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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第2章 呪縛少女編

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第10話・・・天井を壊せ_分断され_知能の片鱗・・・

 琉花は弓矢で部屋の監視カメラを破壊して、みんなに向き直った。

「取りあえずこの部屋から出ましょう。敵兵がくるのも時間の問題」

 提案にみんな頷く。

 湊は勇士達がどう判断するか見守っている。

(既に神宮寺功はこの部屋の上下左右の部屋に通達しているはず。敵兵はあと一分もしない内に来るだろう。…この状況でどこへ行くべきかと問われれば……、)

「隣だと呼ばれた敵兵がすぐに来る。床を破壊して下に進むぞ。誰かいるかもしれないが、この階よりはマシだ」

(当たり…だけど、勇士、もうちょっとよく考えようよ)

 琉花も、友梨を抱えた紫音も異論無しのようで、勇士に続く。

 愛衣はどうするんだ、と横目をちらっとやる。

「「っ」」

 ちょうど横目をちらっとこちらに寄越した愛衣と目が合った。

 愛衣に対して「俺は一応気付いてますよ」的な意味合いを込めての視線でもあったが…まさかばっちり目が合ってしまうとは。

 愛衣はニヤリ、と嬉しさと怪しさが混ざった笑みをこぼした。



 ■ ■ ■



 施設の全てのシステムを総括する統制室。

『よし、床を破壊するから全員下がって』

 神宮寺、多摩木、弥生の3人は統制室で勇士達のいる部屋の音声を聞いていた。

 モニター、PC、その他の機械類が多い部屋、空港などの管制室のような部屋だ。何人もの科学者が一心不乱に手を動かしている。PCのタイピングするカチャカチャという音が少々うるさい。

「予想通り、下に逃げるようですね」

 呟く神宮寺の横で弥生が無線機を取り出す。

「各員に通達します。敵は床を破壊して三階へ逃走。事前に指示した通り、三部隊は三階へ向かってください。二部隊はそのまま四階の実験室へ」

 多摩木が失望しきった表情で溜息をつく。

「全く、甘いのぉ。監視カメラを破壊したぐらいで良い気になりおって。音声器ぐらい付けてるわ」

「博士から『あれ』を借りているのですぐに片は付きます。今一度お待ちを」

「仕方ないのぉ」

 弥生が無線機を耳から話しながら上司を読んだ。

「……社長」

「なんだい?」

「三階の天井が壊された形跡はないらしいです」

「……どういうことだい?」

 そこへ、少し離れたところでいきなり立ち上がった科学者の一人の大声が飛んできた。

「壊されたのは実験室の床ではありません! 天井です!」

 多摩木は目を細め、神宮寺は笑みを浮かべる。

「……どうやらしてやられたようですね。この程度で粋がられるような楽な連中だといいんですけど」

「…あまりここで暴れてほしくはないんだがのぉ」



 ■ ■ ■



 5人は五階の廊下を脱兎の如く走り抜けていた。

「どうやらうまく行ったみたいだな」

 勇士が格好良く周囲を見渡しながら呟いた。

 湊と愛衣が半眼でそんな勇士を見る。

「ねえ、あのイケメンまるで全て自分のおかげみたいなこと言ってるんだけど。あんな簡単なことにも気付けないで」

「ただ私達の言う通りに従って天井壊しただけなのにねー」

 勇士の表情が固まる。琉花と紫音も何も言えずにいる。

 先程。床を壊そうとした勇士に、湊と愛衣が手帳で伝えたのだ。この部屋の監視カメラを壊したところで音声は漏れていること、このまま床を壊す振りをして天井を壊すこと。推測の範囲は出ないが、それを疑うほど勇士達はバカではなかった。

(この程度のことに気付けないところを見ると、普段は命令に従う方なんだろうな)

 今は4階の廊下を走りながら脱出ルートを模索している。

 部屋の中にいるのか廊下にはそれほど人はいないが、時々いる白衣の研究員を勇士が一瞬で昏倒させている。ついでに監視カメラも手当たり次第壊している。

 湊と愛衣はこの状況を脳内で整える。

(多分廊下に出ないよう戒厳令が出てるよな。研究員が部屋内に避難するまでの間は大々的なトラップを仕掛けてはこないだろうけど……)

(これもあと30秒ともたない。さっきから幾つかの監視カメラで私達のことは完全に見えてるはず。何か仕掛けるのは簡単だろうけど…勇士や紫音がいるから生半可なトラップは効かないし、友梨がいるから確実に命を仕留めるトラップは使えない…)

(でもここに実験動物や稲葉のような実験体は沢山いる。捕縛や半殺し程度で済ますトラップも用意してるに決まってる…。ああくそ、相手が多摩木要次だと短時間でトラップの予測は不可能だな。どうしても後手に回るしかないか)

 と、走っている時。湊と愛衣は同時に視線を一点に向けた。

 5人の走り位置は、先頭に勇士、すぐ後ろに友梨を抱えた琉花、その後ろに湊と愛衣が並び、一番後ろに紫音。

「「ストップ!」」

 湊と愛衣が叫ぶが間に合わない。

 ガシャン!という金属音が響く。


 先頭の勇士だけが、一本道を抜けたところにある十字路の中心に出た瞬間、猛スピードでシャッターが下りたのだ。


「!?」

 目の前にシャッターが下りてきたことで友梨を抱いていた琉花は驚き、保護本能が働いて退く。『今の』湊と愛衣に合わせて本来のスピードを出していなかった為に、勇士と湊達で分断されてしまった。

「勇士! 聞こえる!? 勇士! 返事して!」

(今見た限り、シャッターの厚さは三十センチを越えていた。勇士なら壊せるだろうけど……)

 分厚いシャッターに閉ざされて声は聞こえない。そんな状況で聞こえる爆発音が、シャッターの向こうから響いてきた。それも連続して。

 幾つもの爆発音はあっという間に消え、静寂が落ちてくる。

「ゆ、勇士さんは……」

「落ち着いて、紫音。勇士はあれぐらいじゃ死なないわ。…でも、私達じゃこのシャッターは壊せそうにないし…完全に分断されたと見るべきね…」

 湊はその通りだと思いつつ、シャッターに手を当てる。

 その後ろで女子達の会話が聞こえてくる。

「取りあえず戻りましょ。ここは一本道だから行き止まりにいたら危険だわ」

 琉花の提案に、異存無しと紫音が頷く。だが、愛衣は首を傾げた。

「今戻るのは危険じゃない?」

「…愛衣、お願いだから今は言うことを聞いて」

 体の向きを変えて走ろうとしていた琉花が焦りを含んだ声で言い聞かす。愛衣はマイペースに。

「でもさ、考えてみてよ? 今琉花が言ったことじゃん。ここは一本道。敵に私達の居場所、監視カメラを壊しても大体把握されちゃうんだよ? 折角ここにシャッター落として厄介な紅井くんと分断したのに、敵兵を送り込んでこないっておかしくない? 行き止まりまで追いつめてるのに」

 琉花と紫音の顔が強張る。言われてみればその通りだ。ここは行き止まり。頼りになる勇士はもういない。

「じゃあ…なんで…」

「さあ。私にもそこまでは分からないけど……このまま戻ったら確実に私達をひっ捕らえる算段があるってことなんじゃないかな?」

 琉花と紫音は息をのむ。

(推測に過ぎないけど…今になっても追手がいないっていうのは確かに怪しい…)

「じゃ、じゃあどうすれば……」

 すっかり立場が入れ替わっていることにも気付かず、愛衣に尋ねる琉花。愛衣は視線を唯一の男にスライドさせる。

「それは今、湊が考えてくれてるんじゃないかな?」

 湊は変に期待を掛けられていることに苦手意識を覚える。

(ちょっとアピールしておくか)

 愛衣の興味深々な視線を背中に感じながら湊は思考を巡らせた。

「このシャッターはエナジーを使っていない純粋な機械制御。閉塞速度から考えると使用されている機械部品と電子機器は多数。稼働時の駆動音の出所と大きさから逆算すると、制御装置と繋がった主要電線の位置は……。」

 と、わざとらしくぶつぶつ言って、懐からペンを取り出す。そして右側の壁の湊の身長より少し高い位置。シャッターのほんの少し手前ぐらいにバツ印を描く。

「わたぬきさん」

「は、はいっ」

 突然名前を呼ばれた紫音が姿勢を正す。

「今マーク付けたところに思いっきりレイピア突き刺して電気流してもらっていい? ていうかやって、お願い」

「? あ、はい」

 急かす湊の言い方に疑問も後回しにして紫音は構え、短く深呼吸する。急かされて半分の力も出せずに終わる、なんて失態は犯さないようで安心した。

 紫音は西洋の武芸を思わせる動きでバツ印ど真ん中に、雷を放つレイピアを突き刺す。

 するとガゴン!という音と共に厚さ三十センチ以上のシャッターが開き上がっていく。

「………」

「………」

 紫音と琉花は言葉もない様子でその光景を黙って見ていた。

「やっぱり勇士はいないかー」

「湊凄い! さすがだね!」

「いやいや、愛衣も考えればこれくらい分かったでしょ?」

「そんなことないってー。湊ってこういうのどこで学んだの?」

「ん……ああ、アメリカにギャングの友達がいてね…。世の中には出回ってない本とか色々読んだんだよね。それにほら、俺って元々頭良いし」

「あはは、湊のそういうとこ好きだよ」

 湊と愛衣が敵地の中で呑気な会話をしている。

 普段の琉花なら、お喋りしない!の怒声ぐらい叫んだかもしれないが…、今はそんな気にはなれなかった。自分には到底真似できないスキルを見せ付けられた精神的が大きいというのもある。そしてもう一つの理由として、

 二人が『今は談笑しても大丈夫』、と判断しての行動なら、止める気には全くなれなかった。



 ■ ■ ■


 統制室。

 その部屋は驚きに包まれていた。勇士と分断したシャッターのすぐ傍には音声受信機があり、湊達な会話は全て筒抜けだったのだ。

 最初は会話が全て聞こえてるという優越感と嘲りがあった部屋も、その内容と成し遂げた所業の凄さに舌を巻いている。

「……おやおや、一番警戒していた紅井勇士くんを分断したからもう大丈夫と思ったんだけど……どうやら僕達は相手をかなり侮っていたようですね」

 常に余裕を崩さない神宮寺の表情は珍しく引き締まっている。

「ほっほっほ。ここは素直にあの子らを賞賛すべきじゃろ。…あの一本道を戻った先にある罠に勘付いた上に……あのシャッターをあんな方法で開けてしまうとは。まだ力任せに壊してくれた方が驚きが少なかったわい…」

 対する多摩木も顔が引き締まっている。子供のお遊びはもう終わり、と思っていたところに予想を超える方法で突破される様を見せ付けられたのだ。

「というかこの二人の男女は何じゃ?『御十家』でも紅井勇士の連れの女でもない。まだそれほど実力を見せてもらったわけではないが、男も女も中学生の頭じゃないぞ?」

「……弥生、もしかすると僕は屋島くんに謝罪しなければいけないかもしれないね…」

 以前、速水愛衣という少女に逃げられたことに対して制裁を与えたが、彼女の類稀な知能の片鱗を見せられると、屋島に対する罪悪感が湧く。

 一同の中で唯一驚愕した様子のない弥生が神宮寺に訊ねる。

「お呼びしますか?」

「…今度ね。今は撃退に向かっているんだ。邪魔をしたら悪い」

「かしこまりました」


「出し惜しみは無しで、本気で相手をするべきかのう」


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