第14話・・・シラーVS佐滝_大蛇_天敵・・・
更新遅れてしまい申し訳ありません。
後書きに軽く近況を書いているので、よければ読んで下さい。
「…! ネメちゃん! それほんと!?」
驚いたスイートピーが思わずいつもの呼び名でネメシアに問い質した。
『ええ』ネメシアが肯定する。『……シラーの元に佐滝が現れたみたい』
ネメシアが更に続けて。
『うちとシラーは連携が多い分、サインを多種多様共有してるんだけど、シラーと連絡が取れなくなる直前、緊急信号と共に摩擦音で伝えてきたサインが……〝サ・タ・キ〟』
『なるほど』話を聞いていたコスモスが納得する。『音信不通は結界を張ったからでしょうね』
『俺も同意見だ』
佐滝を担当するはずだったダリアが通信に加わる。
『どうする? シラーへ加勢するか?』
『……いや、そこに割ける人員がいない。物理的に不可能でしょう』
コスモスが重々しく告げる。
『シラーが結界に包まれた以上、この『虚静の界牢』はネメシアと、私の『無遁法』で維持しなきゃならない。そうなると満胴の相手はダリア、貴方にしてもらう必要がある。スイートピーは変わらず迩橋漏電の相手を。……誰か一人でも抜けることは無理』
「……コスモスさんの言う通りだね」
スイートピーが切羽詰まった声で告げる。
「ここは、シラーさんに任せよう」
この決断を受け、ネメシアは一人思った。
(……シラー。あんたの意地を見せる番よ)
■ ■ ■
土が捲れあがり、木々が倒れて半クレーターとなった深い林の一区画。
シラーと佐滝は倒れた木の上に立って対峙していた。
(…今の『土の巨塔』でここら一帯に設置した御札は全て機能しなくなった。……おそらく仲間の加勢は期待できない。……一からこの狂人と戦うしかない)
シラーは結界を張りながら、状況を分析して戦う決心をする。
「くんくん……嗚呼……危ない臭いが濃くなった。………君もやる気になってくれたかな?」
佐滝が紳士のような仕草で悦に浸った狂った笑みを浮かべる。
もはやシラーのことなどただの料理の一品としか見てないようだ。
「その仮面、噂に聞く『聖』の隊員として間違いないよね? よければコードネームを教えて頂けるかい?」
「寝言は寝て言え」
シラーが御託に付き合わず、御札を両手に持った。
『聖』の隊員は正規組織の人間と遭遇し、相手が身分を明かしたら『聖』側もコードネームを述べるよう契約をしているが、当然裏組織の人間にその契約は通じない。
無駄話に付き合うことはない。
(佐滝は主導権を握らせると厄介なタイプだ。……俺のペースに引きずり込んで短期決戦で終わらせる!)
シラーは両手の御札を頭上巻き上げた。頭上に大量の御札が舞う。
「『戦型陰陽師「螺尚牢」』……『禍邪三番・螺旋流星』!」
水を纏った御札が渦を描き、その遠心力を乗せた重い〝水の御札〟が流星の如く佐滝を襲う。
この『螺旋流星』は静動法と念心法を掛け合わして探知阻害の効果を付与してる。
本来なら士が戦闘時に無意識に使う探知法と他の五感の知覚情報とのギャップに錯覚を起こして躱すことすら困難だ。
……しかし。
「美しい攻撃だね!」
しかし佐滝は足に跳弾法を掛け、軽い動作でステップを踏みながら躱す。
(これぐらいなら躱すか。……だが、)
シラーが気を込める。
(これならどうだ)
「お?」
佐滝が何かに気付き、周囲を見渡す。
たった今『螺旋流星』によって佐滝の周囲に飛来した御札が気を放っているのだ。
「『禍邪五番・氷牢惰』!」
佐滝を囲う御札を通じて氷の牢獄が一瞬で完成する。
クリスタルのような牢に囚われた佐滝だが、それでも不適な笑みを消さなかった。
「なるほど。一度使った御札を再利用するとは。これが『陰陽師』か」
「いつまでその余裕が続くかな」
「……っ。これは…っ」
佐滝が体に違和感を覚え、顔を歪ませる。
「俺の牢獄に収容されてただ〝囲った〟だけなわけないだろ」
(『氷牢惰』は気の流れを乱す乱流法と動作を緩める遅延法、氷により〝冷気〟、そして心に直接負荷をかける念人法を組み合わせた牢獄。……これで身動きも取れず、気操作も覚束ない)
シラーは更に御札を両手一杯に広げ、『氷牢惰』に囚われた佐滝の周囲に展開した。
(ここで決めるッッ!)
視界を埋め尽くすほどに大量の御札だ。
水族館の魚の群れのように流動し、『氷牢惰』を中心に渦巻いて、ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタッ、と勢いよく貼りついてく。
その御札から霧が発生し、氷の壁を通して『氷牢惰』内部が霧によって占められた。
「『禍邪十番・『霧震烈波』ッッ!!」
直後、鼓膜を斬り刻むような超強振動音が鳴り響いた。
これは佐滝を収容した『氷牢惰』の内部から漏れ出た鳴動だった。
(『霧震烈波』は振動法と念人法を組み合わせ、霧を介して心身共にを強振動を起こす技! 脳、骨、臓器、心臓、精神を激震させ、体を内から壊す! 振動法のスペシャリスト、クロッカス隊長のお墨付きだ!)
『氷牢惰』によって密閉されていても微かに振動が漏れ、それだけシラー自身も体の節々が鈍くなる不快感に見舞われている。
佐滝が今受けているダメージはこの比ではない。
例えS級格の相手であろうと無事では済まない。
………そのはずだったが、次の瞬間、『氷牢惰』が内から粉微塵に吹き飛ばされた。
「嗚呼ァァァァアアアアアアァッッ!! 極上! 美味! 素晴らしく芳醇な臭いだッ!!」
狂人が高らかに騒ぎ叫ぶ。
(……あれが…ッ)
シラーは佐滝…ではなく、正確には佐滝の腹から生えたそれに釘付けになった。
崩れた『氷牢惰』から伸びた〝それ〟。それは佐滝の気の塊…などではない。
佐滝の腹部から、ブランドもののスーツを突き破って〝大蛇〟が生えていたのだ。
全長約15メートル。その蛇の関節や皮膚が金属質な素材が組み込まれており、頭部も半分が金属加工されて蛇のサイボーグのような見た目になっている。
……その蛇が、佐滝の腹から突然現れ、繋がった状態でうねうねと微動しながらシラーを睨んでいる。
「まさか早速この形態を披露することになるとは思わなかったよ! おかげで自慢の一張羅が台無しだ! さすが『聖』といったところか。まだ若いだろうに、もうA級の領域に達しているようだね」
佐滝がぱちぱちと心からの拍手を送ってくる。
「……噂には聞いていたが、本当に腹から生えてるとはな」
シラーは佐滝の称賛を無視して言葉を紡いだ。これは使い過ぎた気を回復する狙いもある。
「これこそ滑空原龍電が大蛇の死骸を加工して作り上げた士器! 『喰蛇の触腕』!!〝触腕〟という名から想像できるように本来は片腕に取り付ける士器だが、愛しの君こと迩橋漏電が改良し、僕の胃袋を通じて全身の神経系と繋げたのさ! ……『喰蛇の触腕』の司力の一つは、血肉を喰らって気を補給すること。本来はこの士器内で完結する司力だが、僕自身と繋げることで僕自身も莫大な気を補給することができる!」
佐滝がぺろっと下唇を舐める。
「僕は今日、死体料理をたくさん頂いたんだ。……莫大で濃密な気が僕の中で沸々と滾ってるよ」
シラーは空気中の気を効率よく取り込むように深呼吸をしながら、佐滝への警戒心をMAXにまで引き上げた。
(……ネメシアから佐滝が死体を多く食していたことは聞いていたが……なんだこの気量は…!)
シラーの『氷牢惰』も、ほぼ力づくで抜け出したのだろう。それほど気量に差がある。
(だがまあいい! どんな姿になっても俺の戦法は変わらない! 相手の好きにはさせず、本気を出させる前に勝つ!)
シラーが御札を展開する。
「『禍邪四番・邇雨錬下』ッ!!」
「『大蛇喰包:飛喰邪』」
シラーが局所的に雨を降らして技を発動しようとするが、まるで〝遅い〟と言わんばかりに『喰蛇の触腕』がバネのように一瞬縮まってからシラー目掛けて跳ね飛んできた。
「くっ…!『水の壁』ッ!」
探知阻害の御札を混ぜた水の壁だ。どんな攻撃も逸らしてしまう……はずだったが。
「残念、僕に壁系は効かないんだ」
迫りくるサイボーグのような蛇が牙を剥き、ガブリとあっさりシラーの『水の壁』を食べてしまった。
「わかってるよ」
「?」
「狙いは俺の御札を喰わせることだ。……『禍邪一番・爆泉符』」
『爆泉符』。
御札に水を限界以上に取り込ませて破裂させ、鎮静・乱流法・念人法などの阻害に類する法技を撒き散らして相手の神経系を狂わせる技だ。
本来なら生身の人間に使うところだが、死骸とはいえ神経を持つ『喰蛇の触腕』も対象となりうる。
敢えて御札を呑み込ませ、この技を発動するのが真の狙いだった………しかし。
「ッ!?」
「残念。この仔が呑んだ時点で外部からの操作はもう効かないよ」
巨大な蛇は水の壁を喰った勢いでそのままシラーを喰わんと大口を開いて噛みついてきた。
シラーは加速法で辛うじて躱すが、『喰蛇の触腕』はぐるんと蛇のように曲線を描いて方向転換し、シラーを追う。しかしさすがにシラーの方が速く、距離が開く。
「『大蛇喰包:湿潜沼』」
佐滝が技名を唱えると同時に、『喰蛇の触腕』の大口から泥が吐き出され、シラーの周り一帯が一瞬で沼地と化してしまう。
(沼…!)
データにはない技だ。シラーはこの沼に足を取られるのは危ないと直感し、歩空法で空中に固定した気の上に立って落下を防ぐ。
「『砂砲撃』ッ!」
しかしそのシラーの回避行動を読んでいたのか、佐滝がシラーより上空に先回りし、頭上から砂の砲撃を放った。
ちなみに佐滝は蛇を岩に噛ませて振り回されるようにして先回りしていた。
(ただ漠然と攻撃させるだけじゃなく、佐滝自身の機動力にも利用するか。……しかしな)
佐滝の『砂砲撃』がシラーに当たった……かと思ったが、シラーの体が透過してしまった。
「ッ!?」
「『霧投影』。……霧に映った虚像だ」
「ッ!? 上!?」
佐滝が見上げる。
シラーは、佐滝の更に頭上まで上昇していた。
(『霧投影』。水属性の汎用技。……簡易的な騙しの仕掛けだが、俺の探知阻害と合わせればその精度は具象系にも負けないッ)
シラーが御札を構える。
「決める。……『禍邪九番・禍漸士柱』ッ!!」
御札を一瞬で柱のように束ね、先端を杭のように尖らせ、それを五本作り、ミサイルのように放った。
これも他の技同様、心に負荷をかける『念人法』や『乱流法』を組み込んでおり、刺されば体内の気や神経を狂わされて身動きが取れなくなる。
「…………嗚呼、実直な臭いだ。……真面目なんだね、君は」
……佐滝が愛おしそうに呟いた瞬間、シラーの放った『禍漸士柱』が……ガキンッ、と何かに弾かれた。
(……ッ!? これは……『一面結界』ッッ!?)
結界法を応用した一枚の結界壁。
空間を固定するように気を操作することであらゆる攻撃を断絶する壁。
湊も愛用している最強の障壁だ。
……それが今、シラーの渾身の攻撃を防がれてしまった。
(……嘘だろッ)
本心から、シラーは驚愕した。
(確かに『一面結界』は最強の壁だが、その分設置するのにも分単位の時間がかかる! 極限まで効率化した『超過演算』を持つクロッカス隊長だからこそ高速で張ることができるんだぞ!? ………こんなドンピシャで張るなんて…俺の攻撃を完全に読んでなければ不可……能……ッ!!)
ほんの一瞬、隙を見せてしまったシラーの胴体を佐滝が『喰蛇の触腕』で乱雑に叩き落とした。
シラーが「ぐは…ッ」と呻き声を上げながら眼下の沼『湿潜沼』へと落下していく。
沼水の飛沫を散らして落ちたシラーの体が、まるで金縛りにでもあったかのように固まって動けなくなる。
『湿潜沼』は一度浸かってしまうと沼が〝凝縮〟によって凝固してしまい、行動不可とする技なのだ。
這いつくばるようにして動けなくなってしまったシラーを見下ろすように、とぐろを巻いた『喰蛇の触腕』の上に佐滝座る。
「どうやら『聖』の情報力を以てしても僕の…というよりこの『喰蛇の触腕』の司力は未知に包まれているようだから、一つだけ有する能力を教えてあげよう。……その名も『気共感覚』。気を探知法ではなく視覚や聴覚など通常の五感で知覚することができるんだ。これは蛇の持つピット器官を他の士器で拡張強化した代物だそうだよ。……そして僕は『半融合』することで神経・感覚を繋げることで通常以上の知覚能力を持つんだ」
「……なん……だと…ッ!?」
シラーの心を絶望が襲ってくる。
そんなシラーの心内を察して佐滝が卑しく微笑む。
「理解できたかい? 例え探知法を封じられても僕には関係ないのさ。とりわけ僕は嗅覚と味覚が異常に敏感でね。……君の臭いはばっちり脳で記憶させてもらったよ。例えどこに隠れていようと僕は君を見付け出してみせる」
佐滝が恍惚とした笑みで愛おしそうに告げる。
「…………っ」
対するシラーは苦し紛れの言葉も出なかった。
しかしそれも仕方ない。
シラーに取って佐滝は相性最悪どころではない天敵だったのだから。
またも更新遅れてしまい申し訳ありません。
近況を軽く報告すると、バイトが思ったより忙しいのと、小説以外にもちらほら手を出していることがありまして(何も成果はありませんが)、時間が削られて体力的にも厳しい状態です。
小説に関しましては、改めて新人賞に応募する用の『鎮静のクロッカス』の原稿を書き直してもいます。正直「なろう」から誰かの目に留まってデビュー…というのはもう厳しいと思っていまして、この作品で結果を出す為にもWEB以外の出版社のデビューを目指しています。
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