッソ! お前のケツなんか、興味無いんだよ! どけよ!」




 どいてくれるわけがないのに、俺は思わず毒づいてしまう。




 コース上へと復帰したニーサは、軽く蛇行(ウィービング)を繰り返した。


 おいおい。

 それはタイヤを温めるのに見せかけた、ブロックじゃないのか?


 直線で2回以上の進路変更は、ルール違反だぜ?


 うーん。

 でもたぶん、ペナルティは取られないだろうな。


 俺も前にいたらやるし。




 レース終了までに、なんとかこいつの前に出ないといけない。


 後ろでゴールしたんじゃ、5ポイント差は埋まらないからな。


 ピット作業の時間差で、前に行かれたのは(つら)いぜ。




 でも、不思議だな?

 

 ニーサ達「バウバウ」は、ピット作業の速さには定評のあるチーム。


 だけどラウドレーシング(ウチ)だって、トップクラスだ。


 タイヤ交換の速さは、引けを取っていないはず。


 なぜ、ピットで先に行かれたんだ?




 それにしてもニーサの奴、速いな。


 まだタイヤだって、温まり切ってないだろうに。


 


 コースに復帰してから1周。


 ほんの少しずつだけど俺とさーべるちゃんは、ニーサの〈ベルアドネ〉に引き離されつつある。




 んー。

 なんだか向こうの方が、こっちより動きが軽いような?


 元から最低重量は、FRの〈ベルアドネ〉が50kg軽くなるようルールで設定されている。


 その分MR(ミッドシップ)である〈サーベラス〉の方が、ブレーキング時の重量バランスとか蹴り出し(トラクション)性能で有利。


 だから、速さは互角のはずなんだけどな?




 タイヤが温まった〈ベルアドネ〉1号車は、さらに走りの鋭さを増した。


 「コークスクリュー」や「オー・ルージュ」で火花を散らしながら、まるで空を舞うツバメのように駆け抜ける。


 デカくて威圧感のあるボディに、似合わない軽快さだ。




 待てよ?


 あの軽快な動き――


 そして、短いピットストップ時間――




 これは、ひょっとしたらひょっとして――




 その時アレス監督から、答え合わせの無線が届いた。






『ランディ。1号車は、給油時間が短かった。燃料タンクが軽いぞ』






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本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[一言] ほへー! ベテランふたりが大仰なミスするかしらと思ったらそういうことでしたかー! ひゃートップの世界はヒリヒリしてんなー!! 燃料控え目戦法とかあるんですねぇ!! さてこれからどうなるか、目…
[一言] >強く打ち合わされる、俺とヴァイさんの手の平。 >託されたんだ。 >想いを、夢を、勝利を。 カックイイいい!!!!! 結局ニーサのケツを追うランディ。この構図。 燃料をギリギリにして軽くす…
[一言] まあサッカーでも審判に見えないようにユニフォームを引っ張るとかはよくあるみたいですからね。 それを卑怯だと文句を言ってるようじゃプロとしてはやっていけないのかもしれませんね。
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