第6話・・・綺羅星桜_助言_的中・・・
感想でもちょくちょく気にされていたオカマ登場です。
近道の公園を通ろうとした時。
待ち伏せしていたかのように木の裏から綺羅星桜と名乗る露出度高めで化粧の濃い男性が現れた。足元には取っ手が付いた見た目はプラスチック製の箱が置いてある。
既に公園のひと区画は結界法で覆われている。
綺羅星が人差し指を唇に当て、おそらく本人は艶めかしい態度のつもりで《実際はそこそこ気色悪い》で勇士達に問いかけた。
「まず聞きたいのだけど、坊や達はそこにいる女の子が何者か知ってるのかしらん?」
「深くは聞いていないが、お前らのような奴に追われているという時点で助けるには十分だ」
勇士が刀の切っ先を向け、力強く答える。
「……そう。ただの子供ってわけね。わかったわ」
綺羅星は一人で納得がいくと、途端に膨大な気を纏った。
彼を中心にクレーターでも広がったかのような暴圧的な気の量は凄まじく、一般人であれば吹き飛ばされ、士であっても腰を抜かす者もいるだろう。
「……ッッ!」
(こ、この気量…!)
その気を目の当たりにして、勇士は一気に警戒心を高め、すぐ叫んだ。
「琉花! 湊! こいつはA級レベルの士だ! 俺が引き付けるから、その間に結界を破って学園に向かってくれ!」
「そうはさせないわよ~。……『氷河の檻』」
瞬間、勇士達の周囲を覆う結界の内側に、分厚い氷の壁が構築された。
(これは…! 結界の内側に氷を張って乱流法での破壊を防ぐ技…! 氷が薄かったら意味がないから必然的に上級士の技になるが…それでも広範囲攻撃故に気の消費量が激しくて使う者が滅多にいないのに…! この手際、こいつ使い慣れてやがる!)
警戒心を更に募らせる勇士に、綺羅星が「んふふっ」と笑いながら言う。
「せっかくこうして相まみえたんですもの。逃・げ・な・い・で?」
気色悪い発言を無視して、勇士は琉花達に声を掛けた。
「俺が一人で戦うが、琉花は後方であいつが隙を見せたら矢で狙ってくれ。湊と亜氣羽さんは琉花の後ろにいてほしい」
「わかったわ」
「……勇士、戦って勝つ気?」
琉花は素直に頷くが、湊がそんなことを聞いた。
「ああ。もしかしたら他にも仲間がいるかもしれないからな。離れるより俺の傍にいた方が安全だ」
「…なるほど。わかった」
勇士の説明に、湊は大人しく納得した。
「大丈夫、誰であろうと俺は勝つさ」
自信に溢れた勇士に言葉に、亜氣羽が目をキラキラさせているのを、湊だけが気付いていた。
(……やっぱり、この人がボクの王子様なんだ…!)
■ ■ ■
「作戦会議はもういいかしら?」
綺羅星が余裕綽々な態度で声をかけてくる。
「ああ」
勇士は素っ気なく答え、綺羅星と同じように膨大な気を纏った。
「俺が相手だ」
「わかってるわよ。貴方が一番強いってことは。……ほんと、羨ましいったらないわ」
綺羅星の呟きを流し、先に動いたのは……勇士だった。
炎の一刀を構え、強化の気による爆発的な加速法で土煙を立てながら綺羅星の右側面へ一瞬で肉迫する。
防御する間もなく断ち切る、それが狙いであったが……、
ガンッ! と刃が綺羅星に届くことはなかった。
「ま、まさか…!」
それどころか、勇士は驚愕の表情を浮かべていた。
勇士は今も刀を綺羅星に届けんと力を入れているが、綺羅星の『武器』によって受け止められ、押し切れない。
その『武器』というのが…。
「……箱!? それがお前の武器か!」
「クーラーボックスよ。オシャレなデザインでしょ?」
そう。
先程綺羅星の足元にあった箱、クーラーボックスが綺羅星の武器だったのだ。
キャンプなどで保冷剤と共に食材を入れ保管する箱。
『士器』として制作された綺羅星のクーラーボックスは黄色と桃色を基調としたカラフルなデザインになっている。オシャレか賛否両論だろうが、派手ではある。
綺羅星は蓋に付いた取っ手を掴んで、勇士の刀を受け止めている。クーラーボックスの側面はプラスチック製のように見えるが、亀の甲羅のような丈夫且つ微細な凹凸を施されていて、炎の刃も難なく受け止めている。
「ひょいっと」
綺羅星はクーラーボックスを傾け、表面の凹凸を利用して滑らせて逸らす。
勇士がバランスを崩したところにクーラーボックスを叩き込もうとするが、勇士は慌てず後ろに跳んで躱す。勇士の身体能力を以てすれば多少のバランスを崩される程度なら平気だ。
「……甘いわね」
その時、綺羅星のクーラーボックスが振り回されると同時にパカッと開いた。
クーラーボックスの中から小規模な吹雪が放出され、後ろに跳んだ勇士へ追撃する。
短いリーチのクーラーボックスが突然広い範囲の中距離攻撃となり驚愕する勇士だが、落ち着いて迫り来る吹雪を見極め、炎の壁を張った。
「『炎の壁』!」
A級の称号に相応しい、激しく大きな炎だ。
……だが。
その吹雪に触れた炎の壁がみるみるうちに凍り付いていき、数秒の内に崩れてしまう。
「俺の炎を凍らせた…!?」
「驚いてる暇あるのかしら?」
「ッ!?」
いつの間にか綺羅星は勇士の斜め後ろに回り込んでおり、蓋を閉じたクーラーボックスで殴る体勢を作っていた。
勇士は瞬時に炎の刀で受け止めるが、クーラーボックスの表面の微細な凹凸が滑りやすくなって100%力が伝わらず、そのまま押し切られてしまう。
クーラーボックスは勇士の左肩付近に直撃するが、強化した防硬法でダメージを最小限に抑え、勇士は一歩も退かずに綺羅星の懐に潜り込む。
しかし、勇士は綺羅星がニヤリと笑うのを見て、嫌な予感を覚えた。
そして一秒も経たない内に、その予感が的中した。
「『霜氷の囚晶』」
勇士が目を離した隙に開いたクーラーボックスから、純白の氷粉が放出され、勇士の全身を覆い包もうとする。
勇士は悪寒に従って瞬時に跳んで距離を取った。
一瞬氷粉に触れたがなんとか技を掛けられる前に脱出した……………はずだった。
「ざ・ん・ね・んっ。もう手遅れよ」
綺羅星が笑顔を浮かべると同時に、勇士は体に付着した氷の結晶が、肥大化した。
「ッ!?」
(これは…! 俺の気が吸われてる…!?)
驚く勇士の肩や胴体や脚の部分部分に瞬時に白霜が出来上がる。
「なんだこれ…硬い…! でもこんなの…!」
勇士は刀の柄で叩き壊そうとするが見た目に反して硬く壊しにくい。すぐに手法を変え、勇士は体に炎を纏って焼き消そうとする。……だが、それでも消える様子も解ける様子もない。
「無駄よ~。確かに『霜氷の囮晶』は火属性と相性は悪いけど、貴方如きの火なら余裕よ?」
「なんだと…!?」
勇士は表情に怒りを滲ませた。
……その光景を見ながら、後方に控える湊達は各々感情を露わにしていた。
「なるほどね。あれが綺羅星桜っていう男性の司力か」
「漣! 貴方あいつの司力わかったの!?」
「見たまんまだよ。…質は拡張系水属性。武器はあのクーラーボックスで、生み出した氷の結晶をあのクーラーボックス内に一回閉じ込めて、丹念に拡張の気を練り込んでから再放出して戦う司力。
あのクーラーボックスはリーチの短い鈍器みたいなものだけど、どのタイミングで蓋が開くかわからない状況で戦うのは中々難しいだろうね。
そんで今勇士の動きを制限している『霜氷の囮』ってのは『接着法』を応用した技だ。氷の結晶を対象の体に『接着法』で貼り付け、相手の気を吸収して肥大化させて、力を奪い動作も制限する。攻撃ではなく拘束技だな。おそらくああして氷で動きを封じつつクーラーボックスや拳で攻撃する、それがあのオカマの戦闘スタイルなんだろうね」
湊の冷静な説明を受け、ギリリと琉花が歯軋りする。
「勇士の炎でも溶けないなんて…!」
(……それは違うよ、風宮。オカマも勇士の火を貶してたけど、あれはハッタリだよ。実際は勇士の燃え盛る炎に呼応させて水を発生させて相殺してるんだ。ゼロ距離にいる勇士ですら気付けない気操作精度だけど、気付いたところで同等の気操作力がなければ対処は難しい…)
「ね、ねえ…大丈夫なの…?」
そこで亜氣羽が不安げな表情で湊と琉花に聞いてくる。
憂慮の念が伝わってくるが、その感情の裏にも何か別の思いが隠されているように思う。
湊が冷静にプロファイルする横で琉花が拳をぎゅっと握った。
「大丈夫! 勇士は強いから!」
琉花が不安を押し殺して言う様を見て、湊は心の中で溜息を吐いた。
(勇士の分が悪すぎる…仕方ないな)
湊はそう思うや否や、勇士に向かって叫んだ。
「勇士!」
「な、なんだ!?」
自分に貼り付いた白霜を燃やさんと炎を噴出する勇士が声だけで返事した。
「絶気法を使え! 一回身体を纏う気を完全に消すんだ! 時間がないから早く!」
湊が一つの解決策を提案する…が。
「そ、そんなことできるわけないだろ!」
「風宮にも牽制してもらうから早く! そうすれば体に貼り付いた霜も取れるんだよ!」
「え…っ、ぐ……っっ」
勇士が迷いを見せるが、湊達の視線の奥では、綺羅星桜が「ほぅ?」と感心した笑みを見せていた。
その綺羅星の表情を見た琉花が湊の考えが正しいことを察して、同じように叫ぶ。
「勇士! 今は漣の言う通りにして! お願い!」
…………しかし。
「………………いや! その必要はないッッ!!」
勇士は湊の助言を無視して身体を纏う炎の威力を更に上げた。
(……あ~、やっぱ勇士……愛衣のことで根に持ってる感じだよな…………今それ持ち込むなよぉ)
湊が溜息を吐き、隣では琉花が「なんで…」と悲痛の表情を浮かべている。
ちなみに亜氣羽は目を丸くしており、その驚愕と共にどんな感情を抱いているのか。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
勇士が超強化による火力の爆上げで、ついに綺羅星の『霜氷の囮』が溶けた。
「ハァっ、ハァ……っ、どうだ!」
勇士が綺羅星をキッと睨みつける。
対する綺羅星の目は、どこか冷めていた。
「…なぜ、お友達の助言を聞き入れなかったのかしら?」
「え…?」
呆気に取られた勇士に、綺羅星は説明した。
「絶気法を使って私の『霜氷の囮』を除去するというやり方は正解よ。接着法は相手の気を吸収しつつ密着する法技。でも貼りついて間もない内は相手の表面を覆う気しか吸収できていないから、一度絶気法で完全に気を消して接着法を弱め、引き剝がすのが大正解。そうすれば無駄に火力を上げて気を消費する心配もなかったし、今みたいに息切れすることもなかったわよ?」
綺羅星の言葉に、勇士は息を呑んで目を見開いた。
「な……っっっ! で、でもそんなことしている隙にお前が攻撃してくるだろう!」
勇士の意見は最もだったが、綺羅星は呆れた様子を隠さず続けた。
「まあ、引き剥がすことぐらい一瞬でやれという話ではあるんだけど……、今に関して言えば、私は攻撃するつもりはなかったわ」
「え…!?」
戦闘中とは思えない言葉に、勇士が思わず声を上げる。
「私の自慢技の一つ『霜氷の囮』の対処法を一目で見破ったのよ? 面白いじゃない? 様子見の意味も込めて、静観するつもりだったわ」
綺羅星の態度から、本当に攻撃してくるつもりがなかったと勇士は直感でわかった。
「……だ、だがそんなことわかるはずないだろう! 士として警戒するのは当然だ!」
「確かに、貴方の言うことにも一理あるわ」
綺羅星は勇士の言い分を認めつつ、更に聞いた。
「でも、貴方のお友達は私が攻撃するつもりがなかったことに気付いてたみたいだけどね」
「ッッッ!?」
呼吸が一瞬止まった勇士に、綺羅星は追い打ちをかけた。
「あの一見女の子に見える彼、相当頭良いみたいね。私の技を見破るだけでなく、私の性格もしっかり読み取ってる感じがするわ」
「……そ、そんなこと…お前にわかるのか…!?」
「わからないわよ。だからお友達である坊やに聞くけれど、漣湊はそういう相手の心を見抜く洞察力・観察力は持っていないのかしら?」
「……っっっ!」
聞かれた勇士が瞠目する。
その反応を見れば、一目瞭然だった。
焦りを隠せない勇士に、綺羅星は静かに告げた。
「ほら、やっぱり彼、相当頭良いじゃない。多分坊や達の中では参謀役なんじゃないの? ………それなのに、彼の言葉を無視したの?」
綺羅星の冷ややかな視線が突き刺さる。
勇士は言葉を発せず、視線を逸らしてしまう。
「そもそも、」
綺羅星の言葉はまだ続いた
「坊やは今、隙を見せれば私が攻撃してくる、とか、士として警戒するのは当然、とか言っていたけれど……、彼に助言された時、そんな合理的なことをちゃんと考えていたのかしら?」
鋭い指摘に、勇士は唇を震わせる。
「……ッ、な、何が言いたい…!」
「私には、何も考えず、ただくだらない意地を張って彼の助言をスルーしたように見えたのよね」
「い、意地…!?」
「ベタなところでいうと、」
綺羅星は鼻で少し笑いながら……意図せずして、核心に触れる発言をした。
「勇士の好きな子が、湊を好いている、だから言うことを聞きたくなかった、とかかしら?」
「ッッッ!!!?」
勇士は表情に思いっきり動揺を出してしまったが、元から息も切れ切れで動揺や焦燥を露わにしていたからこそ、図星だと気付かれることはなかった。
なかったからこそ、綺羅星は強い言葉を続けて放った。
「どんな理由があるか知らないけれどね! 醜い矜持に呑まれて目的を見失うようでは、士として三流以下よ!」
■ ■ ■
(……………………………………は? なんかもう、人間として雑魚じゃん、この王子様)
そんなことを思う亜氣羽の表情を、湊は正確に捉えていた。
いかがだったでしょうか?
綺羅星桜、この名前のインパクトだけだけは謎に自信があります。
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