第13話・・・西園寺瑠璃(あいつ)_辛辣?_ウルトラ・・・
たくさんのブックマークや評価、感想、そして誤字脱字報告ありがとうございます。
感想は返せてないのですが、励みにさせてもらっています。
そして活動報告にも書いたのですが、Twitterでも『鎮静のクロッカス』をツイートしてる方もいてくれて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。
約十年前のこと。
『憐山』に加入したばかりのレイゴは『士協会』要人の殺害任務でとある人物と対峙していた。
『お、これは極上の大物が連れたか? ……その赤い仮面、「聖」ってことでいいんだよな?』
『ええ。「聖」第一策動隊隊長「ローズ」。私のことは調べれば結構情報出てくるわよ。……そういう貴方は何年か前に紅蓮奏華家を抜けた登さんよね』
『ああ。幾つかの組織を転々としたが、今は「憐山」でレイゴって呼ばれてる。多分しばらく憐山にいると思うから、レイゴってコードネーム広めといてくれよ。…………あ、ダメだ。お前ここで死ぬから無理なお願いだった』
『……もう、これ以上無駄話はやめておきましょうか』
『いいね! 話が早くて助かる!! 遺言くらい聞いてやるよ!』
それが『聖』第一策動隊隊長・コードネーム「ローズ」、後に総隊長として『聖』を率いる西園寺瑠璃の、過去五指に入る激戦であった。
◆ ◆ ◆
「結局戦っている最中に他の『聖』の隊員が邪魔してきて、俺が逃げるはめになったんだよな」
レイゴが懐かしむように言う。感傷に浸っているように思えるが、狂った笑みを浮かべていて気色悪い。
ブローディアは仮面の裏で視線を鋭くする。
(……もちろん聞いたことある。まだ第一策動隊隊長でコードネーム「ローズ」として活動していた頃、倒しきることのできなかった最悪な強敵の話)
西園寺瑠璃の実力は文句なしのS級。
その瑠璃が仕留めることができず、『聖』の援軍が加わったに関わらず逃走してみせたレイゴの実力と判断力も疑い様がない。
西園寺瑠璃はかつて言っていた。
『……本能の赴くまま、戦って、逃げる。……戦闘狂というより戦闘廃人よ、あれは』
その時の苦い記憶を思い起こす複雑な表情はよく覚えている。
「………あれは本当に良い女だった」
レイゴの顔が更に歪む。
「………アアァ、思い出してきた。あの時のこと…。マジ楽しかった。マジ気持ちよかった。……なあ、聞いてくれよ。俺初めて人を殺すことを躊躇ったんだぜ? この最高の女を俺の所有物にしたいって、心からそう思ったんだ!」
レイゴの笑みの気色悪さが更に増して、そんな戯言を放ち始めた。
「……………もうあまり喋らないでもらえる? いい加減耳障りなんだけど」
「ハッハー! そう言うなって! なあ、あいつは今も元気か?」
「あいつ? 人の尊敬する上司を慣れ慣れしく呼ばないでもらえる?」
「いいじゃねえか! 俺に取って西園寺瑠璃が忘れられない女になってるように、西園寺瑠璃に取っても俺が忘れられない男になってるって!」
「所詮貴方は過去に戦った有象無象の一人に過ぎないのよ。……自意識過剰乙」
「やべー、なーんか気持ち再燃してきちゃったぜ…」
レイゴがニタァと粘っこい笑みを浮かべる。
「俺さ…マジであの時あいつに惚れたんだよ…。絶対俺の女にする。結婚してあいつに産ませた俺の子供と殺し合いたいって。……そんで、なんとかしてあいつに再会しようとしたんだけど『憐山』の幹部連中がそれを許さなくてなー。さすがに幹部数人を相手にしちゃあこの俺とて無事では済まなくて、しばらく牢の中で謹慎させられて。………これも運命かなって思って、諦めたんだけど…。
………どうしよ。また西園寺瑠璃に会いたくなっちゃった」
(だからキモイッって!!!!!!!)
あまりの気持ち悪さにブローディアを悪寒が襲う。
これまで数えきれない悪人と戦ってきたが、ここまで吐き気を覚えた相手はいない。
「よし! 決めた!」
「……?」
ブローディアが首を傾げる。嫌な予感しかしない。
「お前を人質にして西園寺瑠璃をおびき出す!」
本当に気持ち悪い、……そう思う暇すらなかった。
ガキィィン!という金属と金属が激突する轟音が鳴る。
一瞬で消えたレイゴがブローディアの背後に回り、振り下ろした刀を間一髪受け止めたのだ。
レイゴの片手一刀での振り下ろしに対し、ブローディアは二刀を十字にしてギリギリ耐えた形である。
(ほんと…! 力だけはフリージア並み…!)
既に『無力領域』の瘴気も取っ払ったレイゴが、振り下ろしていないもう一本の刀を横薙で繰り出してくる。
ブローディアは受け止めていたレイゴの刀を流すように、横薙する刀の軌道上に移す。
レイゴの刀と刀がぶつかる。レイゴの刀を盾としたのだ。
「小技だな!」
レイゴは再度二刀を揃えて振り上げる。
「九式『過蒸閃』!」
広範囲蒸発の一閃だ。
ブローディアは加速法で瞬時に距離を取り、間合いから離れる。
しかし。
「おいおい! 強化系のくせにそんなスピードしか出ねえのかよ!」
『過蒸閃』の炎もまだ残留しているのに、ブローディアの斜め背後に刀を構えた状態のレイゴがいた。
ブローディアは体を捻りながら、迎撃した。
「「四式『烈焦華』!」」
互いに同じ紅華鬼燐流の剣術を繰り出した。
刀の峰から炎を噴出させ、ロケットの如き二刀同士が激突する。
「ぐっ…!」
そして当然の如く、ブローディアが力負けして背後に吹き飛ばされた。
しかしブローディアは中空でスピンして体勢を整え、離れた位置に無事着地する。
「チッ、敢えて飛ばされやがったな。ほんと小技が好きなこって」
「脳筋と同じ土俵で戦うなんて馬鹿なことするわけないでしょ」
「……はあ。やっぱお前じゃ力不足だわ。マジ非力」
レイゴがわかりやすく溜息を吐く。
「小細工するなら西園寺瑠璃みたいにうまくやったらどうだァ? 炸裂系っつう応用しにくい系統で俺の紅華鬼燐流を完璧に封じ込めやがったんだ。……お前の小細工なんざ、屁でもねぇ」
レイゴが視線を鋭くする。攻撃の合図だ。
ブローディアはレイゴの一挙手一投足を見逃さないように集中力を高める……が、
「紅華鬼燐流・六式」
レイゴは一歩も動かず、技名を唱えた。
「『風刈衣・灼領』」
それは周囲の空気を焼き、風属性の攻撃を無効化する技。本来は火属性と相性の悪い風属性にしか使わない。
しかし、『風刈衣』には別の使い方がある。
それは『風刈衣』の範囲を広げ、周囲の空間そのものを己の熱気で焼き包み、酸素濃度低下、呼吸困難、気展開による間接的な空間支配など、様々な効果を生むこと。
(『風刈衣』の応用技…! これは自分も苦しめる諸刃の剣…酸素不足になるから操作法で酸素を顔周辺に確保しなければいけず、その状態で火ではなく熱気で空気燃焼を併用する必要がある…ッ。見た目に反して高度な気操作力が求められる高等技術…! 力任せばかりじゃないのね…!)
その上結界法で密閉された空間は『風刈衣』と非常に相性がいい。
ブローディアの決断は早かった。
「紅華鬼燐流・秘伝十三ノ式『断崖炎焦』!」
喉が焼けるような熱気が部屋を染める直前に、ブローディアは二刀を床に刺し、その方を伝って彼女を囲むように業火の障壁が生まれる。
これなら『風刈衣』を受けることはない。
「おいおい! 通常式を秘伝式で返すなんて負けを認めたようなものだぜ!?」
レイゴが『風刈衣・灼領』を纏いながら炎の柱に急接近する。
「てかマジでうっすい『断崖炎焦』だな! A級の中でも下の方じゃねえの!? ほーら! 九式『過蒸閃』!」
レイゴの超蒸発の一閃が、炎の柱を真っ二つに切り裂いた。
紅華鬼燐流は十一以上の型は秘伝式という言わば奥義である。
秘伝式は十以下の型・通常式とは比較にならない気量と技術が必要となる。
紅華鬼燐流同士の争いでは基本的に通常式は通常式で、秘伝式は秘伝式で返すことで対等だとされている。
そして今、レイゴの六式『風刈衣・灼領』に対し、ブローディアは秘伝十三ノ式『断崖炎焦』で対応し、ブローディアの『断崖炎焦』に対し、レイゴは九式『過蒸閃』であっけなく対応してみせた。
格の違いが改めて証明されたのだ。
…………………………しかし。
《実力差は認めても、負けを認めた覚えはない》
レイゴが裂いた炎の柱の中に、ブローディアはいなかった。
「ッッ!?」
驚愕するレイゴの傍に、ブローディアはいた。
(紅華鬼燐流・六式『風刈衣・陽炎殺』)
『風刈衣・陽炎殺』
火属性や風属性など空気の密度を調節して幻影を見せる『陽炎空』という司力の応用技で、敵の一瞬の隙を突いて己の姿を消し、背後からトドメを刺す『風刈衣』の『灼領』とはまた違う使い方である。
レイゴの背後を取ったブローディアが、神速の斬撃を振り下ろす。
確実に虚を突いた………はずだった。
「そこおおおおおおおおおおおおお!!」
……しかし、レイゴは振り向かずに刀のみ後ろに回し、ブローディアの刀を受け止めた。
「ッッ!?」
これにはブローディアも驚きを隠せない。
レイゴの腕は明らかに腕と肩の可動域を越えている。レイゴは瞬時に紅華鬼燐流・五式『俊天華』で筋肉の収縮を操作し、『天超直感』の超直感である程度の軌道を予測して、刀で防いだのである。
(勘で私の刀を受け止めるとか冗談でしょッ。………でもまあ、予想はできた)
しかしここでブローディアの攻撃は終わらなかった。
「四式『烈翔華・六煉』!」
「ぐっ…!」
ブローディアは峰から炎を噴出しロケットの要領で振るわれる『烈翔華』の斬撃をほぼ一瞬の内に六連続繰り出す。更に『妖具』の瘴気も織り込み、オリジナル技に変貌している。炎の剣閃の中に黒い気が混ざり込んでいる。
レイゴはなんとか振り向き、六つの斬撃全てを二刀で防ぎきった。瘴気をそこそこ浴びてしまい、顔が歪むが、まだ余裕がある。
しかし両腕が開いて体前面がコンマ数秒無防備な状態となってしまった。
ブローディアはその隙を見逃さない。
「二式『飛炎連奏・巨灼』!」
本来弧状の炎を幾つも飛ばして相手を攻撃する技だが、飛び技なので攻撃力は乏しく、牽制として使われることが多い。
それを一つの巨大な弧状の炎として至近距離から放つ。これにも瘴気を加えられており、殺傷力は倍増である。
「うっざ…!」
レイゴは加速法と跳弾法の併用で真横に瞬間的に大きく跳び躱す。
「秘伝十五ノ式『鬼空否斬』!」
「ッッ!?」
だがレイゴの行動を完全に読んでいたブローディアはその跳び躱した先に一瞬で回り込んでおり、今度は至近距離から空間を焼き斬る秘伝式が繰り出される。当然の如く瘴気も混合している。
止まない怒涛の攻め。
紅華鬼燐流の高等技術の連続。
『風刈衣・陽炎殺』で背後を取られてからここが決め時とばかりに攻め込んでくる。
さすがのレイゴの表情にも余裕が薄れてくる。A級とS級で差があっても、これは辛いだろう。
しかし。
「秘伝十二ノ式!!『炎廻層螺』ッッ!!」
それは『断崖炎焦』と並ぶもう一つの防御の奥義。
敵から攻撃を受けている状態で、刀に炎を纏って超回転して炎の竜巻を生み出し、敵の攻撃をリセットして仕切り直しする技である。
これは本来多数の敵から攻撃を受けている状態に対する返し技だが、レイゴはやむを得ずブローディア一人に対して使ったのだ。
「癪だが認めてやるよ! お前の実力! でも勝つのは俺だ!」
レイゴが叫ぶ。
『炎廻層螺』の炎の竜巻によってブローディアの攻撃が止み、そのまま回転しながら距離を取ったレイゴはその間隙を縫うように続けて技を放つ。
「紅華鬼燐流ッッ!! 秘伝十四ノ式ッッ!!『龍凱烈牙』ッッ!!」
レイゴが刀を槍のように投擲した。
目にも止まらぬ豪速で飛んでくる刀。その刀を纏う炎が龍の形を模すように変形し、膨大な気と炎が極限まで強化され、本物の龍に襲われるかのような錯覚に見舞われる。
これこそ紅華鬼燐流・秘伝十四ノ式『龍凱烈牙』。己の気が馴染んだ刀を媒介に龍の如き突きを顕現する秘伝式だ。
「俺が今用がある女は西園寺瑠璃ただ一人! ガキは失せてろ!!」
………………しかしその次の瞬間、レイゴは信じられない光景に目を見開いた。
■ ■ ■
アジト内を駆ける深恋は、なるほど、とコスモスの言葉に頷いていた。
『……雅さん、「妖具」の瘴気を操れたんですか……。納得しました。ちょっと違和感があったんですよね』
『違和感?』
コスモスがラベンダーの言い方に疑問を持つ。
『あ、いえ。初顔合わせの時、同じ剣術士としてブローディアさんと模擬試合をしたじゃないですか? ……その時、ブローディアさんが纏う気に少し違和感があったので…、瘴気だったんだなって』
そう。実はラベンダーの歓迎会が始まる前にブローディアと一回剣を交えていた。
『………ふーん。気付いていたんだ』
『はい。……もし「妖具」の瘴気が操れるならレイゴ相手でも有利……ですよね?』
深恋は言いながらだんだん自信をなくしたように尻すぼみになる。
『じゃあ聞くけど、貴女が戦ったブローディア、強かった?』
『もちろん』
『じゃあそのブローディアの強さに瘴気が加わったとして、レイゴに太刀打ちできると思う? レイゴの強さを知らないなら『十刀流のジスト』と比較してもいいけど』
すると深恋の表情が曇った。
ジストと比較して、ブローディアの強さは通用するか、否か。
(……『妖具』そのものを扱うならともかく、その瘴気だけとなると……正直……)
『かなり厳しい、かしら?』
『ッッ、それは…』
コスモスが深恋の思考を言い当てる。
『私も貴女とブローディアの模擬試合は見てたけど、結構接戦だったわよね? 本気でなかったと言っても、それは貴女も同じようなものでしょう? 湊に刀全部折られて『聖』特注の新しい十本の刀を使った初試合だったんだから』
そう。湊との戦いで刀が全て使い物にならなくなった深恋は『聖』の技術者に新しい十本の刀を鍛えてもらったのだ。ブローディアとの戦いはその試験試合も兼ねていた。
『はっきり言いなさいよ。……思ったよりも強くなかったって。強化系のくせに非力だった。もし自分が全開だったら勝てた、親の七光りだ、って』
『な…! そんなことは……ッ』
コスモスの辛辣な言い方に深恋が言葉を詰まらせる。
それは図星を含んでいたからだ。相対的な実力は間違いなくA級上位だと感じたが、確かに足りないスペックを駆け引きとテクニックで補っているように思えたのだ。
伝え聞いた話とはいえ、小細工を正面から叩き斬るレイゴにブローディアが太刀打ちできる未来が見えなかった。
『も、もしかしてコスモスさんてブローディアさんと仲良くないんですか…? さすがに七光りは言い過ぎじゃ…』
『あー、ごめんなさいね。
………でも、親に恵まれなかった身としては、さすがに羨ましくなっちゃうわよ』
『………?』
深恋はコスモスの言っていることが理解できそうで、いまいちよくわからなかった。
『……とりあえず信じなさい。いずれ湊と並んで「聖」を引っ張る、未来の隊長を』
■ ■ ■
レイゴは思った以上にブローディアが難敵であると認識を改めていた。
先程から紅華鬼燐流の応用技を繰り出していたが、そもそもレイゴの『風刈衣・灼領』による熱気が一帯を包んでいるのだ。呼吸困難が絶えず続くこの領域では操作法で周囲の空気を操作し酸素を確保しなければならない。
正直レイゴはこういった小技が嫌いだったが、西園寺瑠璃の超絶技巧とも呼べる気の操作力に見惚れて使うようになったのだ。
『猪突猛進のイノシシとはこのことね』
西園寺瑠璃のこの言葉が思ったよりショックだったのである。
そして今目の前にいる女隊員も、西園寺瑠璃に負けない気の操作力を見せ付けている。
(俺の『風刈衣・灼領』の中で酸素を確保する気操作の腕前は、A級なら当たり前だ…。だがこの至近距離で俺と刃を交えながら、通常の気より扱い辛いはずの『妖具』の瘴気も併用して戦うのは相当至難のはずだ…っ。定石としてはこの『風刈衣・灼領』を払ってから攻撃を仕掛けた方が何倍も戦いやすいのに…。気操作に相当の自信があるみたいだなッッ)
「だがそれでも!! 勝つのは俺だ!!」
紅華鬼燐流・秘伝十四ノ式『龍凱烈牙』。
炎の刀の投擲による炎の龍の如き〝突き〟がレイゴから放たれる。部屋全てを覆い焼き尽くすほどの炎で、逃げ場はない。
ブローディアは最後の詰めのつもりで、怒涛の攻撃を仕掛けた。気全てを使い果たす勢いでレイゴを狩りにきていたはずだ。
その直後の反撃である。反応できてもコンマ数秒は遅れ、大した気量も残っていない。
(これで終いだッッ!)
しかしその瞬間、レイゴは目の前の現実を疑った。
なぜなら、ブローディアを殺さんと直進していたはずの『龍凱烈牙』が、自分の方へ直進してきたからだ。
「ッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!?」
(これは………ッッッ!!!!!?)
………………そして、鼓膜を突き破るような激突音が部屋中に響いた。
■ ■ ■
『聖』のアジトにある訓練場。
第二策動隊隊長のフリージアは日課の訓練のため訓練場に訪れたていた。
その部屋は鎮静の気が充満した弱体化空間で、模擬戦や走り込みをすることで鎮静の気の免疫力と純粋な体力を向上することができる。
(はあーあ、やっぱブローディアが危険度の高い任務に行くのは、慣れねぇもんだなぁ。いつもは楽しい訓練も溜息ばっかになっちまう)
フリージアはそんなことを思いながらランニングマシンのあるスペースへ向かう。
途中「あ、フリー隊長! こんちは!」「わ~、相変わらずいい筋肉~っ」「走り込みっすか?」「隊長! 俺と体力しましょうよ!」「よし決めた! 俺フリー隊長がこの部屋出るまで出ない!」「お前死ぬぞ?」という部下たちの声に「おう」「頑張れよ」「本当に死ぬぞ?」と応えていく。
と、そこで、ランニングマシンの一つに珍しい顔があることに気付いた。
フリージアはすかさずその人物に声をかけた。
「よう、我らが総隊長。これまた珍しいな」
そう。そこで走り込みをしていたのは『聖』の総隊長、西園寺瑠璃だった。
普段は腰まで伸ばしている青みがかった黒髪ロングを束ねている。
瑠璃はフリージアに気付き、ランニングマシンを一旦停止させた。
「……ふぅ。鍛錬を怠ってたわけじゃないけど、やっぱり長時間はキツイわね」
「おいおい、久しぶりなのに長時間はやめとけって。このマシンは時間が経てば経つほどA級上位レベルの鎮静の気が使用者にまとわりつくんだから」
「わかってるわよ。……ちょっと、落ち着かなくてね」
瑠璃の少し覇気の薄れた言葉だけで、何を考えているかは十分わかった。
「……クロッカス達のことが心配か? おいおい、総隊長のお前がどっしり構えてなくてどうするよ」
「わかってるわよ」
瑠璃が至って冷静に、そして優雅に言い返した。
「私が心から信頼する部下達よ? もちろん信頼してるわよ。……クロッカスなら、どっかの誰かさんみたいに危なっかしい真似はしないしね~」
瑠璃が悪戯っぽい笑みを浮かべながらちらりとフリージアを見やる。
フリージアが「んだとっ」と何か言い返そうとした……その時。
「ママーーーーー!」
瑠璃の元へ小さい影が走り寄って来た。
「あら、ローズ。どうしたの?」
コードネーム「ローズ」。瑠璃のコードネームを受け継いだ愛娘で、顔がよく似ている11歳の女の子だ。ちなみに親子でもコードネームで呼ぶことは多い。もはやあだ名のようになっているのだ。
ローズは瑠璃と同じ青みがかった黒髪ツインテールを元気に振りながら、両手に持った八角形の鏡を突き出して満面の笑みで言う。
「聞いて聞いて! さっきね! スーちゃんと模擬試合やってこの前ママに教えてもらった鏡を使った反撃技がうまく決まったの!」
「ああ、『鏡爆反衝』のことね。よくできたわねぇ~、このっ、このっっ」
瑠璃がローズの頬をつねると、「えへへ~」と満面の笑みを浮かべている。
その時、ようやくローズはフリージアの存在に気付いた。
「あれ、パパ?」
「ようやく気付いてくれたな」
フリージアがローズの目線まで屈み、父性溢れる優しい瞳を向ける。
「上手にできたか?」
「うん! やっぱりパパの刀使うやつよりママの鏡使ったやつの方が私好き!」
「そんな満面の笑みで言われると少しパパ複雑だけど……でも、ローズがいいと思ったならそっちをたくさん練習するんだぞ?」
「うん! もちろんだよ!」
その報告をしたかっただけのようで、ローズはそれだけ言うとすぐさま去ってしまった。
嵐のようだ。
少し離れたところで待っていたスイートピーの元に駆けていくローズの背中を見ながら、フリージアは瑠璃に言った。
「……あーあ、今はまだ俺に懐いてくれてるけど…やっぱ反抗期来るのかなぁ」
「雅の時も言ったけど、別に貴方のことを嫌いになったわけじゃないのよ? 思春期の女の子はね、一時はお父さんと距離を置くものなのよ」
「………だといいなぁ。もしそうなったら、雅の時みたいにフォローよろしくな、瑠璃」
「………そういうのは奥さんに任せなさい。克己」
その夫婦は、クスリと笑い合った。
コードネーム「ブローディア」。本名・紅蓮奏華雅。
父:第二策動隊隊長「フリージア」。本名・紅蓮奏華克己。※『妖具』保持者。
母:『聖』総隊長・西園寺瑠璃。※元第一策動隊隊長「ローズ」。
妹:第一策動隊所属「ローズ」。本名・紅蓮奏華夕遊。11歳。
弟:第一策動隊所属「ザクロ」。本名・紅蓮奏華劾十。14歳。湊と同期。
『聖』が誇るウルトラファミリーの、長女である。
長くなってしまいました。
しかもそれでブローディアVSレイゴ終わらないという…。
次話では結構物語が変動していく予定です。
ちなみに瑠璃の娘のローズは4章・第5話、息子のザクロは4章1話で少しだけ出てきています。
あと西園寺瑠璃の年齢だけ少し修正しました。
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