第4話・・・わからない_尭岩と乙吹_焦り・・・
今週も時間取れなくて週一投稿です…。
それなのにTwitterは毎日意味のないことを投稿してるという…。
大きめのキャスケットとトレンチコートを着た、淡い銀髪の妖精のような美少女が、切羽詰まった表情で「助けて! 変な男に追われているの!」と勇士の胸服を掴んで叫ぶ。
「変な男!? …琉花!」
「わかってるわよ! 今探知してる!」
勇士に言われるまでもなく、琉花が風を応用した探知法で周囲の探知を始める。
そして少しして、琉花が反応を見せる。
「……いた! ここから北に70メートル! 絶気法で気配絶ってるけど違和感がある! 多分これよ!」
湊もまた、琉花と同じように探知していた。
(というより、絶気法が上手すぎるね、この人。ただ、普段街中で使わないから馴染めず、逆に浮いた感じだ。……まあそれでも、C級の琉花が見付けられたのはファインプレーだけど)
勇士は琉花に示された地点に集中して探知法を放ち、すぐに相手を探知する。
「俺も見付けた! …よし、まだこっちに来る様子はないな…。まずは警察に連絡しよう!」
勇士が的確に指示を出す。こういう時に率先して指揮を取るのはさすがだろう。
「ま、待って!」
しかしそこで謎の美少女からストップがかかった。
え? と勇士達が目を丸くする。
「け、警察は呼ばないで! お願い…ッ!」
命の危機に晒されながらも、少女は警察を拒絶した。
何故か、と普通なら問うところだが、ここにいるメンバーは特殊な事情に理解のある者達だったので、無遠慮に聞こうとはしなかった。
勇士・琉花・紫音が視線を合わせ、頷く。
詮索はしない、とアイコンタクトで意思疎通したのだ。
「なんで? 呼ぶべきでしょ、警察」
だが、そんな空気をぶち壊すように湊が無粋な言葉を投下した。
「「「「!?」」」」
当然のように、湊以外の全員が啞然とする。
「おい湊! どういうつもりだ!」
勇士が湊に問い詰める。
「え? 警察に頼ることがそんなにおかしなこと?」
「そういうことを言ってるんじゃなくて! ……彼女の事情も察してやれってっ」
「…だったらその事情聞くべきじゃない?」
「今はそれどころじゃないだろ!!」
勇士の怒号が響く。
「……確かに。わかったよ、とりあえず警察は呼ばない」
叫ぶ勇士の前で、湊は冷静に意見を聞き入れて納得した。
「わ、わかればいいけど…」
傍から見れば、勇士に言い負かされた湊という構図だ。
…しかし、普段の湊を知る勇士達からすれば不自然極まりなかった。
謀が苦手な勇士でもさすがに気付くレベルである。それは琉花も紫音も同じだ。
「と、取り敢えず!」
気を取り直して、と言わんばかりに勇士が口調を強める。
「みんなはここで結界を張って待っててくれ。その間に俺がその男を相手してくる…!」
勇士が気を纏い、跳び駆けよう……そうした瞬間。
「え、行っちゃうの…? 一緒に逃げてくれないの……?」
謎の少女が目を丸くしてそんなことを言った。
勇士は頭上に疑問符を浮かべながら、言葉を返した。
「え、逃げるよりその男をひっ捕らえた方がいいと思ったんだけど…」
「で、でも……敵は一人じゃなくて……」
謎の少女はそう言いながら勇士以外の三人に不安そうな目を向ける。
「…なるほど。私達じゃ心許ないってことね」
琉花が逸早く理解する。
要するに、一番強い勇士が離れて大丈夫なのか、そう言いたいのだろう。
その少女は「ご、ごめんなさい…」と頭を下げるが、琉花は「いいのよ、事実だから」と言う。
「どうする? 確かに敵が一人じゃないならここで勇士が離れるのは少しリスキーよ。結界なんて気付かれれば簡単に解かれるわけだし」
琉花が冷静に分析しつつ意見を求める。
「……仕方ない。みんなで逃げよう」
勇士が結論を出す。しかし。
「逃げるってどこに? 警察は駄目なんでしょ?」
湊が鋭く尋ねると、勇士がハッと見通しが甘かったと自省の表情を浮かべる。
「ちなみに、」
謎の少女に湊が視線を向ける。
「どこに逃げるとか目的地は決まってるの?」
「え、えっと……」
少女が言い淀む。
何も決まってないのか、隠しているのか、どちらかわからないが答えを期待はできないようだ。
「だったら獅童学園で匿ったらどうだ!?」
そこで勇士がそんな提案をした。
「獅童学園で?」
琉花が首を傾げ、勇士が頷く。
「ああ! 俺達が用意できる安全な場所といったらそこしかない!」
「でも…部外者を入れるのはさすがに…」
琉花が不安を滲ませるが。
「大丈夫だよ! 学園長も追われる少女を無碍にはしないさ!」
勇士が力説すると、琉花も紫音もその勢いに押されて納得を示す。
そして勇士は謎の少女に向き直り。
「俺達の学園なら厳重に警備されてるから安全だ。君も、それでいい?」
「学園…」
少女は言葉を反芻した後、パッと表情を明らめた。
「うん! いい感じ!」
いい感じ、という言い回しを勇士は不思議に思いつつも、「よし!」と首を振った。
「湊もそれでいいな?」
「うん、いいよ」
軽く答えながら、湊は思考した。
(いやいや、さすがに心優しい学園長でも何の説明も無しに得体のしれない部外者を学園内に入れることを許可したりはしないって。……まあ、門前で説明を問われて答えるかどうか、道中に彼女の反応を探って情報を得られるか、ついでに追って来ている連中が何者か、そこが分かれば儲けものだな)
湊は続けて、思った。
(………それにしてもこの女……怯えてるのが演技ってのは読み取れるが、その奥がからっきし読めない…。揺さぶっても特に反応なし…。紅蓮奏華家の暗示とも違う…なんなんだ……?)
「あの!」
と、湊が思考を巡らしていると、紫音が声を上げた。
全員の視線が集中する中、紫音がとある提案をした。
■ ■ ■
下っ端ヤクザと見紛う程に柄の悪い男、尭岩涼度は住宅街の物陰の隙間を縫うようにして、一人の少女を双眼鏡で監視しながら、状況の変化に怪訝な表情を浮かべていた。
慌てて小さめの携帯電話機を耳に当てる。
「おい! 乙吹! あの小娘、同い年くらいのガキ共に声掛けたぞ! なんか助けを求めてる感じだ!」
『大声を出さないで下さい。尭岩』
電話口から乙吹と呼ばれた女性の冷静な声が響く。
『隣町には武者小路源得が学園長を務める獅童学園があります。士であればそこの学園の生徒である可能性が高いでしょう。…取り敢えず、私の〝蜂〟と綺羅星さんがそっち向かっているので、尭岩はそのまま監視を続けて下さい』
尭岩涼度は渋々と頷く。
「わかったけど……あの小娘、どうして今更助けを…?」
尭岩の疑問を乙吹も無碍にはしなかった。
『本当に彼女から助けを求めているのですか? 相手から声を掛けたのでは?』
「いや、そこははっきりと見たから間違いねえ」
『……全く、何なんですかね、彼女は』
「……周りを振り回しやがってッ」
『まあ、私達の場合は一方的に追いかけ回してるから何も言えないですけれど』
「そうだけど!」
また尭岩が大声を出し、乙吹が注意しようと……した時だった。
「ん?」
尭岩が怪訝そうな声を上げる。
『どうかしたんですか?』
乙吹が尭岩の様子の変化を悟って聞く。
「いや……なんかガキの一人がこっち来てるっぽいんだわ」
尭岩が集中力を高めながら告げる。
『…尭岩のところに?』
どうやら尭岩の探知法に誰か引っ掛かったようだ。
尭岩が頷く。
「ああ。絶気法で気配は消してるが、まだまだ中学生だな」
『なるほど。尭岩の探知法でも捉えられるレベルの士ですか…』
電話機の向こうで乙吹が思考するが、尭岩が溜息混じり。
「言っとくが、お前の探知法がレベチなだけで、俺のもそこそこ精度は高い方だからな?」
『わかっていますよ』
乙吹も溜息混じりに応える。
「それで、どうする? 多分一番強い奴を俺のところに寄越して警察にでも突き出そうって魂胆だと思うが…。やっぱ無視して小娘を追いかけるべきだよな?」
合理的な意見を尭岩が述べるが、乙吹は何か懸念しているのか、慎重な声音で尭岩にあることを聞いてきた。
『……ちなみに、こちらに向かっている子供がどの方角から来ているか、わかりますか?』
「方角…? ………北東? かな? 最短距離で来ずに少し大回りしてるが…それが?」
尭岩は乙吹の質問に素直に答えながら、何事か聞く。
すると、乙吹は『なるほど』と得心のいく声を発した。
そして乙吹が考えを述べる。
『尭岩、その子供の目的は貴方を倒すことではなく、結界法を張って一時的に閉じ込めることです』
「…は?」
首を捻る尭岩に、乙吹が詳しく説明した。
『この時期に獅童学園が教える〝立ち回り〟の一つですよ。敵の尾行を撒く為に結界で一時的に隔離して、その間に移動する。接近する際は人間が基本的に非利き腕となり、心理的に警戒が薄くなる左側、今回の場合でいうと北東から忍び寄って、瞬時に結界を張るんです。こういったオーソドックスな戦術を生徒達に叩き込んで洗練させるんですよ、獅童学園は』
乙吹の説明に尭岩が「ほー」とこくこく頷く。
「……さすが、獅童学園のOGだな」
『昔の話です』
乙吹は冷めた声で短く切り、続けて言った。
『それより尭岩、予定変更です。普通なら無視するところですが、貴方は接近してくる子供の相手をして、足止めをして下さい。そしてどういう認識で関わっているのか、可能であれば聞き出して下さい。聞けなければそれでもいいです』
「足止めってことは、もう俺が監視する必要はないんだな?」
『はい。綺羅星さんはまだですが、私の蜂が捉えました。貴方の街に馴染めない絶気法で尾行するより、何倍も理に適っていますから、もう必要ありません』
「わざわざ言わんでいいって。……おっけ」
尭岩涼度が懐から全収納器を出し、蓋を開けてそこから巨大な槌を取り出した。
身の丈以上の長さの槌を片手で持って肩に置く。
「そんじゃまずは、結界張るところを迎え撃ってやりますか」
■ ■ ■
「本当に大丈夫かな…紫音……」
勇士は琉花、湊、そして謎の少女と共に移動しながら、不安そうに呟いた。
「結界を張るだけだから、大丈夫よ」
そう。
乙吹の予想は的中していた。
紫音の提案で先日教えてもらった結界を用いて尾行を撒く戦術を実践しに行っていたのだ。
「とにかく、今はこのまま真っすぐ進みながら距離を取って、紫音から連絡が入ったら脇道に逸れましょう」
「そうだな…」
結界を張ったら紫音から電話でワンコール、それを合図に脇道に逸れる予定である。
その傍らで、湊は上空にいる監視者に気付いていた。
(……この蜂達…誰かが使役してる。『鬼獣使士』か)
鬼獣使士。
『指定破狂区域』に生息する気を宿す動物や昆虫を飼いならし、司力とする者のことである。
(へえ、大量の蜂を使った遠距離且つ広範囲に及ぶ探知法のスペシャリストか。蜂一匹一匹の戦闘力はそんなに高くはない…この『鬼獣使士』の等級もB級ぐらい…でもこれだけの量の蜂を相手に気付かれないよう操作してる…凄いね。それにこの蜂が現れてから男の視線も感じなくなった。多分四月朔日にぶつけてるっぽい。冷静で的確だ。……この司令塔さん、一筋縄ではいかなそうだね)
と、詳細に予想と分析を立てている…………と、
そんな湊の真横で、謎の少女が声を上げた。
「わぁ、蜂さんだぁ」
(ッッッ!!)
もしかしたら、湊は表社会に潜んで初めて、ポーカーフェイスを一番頑張ったかもしれない。
それほどの衝撃だった。
湊の隣で謎の少女は空を見上げている。……確実に、蜂に気付いている。
(いやいや、この蜂達、相当上手く隠されてるぞ? それに探知法を使ってる様子はない。この至近距離なら例え同じS級でも探知法を使えば気付く自信がある…。目視も困難なはずなのに…本当に何者…?)
そんな湊の驚きなど知らず、勇士と琉花が謎の少女の呟きに気付いて振り向く。
「? 蜂? 蜂がどうかしたか?」
勇士に問いかけに、謎の少女は首を横に振って答えた。
「ううん! なんでも!」
「……やけに元気だね。さっきまで泣いてたのに」
湊がそんなことを聞く。
意地悪な質問に聞こえるかもしれないが、少女の変化を見れば妥当とも言える。
謎の少女は湊に一瞬薄い視線を向けてから、儚げを帯びた笑みを浮かべる。
「あ、ごめん…いつまでもくよくよしてても仕方ないと思ったんだけど…逆に癇に障った…?」
「ああ、気にしないでくれ! こいつはこういう奴なんだ!」
勇士がフォローのつもりで叫ぶ。
湊は変に否定せず「ごめん」と謝った。
するとそこで琉花が「そう言えば、」と声を発した。
「貴女、名前は?」
琉花が謎の少女に聞く。
「名前が言えないならなんて呼べばいいかだけでも教えてくれない?」
その少女はキャスケットのつばを軽く上げて、朗らかな笑みを浮かべながら名乗った。
「私の名前は亜氣羽。よろしくっ!」
■ ■ ■
四月朔日紫音は、少し焦っていた。
以前の学園試験で、紅井勇士と風宮瑠花が紅蓮奏華家の人間であると知った。
知ってしまい、それを母に伝えたばかりに、少々厄介な事態になっているのだ。
『お母様! 勇士さん達の情報を九頭竜川家に売るとはどういうことですか!?』
『全ては貴女の為です。このまま九頭竜川家に嫁ぐことになっても良いのですか?』
『そ、それは……でも! 友達の情報を売るなんて…!』
『紫音! いい加減になさい! これが「御十家」としての在り方です! いつまで綺麗事を語るつもりですか!』
『ぐっ……っっ』
『……まあ、これは貴女の将来の問題でもあります。もうしばらくはこの情報…紅井勇士が紅蓮奏華家の人間だったという証拠はここで留めておきます。……しかし、年々勢力を増す九頭竜川家にそんな中途半端な気持ちで相対しては必ず足下を掬われます。………今一度、身の振り方を考えなさい』
母の言葉が紫音の胸に突き刺さっている。
(お母様は何もわかってない! 紅蓮奏華家と武者小路家が手を組んだなら、そこに加わればいいんです!)
今回、結界を使って尾行を撒くという役回りになったのも、頑張る姿勢を見せる為だった。
だが、この程度のことで箔がつくとは思っていない。
………だから、紫音はとある策を立てていた。
それは、敢えて相手にバレる程度の絶気法を使い、相手をおびき寄せること。
……そして、それは上手く嵌った。
「おいおいおい、知ってるぜ、お前。四月朔日家の子だろ? ……まさか『御十家』を引いちまうとはなぁ」
紫音の目の前に、柄の悪い男が巨大な槌を構えて立っている。
レイピアを構え、紫音はその男に告げた。
「どなたか存じ上げませんが、貴方を捕えます」
いかがだったでしょうか?
まあまだアゲハのことは「不思議な少女がいるなぁ」ぐらいに思って頂けると幸いです。
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