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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第2章 呪縛少女編

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第20話・・・愛衣の苦悩_湊の推理_弥生による第二破・・・




 爆発が起こる数分前。


 研究所。

 誰もいない廊下に愛衣が降り立つ。弥生が隠し通路を使ったことから他にも隠し通路があるとにらみ、見付け出してそこを通ってきたのだ。

 呼吸は整ってきたがエナジーはほとんど回復しておらず、疲労が隠しきれていない。ツーサイドアップにしていつも決まっている亜麻色の髪も今ばかりは乱れている。

(ここは研究所、探せば水薬ポーションがあるはず。まずはエナジーを7分の1でもいいから回復したい……)

 茅須弥生。思わぬ強敵、それも理界踏破オーバー・ロジックの使い手の前に、愛衣も理界踏破オーバー・ロジックを使い、なんとか勝った。

 しかしエナジー量がほぼ底を付いた今の状態では、C級相手でも敵わないだろう。神宮寺と多摩木が向かわせているであろう中隊規模のフォーサーに見付かった時点で終わりだ。

 ……それにしても、と愛衣は思う。

(あーあー、あの弥生とか言う人に私の実力ばれたからまた師匠に怒られるんだろうなぁ)

 周囲の監視カメラやトラップに気を配って進みながら、そんなことを思った。

(別に『北斗』は言うほど秘匿に重きを置いてはいないからいいんだけどさ)

 実のところ、愛衣の実力を知る者は組織以外にも何人かいる。敵にも何人かいるのだ。だが愛衣と対峙して無事に済む者はおらず、いたとしても弥生のようなほんの一握りの強敵だけ。その敵も、何人かはその後すぐに捕まえたので本当に少ない。

 未だ捕らえられていない敵から愛衣の実力が伝わってしまう可能性も十分あるが、そもそも、愛衣の『実力』を知るほんの一握りの強敵達も、愛衣の『正体』は知らないのだ。

 今回の茅須弥生のように、愛衣の実力は知っても正体までは突き止められていない。

 愛衣が敵を取り逃がす場合、それは『北斗』の仲間がいない場合のみで、自分の指示の元、適格に動いてくれる部下がいれば愛衣が敵を取り逃がしたりしない。

『陽天十二神座』に属する他の組織にも愛衣の協力者はいる。

 必然的に愛衣の実力を知る敵は一匹狼の可能性が高い。バックにどんな組織が付いているかも分からない愛衣を無暗に襲ったりはしないのだ。

 もちろん、愛衣の周囲には常に組織の者が張り込んで護衛を行っている。

『いいかね? 愛衣。あんたは儂らに取って重要且つ大切な存在だ。収集が付かないほどお主のことが知れ回ったら、学校へは行かせられないからね』

 老婆な師匠からの忠告を思い出し、ちゃんと自重しなきゃと思う愛衣。


 その時1つのドアが目に入った。

 薬品庫と液晶表札に表示されている。

 ここなら水薬ポーションもあると見た愛衣は周囲にトラップが無いか気を付けながら小走りで進む。監視カメラも当然のようにあったが、愛衣はナイフを投げる。カメラの本体に横から浅く突き刺さる。

 愛衣はそれだけした後、カメラの視界に堂々と、小走りのスピードを落とさないまま入っていく。

 カメラ内の配線の一部とディスクを正確に傷つけることでカメラの映像を固定させたのだ。愛衣が映ることはない。

 愛衣は湊がやったように液晶パネルをナイフで弄りパカっと取り外して薬品庫へと入出する。


 その時、研究所が揺れ、爆発音が所々から響いた。

 

 愛衣は近くの棚に捕まり、自分を支える。この研究所はかなり頑丈だ。愛衣の見立てでは震度6強の地震でも影響を受けるとは思えない。

(………あの女…もしかして……)

 愛衣の脳裏に先程まで戦闘を繰り広げていた女性が目に浮かんだ。



 ◆ ◆ ◆


(うわ、すっごい揺れ)

 湊が思わず壁に手を付く。

 空き部屋での調べものを終えた湊は監視カメラに気を付けながら廊下を走っていると、いきなり大きな揺れに見舞われた。廊下のあちこちから黒い煙が湧き出ている。

「どうなってんだ!?」「喋ってないで早く走れ!」「今潜り込んでいる『妖具』のガキの連れの仕業か!?」「もう! 最悪です!」

 研究員達がドアから飛び出して非難するのを隠れて見ていた湊は、目を細めて熟考する。

(この爆発…勇士達じゃない。愛衣は…五分五分だな。現状では俺達に取って最も効果的だが、これだけの爆弾を仕掛けられる猶予はなかったはず)

 湊は愛衣と弥生が激突していたのを知っている。どんな戦闘を繰り広げたは分からないが、結界が張られていたことは分かった。結界が展開されていた時間を考えれば、愛衣には不可能だ。無論、愛衣の本領を知るわけではないので、断言はできない。

(友梨の可能性は皆無だ。『妖具』の司力フォースからしてもそれはない)

 とすると…、

(まさか…裏切り?)

 断言はできない。もしかしたら多摩木の他の研究での事故の可能性もある。しかし……、

(現状で最も可能性が高いのはこれか…)

 相手には得体の知れない女がいる。

 愛衣と弥生を囲んでいた結界が解かれた時、僅かだが2人の微弱なエナジーを感じ取った。おそらく、本気でぶつかり合ったのだろう。

(そう考えると……、あの女は愛衣の実力を知り、『煉庭』と多摩木の終わりを察知して早々に見切りを付けたってことか? いや……それぐらいで見捨てるはずが……いや、見捨てたのは間違いない。理由はそれだけじゃないんだ)

 湊が一つの結論に達する。

(……さっき調べた限りだと、多摩木のここ数年での研究成果は芳しくなかった。どうりで最近『厄害博士プロフェッサー・エビル』の名を聞かないと思ったんだよ。一般人に『妖具』を取り付ける、倫理や道徳はともかく、確かに先進的な研究だ。名を聞かなくなったのも長年掛けて『妖具』の研究をしてるから、そう思ってたんだが。同時進行で他の研究もしているはずなのに、そっちも大した成果は得られていない。………天才も地に落ちる、か。それであの女は見限る準備を整えていたのか)

 どうやら多摩木を買いかぶり過ぎていたらしい。

(雇い主である『煉庭』も、ある意味では似たようなものだな)

 謎に包まれた『煉庭』という裏組織は武力派ではない。

 武器商だ。謎が明かされた今、湊には『煉庭』という組織が透けて見える。

 コンサルティングの才能を持つ神宮寺は「表」では手広く事業を手掛け、「裏」では珍しい士器アイテムを売り捌き、膨大な稼ぎを得ていたことだろう。

(そして神宮寺のあのフォーサーに対する歪んだ憧れ……、稼いだ金は自分の野望を叶える為に出資していると考えるのが妥当だな)

 湊が答えに辿り着く。

(多摩木は度重なる失敗の連続で金に窮していた。ミイラを売り捌いたのも小遣い稼ぎのためだろう。そして、神宮寺は野望を叶えるパートナーを探していた。そんな二人の利害が一致して手を組んだということか。『煉庭』は厄介ではあるが大組織ではない。全盛期の多摩木だったらそんな小物と手を組んだりはしなかっただろうな。……おそらく、あの弥生とかいう女は神宮寺が多摩木と組む可能性に気付き、神宮寺に自分を売り込んだんだ。そう考えると合点がいく)

 一見、なぜ将来の見込みが薄い2人に近付いたのか。

(それは分からないが、何か目的があるんだろうな。愛衣との戦闘で生き残ったということはあれ以上の力を隠している可能性が高い。そんな奴が素直に神宮寺に従うとも思えない。ただ利用していただけか?)

 湊はふと思う。

(今の内に片付けるか?)

 湊が今本気を出せば弥生を見つけ出すこともできるだろう。そして、愛衣との戦闘で弱っているなら殺すことも容易だ。『聖』に持ち帰るという選択肢もあるが。

 危険因子は早めに対処すべきだ。愛衣や勇士に勘付かれる可能性はあるが……。


 ※ ※ ※


 そんなことを考えなが走り進んでいると、湊は一つのドアの前を通る瞬間、足を止めた。

 第九研究室と表示されている。

 湊は先程ハッキングして覗いたこの研究所の各研究データを想起する。

(確かここはフォーサーの細胞を利用してA級S級レベルだろうと完全回復する水薬ポーションを作る研究をしてる…。もちろん、大した成果は得られてないが…)

 今の論点はそこではない。

 ドア周りは綺麗だ。防音防臭が働いている。エナジーも漏れ出ていない。何も感じない。

 しかし違和感を感じる。

 湊はドアへ近付き、ドア横の液晶パネルをすぐにパかっと外して配線を幾つか切る。するとドアが開いた。本来ならドアの横へ身を隠すのだが、ドアが僅かに開いた瞬間、室内に漂う臭いが湊の警戒心を解いた。


 その室内では、白衣を着用した研究員が全員殺されていた。


 急所を適格に狙って殺しているため、出血量も少なく、そこまで血生臭くはないが、湊にはすぐ分かった。

(ここに残留している僅かなエナジー……鎮静と…火)

 弥生の系統は知らないが、属性は当てはまる。十中八九、弥生の仕業だろう。

 湊は室内を静かに俊足で駆けまわりながら調べる。殺されたのは20人。全員が頸動脈や心臓を切られたり、脳天を撃ち抜かれたり、正確に手早く殺されている。あの女らしい無駄のない殺し。

 室内は水薬ポーションの研究所だけあってさほど広くはない。だが机や棚が多く、通常より狭く感じる。棚には多くの薬品が、机には多くの試験官やビーカーがずらっと並べられている。ほとんど割れているが。監視カメラは全て壊されていた。

(なるほど、大した成果は得られずともここにある水薬ポーションは通常よりは何倍か性能が良い。それをここで調達したのか。だとするとかなり回復されていると見て間違いないな)

 湊はすぐにその部屋を出た。

 そこでまた大きな爆発音が響き、床が揺れる。

(……早く勇士達と合流しよう)



 ◆ ◆ ◆



 茅須弥生は水薬ポーションを含みながら、廊下を歩く。

(これで半分はエナジーを回復できたようですね)

 空になった水薬ポーションの入れ物を握り潰し、炎で完全に消す。

 そしておもむろにスマホを取り出す。

「……もしもし、茅須です。…はい、御無沙汰しております。先日の件、お受けすることはできるでしょうか?……ありがとうございます。………はい、仰る通りです。神宮寺と多摩木は終わり。神宮寺の銀行口座と必要な各種パスワード、多摩木の研究データと希少素材は大体手に入れました。今から二人を殺した後、そちらにお伺いしたいと思います。……はい、本当にありがとうございます。……ではまた」

 スマホを切った弥生の無表情な顔に少しの険しさが表れる。

(………これでまた一歩、近付いた)

 

 次話予告。

 勇士VS友梨。

 連戦で厳しい状況の勇士に、愛衣が助っ人に入ります。

 そして弥生が神宮寺達の元へ向かいます。


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