第24話・・・同期_『聖』の報告_紅蓮奏華家・・・
約一週間空けてしまい申し訳ありません…。
実は『相棒とつむぐ物語』コンテスト用に三話完結の作品『ハクとコマ』という作品を書いていました…。
もう完結した作品なので、読んで頂けると幸いです。
『聖』本部の食堂。
その一角で、四人の隊員が食事をしながら雑談していた。
既に二時を回っているが、一部の隊員は敢えて昼夜逆転をさせて夜型にしているので、この時間でも起きている者も多い。
「クロッカス、戻ったらしいな。しかも『十刀流のジスト』を仲間に引き入れるだけじゃなく、『狂剣のレイゴ』まで討ち取ったとか。大成果だ」
「俺の父さん《フリージア》、クローがレイゴも倒してたって聞いて悔しがってたぜ。〝いつかレイゴは俺の手で倒したい〟っていつも言ってたからな」
「そう言えばさっきちらっとラベンダー見掛けたんだけど、自信に溢れた良い顔してたわよ。……あれは、良い女になるわ。私みたいに」
「この後の流れとしては、うちの第六隊が身柄を預かって情報を聞き出して、『士協会』に報告を上げるって感じかな…。後処理全部うちがやるんだろうなぁ、はあぁぁ」
しっかり者であり同世代のまとめ役・第一策動隊所属「プロテア」、
大雑把に見えるが意外と真面目な部分もある少年・第一策動隊所属「ザクロ」(ブローディアの弟であり、西園寺瑠璃とフリージアの息子)、
黒髪ボブの明るくて自由なギャル風少女・第二策動隊所属「ガーベラ」、
ふわふわした性格で疲労が滲み出た苦労人・第六策動隊所属「クローバー」。
いつもよく一緒にいる同期四人組だ。
「ザクロ、ブローさんは大丈夫そう?『狂剣のレイゴ』と戦ったらしいけど」
ブローディアと仲の良いガーベラが弟のザクロに聞く。
「ああ、父さんが様子見てきたけど別に骨折とかの重傷を負わされたわけじゃないからな。格上相手に気を酷使して『妖具』の瘴気も使ったから、念のため三日は第六隊の医療班の管理下に置かれるらしいけど、それ以降はいつも通り訓練とかにも参加できるって」
「よかった~」
安堵するガーベラをよそに、プロテアが白米を頬張りながら今後の予想を立てた。
「『憐山』も突然幹部二人を失って、『裏・死闘評議会』での地位も厳しくなるだろうし、『御十家』や『御劔』あたりがその隙を見計らって潰してきそうだ」
プロテアの予想にクローバーが乗っかる。
「何にしても、これから『聖』はあまり『憐山』を相手にできないだろうね。……ここで『聖』が『憐山』を完全壊滅したら、こっちにその意図はなくても手柄の独り占めになって『士協会』のパワーバランスにも影響しちゃうから」
プロテアが頷いて。
「そもそも今回はジストの裏切りがほぼ確定状態でクロッカス直属小隊が当たったから楽々討てたけど、本来は『聖』に死者が出てもおかしくない相手だからな、『憐山』は。回せる人員も限られてくる」
そこへ、ガーベラが口を挟んできた。
「まあでも、これで『憐山』から完全に手を引くとも思えないけどね! 武力制圧専門の私達第二隊か、第六隊の遊撃班ぐらいは動かすんじゃない?」
ガーベラの意見に、クローバーが渋い表情を浮かべる。
「うぅ…せめて第六隊は動かさないでほしい…。本部待機の総務班の仕事量増やしたくない……いや、瑠璃さんが決めたことなら全然受け入れるんだけど…でもあとちょっとで今の10歳組も仕事できるようになってきたからそれまで待ってくれたら…!」
「だ、大丈夫よ! 瑠璃さんもその辺考えて遊撃系も第二隊に任せると思うし!」
「ほらっ。水! 水飲め! 水!」
クローバーが苦悩モードになり、慌ててガーベラとザクロが宥める。
さながら日々の仕事で鬱になるOLのように暗くなるクローバーに他の三人が戸惑っている……と。
「お前ら相変わらずだな」
「「「「っっ!」」」」
いつの間にか四人の傍に食事を乗せたお盆を持つ湊とコスモスがいた。
風呂上りらしく、二人共いつも結んでいる髪を下ろしている。
「お、クロー! 全くいつも気配消して後ろに立ちやがってよっ!」
「座って座って!」
ザクロが笑いながら楽しそうに文句を言い、ガーベラが座るように勧める。
湊は座りながら、クローバーに言った。
「クローバー、そう暗くなる必要ないって。まだまだ『士協会』内部、特に『御十家』は内部関係がどろどろだからな。動くとしたら『御劔』の方が速い。…そして、『御劔』が動くなら、確実に『聖』が事前に掴むことができる。そうなれば、総合作業専門の第六隊の力を借りなくても、俺の第四隊主導で第二隊を動かせば済む。まあ場合によっては力を借りるかもしれないけど、そんな大幅には割かれないはずだ」
湊の言葉にクローバーは「ほんと? 良かった~」と安堵している。
そしてふと思い出したように、ガーベラが言った。
「『御劔』……か。パンジーさん、元気にしてるかな~?」
第四策動隊所属「パンジー」。
『士協会』の『陽天十二神座・第四席』の警視庁捜査零課『御劔』の上層部に潜入している『聖』のスパイである。
「パンジーならどんな状況でも上手くやれてるわよ」
「あははっ、それもそうねっ」
コスモスが簡潔に答えると、ガーベラがふふっと笑って頷く。
するとそこでザクロが湊に聞いた。
「てか、クローは寮に戻らなくて大丈夫なのか? 『変わり身人形』置いてるとはいえ、朝までには戻らなきゃだろ?」
「なに、ザクロ。そんなに俺に帰ってほしいの? ここ数日は戻ってきてもバタバタしてたからゆっくり話せる時がなかったから、こうして残ったのに…」
親切から声掛けしたザクロに、湊がわざとらしく拗ねた。
ガーベラが「あー、泣かしたー」と便乗している。
「そんなこと言ってないだろ! 心配してんだよ!」
「あははっ、ごめんごめん。最近紅蓮奏華に振り回されてて、同じ血の人間見てついからかっちゃった」
「同じ血の人間ってなんだ! つかお前が俺を小馬鹿にするのはいつものことだろ!」
「あははっ」
「あははじゃない!」
いつものザクロと湊のやり取りに、周囲は笑みを浮かべている。
「でも確かに今回『狂剣のレイゴ』がいたことは不運だったな」
プロテアが小さく息を吐きながら言うと、湊がうんうんと首を振り強く同意した。
「ほんとそれ! あいつさえいなきゃ超絶楽な作業だったのに! おかげで俺右肩の骨にひび入れられたんだからね?」
「あのレイゴ相手にその程度で済んで文句言うな…」
「肩は大丈夫なの?」
プロテアが呆れたように言い、ガーベラが怪我の安否を問う。
「うん。第六隊の医療班のおかげでもう回復してる。さっきはありがとね、クローバー」
「気にしないで。隊長のくせに怪我して第六隊の仕事増やすななんて思ってないよ」
「クローバーって隊長の俺に本当に厳しいよな」
笑顔で毒を吐くクローバーに湊が力無く苦笑する。
「そう言えば」
とコスモスが湊に聞く。
「近々衝突する『御十家』絡みの事案全てに指揮権をもらったんだって? クロー」
「あ、それ俺も気になってた。武者小路家、九頭竜川家、四月朔日家、紅蓮奏華家が絡んでくるやつだろ? 武者小路家と九頭竜川家は一触即発だったから不思議じゃねえけど、そんな複雑になるのかよ?」
ザクロも気になっていたようで聞いてくる。
それに湊は指を折りながら答えた。
「いやぁ、さっきも言ったけど結構『御十家』ってどろどろだぞ? 武者小路と九頭竜川は正に〝表〟と〝裏〟って感じで犬猿の仲だし、九頭竜川の次期頭首は四月朔日紫音にご執心で強引に婚約を迫ってるし、そこに紅蓮奏華なんてビッグネームが降って湧いて掻き乱すし……中々面倒で面白いことになってるんだよねぇ」
「新しい玩具を手に入れた子供みたいな顔になってるわよ」
「おっといけない」
コスモスに指摘されて湊が両頬を押さえる。
「クローの中ではその面倒で面白い状況の終局図まで見えてるの?」
味噌汁の豆腐を食べながらクローバーが聞く。
「……いや、どうだろ。やっぱり紅蓮奏華の情報が少ないのと……あと、愛衣がいるからなぁ。なんとも言えないんだよな…」
愛衣、その名前が出て来てコスモスが眉をぴくりとさせる。
プロテアが「なるほど」と頷いた。
「速水愛衣。第八席・強行秘匿探偵事務所『北斗』の室長か」
「同じ『超過演算』を持つ者同士、潜入先に獅童学園を選んでたんだな」
ザクロの言葉に湊が「そうだねー」と。
「俺が獅童学園に入学したのは瑠璃さんの指示だけど、まあ俺でもこの学園にしただろうな。……武者小路源得は多方面において一流だけど、誠実過ぎて子供のプライバシーを必要以上に詮索しないし」
「……速水愛衣に正体はバレてないの?」
そこへコスモスが単刀直入に聞いてくる。
他の面々もそこは気になっているようで、ごくりと喉を鳴らした。
「………さあ、どうだろうねぇ」
しかしここに来て湊がはぐらかした。
「え~、なに~? 言えないの~?」
ガーベラがみんなを代表して言う。
湊が肩を竦めて言い返した。
「バレてはないはずだけど、まだ色々微妙過ぎて言える段階じゃないんだよ。……元々愛衣の正体に気付けたのも超偶然。愛衣が『北斗』だっていう前提認識があったからこそ、今までの愛衣の言動から読み取れることもあって俺が若干リードしてたけど、……やっぱ一筋縄じゃいかなくてね…」
「ふーん」
「まあ、『北斗』の室長で『超過演算』を持つ者がそう簡単に手玉に取られるはずもないよな」
ガーベラが相槌を打ち、プロテアが考えを述べながら納得する。
「そうそう。……てかさ、俺の話よりみんなの話聞かせてよ。最近どうなの? ザクロとか『華喰悉血』使えるようになった?」
「なるかァ! その歳で理界踏破使えるお前と一緒にすんな!」
………そうして、湊は『聖』の同期達と楽しく語らって任務の疲れを癒し、時間になったので父と話して少しすっきりした顔の淡里深恋と共に獅童学園に戻っていった。
■ ■ ■
人知れず『聖』による『憐山』ジストのアジト襲撃が行われてから、一週間後のこと。
『聖』は正式に『憐山』の幹部レイゴ及びジスト・そして側近含む構成員100人以上の殺害報告をした。
こうした巨大裏組織幹部を始末した際、証拠品を提示するのがマナーだ。それは死体でも映像でも構わないのだが、レイゴの首と、ジストのアジトを提示するのみで、残りは報告書にまとめた内容だけとなった。
証拠品の提出はマナーであってルールではない。
レイゴの首にしても、紅蓮奏華家に免じてという部分が大きい。
本来なら批判が殺到するが、死体や映像から『聖』の司力がバレることもあり、そういった隠密・秘匿性によって『士協会』が支えられているのもまた事実だ。
だからこそ、情報の独占だとわかっていても他の組織も『聖』に関しては無暗に口出しができないのだ。
『聖』はこうして確固たる地位を築き、維持している。
……更に、今回に関して言えば、紅蓮奏華家が長年追っていた裏切者・レイゴこと紅蓮奏華登を『聖』が始末したことによって、紅蓮奏華家の動きが気になり〝見〟に回った勢力も多い。
■ ■ ■
「……登、死んだか。可能なら哉土の仇は私達で取りたかったがな」
紅蓮奏華、本家。
頭首である紅蓮奏華顎がたった今『士協会』から上がった『聖』の報告書を読み、椅子の背もたれに寄り掛かった。
隆起した筋肉が厳つくたくましい男性、紅蓮奏華顎。一家の頭首として事務仕事が多い身だが訓練は欠かしておらず、まだまだ剣士として現役であることを体で証明している。
顎の手元のタブレットには『聖』による『憐山』襲撃の報告書がまとめられた資料が入っている。
「そう言わないで下さい。ここはあの面汚しが亡き者となったことに安堵しましょう」
顎の横でそう言葉を添える男性の名は雲貝優銅。細身で名にある通り優しい印象の男性だ。
「そうだな。……『聖』には御礼として以前より定めていた報酬内容に加え、金額に関しては上乗せで支払うとしよう」
「畏まりました。登の首はいかがしますか?『聖』が証拠品として提出した後、現在は『士協会』の倉庫に保管されていますが」
「当然私達が引き取る。紅蓮奏華家の恥部をいつまでも放置するわけにもいかない。協会にいくら収めても構わん。……一族の墓には入れないが、最期の最期くらいは私達の手で弔ってやる」
「畏まりました」
「……しかし、『憐山』ジストのアジトを襲撃したらレイゴがいたから倒しました、か。どうやらあいつの無駄に鋭い『天超直感』が災いしたそうだな」
顎が『聖』の報告書を読みながら呆れる。
「『聖』の報告書を鵜呑みにしてよろしいのでしょうか?」
ほとんどの成果を僅かな証拠品と文書で済ませる『聖』の報告は、九割作り話というのが常識となっている。しかし成果自体は本物なので、ほとんどの者が口出しできないのだ。
雲貝の言葉を受け、顎は苦笑した。
「まあ、この『レイゴこと紅蓮奏華登は『聖』の精鋭30人で理界踏破の『華喰悉血』を使わせる暇もなく殺したので情報も何も聞き取れませんでした』というのは嘘が含まれているだろうが、ジストのアジトに登がいたのは本当だろう。……直感でジストのアジトで何か面白いことが起こると察知してお邪魔したら『聖』にジスト諸共始末された、それがおおまかな顛末であることは間違いない」
「……なるほど。結果的には己の力に溺れたわけですか。あの男らしいですね」
雲貝が肩を竦めて小さく息を吐きながら言う。
「何はともあれ、これから大きな仕事が待ち構えているこの状況で長年抱えていた膿を排除できたのは僥倖だったな」
顎が言っているのは、武者小路家と協力しての『終色』の一人、獏良を捕える計画のことだ。
「ええ。さすが誠心に溢れた武者小路家と言いますか。淀みなく話が進んで助かります」
「早い内に顔合わせをしたいものだ。『御十家』を抜けたが、やはり武者小路家や久多良木家とは懇意にしたいからな」
「……ところで」
雲貝が声のトーンを落として、あることを聞いた。
「呉之依家は武者小路家との協力について、何か言ってこないのですか?」
雲貝の質問に、顎も慎重な面持ちになって。
「ああ。裏社会に精通する呉之依家の協力は不可欠だからこちらの指示には大人しく従っているが、向こうからはまだ何も」
「…これは私のただの直感ですが、このまま呉之依家が黙っているとは思えません。必ず何か妙な申し出をしてくると構えておくべきです」
「それには私も同感だ。武者小路との協力体制に今更口出ししてはこないと思うが、独断で『人造士子』を送り込んでくる可能性もある。……好き勝手させるつもりはないが、ある程度こちらがフォローしてやらないといけないから、口出しするなら早めにしてほしいんだがな」
顎と雲貝は呉之依家のことを考え、溜息が止まらなかった。
「まあいい。清濁全てを備えてこそ紅蓮奏華だ。いかなる状況も乗り越え、我が利としよう」
いかがだったでしょうか?
同期の仲の良さを表現できていたら幸いです。
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今章の登場人物と法技などをまとめたら、次章突入です。
次章はまた勇士達が主体です。
………それと、この場を借りて改めて伝えさせて下さい。
約四年間、何の報告もなく更新停止してしまい、第四章を完結するのにも多大な時間をかけてしまって誠に申し訳ありませんでした。
感想全然返せてなくて申し訳ありません。本当に少しずつになってしまうのですが、それでも返していきたいと思っています。
ただ頂いた感想は毎日のように読ませてもらっています。悩んだ時とかに感想ページを開いて元気をもらったり、アドバイスや忠言などをしっかり受け止めて作品に昇華させてもらっています。
これからも素人なりに色々考えて頑張っていこうと思いますので、見守って頂けると嬉しいです。




