第13話・・・『久多良木の 』_『九頭竜川の 』_『紅蓮奏華の 』・・・
木の枝の上で、四門の盾と来木田の棒がバチバチとぶつかり合う。
横にいる琉花は来木田のペアが自分に攻撃を仕掛ける可能性を考慮し、周囲を警戒するが、間もなく隣から聞こえていた激突音が消える。
来木田が退いて地面に降り立ったのだ。その隣に、茂みの奥から来木田のペア、折坂和帆が姿を現す。その両手にはナイフが握られている。
棒を肩に置いた来木田が琉花達を見上げ、威勢のいい声で叫ぶ。
「降りてこいよっ。その方がそっちとしても都合良いだろうっ?」
琉花と四門は、特に言葉を交わさず、素直に真下へ降りた。彼我の距離は十メートル程だ。
すぐに琉花が数歩後ずさって後衛に、正三角形の二盾を構える四門が前衛のポジションに移動する。
そして四門が明かるい声で来木田に声を掛けた。
「いやぁ、まさかこんなに早く岳徒と戦うことになるとはね」
来木田も気さくに返した。
「こっちとしては奇襲で終わらせるつもりだったんだけどね、そう上手くはいかないか」
「…奇襲がメイン…あ、それならさ、こっちとしてはこのまま戦わずにお互い引くっていうのもありなんだけど、どう? まだ始まって一時間だ。体力温存っていう点でも、利害は一致していると思うが?」
来木田が少し目を張る。一理あるからだ。
(へー、女子とペアになって少し心配だったけど、冷静な判断力は健在だね)
四門の後方にいる琉花の表情を確認すると、彼女も同意見のようだ。
ペアの和帆をちらっと見ると、どちらでも、と肩を竦められた。
「うーん…でもごめん。来木田家は九頭竜川傘下であり、『九頭竜川の鬼兵』と言われてるんだ。一度武器を交えた以上、下がれないよ。…ついでに、彼女の力量にも興味あるしね」
琉花に挑戦的な目を向ける。琉花の鋭い敵意が返ってくる。
四門が苦笑した。
「じゃあ…、良い勝負にしようか!」
それを合図とするように、来木田と和帆が走り出した。
向かってくる来木田と和帆を眺めながら、琉花は思った。
(嫌な感じがするこの二次試験…勇士のこともあるし、リタイアしたくないのに…仕方ないわね)
琉花が来木田と和帆を観察する。
来木田は四門の真正面、和帆はその少し離れた右側を走る。
(四門に来木田をぶつけ、その間に回り込ませて折坂さんを私にぶつけようってことね。…折坂さんの実力はE級レベル。気量自体は漣や愛衣より少し多いくらい。実力の差は歴然だけど、)
琉花の脳内を、湊と愛衣が多摩木の研究所内で成した出来事を駆け巡る。
(決して油断はしない)
弓を引き、いつでも矢を放てる状態で構える。
そして四門と来木田が衝突するのを待った。ここで和帆に矢を放っても手の空いてる来木田に邪魔されると予測できるからだ。
ある程度近付いた時、来木田と和帆の足の気が増したのを感じ取った。更に速さを上げた加速法で一気に来る気だろう。
……その予想は、外れた。
「「ッ!?」」
四門と琉花が不意を突かれた表情になる。
結果を言えば、来木田と和帆が互いの方へ横に跳び、ポジションを入れ替えたのだ。
四門の方へ和帆が向かい、来木田が流れるような軌道を描き琉花へと走り込む。
(来木田自ら私の相手…! これが狙い!)
攻撃力の低い和帆で四門の相手が務まるとは思えないが、時間は稼ぎにはなるだろう。その間に琉花と同格の来木田と接近戦に持ち込まれれば大ダメージは必至。…試験とは別で力を残しておきたい琉花としては大問題だ。
動揺を抑え込み動こうとする琉花よりも先に、彼女のペアが動いた。
「その程度かい? 岳徒。……『三方爆土盾』!」
突如、四門を中心に膨大な爆発が起こった。爆音と共に和帆と十分距離を取った来木田を呑み込んだ。しかし四門と琉花の方へは爆風すら来ない。
四門の盾の延長線上で景色が変わっていた。片方は何事も起きていないように。もう片方は暴風でも起きたように。
(これは……指向法! 実戦でもここまで完璧に使いこなすなんて!)
爆発の方向を操る炸裂系特有法技だ。
四門英刻の質は炸裂系土属性。
今は盾を中心に四門と琉花の方向以外に炸裂を喰らわせる攻防一体の技だ。
土煙が消え、ほぼ無傷の来木田と少し息を切らした和帆の姿を視認した。
「岳徒はともかく、折坂さんにも防がれたか。あの距離なら結構ダメージ与えたと思ったけど…速いんだね」
いつもの女苦手はどこへやら、和帆の戦力を分析する四門の顔付きは戦士のものだった。
「……来木田、少し聞いていた以上の気がするんだけど…」
和帆が九死に一生を得た表情で来木田に苦言を呈する。
来木田は改めて棒を構え、四門へ油断無き瞳を向ける。
「ああ、ごめん。前よりも指向法の扱いが段違いなんだよ、これ。…やっぱり厄介だな。『防御こそ最強の攻撃』を旨とする『久多良木の爆壁』は」
(…風宮さんとお手合わせするには、まず英刻を倒さないと、かな)
そんなことを考えていると、四門の背後、琉花から矢が数本放たれた。
「おっと」
棒を回転させ、矢全てを弾き壊す。
「危ない危ない。油断も隙もないな」
「お喋りしてる方が悪い」
取り付くしまもない言葉と共に、琉花からまた数本の矢が放たれる。
それらをまた回転させて落とそうとして、その両側の矢が軌道を変えたことに気付いた。回転して弾き落とす間に別の矢で回り込んで刺そうってことだろう。
(ふん)
「『水の壁』」
前と左右を防ぐように弧の形で水の壁が出現する。
矢は全て防がれた。
(風宮さんの矢、威力こそ低いがその分機動性に優れてる。無防備な箇所に当たればさすがにキツイか)
と考えてると、和帆から控え目に聞かれた。
「来木田…これ厳しくない? 近付けば四門、遠ざかれば風宮。あの二人相性良過ぎるよ。…まあ私が三人に比べて劣ってるっていうのが原因ではあるんだけど……やっぱ逃げた方が良くない?」
和帆の言いたいことは分かる。四門が言っていたこととほぼ同じだ。
『水の壁』が消えていく短い時間の合間に、来木田は短く答えた。
「そう言わずにさ。これ、結構良い実戦訓練になるよ?」
「……はあ。あっそう。まあここまで来れたのも来木田のおかげだし、そう言うなら腹を決めるよ」
「そう来なくっちゃ」
※ ※ ※
(……岳徒の気の変化が…ふっ、さすがに使ってくるか。『氷武創造』)
四門の視線の先にいる来木田の纏う気が増幅していく。
来木田の属性である水が棒の先端で渦巻きながら変容し、周囲の温度が下がったかと思うと、その水がパキパキッと硬質な音を発する。
「『氷武形態・斧』」
岳徒の持つ棒に、氷の刃を取り付けられ、巨大な氷の斧が作り出されていた。
来木田岳徒は強化系水属性。
その司力は『氷武創造』。
それは三メートル程の棒に氷で作った刃を取り付ける形で様々な武器を創造する司力だ。氷は水の上位互換なので、難易度は相当高いと言える。斧の他にも槍、鎌、槌などがある。
(『あらゆる武器による怒涛攻め』を旨とする『九頭竜川の鬼兵』……気を引き締めよう!)
次の瞬間、来木田が斧を右肩に乗せるように腕を曲げ、加速法で一気に距離を詰める。巨大な斧を持っているというのに、先程よりも速い。
接近中に琉花が数本の矢を放つが、来木田の少し後ろを遅れて付いて行く和帆の『風の壁』で防がれる。
「行くよ英刻!」
「来い! 岳徒!」
来木田が思いっ切り斧を振り下ろす。
(指向法に気を割く余裕はないな!)
「『盾面土広化』!」
四門が叫ぶと同時に、三角形の両盾を土が覆い、平たく、厚く、頑丈に拡大していく。四門の盾が一瞬にして倍以上に広大化した。
空気を切り裂くように振り下ろされる氷の斧を、四門は左腕の盾を斜め上に構える。
そして衝突と同時に炸裂させた。
指向法を使用していなかったので、今度は全方向に、だ。しかし四門は反動こそあれど、ほぼ無傷だ。盾の表面で炸裂を起こしているので、その裏側にいる四門にはほとんど爆発は届かない。『盾面土広化』で盾の面積も広げたので、四門の後方にいる琉花にも届かなかったはずだ。
(さすが岳徒……結構威力上げてるのにあんまり効いていないか…)
至近距離で炸裂を受けた来木田は未だ、四門の盾に斧を付けていた。服と顔を少々擦切っていたが、それだけだ。和帆はそもそも距離があり、来木田を挟んでいたことで無傷だ。
来木田は自身を纏う気を更に高める。
「『多連割』!」
強化の気で腕力を底上げして、目にも止まらぬ速さであらゆる角度から斧を落とし、薙ぎ、振るう。四門はその高速の攻撃に二つの盾で完璧に防いだ。ダダダダダンッ!と盾で斧を防ぐ度に爆音が重複して響く。
『御十家』に並ぶ力のぶつかり合いに、観戦中の生徒も固唾を呑んだ。
その攻防を終わらせたのは四門だった。横薙ぎされる斧を盾で防ぎ、通常より強めに炸裂して大きく弾き、その隙に数歩下がる。
間髪入れずに、琉花の矢が飛んだ。
滑らかな軌道を描き、四方八方から襲い掛かる。
「『風の壁』!」
前に出た和帆が腕を振るい、巻き起こる風の壁で矢を防ぐ。しかしそこへ、
「『土盤直弾』!」
四門の盾の表面を覆う土が三角の塊のまま直進して放たれる。炸裂によって勢いを付け、弾丸のように放ったのだ。
威力と硬度と速度は琉花の矢を数倍上回る。
和帆の風の壁を突き破り、胴体に衝突した。
「ッッ!」
「折坂!」
痛みにより和帆がその場に蹲る。
「まだまだ行くよ!『砂砲撃』!」
来木田と和帆へ向けた盾の面上に砂の球ができあがり、さらに増幅していく。瞬時にチャージを完了し、多大な気を纏った砂を放った。
(これは…炸裂も応用している砂の砲撃…)
範囲が広く、来木田はともかく手負いの和帆は躱すのも防ぐのも不可能だ。
来木田は巨大斧を振り上げ、
「『砲割り』!」
思いっ切り振り下ろした。
豪風を起こして深々と大地にめり込み、その力で四門の『砂砲撃』を割った。砂砲が来木田と和帆の両横を通過する。
余波で髪を揺らしながら、
「折坂、まだ戦える?」
四門の攻撃を受けて蹲っていた和帆がぐらっと一回揺れて立ち上がる。
「なんとか…ね。足手まといでごめカッ!?」
突然、折坂和帆の、脳天に矢が落ちた。
誰の仕業か言うまでもない。
(っ。…風宮琉花か!)
気絶した和帆を『生命測輪』が続行不可能と判断し、リタイアとなった。
(気付けなかった…。俺への矢なら察知できただろうけど、それでも鎮静系でもない風宮の矢を…。仮に『本家』の言う通り、この紅井勇士や風宮に何かあるとしても、こんなところで実力を見せるか?
…いや、それとも、体に染み付いた技術故に、使ってしまった? 今俺に矢を放たないのは気の無駄遣いだから? それとも隠し玉をこれ以上見せないため?)
次第に砂煙が晴れ、ペアを失った来木田と四門&風宮が対峙する。
※ ※ ※
琉花は一人になった来木田をジッと観察していた。
前に、試験に向けての練習中に四門が来木田岳徒という人物について語っていた内容を思い出す。
『岳徒とは友達だよ。昔から『御十家』関連の会合や式典で集まる時はよく遊んでたんだ。……でも九頭竜川家に心から忠誠を誓ってるからね。そのことになると少し怖いところはあるよ』
来木田は、四門英刻と親し気に会話していた。ペアの折坂和帆ともしっかりコミュニケーションは取っていた。
しかし、紫音や武者小路に対しての態度は良いものではない。
(こういう自分をしっかりコントロールできる輩は面倒なのよね)
来木田が氷の斧を構え、四門の奥にいる琉花を見詰める。
「やられちゃったよ。……やっぱり風宮さん、只者じゃないね」
その瞳から伝わってくる気配に、琉花が内心で少し動揺しながら短く受け答えする。
「高評価ありがと」
何かに勘付いているわけではない。ちょっとした違和感。それを頼りに琉花を探ろうとしている。
そこに四門が割って入った。
「岳徒、悪いがもう逃がす気はないよ」
来木田が四門を目を向ける。
「安心しろって。逃げる気なんてないから」
「随分と余裕だね。二対一だっていうのに」
その四門の発言に、来木田が苦笑した。しかしその眼は笑っていなかった。
「……英刻、そろそろ…限界だろ?」
「ッ!」
刹那、来木田が加速法で距離を詰める。
まずい、そう思った琉花が数本の矢を放つが、来木田に届く前に中空に出現した手の平サイズの水球に行く手を阻まれ、全ての矢が墜落してしまう。
来木田は斧を上段に構え、一つの法技を発動した。
瞬活法。
強化系特有法技。
脳に強化の気で負荷を掛け、人が無意識の内に自分へ掛けているリミッターを開放する法技だ。
これを使えば爆発的に身体能力が高まるが、反動もある。故に、この法技を使うのは一瞬、攻撃を繰り出す瞬間に限られている。
「『地殺しの氷斧』!」
「『三方爆土盾』!」
瞬活法で威力倍増した斧の振り下ろしと、指向法で炸裂力を高めた防御。
中学生とは思えない力と力のぶつかり合いの余波は、琉花ですら気を抜けば吹き飛ばされそうだ。
そして………、その戦いを制したのは、
来木田岳徒だった。
※ ※ ※
立つ来木田。
倒れる四門。
完全に意識を失った四門が消えていく。リタイアによる転移だ。
「英刻の司力、『攻防爆陣盾』は炸裂で対象の攻撃を阻止しつつ、逆に対象へ攻撃をするという攻防一体の司力。しかしそれは炸裂の反動を全て受けていること。気の消費量は尋常じゃない。
俺もこれだけ大きい武器を振るってるから反動がないわけじゃないが、風宮さんも知っての通り鍛えた強化系の体は他の系統を軽く上回る。
……将来的には分からないが、今の段階じゃ俺の方が断然有利なんだよな」
ついに一対一。
来木田と琉花の間を隔てるものはこれでなくなった。
琉花は冷や汗を掻きながら。
「…私と戦う気? 相当疲労溜まってるみたいだけど?」
「ご安心を。まだまだ戦えるよ。……でも、この斧じゃ戦いにくいから……『氷武形態・」
氷の斧頭が割れるように剥がれ、水が渦巻き、新たな氷の武器が顕現した。
「槍』」
斧は防御力に特化した四門を相手にする為の武器。
機動性に優れた琉花相手には動きやすい槍が最適だ。
それを見て琉花はどうするか、と考えさせられる。
(……まずい。近距離戦に持ち込まれたら確実に負ける。まだ距離のあるこの状態でも…厳しい。本気出せば勝つ自信はあるけど、私の本当の司力を見破られて勇士の正体にまで行き着いたら最悪だわっ。…この二次試験自体怪しい以上、せめて最後まで残り、もしもの時の為に勇士の力になりたい。……となれば、)
琉花は矢を来木田の足元に放ち、砂煙を巻き起こした。琉花が選んだ行動、それは逃避だ。
回れ右して加速法で逃げる。
しかしすぐ近くから。
「なんだ、結局逃げるんだ。ま、英断だね」
「ッ、速いわね!」
急接近には気付いていたので驚きはしないが、悪態はついてしまう。
横に並ぶ来木田は長い槍を一閃した。
しかし、氷の槍は琉花をすり抜けてしまう。そして琉花自身もぼやけたように霞み、消えてしまった。
「これは…残像法かっ」
来木田が斬ったものは琉花の気を含んだ残像。
いつの間にか周囲には少しぶれた琉花が木の上、茂みの奥へと逃走している。
このままでは見分けがつかないので、来木田も法技を使った。
「感活法・視」
来木田の眼に気集中し、視力が飛躍的に強化される。
感活法。
強化系特有法技。強化の気を感覚器官に集中的に注ぐことで感覚をより鋭敏にする法技だ。
来木田はその動体視力で琉花の残像を観察し、一秒も経たない内に槍を構え、投じた。
「そこだなっ!『氷流撃』!」
一番遠くの残像へ向けて、氷の槍が強い風圧を起こして投擲される。
その速さは凄まじく、C級レベルの琉花では気付いていたとしても回避は困難だ。
さあどうするか、あるなら実力の一端を見せろ、そう来木田が思った瞬間だった。
「あなたなら気付くと思った」
琉花が振り返り、何やら両手を前へ添えるように広げた。どうやら迎え撃つようだが、来木田の槍の威力は防御力の低い琉花で防げるとは思えなかった。コンマ一秒に満たない間に、観戦中の生徒もそう直感した。
しかし琉花のその表情は余裕であり、成功者の笑みであった。
「『極小・一面結界』!!」
突如、琉花の手と手の間に小さなスモークガラスのようなものが出現した。
割れた窓ガラスの破片のような障壁は、小さくとも四門英刻以上の防護を誇る結界だ。槍の先端は丁度そこに当たり、激しい衝撃音を立てながらも突き破れずにいる。その強大な矛と盾のぶつかり合いにより、そこを中心に強い風が起こる。それは来木田も顔を覆う程であり、身動きが取れなくなる。
やがてその風が止んだ頃には琉花の姿はどこにもなかった。
あるのは威力を失い地に落ちた槍だけ。
「……やられた」
来木田は槍を拾い、氷を解除してその場を後にした。
※ ※ ※
(危なかった…)
琉花は全速力であの場から去り、今は一本の木の下にいた。
(『極小・一面結界』…実戦使用は初めてだけど、なんとか使えそうね)
以前、『聖』のクロッカスが軽々と使っていた技。その防御性能は世界屈指だが、応用性が低く、自分の質に合った技を鍛える方が効率的だとされていた。
しかし勇士の刀を軽々と防ぐクロッカスの『一面結界』は見事なものであり、琉花も『一面結界』の訓練を取り入れていたのだ。
琉花は立ち上がり、一応もう少し来木田から距離を取ろうと、
走り出した時にそれは琉花を襲った。
膨大な水の塊。
横斜め上から突然叩きつけられるように水塊が身に降り掛かり、倒れた琉花が地面を二転三転する。
転びながら、なんとか膝立ちで着地した琉花の目の前に、よく知る一人の生徒がいた。
「さざ…なみ……?」
「やあ、風宮」
そこにいたのは、悪戯っぽい笑みを浮かべた湊だった。まだ沈まぬ陽の逆光を浴びた美少女とも言える容姿は背徳的な魅力があり、危機感を強める。
「悪く思わないでねっ」
ちょっと待って、そう言うよりも速く、湊がナイフの柄を琉花の頭に落とした。
リタイアしていく琉花を眺めながら。
(本当にごめんね、風宮。でもあまり『この後起きること』に介入されたくはないんだ。…子供と言えど『紅蓮奏華の黒矢』なら尚更ね)
今話ですが、大分長くなってしまいました。
今後はもう少し短くまとめたいと思います。




