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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第3章 学試闘争編

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第6話・・・大会の始まり_湊&総駕ペア_快勝だ・・・

 休みが明けた。

 中間テストの始まりだ。

 テスト期間は平日だが朝、教室に集まる必要はない。昨日スマホに送られてきた自分のブロックの試合に間に合えば問題がないのだ。

 1組最小でも1日3試合なので無駄なことに時間を取るわけにはいかなのだろう。

 試合は他の生徒も観戦可能で好きな試合を見ることができる。


 そして、今日の12ブロック第1試合目は早速注目カードで、かなりの生徒が第6演習場改め今は闘技場の観客席に押し寄せていた。

 そこには勇士、紫音、琉花、愛衣、更に淡里深恋も集まっていた。5人ともそれぞれ試合着に身を包み、横並びで座っている。

 全員の表情にはやや緊張の色がある。そんな中、琉花がぽつりと呟いた。

「……考えてみれば、漣の戦いを見るのってこれが初めてよね」

 そう。今から始まるのは漣湊&青狩総駕(そうが)ペアの試合だ。

 総駕は元から『御劔みつるぎ』の『二十改剣』と親戚ということもあって注目は集めていたが、湊も湊でその所々ミステリアスな部分とルックスで注目を集めている。

 琉花の呟きに紫音が応える。

「そうですね。愛衣さんとは少し一緒に戦ったことがありますけど……漣さんはいつの間にか色々終わらせていると言いますか…」

「それね。多摩木の研究所でB級相手に勝った時のことも、説明されたけどほとんど理解できなかったし……」

 それを聞いていた深恋が一番端からみんなに聞こえるように爽やかに言う。

「でもさ、漣くんって謎の安心感があるよねっ。彼なら何とかしてくれる、みたいな感じの」

 勇士達の表情が一様に固まる。

 完全に図星だった。自分より頭が格段に良いからか、湊とついでに愛衣も、危機に陥っても何とかしてくれるだろう、という頼り強さのようなものを感じる。深恋はここ数日でふとそう思っただけかもしれないが、勇士達は常日頃から感じていた。 

 愛衣がくすくすと笑う。

「まあ、湊がどんな風に戦うか、見させてもらおうじゃない?」

 硬直から解けた琉花が「ふん」と鼻を鳴らす。

「もしかしたら青狩だけで全部片付けちゃうかもしれないけどね」

「あー、でもそれはどうかな」

 深恋が横やりを入れる。琉花が「どういうことよ?」と聞くと。

「漣くんと青狩くんの対戦相手の幹本みきもとくんと荻久保おぎくぼくん、結構強いんだよね。2人とは同じ塾に通ってたんだけど、成績はいつも上位。D級レベルはあるんじゃないかな。仲も良かったし、そんな2人が組んだら青狩くんでも苦戦すると思うけど……」

 琉花達が難しい顔をする。相手も強敵と言える。

 ちょっと予測が付きにくくなってきた。

 しかし愛衣の表情は涼しいままだ。

(そもそも湊がワンマンプレイを許すわけないでしょ)

 もう間もなく、試合が始まろうとしてい。



 ◆ ◆ ◆



「さーて、頑張ろうか」

「……分かっていたが、お前緊張とはほんと無縁なタイプだよな」

 殺風景な廊下を歩きながら、呑気に話し合う2人。

 夜色の髪をポニーテールにした湊は、トレードマークのヘッドホンを首に巻いておらず、学園から借りた自分に合う戦闘着を着用している。

 坊主に近い髪型で筋肉質な体型の総駕は自前の戦闘着で気合十分なご様子。凝ったデザインのグローブを嵌めている。

 歩いているとすぐ出口の光が見え、そこからざわめきが聞こえる。

 そこを潜ると、自分が何か大きな大会に出場でもしたかのような錯覚を受けた。席が全て埋まっているわけではないがそれでも多い数の生徒が集まり、湊達の登場に声を上げる。

 ちょうど対戦相手である幹本と荻久保も反対側のゲートを潜ったところらしく、お互いゆっくりとフィールドの中心に向かう。

 そのフィールドの中心に佇んでいる教師を見て、湊が「へー」と言う。

「学年主任の猪本先生が審判なんだね」

 試合は必ず教師か『フォーサー協会』から派遣してもらった人に審判をしてもらうことが決まっている。

 飄々とあまり恰好よくないのに恰好つけることで有名な学年主任の猪本圭介先生が自分達の審判をすることを意外だと思ったのだ。

「学年主任と言えど例外なく駆り出されるってことだろ」

「そういうものかねぇ」

(人員は十分足りてるはず。それなのに猪本先生がわざわざ朝一の試合の審判を務める…ね)

 会話できる距離まで近付き、湊から猪本に挨拶をした。

「先生おはよーございます」

 猪本が嫌な顔一つせず挨拶を返す。

「おはよう。漣は相変わらずだな」

「はは、それ青狩くんにも言われました。それよりのんびり屋な先生がこんな朝早くに大丈夫ですか? 公正なジャッジとかできます?」

「安心しろ。俺ほど公正なジャッジをできる教師はいねえぜ?」

「ちょっと何言ってるか分かりません」

 また意味不明な恰好付けをする猪本に冷めた言葉をぶっかける湊。

 猪本は湊も偶然見かけた時は観察するが、中々に食えない男という印象だ。学園長の傘下の家の者ということもあり、ふざけた言動を取っていても周囲から一目置かれている。

 実力は認められているということだ。そんな上位人がわざわざ審判をする理由は、

(俺、だよな。……『保密子供コンシール・チャイルド』ってことで無粋な調査は免れたみたいだけど、これぐらいの詮索はしてくるってことか)

 何故かあまり目立たないが湊は多摩木の研究所で自力で生き延びた賢才だ。過去を掘り起こすような真似はしたくないが、放置というわけにもいかないのだろう。

(まあ、好きにしなよ)

 湊は全く気にしない。今の湊はただの頭が良い一生徒だからだ。

 

 対戦相手も目の前に到着する。

 幹本は総駕とは別で引き締まった筋肉質な体型で、背中に大剣を背負っている。荒い性格らしい。

 荻久保は全体的に身軽な装いで目に見える限り腰の短刀しか目に入らない。冷めた性格らしい。

 2人とも学生にしては体の造りや身動きが出来上がっている。強い。

 対峙すると、幹本が嘲りの混じった視線を総駕にぶつける。

「よう青狩、随分とそこの女男に飼いならされてるらしいな。気分はどうなんだよ?」

「……別に」

「おいおい、それだけかよ」幹本が湊に目を向ける。「さざなみぃ、お前どうやってこいつを躾たんだ? こんな猛獣を」

 侮蔑を込めた発言に、猪本が止めようとするが、それよりも早く湊が言葉を発した。

「まずは信頼関係を築くことだね総駕の場合は一緒に食事をしたんだよあそうそう俺達もう名前で呼び合ってるんだ仲良いでしょ?それで食事の時に腹を割って話して距離をぐっと縮めてね最初は練習もせずに飯なんか食ってる場合か!なんて怒鳴られたんだけど結果的には大成功あ言い忘れてたけどご飯食べたのペアが決まったその日なんだよね今思えば本当に時間を使ったと思うけどそれが無駄だったとは思ってないよそれは必要なことだったからね実はその時凄い踏み込んだこと話したんだけどそれは内緒ごめんねこれは俺と総駕だけの秘密だからつまり何が大事かと言うと相手の心をよく理解することだね仲良くなろうとする時みんな話していればその内仲良くなるだろって思いがちだけど違うんだ考え無しの人がやると大抵自分のことばかり話すことになって相手のことはほったらかし相手は貴方のことなんて興味ねえよってのそこを勘違いする人が多いんだよねここ気を付けてねちゃんと相手のことをちゃんと理解してその理解をちゃんと示すことでお互いに理解し合い仲を深めていくことができるんだ間違っても大して仲良くない内からバカヤローとか言って肩ばんばん叩いて突っ込みを入れ…………」

「うるせええええええええええええええええええええええええ! いつまで話してるんだよ!」

 息つく間もない湊の語りを幹本が大声を張り上げて止める。

 青狩は引き攣った苦笑を浮かべ、猪本は唖然としている。荻久保は無感情そうに見えて若干冷や汗を流していた。

 幹本の大声に耳を塞いでた湊が不思議そうな顔をする。

「いつまでって……幹本くんの疑問に答え終わるまでだけど?」

 すっとぼけた湊の顔に、幹本は唇を噛む。

(コイツ……! 俺の大剣を見てもこれっぽっちもビビらねえっ)

 試験に武器の制限はなく、また入学する際にテストなどでの怪我については書面にてきっちり了承を得ている。

 横で見ていた猪本が心中で感心する。

(毎年試験で入院する程の大傷を負う奴もまあまあいるのにこの落ち着き……肝は完璧だな。…ついでに言葉で勝負したら右に出る者無し。一般社会なら逸材の中の逸材だ)

 仮に将来(フォーサー)として失敗しても彼なら1人で生き抜くことができるだろう、と猪本は思う。


 猪本は時間を確認して。

「おし、時間だ。これから12ブロック第1回戦、C組漣湊・G組青狩総駕ペアとJ組幹本鋭規(えいき)・J組荻久保(ただし)ペアの試合を始める。試合はどちらかが降参するか、気絶するかまで行う。また、戦い方は自由だが審判である俺が判断した時は試合を止める。いいな?」

「「「「はい」」」」

「では両者配置に付け。1分後に俺の笛の音で試合を始める」


 両ペアが大きく間隔を空けて配置に着く。

 ついに始まる、と客席から緊張が伝わってくる中、猪本が声を発する。

「両者準備はいいな? よーーーい」

 ピーーーーーー、と笛を鳴らし、試合が始まった。

 猪本は瞬時にフィールドを離脱した。



 ◆ ◆ ◆



 最初に動いたのは幹本だった。

 加速法アクセル・アーツで突っ走る。大剣の重量も感じさせない動きで急接近してくる。両腕で構える大剣は雷を帯びている。

「総駕」

「おう!」

 総駕が前に立ち、グローブを嵌めた両手に水を纏い、拳を突き出す。

 水塊が放出され、その水が距離を増すことに徐々に膨れ上がる。

(総駕は拡張系水属性。この拡張力、学生の域を越えてるよなぁ)

 拡張系は大気のエナジーを吸収して大きさや威力を増幅させる。

 総駕が放った水塊が幹本の眼前へと迫る頃には身の丈以上に膨らんでいた。

「舐めるな!」

 視界が9割水で覆われた幹本は恐れることなく雷を帯びた大剣を振り下ろして水塊をぶった切る。視界が明けた幹本の余裕の笑みが…すぐに崩れた。

 水塊を割るとそこには数本のナイフが5メートルもしないところまで迫っていたからだ。

(!? 漣のナイフか!)

 ナイフ持って2ヵ月とは思えないコントロールだ。しかしそれで慌てる幹本ではない。

 幹本が何かするまでもなく、そのナイフがカキンカキンと弾かれる。


「あれは荻久保くんの手裏剣か」

「『戦型スタイル・忍者』。飛び道具のセンスはお前に引けは取らないぞ」

 そう。湊が投擲したナイフは荻久保が投げた手裏剣で落とされたのだ。

 荻久保忠の司力フォース、『戦型スタイル・忍者』は文字通り忍者の戦い方を下敷きに構想されたものだ。この司力フォースは有名ではあるが習得者はそれほどいない。ジェネリックによる相性や才能にも左右されるので最初から除外してしまう人がほとんどだからだ。。

 荻久保はそれを早い段階から習い、塾で結果を出して、獅童学園で優秀な指導者の元、日夜修練に励んでいるのだ。

(あの感じだと前衛と後衛で分かれて攻撃するつもり……いや総駕相手にそれはない。となると…)

「おら! 呑気に考え込んでる暇なんかねえぞ!」

 幹本が跳弾法バウンド・アーツを駆使して見上げる程に高く飛び上がる。バチバチ高鳴る雷を纏った大剣を上段に構えたまま。

 総駕が見上げて迎撃の姿勢を取るが、湊は顔を動かさず前方に向けてナイフを投げた。

 カキンカキンと複数の金属音を鳴らしてナイフと手裏剣がフィールドに落ちる。

 前方からは、荻久保が俊足で接近していた。幹本の倍近いスピードで数メートルのところまで。

「総駕! 幹本くんの方は頼んだよ!」

「任せとけ!」

 荻久保の接近に少し驚いていた総駕だが、心強い返事をくれた。

 湊は加速法アクセル・アーツで荻久保との距離を詰め、こちらは両手にナイフ、相手は短刀で応戦して鍔迫り合いとなる。

「幹本くんが高く飛んで注意を引きつけてる隙に荻久保くんが不意打ち。その混乱で一瞬忘れられた幹本くんが上空から奇襲。って感じ?」

 咄嗟に策を見破った湊に対し、荻久保は鍔迫り合いの力を緩めないまま答える。

「正解。聞いた通り、頭の回転は良いみたいだな」

「どうも」

「だが、俺と一騎打ちは………まだ早いッ」

 荻久保は力を入れ、湊のナイフを腕ごと横に無理矢理退ける。そして流れるような動作で短刀を湊の胴体に突き立てる。今の湊より何倍も速いその攻撃を、もう1本のナイフでその短刀の軌道をずらし、躱す。

 荻久保の表情が一瞬歪められるが、再度高速の一閃を繰り出す。湊はまたしても余裕な動きでその短刀の軌道をずらす。

(速い…わけではない。…こちらの動きが読まれて先回りされてる感覚だ……学生でそんなこと…)

 思考を巡らしていると、離れたところから幹本に叫ばれた。

「荻久保! 早くそんな奴片付けこっちを援護しろ!」

 そうだ。幹本は上位者である総駕相手に悪戦苦闘中。こんなところで時間を食われるわけにはいかない。

(認めよう。お前が本気を出すのに値すると)

 荻久保は湊に敬意を表し、とある法技スキルを使う。

 湊がナイフを突き刺すと、その荻久保の姿がぶれ、素通りする。

 周りを見回すと、荻久保の姿が幾つもあった。だが分身法フロック・アーツとは違い、その全てがぼやけている。

「ははっ。影分身の術、みたいな?」

「「茶化すな。ただの残像法スペクトラム・アーツだ」」

 荻久保の声もぶれて聞こえる。


 残像法スペクトラム・アーツ

 高速で動き回りながら、自分の身体をエナジーで形作った物質を至るところに残すことで、相手の網膜への刺激を高めて残像を見せる中級法技(スキル)


「お前の見切りは大したものだが、俺のスピードに付いてこれないのもまた事実。悪いがここで決めさせてもらう」

 湊を囲む多数の残像が手元に手裏剣を構える。逃げ場を無くし、多方向からのランダム投擲で一気に叩くつもりなのだろう。

 しかし湊はどこまでも呑気に、涼し気な笑みを浮かべた。

「……投げるなら早くした方がいいよ? 転んだりするかもしれないし」

「ふっ、舐めるな。俺がそんなヘマをぅがああああっっ!!」

 結論から言うと、荻久保が盛大に転倒した。左半身から倒れ、片手で支えようとしたが高速移動していた反動が大きく、転げ回ることになってしまったのだ。

 観客の生徒が一貫して驚いている。猪本はさすがと言うべきか湊が何を仕込んでいたか見えていたようだ。

 荻久保は倒れたまま自分の脚に絡みつく『それ』に今気付く。

「これは……ワイヤー!?」

 そう。絡みついていたのは極細で目を凝らさないと見えないようなワイヤーだったのだ。

(いつの間に!? 漣の動作には逐一気を付けていた…それなのにどうやって………ッ! そうか!)

 床に注意を向ければ、すぐに分かった。

(ナイフか! 漣が今まで投げ付けたナイフの後端にワイヤーを……! そうして床にワイヤーを置いといたのか!)

 そう。最初、幹本を狙ったナイフからだ。

 ナイフが床に落ち、ワイヤーも床に散乱した。湊は斬り合いの最中、風や操作法オペレート・アーツで床のワイヤーをうまく荻久保の脚に絡ませたのだ。

 そして残像法スペクトラム・アーツで高速移動してどんどん絡まり、転倒したのだ。

「………!?」

 考え込んでいたところに、湊がナイフを投げ付けてきたことに気付く。

 荻久保は短刀でワイヤーを斬ろうとすると、ワイヤーが引っ張られ、足も一緒強引に動かされ、短刀がずれて数本しか切れなかった。

 湊が片手でワイヤーを操り、荻久保のバランスを崩したのだ。

「くッッ…『土の壁(アース・ウォール)』!」

 土が噴き出すように荻久保をナイフから守る。土の壁が消えると同時に荻久保が手裏剣を投擲する。

 空中を回転しながら進み、次第に肥大化していく。すぐに直径1メートル大の土の巨大手裏剣と化した。

(荻久保くんのジェネリックは拡張系土属性…。総駕と違って手裏剣の形を維持したまま拡張してるのか。中学生レベルじゃないね)

 湊はナイフで落とせないのでそれら全てを滑らかな動作で躱していく。躱す隙間もないと荻久保も観客も思っていたので驚いてるようだ。

「荻久保! 後ろ!」

 唐突な幹本の声。

 視ずとも分かった。総駕が拳を振り下ろしているのが。

 幹本との戦闘を中断し、荻久保の片付けにきたのだろう。

 荻久保はワイヤーにバランスを崩されながら間一髪躱す。

 床に拳を刺す総駕の背後に幹本が追い付き、大剣を横に薙ぐ。総駕はそれを横へ跳んで躱す。

 今現在、3人のフォーサーが密集している状態だ。

 そこへ湊も何本ものナイフを持った手をだらっと垂らし、走り込んでいく。荻久保は足に絡みついたワイヤーを先に短刀で切ろうとするが、ナイフを持った手で器用にワイヤーを操り、足をずらして短刀もずらす。またワイヤーを全部切ることはできなかったが、片足が完全に自由になった。

 背後で幹本と総駕の激闘を耳にしながら立ち上がり、不安定な姿勢で湊を迎え撃つ。

 対する湊は1本のナイフを投げながら叫んだ。

「幹本くん!」

「っ?」

 名前を呼ばれ、総駕を相手にしながら湊を一瞥する幹本。その一瞥でとある光景を見た。

 ナイフが弧を描くように荻久保を避けて自分へ向かってきているのだ。

(風で誘導してるのか…)

 だがあのナイフ1本で幹本がどうにかなるわけでもない。恐るるに足りない。

 と、そこで幹本にとある策が浮かび上がる。

(青狩相手じゃ防戦一方でジリ貧過ぎる。こうなったら……あのナイフ、逆に使ってみるっていうのはどうだ? 大剣を投げて隙を作り、ナイフでフィニッシュ。あんなのろいナイフ簡単にキャッチできるし、荻久保も苦戦してるがまだまだ大丈夫だ。………やってみるか!)

 総駕が拳の水を更に増幅させる瞬間を狙って、幹本は策通り大剣を投げ付ける。至近距離から投擲された雷の大剣を身を反らすことでなんとか躱す。

(ここだ!)

 幹本はナイフをキャッチし、爆発的な雷を纏わせ、勝利を確信しながら豪速で突き出す。

 その瞬間。

「ぐあああああああああああああああッッ!!」

 荻久保の絶叫が轟いた。

 思わず攻撃の手を止め、振り向くと、荻久保が感電していた。

「荻久保!?」

 叫ぶと同時に手元に妙な違和感を覚える。そこを見ると、ナイフからワイヤーのようなものが伸びていた。


(作戦成功)

 走りながら、湊は思う。

(強化系の雷は結構ビリビリくるよねぇ)

 結論から言うと、荻久保は幹本の雷で感電したのだ。

 幹本へ荻久保と繋がったナイフを投げ、意外と頭の回る幹本がそのナイフで不意を打とうという策に出ると予測し、見事にそれが嵌まって荻久保を感電させた。ちなみに湊は自分に雷が来ないようワイヤーを捨てている。

 まだ意識のある荻久保は膝をつきながら、言葉を吐き出す。

「お前……何を…した……」

「お望みなら後で教えて上げるよ」

 眼前にまで迫っていた湊はろくに動けないでいる荻久保の顎に蹴りを喰らわせる。急所へクリンヒット。荻久保は完全に気絶した。

 観客が、猪本が唖然とする。


 そして幹本も唖然とする。

「一体なにが……起きて…」

「余所見してる暇あんのかよ?」

「!? ぐおッッッ!!」

 総駕は顔面に水を纏った右ストレートを突き刺し、吹っ飛ばされた幹本は白目を向いて気絶していた。



 まだ観客が呆然とする中、猪本がフィールドに出てきてピンマイクを付けて告げる。

『しょ、勝者! 漣・青狩ペア!』


 一拍遅れて、拍手と歓声が響き渡った。


 

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