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鎮静のクロッカス  作者: 三角四角
第5章 トレジャー・ガール編

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第10話・・・経緯_世界を揺るがす_大バカ者・・・

 この度、二つご報告があります。

 まず一つ目は、第8回キネティックノベル大賞の一次選考を通過しました!

 読者の皆様の応援があったからこそ、一つの結果を出すことができました。

 まだ一次ですので楽観はできないのですが、皆様に感謝を伝えさせて下さい。

 本当にありがとうございます!

 

 もう一つは、カクヨムの方でも本作の投稿を始めました。

 あくまで主体は「なろう」で、カクヨムでは数話ずつ定期的に投稿したいと考えています。

 ただカクヨムの方だとPV数やギフトなどで上手くいけば収益化できるかもしれないので、よければPV数だけでも貢献して頂けると嬉しいです。

 こちらがURLです。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330659630693470



 ちなみに、今話は長くなっていますので、途中休憩を挟みながら読んで頂けるといいかもしれません。

 人気のない路地裏。

 湊・琉花は、綺羅星桜・乙吹礼香と交渉の場に付いていた。

 両陣営からは湊と乙吹礼香が一歩前に出ている。

「それじゃ、交渉を持ち掛けた俺から話そうか」

「いえ、私達から話します。その方が内容的にスムーズに進むでしょう」

 湊の譲歩を、乙吹が切った。

「へー」

 湊が薄っすら笑みを浮かべる。

「ちょっと、いいの? 先に情報を与えちゃって」

 すると綺羅星が後ろから乙吹に大丈夫なのか声を掛けた。

 情報を先に渡し、そのまま逃げられるのは交渉の世界ではよくある話だ。

「その心配はありませんよ」

 しかし乙吹は至って冷静に否定した。

「この手のタイプは交渉の場での約束をたがえません。……もし違えたら、その程度の人間だと自分で認めるようなものですから」

 乙吹の毅然とした考えに、綺羅星は「なるほど」と納得する。

 その光景を見ながら、琉花は相手の役割を悟った。

(……さっきのすり合わせでは姿を見せなかったけど、この乙吹礼香って人が参謀みたいね)

 乙吹の物言いに、湊が苦笑しながら応える。

「よくわかってるじゃん。……でもいいの? 交換内容は、乙吹さん達が『自分達の正体』と『亜氣羽さんを追う経緯』、俺達が『200万中、50万の返金』と『亜氣羽さんの司力フォース』なわけだけど、亜氣羽さんの司力フォースに関しては俺の予想に過ぎず、明確な証拠はない。道理的に俺から話した方が釣り合ってると思うけど」

「いいえ、私達から話します。……証拠は貴方の()()()()()()()()()()で十分ですよ」

 乙吹が肩を竦める。

「……デモンストレーションって?」

 琉花が湊に聞く。

 湊は携帯を琉花に見せ付けて。

「交渉のメッセージ送る時に、俺の洞察力の証明として、綺羅星さん達3人の司力フォースを記載したんだ。……この様子なら、そこそこ当たってたみたいだね」

 さらっととんでもないことを言った湊に、琉花は驚きのあまり息を呑んだ。

(…は? 何を言ってるの…っ?)

 その琉花の驚愕に同調するように、乙吹が「そこそこ、どころではありませんでしたけどね」と嘆息する。

「直接目視した綺羅星さんはともかく、四月朔日紫音と戦った尭岩は全く本気を出していませんでしたし、私に至っては今が初対面ですよ? 一緒に根拠も記載されていましたが……読みが異常過ぎますよ、貴方は」

 その乙吹の意見に、琉花は激しく同意しつつ、湊に聞いた。

「漣…、尭岩っていう巨大(ハンマー)の男は紫音から話を聞いただけであんたならわかるだろうけど、あの乙吹って女の司力フォースは初対面なのにどうやって分析したのよ?」

「乙吹さんの司力フォースは鬼獣の蜂を使役して索敵する類のものなんだけど、綺羅星さんと戦った後に結界が解かれて亜氣羽さんがいなくなった後、蜂の数が不自然に多く見えたし、何より逃げる途中で亜氣羽さんが『蜂さんだぁ』とか言ってたからね。……そこから推理してみた」

「………毎度のことながら、あんた本当にすごいわ…」

 琉花の溜息を置いといて、湊が話を進める。

「それじゃ、情報交換しよっか」

 


 ■ ■ ■



「まず私達の正体を明かしましょう。漣くんならもう予想はついていると思いますが、……私達はトレジャーハンターです」

 乙吹が簡潔に正体を告げた。

 

 トレジャーハンター。

 エナジーによって変質した森や海などの『指定破狂区域ハザード・エリア』で鬼獣を討伐したり薬草を採取したりなどして、稀少素材を収集する者達のことを指す。

 『御十家』の一つの阿座見野あざみの家や『陽天十二神座・第十二席』の武装探検集団『森狼しんろう』もトレジャーハンターに類する。


 湊は解っていたようで驚きはなく、琉花は「トレジャーハンター?」と首を傾げている。

 乙吹が説明を続ける。

「普段は日本各地の森林系の『指定破狂区域ハザード・エリア』を回っています。組織名は『鍾玉しょうぎょく』と命名してますが、『フォーサー協会』に登録はまだしていません」

 琉花が「登録していない…?」と訝しむが、湊は「なるほど」と納得し、言葉を続けた。

「協会に組織登録するには一定の実績が必要だけど、その条件はそれほど難易度は高くない。A級(フォーサー)の綺羅星さんがいる以上、おそらく条件はクリアしてる。……それでも登録していないとなると、狙いは『大きな実績と共に組織登録して注目を集める』こと、かな?」

 湊の予想に、乙吹は溜息を吐き、綺羅星は驚愕と警戒の混ざった視線を強めた。

「……今の説明だけでそこまで見抜きますか。その通りですよ」

 乙吹が「そして、」と続けて言う。


「そんな『大きな実績』を求める私達の前に現れたのが、亜氣羽と名乗る少女です」

 

 少しわざとらしく仰々しく言った乙吹が、更に説明を続ける。

「二ヵ月前の話です。とある森の『指定破狂区域ハザード・エリア』に潜り込んだ時、私達は凄まじいエナジーを宿す水晶を発見しました。……その水晶が内包するエナジー量は体感ではS級(フォーサー)レベル…それはもう素材というより源貴片オリハルコンに分類される代物でした」


『宝具』の元となる超稀少素材『源貴片オリハルコン』。

 全てのフォーサーが喉から手が出る程欲しい素材である。


「私達は年甲斐もなく舞い上がりましたよ。これぞ『大きな実績』。……ようやく日の目を見ることができると」

 表情こそ冷静な乙吹だが、最後の言葉からは熱い渇望を感じた。

 綺羅星の眼差しにも秘める強い気持ちが映ったように見える。

 それは琉花にもわかった。

(……この人達にも、叶えたい悲願があるのね…。………当たり前よね)

 乙吹が「でも、」と言葉を区切った。


「その『水晶』を持ち帰る途中、『指定破狂区域ハザード・エリア』を出て一番近くの町で休みを取ろうとした時、……人気のない道で、亜氣羽さんに突然襲われ、奪われたんです。……ここから先は綺羅星さんに話してもらった方がわかりやすいでしょう。……私と尭岩は、すぐに気絶させられてしまいましたから」

「気絶? 亜氣羽さんに不意打ちされたの?」

 湊の問いに、綺羅星が「その通りよ」と前に出て答える。

「雷による電気ショックで、ね。貴方も見たでしょう?」

 昨日、綺羅星が琉花を捕え、亜氣羽が助けた時に、綺羅星の腕を雷で刺激していた。

 それを雷の威力を高めた不意打ちで気絶させたのだろう。

「気配も前兆もなく突如標的の体で発生する雷。その技一つでB級の乙吹と尭岩は気絶し、私も気絶はしなかったけど、全身が痺れて身動きが取れなくなって倒れ込んでしまったわ」

 綺羅星が述べた事実に、琉花が息を呑んだ。

(……紫音をあっさり倒し、勇士を完全に上回っていたフォーサーを、不意打ちとはいえそんな簡単に…っ?)

 亜氣羽は一体どれだけの力を隠していたというのか。

 綺羅星が状況説明を続ける。

「……ただその倒れた私を他の二人同様気絶したと勘違いしたんでしょうね。油断した亜氣羽ちゃんが姿を見せたの。その時、彼女はこう呟いていたわ」


『見付けた~。よかったっ。……もし完全に失くしてたら、ババ様に大目玉喰らうところだった~』


「……そしてクーラーボックスの中に入った『水晶』を取ろうとした時に、私は力を振り絞って起き上がり抵抗した。亜氣羽ちゃんは驚いて、自分の姿を見られたことが都合が悪かったのか〝まずいかな~、これ〟なんて呟きながらも、軽い調子で自己紹介をしてきたわ。

 ……そしてその後、亜氣羽ちゃんに為す術なくクーラーボックスを取り上げられ、〝これ、ボクのだから〟と言って『水晶』を獲られた」

 そこまで聞いた湊が「ふーん」と客観的な意見を言う。

「綺羅星さん達が気絶したと思った時に〝見付けた〟って言うことは、その源貴片オリハルコンの『水晶』は亜氣羽さんの物っぽいね」

 昨日の綺羅星と亜氣羽のやり取りからも何となく察していたが、間違いないようだ。

「ええ。それは私達も解ってる」

 綺羅星が素直に認めるが、キッと鋭い視線を向けて。

「……それでもね、源貴片オリハルコンを前にして〝はいそうですか〟と引き下がるわけにはいかないのよッ」

 熱くなった綺羅星の隣で、至って冷静な乙吹が説明を補足する。

「日本で発見された源貴片オリハルコンは『フォーサー協会』に登録する決まりとなっています。……それは裏を返せば、私達が先に登録してしまえば、所有権は私達のものとなる。……小狡い手法であることは重々承知していますが、私達はそれを〝やる〟と、決めたのです。

 もちろん、最初は亜氣羽さんと交渉し、経費と私達のポケットマネー合わせた1000万円との交換を要求するつもりでしたが、断られた際は実力行使に出て『水晶』を奪い、1000万を置いて逃げる予定でした」

 覚悟が決まった面構えの乙吹と綺羅星に対し、湊は「なるほど」と目を細めた。

「『フォーサー協会』に登録していない以上、窃盗罪は成立しない。……法的にはギリギリグレーってわけだ」

 乙吹が頷く。

「仰る通りです。……そこから私達『鍾玉』と亜氣羽さんの追跡チェイスが始まりました。その『指定破狂区域ハザード・エリア』の一番近くの街で、すぐ彼女は見付かりましたが、すぐに見失う。……それを幾度も繰り返しました。時には対峙したこともありますが、そのタイミングを見計らったように警察が現れたり、人気のない公園の林に大勢の一般人が現れたり、挙句の果てにヤクザが現れたりして、煙に巻かれてきました。

 ……そこまでされればさすがに気付きます。全ては亜氣羽さんが仕組んだことであり、亜氣羽さん自身はこの追跡チェイスを鬼ごっことして遊び半分で楽しんでいると。

 何より不可解なのは、亜氣羽さんが隠密能力です。今話したように、亜氣羽さんが仕組んでわざと彼女が追い込まれるような場面は何回かあったんです。私達は不測の事態が起きても亜氣羽さんを見失わないように一瞬たりとも警戒を解きませんでした。……それなのに、彼女はまるで最初からそこに存在していなかったかのように、消えてしまうんです」

 乙吹と綺羅星の表情は疑問符で一杯だ。

 そして綺羅星が横から一言付け加える。

「……相手のエナジーに触れれば、系統はある程度解るのが常識だけど、彼女の雷はあまりに一瞬過ぎて、体の感覚が麻痺してしまう所為もあって、恥ずかしい話、系統すら感じ取れないのよ」

 乙吹が再度言葉を続ける。

「私達はその隠密能力と、雷から、率直に鎮静系雷属性と考えていましたが……、


 漣さん、貴方はそんな私達の思考を読んで〝違う〟とメッセージに書いていましたね?」


 乙吹と綺羅星の瞳が、湊に向く。

「私達三人の司力フォースを細部まで見抜き、これまでのやり取りから頭の回転の恐ろしさは痛感致しました。……教えて下さい。亜氣羽さんはどういう司力フォースなんですか?」

 湊はくすりと苦笑し、もったいぶらずに告げた。


「彼女のジェネリックは〝具象系風属性〟。……そのすぐ消えるトリックは〝別己法アナザー・アーツ〟だよ」



 ■ ■ ■



「具象系の……風属性!? それに…別己法アナザー・アーツッ!?」

 乙吹の冷静さが崩れ、驚愕に顔を染める。

 綺羅星も目を瞠っている。

 ちなみに湊の隣では琉花が(私と同じジェネリック!?)と同様に驚いている。


 別己法アナザー・アーツ

 具象系特有法技(スキル)

 己の分身を具象する分身法フロック・アーツの上位互換。分身法フロック・アーツは体も脆く、一挙手一投足を細かくマニュアル操作しなければならない。

 しかし別己法アナザー・アーツは、己の体を完全再現具象し、エナジーに意思を反映させることでもうオート操作を可能とし、エナジーを通じて感覚も共有できる。

 もう一人の自分を創造する、理界踏破オーバー・ロジック一歩手前の法技スキルである。


「そう」

 湊が微笑を浮かべて頷く。

「これまで綺羅星さん達を襲った突然の雷は、絶気法オフ・アーツを纏った風をさりげなく送り込み、雷を具象した。消えるトリックは隠密とかじゃなく、ただ別己法アナザー・アーツをただ解いて消えただけ。乙吹さんの蜂の索敵にも引っ掛からないのは風の広範囲探知で先に居場所を知られているから。……それが俺の考え」

「待って!」

 すかさず綺羅星が叫んだ。

 驚愕の感情が薄れるどころか濃くなっている綺羅星が、息を呑みながら言葉を発する。

「……その話が本当だとしたら…、今まで私達が対峙した亜氣羽ちゃんは偽物だってこと…ッ!?」

「俺の予想ではね」

 既に湊の読みの精度の高さを信じているのだろう。

 明確な根拠のない湊の言葉に、綺羅星も乙吹も無碍にはできず、表情の深刻さを極めている。

 湊がもう少し詳しく説明する為、口を開いた。

「多分、最初綺羅星さん達の前に現れたのは本物だと思うけど、それ以降は別己法アナザー・アーツで作られた分身だったと思うよ」

(分身だったから、俺の『超過演算デモンズ・サイト』も深いところまでは読めなかった。仮にエナジーに意思を100%反映して〝もう一人の自分〟を生成したなら、細かい仕草もコピーされて読めたと思うけど、亜氣羽さんのは大体95%。……その微かな〝不完全さ〟が逆に『超過演算デモンズ・サイト』の深読みを妨げていた)

 湊からすれば若干相性が悪い相手だ。

「……ッッ…ッ」

「…なるほど…っ」

 まだ驚きを御しれない綺羅星の横で、乙吹がなんとか冷静さを取り戻し、建設的な言葉を紡ぐ。

「辻褄は、合ってますね…。しかし、分身だったとすると………、私の前に現れていた彼女は、全力からは程遠かったということですか…」

 別己法アナザー・アーツで作られた分身は衣食住なんでもできるが、エナジーを生成することはできない。

 必然的に本物オリジナルから分け与えられたエナジーとなる。

「A級の綺羅星さんが手に負えなかったとなると、まあ、S級レベルってことだろうね、亜氣羽さんは」

「「「……ッッッ!」」」

 改めた突き付けられる事実に、綺羅星、乙吹、琉花の表情が強張る。

 15歳前後の少女が、S級。

 震撼せずにはいられない。

「………そう、なりますよね………S級……っ」

 重々しく呟く乙吹だが、その表情を見て湊が、言った。

「〝心当たりがある〟って顔ですね」

「「ッッッ!?」」

 乙吹と綺羅星が目を見開く。

「昨日、綺羅星さんが亜氣羽さんに言ってましたよね。〝宝〟の代わりに亜氣羽さんの〝正体〟について教えてくれないか、って」

 綺羅星の表情が鈍るのを確認して、湊が続ける。

「元々思ってたけど、今の話を聞いて尚更深く感じたよ。……亜氣羽さんは異質過ぎる。何より気になるのは、『水晶』の源貴片オリハルコンが『指定破狂区域ハザード・エリア』に落ちていたという点。……ちなみに、その森の『指定破狂区域ハザード・エリア』って、どこなの? 危険度高いところ?」

 湊の要点を詰める質疑に、乙吹が沈鬱な表情で、答えた。


「『参禍惨域スリー・ヘルネス』の一つ、『慟魔どうま大森林だいしんりん』です」


「…………………おー、それは予想外」

 それは、湊の〝もしかして〟と5%未満ほどの確率で有り得ると踏んでいた、可能性の低い事実だった。


参禍惨域スリー・ヘルネス

 日本の『指定破狂区域ハザード・エリア』の中でも特に危険とされる三つの区域。

屍闇しぐら怪洞窟かいどうくつ』。

焉螺えんら深海底しんかいてい』。

 そして、『慟魔の大森林』。

 S級(フォーサー)をも殺し得る狂暴な『鬼獣』が多数生息する区域。


 乙吹が言葉を続ける。

「私達の実力では、奥まで行けばS級『鬼獣』に全滅させられる可能性があったので、比較的浅瀬で探索していました。そんな浅瀬で『源貴片オリハルコン』を発見したことをまず疑うべきだったのですが、それを忘れるほど舞い上がっていました…。

 そして、私達『鍾玉』にはもう一人、フォーサーではありませんが仲間がいます。その仲間に『慟魔の大森林』周辺の町を調べてもらっているのですが、亜氣羽という少女が住んでいた痕跡はありませんでした。

 そもそも、これは懇意にさせてもらっている『指定破狂区域ハザード・エリア』を管理する『フォーサー協会』の会員に聞いたことですが、私達が『慟魔の大森林』に潜った時期、他の誰も入った記録が無いらしいんです」

 危険度の高い『指定破狂区域ハザード・エリア』は『フォーサー協会』から許可証をもらわない限り、入ることは禁じられている。

「それに、どうやら私達が『慟魔の大森林』を出た後、その『大森林』を覆う塀の監視員が何人か雷にでも打たれたように気絶していたらしいんです。監視員達は虫型の雷を纏う『鬼獣』の可能性が高いと予想して警戒態勢を敷いているらしいのですが、その技を私達はよく知っている」

 亜氣羽の技の一つ。突然の雷。

 一拍置いて、乙吹が告げた。


「……あやふやな部分がまだ多いのですが、私達はこう考えています。


 もしかしたら、亜氣羽さんは……『慟魔の大森林』で暮らしていたのではないか、と」



 それは、誠であれば、世界をも揺るがし兼ねない、事実だった。



 ■ ■ ■



 亜氣羽は街中のキッチンカーで食べ物を買っていた。

「おじちゃん! このクレープ?っていうのちょうだい!」

「おう! 味はどれにする?」

「ええと…じゃあこのバナナチョコクリーム?ってやつ!」

「おうよ! 400円だ!」

 亜氣羽はポケットに手を入れ、一瞬、エナジーを練る。

 すると、一瞬で100円玉四枚が掌の中に具象された。

 それを笑顔で差し出す。

「はい! 400円!」

「おう、ちょっとごめんな」

 現金を受け取った店主の男性がレジ脇の計測器と繋がった鉄板の上にお金を置き、ピッと青いランプが灯ったのを確認して、「よし」と頷いた。

「すまんな! 嬢ちゃん! 一応偽物のお金かどうか調べる必要があってな」

「気にしないで。どう? 偽物じゃなかった?」

「おう! 正真正銘本物のお金だ!」

「よかった」



(あははっ、最初この機械見た時は驚いたけど、ボクが〝作った物〟を見抜けるほどじゃなかったみたいでほんと安心したよ。これもババ様の教育の賜物だね!)




 ■ ■ ■




『慟魔の大森林』。

 S級に匹敵する狂暴な『鬼獣』が住まう魔境。


 未だ誰も立ち入ったことのない深奥。

 そこに古びた館『翠晶館』があった。

 

 年老いた老婆はデスクに肘を付き、深々と溜息を吐いた。


「……亜氣羽…。この大バカ者がッッ」


 いかがだったでしょうか?

 今回は説明パートでした。できるだけ完結に書いたつもりですが、わかり辛い点など無かったでしょうか…?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 湊は勇士達の成長の為にバトルに参加すると言ってますけどもし湊達が勝って水晶を得たらその水晶は誰が手にするのでしょうかね。もしその水晶が本当に源貴片に分類されるものであったとしても安易に…
[良い点] 「綺羅星さん達が気絶したと思った時に〝見付けた〟って言うことは、その源貴片の『水晶』は亜氣羽さんの物っぽいね」 途中からは鬼ごっこで遊んでたっぽいけど、最初はワザとじゃなかった訳か。ワザと…
[一言] 亜氣羽めちゃくちゃ強いじゃん!誰が勝てるんだこれ… って普通なら思うんだけど、それでも湊なら何とかしてくれるという安心感よ
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