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【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター5

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139/195

ターン139 コークスクリューとオー・ルージュ

 樹神暦2637年12月(サジタリアス)


 GTフリークス 最終戦

 ドリームシアター


 決勝日




 今回は最終戦ということで、久々にマリー・ルイス社長が応援に駆けつけてくれた。




「仕事の都合で、到着が遅れてしまいましたわ。ランディ様、予選1番手(ポールポジション)獲得おめでとうございます」




 彼女がピットに来ると、いつもうちのスタッフ達はにこやかな笑顔になって張り切る。


 けれども、年間(シリーズ)王者(チャンピオン)がかかった今回は違った。


 (てい)(ねい)に応じつつも、ピリピリとした空気を(ただよ)わせている。




「やあマリーさん、来てくれたんだね」


「ランディ様……。トップタイムをマークしたのに、なんだか浮かない表情ですわね」


「あー、実はね……。本当は、2番手になるはずだったんだよ」




 予選日である昨日。


 午前中のタイムアタックで2番手タイムだった俺達の〈サーベラス〉は、スーパーラップに進出した。


 予選上位10台で争う、1台ずつ、1周こっきりのタイムアタックだ。


 そこで一昨日(おととい)ヴァイさんから言い渡された通り、俺がスーパーラップを担当した。


 最後から2番目にアタックし、その時点ではトップのタイムをマーク。




 そこまでは良かったんだけど、俺の(あと)にアタックしたラムダ・フェニックス選手――


 確実に、俺より速かった。


 コース中盤でミスをし、大きくマシンの後輪(リヤタイヤ)をスライドさせてしまうまでは。




 精密機械じみたドライビングを身上とする彼が、外から見えるようなミスをするとは珍しい。


 それだけ、ギリギリのアタックをしていたってことだろう。




 そんな大きなミスがあったにも関わらず、予選2番手に(すべ)り込んでいるという事実が恐ろしい。




「……というわけさ。もしラムダ選手がミスしていなければ、コンマ7秒ぐらいの大差をつけられて予選1番手(ポール)は奪われていただろうね」


「ふーむ。たしかにその速さは脅威ですが、レースでタラレバを言い出したらキリがありません。予選1番手(ポールポジション)ボーナスで年間ランキングポイントを1ポイント獲得できたのですし、素直に喜んで良いのではありませんの?」


 マリーさんの言う通りではある。


 ランキング首位(ポイントリーダー)であるニーサ達との差を1ポイント縮めたことで、逆転チャンピオンの可能性は少し高まった。


 だけどそれだけの速さを秘めたマシン&ドライバーと、これからレースで競り合わなきゃいけないっていうのはプレッシャーだ。


 あと一昨日(おととい)相手のミスを祈ってしまったので、ホントにミスられるとちょっと気まずい。




「それにしても……。凄いコースですわね」


 あまりの景観に、マリーさんも(かん)(たん)(ため)(いき)を漏らしていた。


 今日もマシンがコースに出ると同時に、無機質でのっぺりとした地下空間は大空へと姿を変えている。


 そこを飛び交うは、大きな翼をはためかせた飛竜達。


 実はこの飛竜、ドローンにドラゴンの立体映像を投影しているものらしい。


 コース上を走るマシンを、空撮したりしているそうだ。




「そういえばこのコースのレイアウトは、地球のサーキットを模しているそうですわね? コースの解説を、お願いしてもよろしいですか?」


「うーん。俺だって、前世で走った経験はないコースだったんだけどね。それに似せてるっていっても、(いち)()だけだよ」




 すでにコース上では、スタートドライバー達が乗り込んだマシンの群れがフォーメーションラップを開始している。


 その様子を映し出したモニターを眺めながら、俺はマリーさんにコース解説を始めた。




「まず、最初の第1区間(セクターワン)。ここは地球のサーキットとは、関係無い。オーソドックスなS字や、ヘアピンが続く」


「空中に浮かんだ大地を、繋ぐように道が走っているのですね。コースアウトして、落っこちたりしないんですの?」


「ああ。それは俺も心配したんだけど、大丈夫なんだってさ。本当に、浮かんでいるわけじゃないし。……それでコース中盤、第2区間(セクターツー)。ここが地球のサーキットから、輸入された難所」


「まあ! なんて急な下り坂ですの!」




 切り立った崖を、左右に曲がりながら駆け下る恐怖の区間(セクション)――「コークスクリュー」。


 緩い上りからいきなりジェットコースターみたいな下りに入るから、全然先が見えない。


 ドライバーは「確か、こんな風に曲がっていたはず」という記憶と勘を頼りに、曲がりながら崖からダイブしないといけない。


 この「コークスクリュー」は、北米カリフォルニア州にあるラグナセカっていうサーキットの名物コーナーだ。


 もちろん再現には、北米からの転生者ドライバー達が関わっている。




「走っているとさ、マイナスGが掛かって気持ち悪いんだよね。内臓が持ち上げられる感じ。バンジージャンプとかすると、ああいう感じかも?」


「ううっ。それは、想像するだけで恐ろしいですわ。……それで下り切った(あと)は、上りに入りますのね」


「そそ、第3区間(セクタースリー)は上り。これも地球の有名なサーキットから、パクってきた部分でね」




 「オー・ルージュ」。


 ベルギーのスパ・フランコルシャンっていう、F1も開催されるサーキットにあるヤバい区間(セクション)だ。


 下りながら、アクセル全開で飛び込む緩い高速コーナー。


 曲がりながら急に上り坂に入るもんだから、タイヤに掛かる荷重が激しく変化して車が姿勢を乱しやすい。


 それでも、アクセルを戻すことは許されない。


 上り切った先にはホームストレートが待ち受けているから、スピードを稼いでおかないとタイムはガタ落ちする。


 ライバル達にも、ぶち抜かれてしまう。


 坂を上っていく途中も、S字コーナー。


 それも300km/h近い速度で右、左と切り返さないといけない。


 おまけに上り最後の左コーナーは、完全な先の見えないカーブ(ブラインドコーナー)だ。


 壁みたいな上り坂からいきなり平坦路に変わるもんだから、空しか見えない。




 ラムダ・フェニックス選手は、この「オー・ルージュ」がめちゃめちゃ速かった。


 よく考えたら、ズルくない?


 みんな初めて走るサーキットなのに、ラムダ選手だけは前世でF1ドライバーをやってた頃「オー・ルージュ」を走った経験があるんだよな。




 マリーさんと(いっ)(しょ)にモニターを眺めているうちに、30台のGTフリークスマシン達がホームストレートへと戻ってきた。


 綺麗な2列の隊列を組み、観客と上空の飛竜達に見守られながらゆっくりと走ってくる。




 先頭はヴァイさんの駆る36号車、〈ロスハイム・ラウドレーシングサーベラス〉。


 俺達のマシンだ。




 そのすぐ隣。

 頭ひとつ引っ込めて並ぶのは1号車、〈ヒサカマシーナリー・バウバウベルアドネ〉。


 スタートドライバーは、ラムダ・フェニックス選手。




 去年の王者(チャンピオン)伝説の(レジェンド)ドライバーのガチンコ先頭争いということで、観客やテレビの前の視聴者達は盛り上がっているんだろう。


 だけど俺は、2人の撒き散らす殺気に()()されて息もできない。


 モニター越しなのにだぜ?


 ヤマモト企業チーム(ワークス)のエース格チームである「バウバウ」のピット内では、ニーサも同じ気分でいるんだろう。




硬い(ハード)タイヤを選択(チョイス)していることが、スタートでは少々不安要素ですね」


 ジョージの奴は、心配症だな。


 そりゃ確かに硬いタイヤは長持ちする分、温まりも悪いさ。


 冷えて(すべ)るタイヤで1コーナーに突っ込まなきゃいけないというのは、度胸と技術を要求される。


 でも乗っているのは、通算3回の年間(シリーズ)王者(チャンピオン)経験者。


 レジェンドドライバー、ヴァイ・アイバニーズだぜ?


 競り合う相手も元F1王者で、去年のGTフリークス王者(チャンピオン)


 転生レーサーのラムダ・フェニックス。


 きっとクリーンかつ冷静なバトルを、スタート直後の1コーナーで見せてくれるに違いない。




 排気音(エキゾーストノート)が大きくなる。




 青信号(グリーンシグナル)




 2637年シーズンを締めくくる、最終戦のスタートだ。




 絶妙なタイミングでスロー走行から全開加速へと切り替えたのは、先頭の2台。




 後続を少し引き離しつつ、750mのホームストレート「アナザー・ケメル」を駆け抜ける。




 スタート直後だから、2周目以降ほどスピードは乗っていない。


 それでも、280km/hは出ていた。




 ヴァイさんが内側(イン)


 ラムダ選手が外側(アウト)


 位置関係は、完全な2台横並び(サイドバイサイド)




 3速で曲がる、S字コーナーへ向けてのブレーキングを――あれ?




 ヴァイさん?

 ラムダさん?




 そんなに奥まで突っ込んで、大丈夫?




 2台のタイヤから、(いっ)(しゅん)だけ(スモーク)が上がる。




 ロックアップさせただと!?




 ピット内がざわめく。




 そしてざわめきはすぐに、悲鳴へと変わった。




『あーっ!! なんということでしょう! 36号車と1号車、2台揃ってブレーキングミス! オーバーランして、コースアウトだぁ~!!』




 実況放送の内容が、信じられない。




 ――そんな馬鹿な?




 それが俺達「ラウドレーシング」、全員の感想だ。




 実況放送を聞かされても――


 モニターに映る、砂利(グラベル)ゾーンへと飛び出した2台の姿を見ても――


 後続のマシン達が次々に抜いていく様を見ても、実感が湧かない。




 マリーさんは両手で口を押え、言葉を失っていた。


 ジョージも冷静な表情を取り(つくろ)っているけど、眼鏡が片方ずり落ちている。




 えっと――


 このまま2台がリタイヤすると、ノーポイントだから年間(シリーズ)ランキングの差は縮まらないよね?


 俺が昨日予選1番手(ポールポジション)を獲得したことで、ボーナスの1ポイントは獲得できた。


 それでも、ニーサ達との差は5ポイント。




 チャンピオンには、なれない――




 それどころかランキング3位以降につけていた車の順位次第では、ランキング2位も守り通せないかもしれない。




 ――終わった。




 俺だけじゃなくて、ジョージやマリーさんもそう思っただろう。





「……ヴァイ。マシンに損傷は?」




 静かで落ち着いた――

 だけどズッシリとして凄みのある声に、俺は背後を振り返った。


 見ればアレス・ラーメント監督が、無線機のヘッドセット越しにヴァイさんへと呼びかけている。




 再びモニターへと視線を戻せば、砂利(グラベル)ゾーンを横切ってコースへと復帰した〈サーベラス〉の姿があった。


 ラムダ選手の〈ベルアドネ〉も続いている。




「……そうか。公式映像を見る限り、外観にも目立った損傷は無い。タイヤにフラットスポットは? ……大丈夫なんだな? よし、もう細かいペース配分は考えるな。死ぬ気で飛ばせ。後半は、ランディがなんとかしてくれる」




 おいおい。

 俺任せかよ?


 タイヤを(いた)わってロングランしてくれた方が、俺の担当周回数が減って楽なんですけど?




「……お前とランディ、どっちが多くのマシンを抜けるかな?」




 うわー。

 このおっさん達、本気だよ。


 ケツから2番目まで順位を落としたのに、ここから巻き返す気だ。




 不敵なゴリラスマイルに、俺も唇が吊り上がる。




 そうだよ!

 俺達若手が諦めてどうするんだ!


 リタイヤ、あるいはレースが終了するまでは、王者(チャンピオン)の可能性が残っている。




 やってやるぜ!


 ここから、ヴァイさんと俺の追い抜き(オーバーテイク)ショーだ。




 そう意気込んでいた俺の耳に、怒声が飛び込んできた。






「ウォイッ! いったいどういうつもりなんだよっ!? ラウドレーシングさんよぉ!?」






この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

なので、「え~、ラムダ・フェニックスの中の人、そんなにスパ走った経験ないじゃん」とかいうメタい指摘はご遠慮下さい。

ラムダ・フェニックスにもアクセル・ルーレイロにも、中の人などいない。いいね?

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本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[良い点] 巻き返しの熱い展開を期待させてくれる。 [気になる点] ヴァイさん、ドリンクの件もあるし…… [一言] 一筋縄じゃいかないんだろうなぁ。
[一言] あああああ〜〜〜。 でも、無事……。 熱い展開ですねー。 逃げ切るよりも、追いかける方が盛り上がる……はい。ですよねー。
[一言] まさか、ここまで波乱の展開になるとは思ってもいませんでした……!!(呆然) 「いや、本当にコレここからどうすんだよ……!?」って感じですが、この状態からさらにラストで何が起ころうとしている…
感想一覧
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