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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第4章 激闘クロッカス直属小隊編

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第11話・・・レイゴが動く_化け物として生まれた子_紅華鬼燐流・・・

のぼるがまた勝手に動きやがった!』『しかも何も考えず殺しやがって! これで証拠は掴めず仕舞いだ!』『何が天才だ! 調子に乗りおって!』『紅蓮奏華ぐれんそうかの恥晒しが!』


 ………うるさい。


 ここに居場所はない。

 そう悟り、レイゴは家を抜け出した。



 ◆ ◆ ◆



「よう、イーバ」

 サングラスを掛け刀を二本帯刀した柄の悪い男、レイゴがそう声を掛けた。

 振り返ったのは二十代中頃と年若くしてジストの秘書的役割を担う有能な男性、イーバだ。

 イーバの顔には不機嫌、迷惑、侮蔑、といった感情が浮き出ている。

 レイゴは自分が声を掛けただけでこれか、と面白く思った。

「何の用ですか?」

「キンリ見なかったか?」

「見てません。それでは」

 足早に立ち去ろうとするイーバの肩を掴む。イーバはエナジーを使ってまですり抜けて逃げようとしたが、レイゴも瞬時に力を入れて行かせない。

「そう邪険にしないでくれよ。…頭良いんだろ? よく考えてみろ。()がここに来たこと、キンリと連絡が取れなくなったこと、そういった情報を混ぜて考えてみ? …なーんか、感じ取らねえか?」

 イーバは冷たい視線でレイゴを睨み、

「情報提供ありがとうございます。あとは私の方で確認しますので、貴方は大人しくしていてください」

 肩を手を払い、イーバはその場を立ち去って行った。


 レイゴは苦笑しながら、イーバの背中を見詰めた。

(イーバ…。……あと十年待てば最高の殺し合いができそうなんだけどな……ははッ)


 ※ ※ ※


 レイゴが大人しくするはずもなく、アジト内を歩き回り始めた。

 やはり悪寒を感じる。

 このアジトで何かが起きている気がしてならない。

(キンリ、まさか本当にやられちまったのか?)

 レイゴはキンリを大きく買っていた。

 あいつがやられた、そう考えると、ワクワクが止まらなくなる。


「相変わらず嫌われてますねー、ふふっ」


 気分が向上するレイゴに、怪しげな猫撫で声をかける人物が現れる。

 気配を感じなかったが、レイゴはこんなことができる人物に心当たりがあったので驚かない。

 レイゴは水を差され少し不機嫌な瞳を向ける。

「アルガか」

「はいはーいっ。アルガちゃんでーすっ」

 色黒で髪を染めた厚い化粧の女、アルガ。

 夜のバーにいそうな危険な匂いのするギャル。レイゴも大概だが、アルガの柄も悪く印象最悪だ。

 レイゴはあまりアルガのことが好きではない。

 同族嫌悪と言うべきだろうか。キンリやジストのように基本的に静かで何をやっても淡々する奴らは絡んでいて楽しいのだが、いちいちうるさい奴はうざい。

 ついでにアルガは気配を消すのがうまく、その神出鬼没性はレイゴの気分にいちいち水を差す。嫌いだ。

「何かありましたか? 私で良ければ力になりますよ?」

「…なんか萎えたからいいわ」

 レイゴは感情に従って歩き出す。

 アルガはにっこり笑顔を貼り付けてついてくる。

「まあまあそう言わずにっ。私はイーバほど頭固くないですよ? ……キンリくん、見当たらないんですか?」

「……どこにいるのか分かるのかよ?」

「モニター室行けば監視カメラの映像は一応見れますけど、外に行かれたんじゃ分かりませんね。モニター室、行きます?」

「いや、いい」

 レイゴは冷静に考える。

 もし敵が既にこのアジトに襲撃していたら、モニター室は真っ先に占拠しているだろう。そして仮にモニター室へ行ったとしても既にハッキングを終え遠隔操作を可能にして消えいているに違いない。

 ジストにわけを話してシステムが乗っ取られてないか確認できるだろうが、時間が惜しい。レイゴは我慢できない性格だ。

 だったら自分の直感を信じてアジト内を探し回る方がいい。

「……何か確信してる表情ですねー。例の『天超直感ディバイン・センス』ですか? 羨ましいですねー。しかもレイゴさんって『天超直感ディバイン・センス』の冴えは紅蓮奏華の歴代の中でもトップクラスって言われてたんですよね? 天才って言われてたんですよね?」

 うるさいのが勝手に喚く。

「学生の頃はちやほやされたたって聞きましたよ? レイゴさんのことだから調子乗ってたでしょー?」

「ぶち殺すぞてめぇ…」

 失礼な発言にいい加減レイゴが舌打ちしてアルガを睨み付けるが、アルガは涼しい表情で。

「自分がいつもやってることですよ? そんな私を殺すんですか? 子供ですねー」

 レイゴが舌打ちする。

 これだ。同族嫌悪。他人を挑発ばかりするレイゴはプライドも高く、アルガを殺すと自分の器が小さいと言われてるみたいで癪だ。

「すみませんすみません。別にレイゴさんを怒らせたいわけじゃないんですよ。…せっかくの機会だから聞きたいことがありましてね」

「大人しく消えるならなんでも答えてやるよ。隠し事なんてないしな」


「じゃあ質問ですけど、紅蓮奏華臥次(がつぎ)って、どんな人ですか?」


 レイゴは足を止めてアルガに振り向いた。

 アルガは苦笑して、

「ちょっと事情があって、気になるんですよね。40年以上も前、突如家を出て以来、消息不明のフォーサー。表向きには死んだってされてるみたいですけど、違うんでしょう? 詳しい原因、聞きたいなって」

「……その事情っていうのはなんだ?」

「いえね、私の友達が情報屋から紅蓮奏華臥次について聞かれたらしいんですよ」

「その友達ってのは?」

「地下都市『白空しろそら』のホテルの元従業員で、今は『白空』で小さな飲食店を経営してました」

 レイゴは語尾が気になった。

「ました?」

 アルガはクスリと笑って、

「殺されたんですよ。事故死扱いされてますけど、情報漏洩した罰でしょう。…『白空』は広いようで狭い閉鎖社会ですからね。ルールを破った者は粛清となる。特にそのホテルはデカかったですから……まあ、本人は何も知らなくて、経営に行き詰ったところ金に目が眩んでデタラメなことを言ったそうです。バーで酔いながら私にそんなことを話した次の日、死にました」

「バカだなそいつ」

「ええ。だから私好きだったんですよね」

 アルガの表情には悲しみも何もない。

 裏社会での付き合いなんてそんなものだとレイゴも驚きはしない。

 それよりも気になる点があった。

「つか時系列はどうなってんだ? 紅蓮奏華臥次がその友達が勤めてた数年前ぐらいに泊まりに来たってことか?」

 アルガは笑顔で首を振った。

「数年前じゃありません。40年前です。40前のことを聞かれ、デタラメ言ったら殺されたんです」

「……その友達って何歳だ?」

「75歳のおじいちゃんです」

「……あっそ」

 それ以上何も言う気はしなかった。

「で? で? 紅蓮奏華臥次ってどんな人なんですか? 教えて下さい」

「知って、その情報屋に売るのか?」

 そこで初めてアルガが本性の一部を投影した怪しく強かな笑みを浮かべた。

「ええ。儲かりますから」

「これを聞いて俺が情報を売るとは思わないのか?」

「笑わせないで下さい。レイゴさん金とか興味ないでしょう?」

 レイゴとアルガは他人の気などお構いなしという本質は似ているが、歩く道は明らかに違う。それをアルガも理解しているのだ。

 レイゴはこれ以上アルガに付き纏われないなら安いものか、とざっくり語り出した。

「俺だって当時は5歳だったからな。そこまで知ってるわけじゃないぞ。……紅蓮奏華臥次が家を出た理由、簡単に言うと、生まれた子供が化け物で、そいつを『家』に殺されそうになったから、守るために逃げたんだ」

 思いがけない理由にアルガも目を丸くしていた。

「うわー、なんか良い理由ですね。……でも、化け物って? 頭三つに腕6本の子でも生まれたんですか?」

「違え。…臥次の妻、栖陽すようが妊娠中、『むくろ』の『妖具ようぐ』持ちに襲われたんだ」

「『妖具』…」

 アルガは矢継ぎ早に飛んでくる衝撃の単語に瞬きを繰り返す。

「分家の屋敷の奥深くまで誰にも気付かれずに忍び込むかなりの使い手だった。……結果栖陽すようは死んだが、奇跡的に子供は生まれた。名は克己かつき。しかし『妖具』の影響をもろに受けていてな。あり得ないぐらいの負のエナジーを0歳の赤ん坊が宿してたんだ。多少の医療士器(アイテム)の手助けは必要だが、容態に異常はなくすくすく育つと医師は診断。…だが、紅蓮奏華家の上層部は揃って克己を殺すべきと判断した」

「まあ、負のエナジーに曝されながら育ったら正に化け物の誕生ですもんねー。ていうかよくその赤ちゃんそんな瘴気に耐えられましたね。普通死ぬでしょう」

士器アイテムもあるが、赤ん坊自体が天才だったんだろうな。自我のない状態でも負のエナジーに精神を押し潰されないよう踏ん張ってた、て言ってた」

「で? その後は?」

 楽しんで聞いてるアルガに心中で溜息を吐きながら、

「後はさっき言った通り。…そんなことを臥次が許すはずもなく、克己が生まれて三ヵ月後に家を抜け出した。…その後のことは知らん。一応探したみたいだが消息は全く掴めなかったらしい」

「……臥次さんはともかく、その子供は生きてると思います?」

「知らん。…が、生きてたら正に化け物になってるだろうな」

 話が終わった。

 アルガは満面の笑みで深々と頭を下げた。

「めっちゃいい話聞かせてもらいました! ありがとうございます! まさかここまで教えてくれるなんて! ほんとめっちゃ感謝です!」

「『憐山』上層部にも話したことだ」

「それ『上』は話していいって言ってるんですか?」

 ふっとレイゴが笑った。

「んなわけねえだろ。こんな良い情報を」

 アルガが初めて顔を引きつらせる。

「じゃ、じゃあなんで私に…?」

 レイゴの笑みは止まらない。

「それを知ったお前がどうするのか興味が湧いたんだよ。情報屋に話してお前だと『上』にばれたらさすがにただじゃ済まない。俺もなんらかの罰は下るかもしれないが、切り捨てられることはない。でもお前はどうかな? お前レベルの奴を切り捨てるかどうか…どっちだろうな?」

 アルガは目を細めて軽蔑した視線を送ってくる。それがレイゴには気持ちよかった。

「ふんだ! もういいですよ! レイゴさんなんて大っ嫌いです!」

 アルガはがつがつとその場を後にした。

 溜飲が下がり、良い気分だ。



 ◆ ◆ ◆



 レイゴは歩きながら思った。

(良い気分だ! スカッとした! ………最高潮の今の俺はめっちゃ冴えてる。あれ(・・)、やるか)

 レイゴは体の力を抜き、無の状態となる。

 そして。

(『傾倒超直感(オート・センス)』!)

 レイゴの身体が動き、走り出した。

 それはフォームの整ったものでもなければ、野獣のような野蛮な走りでもない、雑な走りだった。だらっと垂らした腕が後ろに引っ張られ、体は前に傾き、何より瞳が少し虚ろ気味だ。

傾倒超直感(オート・センス)』。

 これは『天超直感ディバイン・センス』の応用で、体を本能に任せて動かす技だ。体の状態や気分の良し悪しが大きく影響するので、あまり使える機会がない。

 何を意識するわけでもなく、何を狙うわけでもなく、ただ本能、直感に任せて体を動かすだけだが、その先に高確率で良い結果が待ってる。不確かだがありがたい技だ。


 真っすぐ進み、右に曲がり、左に曲がり、階段を下り、右に曲がり、右に曲がり、とどんどん進んでいく。

 やがてレイゴはとある廊下の真ん中で止まった。

「ここで止まったか。さてさて、鬼が出るか蛇が出るかーっと」

 レイゴは周囲を見回し、ある一点に目を止めた。

 アジト内にある部屋の一つ。

 そこが気になる。気になった時点でレイゴは直感した。


 あそこにいる。


「見付けたアアアアアアアァァァァァアアアアアア!」


 レイゴは二刀を抜き、部屋に飛び込んだ。



 ◆ ◆ ◆



(さい……あく!)

 ドア目の前にいるレイゴのエナジーを感じ取り、紫色の仮面を付けた人物、ブローディアは仮面の裏で表情を歪ませた。

 ブローディアは他に比べて広い部屋を発見し、見聞に入っていた。時々会議に使われる部屋のようで、机や椅子はたくさんあったが大した情報はなかった。

 そんな時に『憐山』の幹部の一人、『狂剣のレイゴ』がやってきたのだ。

(今のは間違いなく『傾倒超直感(オート・センス)』。…エナジー使ってるわけじゃないから感知に遅れた。しかもすぐ簡単に見付けて……。…んもう、羨ましいったらないわ)

『ブローディア、オープン。最悪です。『狂剣のレイゴ』に見付かりました』

『ヒヤシンス、エンター。…マジかよ。この段階で見付かるのはさすがにまずいぞ。まず結界を急いで張って、…隊長かスターチスが助けに行くのを待つべきか…?』

 ヒヤシンスがいち早く応答し、最善策を考える。

 レイゴはS級。クロッカスかスターチスでしかまともに相手できないと考えたのだ。

 …しかし、短い時間の中で必死に考えたことをブローディアが述べる。

『いや、私がやるしかないでしょう。二人とも簡単に離れられない』

 そこに。

『クロッカス、アンサー。聞かせてもらった。…時間がない。率直に聞く。ブローディア、…できるか?』

 その声音からは何の感情も感じない。ブローディアにはそれが逆に溢れる感情を押し殺したもののように感じた。

『あと二十分…あ、私抜くと二十五分くらいかな? それぐらいで第三段階の掃討に移りますよね? …それまで、持ち堪えることは、不可能ではないと思います』

『分かった。そう言うなら任せる。…ブローディア』

『分かってますよ』

 ブローディアが言葉を被せる。

あれ(・・)は使いません。使ったとしても、三割未満。…基本相性はちょうど(・・・・)五分五分なんです。あとはテクニックで覆しますよ。勝てたら倒します』

『分かってるならいい。…生きて帰れよ』

『はい』

 通信が途絶えると同時に、ドアが蹴破られた。


 ※ ※ ※


 レイゴがドアを蹴破って中に入ると同時に結界が部屋全体に広がる。

 ブローディアはこの部屋で戦うことを覚悟し、結界の用意をしていたのだ。

「ほう、俺とサシで戦おうってのか? いい度きょ…って! なんだよおい!『聖』が相手かよ! ラッキー! ……あー、でもちょっと弱いな。少しガッカリだ」

 大量の机と椅子を隔てて向かい合い、レイゴが好き勝手に感想を述べる。

「なんだ? おたく足止め? 時間稼ぎ得意なのか? ま、なんでもいい。せっかくの『聖』なんだ」

 レイゴが獰猛な笑みを浮かべたかと思うと、一瞬で距離を詰めた。

 舞い上がる机や椅子を背景に、レイゴが刀一本を振り上げている。

「ほらぁ! 紅華鬼燐こうかきりん流! 四式!『烈翔華れっしょうか』!」

 刀の峰から炎噴き出しブーストして威力を上げた刀の一振り。ブローディアもレイゴも知らないが、勇士のそれとは段違いだ。


 それをブローディアは……。



(紅華鬼燐流・三式『十字炎瓦じゅうじえんが』)

 


 ガキンッ!


「は!?」

 レイゴが叫んだ。

 レイゴの『烈翔華』を、ブローディアは即座に取り出した二本の刀に炎を纏わせ、十字にクロスして容易く防いだ。

 刀をクロスして防ぐ技は世の中沢山あるが、腕の形、腰の入り方、受け止める刀の角度、炎の加減、その全てが紅蓮奏華の『十字炎瓦』に見えたことだろう。

 そして、レイゴならすぐ直感できるだろう、そうブローディアは思った。

 その直感を裏付けるように、

(九式『過蒸閃かじょうせん』)

 レイゴの刀を弾き、そのまま蒸発させる高熱の火と纏った刀を振り抜く。

「おっと!」

 動揺していたレイゴだが、その広範囲を蒸発させる火力を持つ刀を大きく後ろに跳んで躱した。


 …両者の間に沈黙が流れる。

 時間稼ぎになるのでブローディアとしては歓迎して黙した。

 しかしそれも長くは続かないだろう。と思う。

 レイゴならブローディアの出生を直感し、狂い戦い始めるとだ断言できた。


「そうか…」


 レイゴが、口を開いた。


「そうかそうかそうか。………お前、化け物の子か!」


 レイゴのギラついた視線がブローディアを射貫く。

「なるほどなぁ! 紅蓮奏華臥次は『聖』に行ってたのか! そりゃ消息も掴めないわけだ! そんで!? 克己かつきもすくすくと育って大人になり、子を産んだってか!? それがお前か! まさかこんなところで思いもよらない血縁者に遭うとはな! なんだよこの偶然! 奇跡! オモシレーじゃねえかッ! サイコーじゃねえかッッ!」

 レイゴが昂ぶり、狂い、正解を述べる。



 独立策動部隊『聖』。

 第四策動隊所属、コードネーム「ブローディア」。

 本名、紅蓮奏華(みやび)

 父、紅蓮奏華克己。コードネーム「フリージア」。

 祖父、紅蓮奏華臥次。コードネーム「アブラナ」。

 そして祖母、紅蓮奏華栖陽。


 化け物と忌み嫌われ、紅蓮奏華家に殺され欠けた子の、愛娘だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 『クラスミックスで異世界へと』読みたいのですが、どこにあるんですか?
[良い点] 読み返しても、やっぱり面白く続きが気になります。 [一言] 更新する可能性が少しでもあるのならば、明らかにしてくださるととても助かりますし、そうであるならばいつまでも待つつもりではあります…
[良い点] 面白くて一気読みしてしまいました。 [一言] 気分転換にでも続きを書いて頂きたいです。
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