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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第6章【番外】スイートピーサイド編

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第5話・・・三人の側近_不甲斐ない_「もしもし!?」・・・

「………つ……つかれたよぉ……」

 

 リクライニングルーム。

『聖』の過酷な任務や訓練で疲労が蓄積が溜まった体を癒す数多のリクライニンググッズが設置されている施設で、スイートピーはマッサージチェアで全身を揉んでもらっていた。目を細めて全身を預けている様はまるで老人のようである。


「うわ! おばちゃんみたいな子供いると思ったらスーじゃない!」

 そこにたまたま顔を出したローズがスイートピーを見付ける。

「誰がおばちゃんよ……私はピチピチの11歳よ……」

「そんな気の抜けた声で言われても説得力ないし、私が言うのもあれかもしれないけどまだ11歳だとピチピチって年齢でもない気がするわよ」

「じゃあ初々しい11歳…」

「自分で言うな!」

 ローズはツッコミながら隣のマッサージチェアに座り、スイートピーより強度を低めに設定して体を揉んでもらう。

「……それで、もう『初一(そめいち)』の作戦会議は終わったの?」

「ついさっき終わったよ~」

「どうだった……って、その様子だと大分難航したのかしら?」

 作戦会議が終わって速攻癒しを求めにきたあたり、作戦会議の難航具合が見て取れた。

「……だって」

 ぷくっとローズが頬を膨らませる。

「コスモスが一々突っかかってきたんだもん!」



 ■ ■ ■



 小一時間前。

 総隊長室を出た小隊五人は作戦会議室へと向かい、早速今回の任務について話し合った。

「それじゃあ、『三番手』の俺が進行役も兼ねて、要点をおさらいするよ」

 そう切り出したのはこの小隊で唯一〝大人〟と言える年齢のダリアだ。


 無精髭が生えた静穏な顔からは粗野な無骨さと紳士的な品位の相反する二つの印象を受ける。

 既に四十代中頃に差し掛かるダリアだが身体には搾りに搾った筋肉を纏い、出で立ちから経験豊富な猛者の雰囲気を漂わせている。

 正に〝いぶし銀〟。頼れるおじさまことダリアの一声から作戦会議は始まった。

 ちなみに『三番手』とは想像できる通り『小隊長』『副官』に次ぐ三番目の指揮官のことだ。作戦会議の際は『三番手』が進行役になることが暗黙の了解となっている。

 

「今回の任務を簡単に説明すると、裏組織『爬蜘蛛』のリーダー、迩橋漏電が珍しい士器(アイテム)を入手すべく、西日本を拠点に活動している裏組織『霧煙炭(きりえんたん)』ってところと取引をする為にわざわざ出向くらしいから、そこに割り込んで『爬蜘蛛』を壊滅させて迩橋漏電は捕獲する、と。『霧煙炭』の処置は小隊に一任するとのことだ。


 そしてここで障害となってくるのが、迩橋漏電が重宝しているという三人の側近。

 残虐な色欲サディスト、針生(はりう)

 食人鬼(しょくじんき)佐滝(さたき)

 無情な殺し屋、満胴(みつどう)


 針生は迩橋と同じ元『ジグルデ』の構成員で、アメリカにいた頃は無名で別幹部の部下だったが、迩橋の持つ稀少な士器(アイテム)の適性があったことから、スカウトして連れて来たらしい。性格は相手の嘆く顔と声を聞いて喜ぶサディストで、特に女とあらば玩具のようにボロボロになるまで遊んで捨てるか殺すらしい。

 佐滝は人の肉を愛好する『人肉食者(が二バル)』だ。元々は表社会の人間だったが、高校在学中に同級生を殺して食べていたことが発覚して裏社会に逃げ延びたらしい。小さな組織に入ってはそこの構成員を殺して食べて問題を起こして追い出されるのをかれこれ十年以上続けていたところを、帰国した迩橋にスカウトされて入ったようだね。おそらく『爬蜘蛛』で一番頭のネジがイカれているのはコイツだ。

 満胴は素性が一切判明していない。常にひょっとこの御面を付け、見える肌には全て包帯を巻いた()()()()男。『爬蜘蛛』以前の経歴は一切不明で、『聖』の情報網にも引っ掛からなかった。前の二人と違ってこの名前は偽名に違いない。しかし実力は本物だ。迩橋の命令一つで小規模な裏組織なら一人で壊滅させたという噂もあるが、真実だろう。


 針生と佐滝は(フォーサー)としての元々の実力はB級上位だが、迩橋漏電が与えた滑空原龍電の作成した強力士器(アイテム)によってA級相当にまで引き上げられている。

 満胴は戦闘データが少な過ぎる為に確証は持てないが、元々A級相当の実力を持ち、強力士器(アイテム)によってS級の一歩手前ぐらいまでには引き上げられているかもしれないらしい。

 そしてもちろん、迩橋漏電自身も士器(アイテム)によって実力を引き上げている可能性が高い。ただ迩橋は頭脳派で(フォーサー)としての実力はそこまで高くない。お気に入りの士器(アイテム)達でどれだけ強化しているかわからないが、B級上位からA級下位が妥当といったところだろうね。


 迩橋漏電は取引の為に約一週間、地方に所有の別荘に滞在する。都内のアジトに比べてセキュリティは落ちるとはいえ、ここも中々厳重に施してるらしい。強引に破れば気付かれて迩橋漏電の性格なら一早く逃げるだろう。取引現場を抑えるなら『霧煙炭』の方も相手する必要があるかもしれない。三人の側近も動きが読み辛い癖の強い者ばかり。特に満胴はこの中ではコスモスを宛がうのが無難だが配備はどうするのか。

 滞在期間は一週間だが、その一週間毎日『爬蜘蛛』のメンバーを狩って人数を減らしていくなんて方法は当然取れない。それだと東京に置いてきた『爬蜘蛛』の部下や『霧煙炭』なんかの別組織を応援に呼ばれちゃうかもしれないからね。〝掃討〟するなら下準備をしっかり整えて一夜の内に決着をつける必要がある。


 限られた人数と限られた期間で目的を達成させなければならない。毎度のことながら、高度な仕事(パフォーマンス)を要求してくるよね、瑠璃さん達」

 

 ダリアが無精髭を摩りながら説明し、最後にやることを簡潔化して締めた。

 普段ならここまで丁寧ではないが、今回はスイートピーのリソースの肩代わりになればとより詳らかに説明してくれたのだとその場の全員が察していた。


 そしてダリアが説明を終えると早速隊員達が口を開く。

「迩橋漏電が連れて行く部下は50人前後か。こいつらの何人かにも特殊な士器(アイテム)を与えられているらしいな。それも事前に調べておくべきだろう」とシラー。

「この別荘のもっと詳細な見取り図が欲しいわね。完全オーダーメイドらしいから、依頼を受けた裏社会と繋がりのある建築会社から見取り図のデータを第六隊にお願いして奪っておかない?」とネメシア。

「『霧煙炭(きりえんたん)』の構成員だけでももっと詳細なデータが欲しい。できれば動向も。『爬蜘蛛』の構成員を探る際は近くに『霧煙炭』の構成員の有無もしっかり把握する必要がある。どこから『聖』の情報が洩れるかわからない。雑魚だと思って放置しては駄目」とコスモス。


 的確な意見を述べつつ、全員の視線がスイートピーに向いた。

 進行役のダリアが「スイートピーからはどうだ?」とざっくりとした質問が飛んでくる。

 これは一つの〝試し〟だ。

 ただの『初一(そめいち)』仮隊員ではなく、一人の小隊長としての意見を求められている。緊張して空回りしてもおかしくない場面だが、スイートピーは毅然として答えた。


「この資料の通りなら、迩橋漏電の性格は打算的で合理的。愛想よく振りまいて、必要とあらば下手(したて)に出て相手を持ち上げるけど、心の中では相手のことをバカにしてる。おそらく側近の針生(色欲サディスト)と佐滝(食人鬼)のことは『爬蜘蛛』が大きくなれば斬り捨てるつもりでいるよね、これ。

 この手のタイプは〝手駒を自在に動かして盤面を支配する〟ことに酔いしれるのが大好き。でも思い通りにいかなくなったら〝他人を見殺しにしてでもみっともなく生き残る〟。その為なら〝なんでもする〟厄介な人間。

 だから襲撃する際も三人の側近を最初から潰すんじゃなくて、雑魚から掃討していくべき。おそらく20分もしない内に襲撃されていることは迩橋漏電にも気付かれると思うから、少なくともその時までは側近の三人は生かしておかないと、追い詰められていると感じた迩橋漏電が常に持ち歩いているであろう転移系の士器(アイテム)で逃げられちゃう。転移阻害の士器(アイテム)は使うけど、相手が士器(アイテム)マニアの迩橋漏電だとそれでも安心はできない」


 現代では要人を襲う際、最も警戒しなければいけない要素の一つが、転移によって逃げられることだ。

 転移法(ワープ・アーツ)を修めた協調系の(フォーサー)が部下にいないか。転移系の士器(アイテム)は所持していないか。

 前者はともかく後者は非常に多くいる。

 転移系の士器(アイテム)は高価な代物で大規模組織しか余裕をもって購入できないがその反面、発動には時間が掛かるし、転移を阻害する方法も一定数存在するので万能というわけでもない。


 転移阻害の士器(アイテム)ももちろん開発されているし、例えばクロッカス直属小隊隊員のアスターは江戸川乱歩の力を得て『文創(ぶんそう)密室結界(クローズド・サークル)』という転移も電波も遮断する結界で逃げ道を完全に絶つことができる。

 アスターは阻害系の中でも頂点に類するが、下位互換ならいくらでもある。

 

「だから大まかな流れとしては」

 スイートピーが述べる。

「ネメちゃんの変化(へんげ)司力(フォース)で潜入してもらって内情を把握してからシラーさんの認識阻害の司力(フォース)を中心に襲撃開始。迩橋漏電を中心に遠くから部下をどんどん削っていき…、迩橋漏電が気付き始める頃合いを見計らってダリアさんの爆撃の司力(フォース)で盛大に暴れてもらって注目を集める。その間にコスモスさんの隠密の司力(フォース)で迩橋漏電を生け捕りにしてもらう。


 迩橋漏電の傍に一番厄介な側近の満胴はいるかもしれない。コスモスさんの無遁法(アンノー・アーツ)を用いた隠密性はS級の探知も欺けるからそう簡単に見付からないとは思うけど、私もコスモスさんと一緒に行動して、満胴にバレたら私が一旦相手をする。


 私だと満胴には敵わないかもしれないけど、時間稼ぎなら絶対できる。だからコスモスさんには迩橋漏電をさっさと生け捕りにして、私の援護をお願いしたい…です。


 満胴以外の側近の一人はダリアさん、もう一人はシラーさんに任せると思う。……大まかな流れはこんな感じで行きたいと思ってるんだけど……どう、ですか?」

 

 語尾が少し詰まったが、ほぼすらすらとスイートピーが基本的な流れを説明してコスモスのこともしっかり頼る姿勢を見せる。

 その姿に他の隊員達は感心していた。

 ………ただ一人を除いては。


「端的に言うと、」

 コスモスが一番に口を開いた。

 スイートピーの肩がビクッとなる。……コスモスの口調から気付いたのだ。あまりいいことを言われない、と。


「もう一度考え直してって感じね」


「ッッ! な、何か悪かったの…?」

「今貴女、説明してる途中で作戦案少し変えたでしょ?」

「……っ」

 スイートピーが息を呑んだ。

 シラーは「? どういうことだ?」と状況が掴めず首を傾げている。

 コスモスはスイートピーを真っすぐに捉えて。

「貴女が今説明してる途中で考えたこと、当ててあげよっか?」

 スイートピーの質問から少し論点のズレたコスモスの答えが返ってくる。

「な、なによ…」

 たじろぐスイートピーに、コスモスが告げた。


「今話した作戦概要。まず結論を言えば、前半消極的で後半積極的になってる。

 後半に差し掛かったら側近の三人を抜かして迩橋漏電を生け捕りにするって言ってたけど、元々は側近の三人を迩橋漏電に気付かれないよう倒してからその内の一人にネメシアを変化(へんげ)させて、迩橋から転移系の士器(アイテム)を奪ったところを私やスイートピーで生け捕りにするって言うつもりだったんじゃない?」


「………ッッ」

 スイートピーがぎゅっと口を噤んだ。何も言えない。それが如実に真偽の答えを表明していた。

「多分『迩橋漏電を中心に遠くから部下をどんどん削っていき…、』ってところでこれだと慎重になり過ぎてると自覚してダリアの爆撃で注目を引いて私が隠密の力で迩橋を討つっていう積極的な作戦案に変えた。……そんなところでしょ?」

「……ッ…そ、れは……ッッ」

 スイートピーが何か言おうと口を開いたが、震えた言葉を流しただけだった。

 コスモスはあくまで攻めるような口調ではなく淡々と、諭すように言う。


「一瞬変えた内容にしてはよくできてる。それに今の時点で口頭で説明した作戦案はこれからブラッシュアップしていく上で原型を留めないほど変わる可能性もある。……だからまあ、これは私の気にしすぎかもしれないんだけど、」

 一拍置いて、コスモスがスイートピーに最終的な結論を告げた。

「とりあえず、その場しのぎの回答はやめなさい。途中でこの作戦案が悪いと思ったら素直に言って。……貴女ならもう一度考え直せばもっと良い案が出せるはずなんだから」

 

「………………はい……っ……」


 スイートピーの中には二つの悔しさが渦巻いていた。

『小隊長』に選ばれた直後に不甲斐なさを晒した悔しさ。

 

 ………そして、女としてコスモスに負けたという、悔しさ。


 しかし次の瞬間にはスイートピーは雑念振り払い、毅然とした態度で話し合いに参加した。


 その後もスイートピーの意見に対してコスモスが反論し、それが毎度的確な内容だったために何も言い返せない、ということがしばしば起きた。



 ■ ■ ■



「………って、ことがあった……」

 スイートピーの話を聞いたローズは頬に手を当て、大人びた姿勢で「うーん」と唸った。

 ちなみに二人共マッサージチェアで揉まれ終わってドリンクを飲んでいる。

「それはコスモスさんが正しいねぇ」

 ローズがくすっと笑う。

「わかってるよ…」

 スイートピーが不貞腐れたように手元の牛乳を一気飲みする。

「コスモスさんも凄いね。聞いた感じ、スーもすっごく上手に誤魔化してるのにっ」

「誤魔化してて悪かったね!」

 スイートピーが犬歯を剥きだしにして突っ込む。

 ローズが「ふふっ、ごめんごめん」と謝りつつ。

「でもコスモスさんが気付けたのはちょっと意外。まあ『小隊長』の役職を持ってるから不思議じゃないか」

「ふん」

 スイートピーが鼻を鳴らす。

「言いたいことはわかるよっ。直属小隊だと、お兄ちゃんが『小隊長』でスターチスさんが『副官』、アスターさんが『三番手』だし、そもそもコスモスがそれ以外で小隊として動くことなんてほとんどないし、………()()()()()だったからそういう印象が拭えないのは仕方ない。

 ………まあコスモスもお兄ちゃんと並べるように頑張ったってことなんだろうね……………………だからと言ってお兄ちゃんは渡さないけど!!!」


 最後の本心を叫ぶスイートピーの様子に、ローズがまたくすっと笑った。


「『クロッカスさんに助けられた人間1号・2号』の戦いまだまだ続きそうね」


「……? 何それ。初耳なんだけど!?」


「それじゃあ、私はお先に」


「ちょっと待ちなさいローズ! ねえってば!」



 ■ ■ ■




 アメリカ、某都市。


 街中を歩いている()()()()()の携帯が着信音を奏でた。

 その人物は着信画面を見ると、パッと顔を明るくして気分揚々で携帯を耳に当てて。


「もしもし!? ミナト!?」


 その人物、アリソン=ブラウンは艶やかな金髪を揺らしながら喜色満面の笑顔を浮かべた。


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― 新着の感想 ―
[一言] アリソンの名前久しぶりすぎて読み返しに走りました笑
[一言] アリソンちゃん! あのいいギャングのお嬢ですね!
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