第19話・・・VSイーバ_駆け引き_正念場・・・
文章量コンパクトにして投稿頻度高めようとおもったのですが、キリがいいところまで書こうとしたらそこそこ長くなってしまいました…。
一気に読まずに途中で区切って読んで頂くといいかもしれません…。
それと感想の返信が中々進まなくて申し訳ないです。
新しく頂く感想は毎日のように目を通して励みにさせて頂いております。
ラベンダーと呼ばれた『聖』の隊員の正体は自分の娘だった。
(………深恋…っっっ)
ジストは一言では言い表せない様々な感情に心を呑まれ、口から出そうになる娘の名を必死に抑える。
激しい動悸に襲われる最中、隣に立つスターチスと呼ばれた老齢の隊員に名を呼ばれた。
「ジストよ。……先程のクロッカスとの会話は仮面に備え付けの通信機で全て娘に伝わっておる」
「ッッッ!?」
ジストの驚愕と動揺をよそに、スターチスが続けた。
「隠されていた父の思いを知った直後の再会じゃ。お主以上に娘の方が思うところはたくさんあるはず。……その娘が、溢れる感情を押し留めて強敵に挑まんとしているのだ。……一瞬たりとも目を逸らすでないぞ」
ジストはハッとし、その娘の後ろ姿をに目を凝らした。
■ ■ ■
「……久しぶり、と言うべきですかね。……イル」
相手が誰なのかを正確に認識したイーバが、深恋に向かって『憐山』でのコードネームで呼ぶ…が。
「今の私は『聖』のラベンダーよ」
「黙れイル」
急なイーバの強い口調に、深恋の目付きが鋭くなる。
「怖い怖い。そんな目もできたんですね、イル。……『憐山』にいる数カ月前までは全く感情なんて無かったのに。………『聖』に入れたことがそんなに嬉しいですか? ……答えなさい」
「……懐かしいわね、貴方の〝答えなさい〟。当時の私はその言葉に素直に従ってきたけど……もう、言いなりだった私じゃないのよ」
「ふっ」
イーバが蔑みを込めた失笑を漏らす。
「……私は変わった、とでも言うつもりですか? …………蛙の子は蛙ですね。どいつもこいつも綺麗事ばっかり!」
イーバがの纏う気量が増大する。
レイゴの狂人法によってS級レベルにまでパワーアップしたイーバの気の覇気が深恋を威圧する。
「そんなくだらない理由の為に私の出世の邪魔をしおってッッ!! 必ず殺すッッッ!!」
叫び終わるや否や、イーバは『増膨気剤』を一つ飲み込んだ。
ごっくん、と喉仏を鳴らした瞬間、イーバの身体の筋肉が一回り膨れ上がり、絶大なフィジカルを感じる体躯となる。剛筋が備わった腕・脚から生み出される力と速さはA級の強化系を軽く凌駕するだろう。
深恋は、そのイーバの能力を知っていた。
「………『筋活性』」
技名を言われ、イーバが肩を竦めた。筋肉ムキムキになったイーバが、澄ましたように肩を竦めるのは、中々シュールだった。
「貴方の前で見せたことはないのですが……ジストから聞いていたんですね。………そう、これは肉体を活性化させる薬品と私の気を調合して作った『増膨気剤』の能力の一つ、『筋活性』。………不本意にも、レイゴさんに狂人法を掛けられてしまいましたからね。いっそのこと肉弾戦特化型に振り切ってみました」
『筋活性』。
肉体活性用の薬品を体内に効率よく巡らし、拡張系雷属性のイーバの気で筋肉や筋繊維などを刺激して、一時的に三倍以上の身体能力を手に入れる能力である。
これにレイゴの狂人法が掛け合わさっているのだ。
(状況に応じて様々な能力の『増膨気剤』を使い分け、臨機応変に対応する元殺し屋……イーバ。厄介ね)
深恋がイーバの危険性を思い知っていると。
先手必勝と言わんばかりに、イーバが動き出した。その速さはS級を超えており、一瞬で深恋の視界から消えてしまう。
『いいか。イーバのような騙し討ちを得意とする拡張系士が敵に接近する時、浸透法を用いることが多い。だから見失った時は、探知法で相手の気ではなく、大気の気濃度を探査する感覚でやれ。イーバのように背後を取ることを好む輩もいるから細心の注意を払うんだぞ』
不意に、深恋の脳裏にかつてのジストからの教えがフラッシュバックした。
そして脊髄反射で探知法を用い、大気中の気の濃度を探査して違和感のある方向に向けて浮遊する九本の刀のうち五本を、突き刺すように振り下ろした。
案の定そちら側から近付いていたイーバは立ち止まり、一定の距離を取った。
イーバは舌打ちして。
「……浸透法も交えた私の今のスピードを探知するとは、中々やるじゃないですか」
探知でき、視えれば対処は難しくない。
だが、その探知法で見つけ出すことが困難なのだ。
……深恋が今、探知できたのは、過去にジストから教えを受けたおかげだった。
(………そう言えば、戦い方を教えてもらう時、よく部下の司力を例に出してたっけ…あれは……いや、今考えることじゃない)
ジストの教えの本当の意味に、深恋は脳のリソースを割きそうになって、戦闘中に行うことではないと気付き、止める。
そしてイーバの戦力を分析する。
(今のイーバは近距離タイプ。だったら!)
深恋は刀を上段に構え、併せて九本の刀も縦横無尽に構える。
「十元屍葬流『絶断鎌鼬』ッ!!」
縦横斜めあらゆる角度と形の鎌鼬がイーバを襲う。
「遠距離攻撃で詰めようってハラですか! 甘いですね!」
しかし、イーバは高められた身体能力で鎌鼬の隙間を縫い、それでも当たりそうな箇所は両手に覆った雷で鎌鼬を散らしてそのままの勢いでまた深恋への接近を図る。
……しかし。
「十元屍葬流『串刺凶』ッ!」
「ッッ!?」
既に深恋が接近していた。
イーバが《敢えて『絶断鎌鼬』に隙間を作っていたのか!?》と心から驚愕している。
そう深恋は鎌鼬の雨の中に隙をわざと作り、イーバにそこを抜くよう誘導したのだ。そしてまんまと抜けたイーバの元へ縮地法で瞬間移動の如く急接近した。その距離僅か二メートル程。
そして『串刺凶』とは、浮遊する九本の刀を縮地法で一気に相手との距離を縮め、一瞬で串刺しにする技。
……イーバは今、目の前の深恋と、周囲から迫る刀全てに対処しなければならない。
遠距離攻撃で詰めるという深恋の偽の策を見破ってしまったがために、窮地に陥った。
……かつて、ジストが言っていた。
『お前は縮地法に頼りすぎるきらいがある。それではダメだ。力任せでなく、駆け引きも行え。人が最も油断する瞬間の一つは、相手の策を見破った時だ。イーバやアルガは知能が高い分、なまじ人の策を見破った後の隙は大きい場合がある』
(……また…)
また、ジストの教えがフラッシュバックした。
「『雷の三重壁』ッッッ!!」
深恋の考えを打ち消すように、イーバが足に力を入れ後方に跳びながら叫ぶ。
雷属性の基本防御技『雷の壁』。
士としての実力が上がる度に、壁の数と壁の精度が増していく。
元A級で現S級のイーバなら、もっと多くの壁を張れるが、後方に跳んだとしても深恋との距離的に三枚が限界だったのだろう。
しかしその分、一枚一枚の壁の精度は凄まじい重厚さである。
「……っ」
A級状態のイーバが張った壁だったら気で体を覆い、防硬法で突っ込んでもよかったが、今のイーバに無暗に近付くのは危険なので立ち止まる。
あくまで、深恋だけ、である。
浮遊する九本の刀は風と気を更に凝縮して纏い、串刺しにすべく突き進んでいく。
……そして。
「ぐァッッ!」
雷の壁の中から、低い呻き声が聞こえた。
視界を遮る雷が散り消え、その中から全身に九ヵ所の深い切り傷を負ったイーバだった。浮遊する刀から距離を取り、先程よりまた離れたところにいる。
その光景を見て、深恋は分析した。
(…確実に刺す軌道のはずだったけど、切り傷だけ。……イーバの防硬法で軌道を逸らされ、刺すまでには至らず。ただ完全に逸らすことはできず、ああして深く斬ることはできた。……普通なら失血多量で失神してもおかしくないんだけど、狂人化されてアドレナリンが過剰分泌されてる所為で、まだまだ戦えそう…ね)
冷静な深恋に対し、イーバはこめかみに血管を浮き上がらせ、激怒を募らせている。
「やってくれますねぇえッッ!! イルッッ!!!」
「だから、ラベンダーよ。何度も言わせないで」
※ ※ ※
深恋とイーバの戦いを観ながら、スターチスは感心していた。
(うむ。しっかり彼我の戦力を分析できておるのう。……いくら狂人法でS級にまで底上げされたといっても、所詮は付け焼刃。S級もどき。それにそもそも『増膨気剤』という正面戦闘向けではない司力のイーバでは、狂人法を十二分に生かし切れないのは必然じゃ。例え『筋活性』で肉体を更にパワーアップしても、右手首が折れている上に、身のこなしそのものが武術を齧った程度では効力も半減。
慣れない近接戦をするS級もどき対、慣れ親しんだ剣術で挑むA級上位。……油断しない限りラベンダーの方が有利)
だが、仮面の下のスターチスの目付きは驕りなくイーバの挙動を捉えている。
(……しかし、イーバは元殺し屋として生き抜いてきた智謀と、こんな状況でも切り札を隠し持つ男だ。……当然儂は最後の最後まで手を貸さぬつもりだが…、ラベンダーよ、可能なら自分の力で決着をつけるのだ)
※ ※ ※
イーバが「ふうぅぅ」と深呼吸する。
「……なるほど。さすが、ジストが手塩に掛けて育てただけのことはあります。子供だからって力任せに勝てるはずがありませんよね」
今までは感情的な行動が目立ったイーバだが、ここにきて冷静になる。
おそらく、狂人法に脳が慣れ、本来の冷静さを取り戻したのだろう。
深恋が《少し厄介になった》と警戒心を強める。
「……貴女を殺した後、後ろの二人から逃げる為に気を取っておきたかったのですが……、仕方ありませんね」
イーバが右腕に気を込める。
まずイーバが発動したのは右手首の骨折を一時的に補強する法技、補強法。
(イーバが今まで気を覆うことで騙し騙し戦っていた右手をここにきてしっかり動かせるようにした…。つまり…)
当然、深恋はイーバの必殺技を知っている。
その深恋の予想通りの司力を、イーバが発動した。
右手に凄まじい量の気が収束していく。次第に右手は淡い雷をバチバチと鳴らしながら纏う。見た目だけなら派手さはなくなったが、その右手が内包する超濃密な気が、危険だと物語っている。
「『膨破の雷右手』。これも当然、ジストから聞いているのでしょう?」
「……」
イーバの問いを深恋は当たり前のように無視したが、指摘された通りジストから聞いていた。
拡張系特有法技に、貫穿法というものがある。
拡張系の特性は『周囲の気の吸収と増幅』。
基本的に士は体を気で覆う防硬法で防御力を高め、相手の攻撃を防ぐ。
しかし貫穿法は直撃すると同時に相手の体を纏う気の接触個所だけ効率よく吸収し、あたかも透過するように防硬法を無視してそのまま肉体にダメージを与える。
要するに、生身の肉体に気が直撃するのだ。それは士が一般人を殴るのに等しい。
これもまた、理界踏破一歩手前に部類される超上級法技である。
そしてイーバの『膨破の雷右手』は、この貫穿法と、雷属性特有の司力である『電信機』を掛け合わせた技だ。
防硬法を無視して、無防備となった相手の体に触れ、特殊な電気信号を込めた電撃・『電信機』を流し込む。雷は抵抗を受けずに一瞬で全身に回り、電気信号に込められた〝命令〟を一定時間実行する。
そうして、強制的に傀儡にするこも、機密情報を聞き出すことも、自殺を強要することもできる。
紛うことなき、イーバの奥の手である。
深恋はイーバの右手に集中する気を注意深く観察した。
(『膨破の雷右手』。正に一撃必殺の技。貫穿法の練度は文句無しの理界踏破の一歩手前。折れた右手首を補強法でなんとか動かしている状態だけど、そもそも狂人法で強化されてるから、プラマイゼロ。……弱点を上げるとすれば、強力過ぎるが故に利き手であり最も気操作に長けた右手でしか発動ができないこと、かしらね。……つまりここからは、如何にイーバの右手に触れずに倒すか、駆け引きが主体となるッ)
「十元屍葬流『剣林』ッッ!」
今度は深恋から動いた。
火・風属性特有の司力である『陽炎空』による空気の密度調整で剣の幻影を作り出し、どこに本物の刀があるか判別不能とする技だ。
続けて深恋が技を放つ。
「『串刺凶』ッ!」
『剣林』と『串刺凶』のコンボだ。
なん十本もの刀がイーバ目掛けて串刺しにせんと襲い掛かる。
(本物の刀は三本だけだけど、この全てを捌くよりかはまたなんとかして回避するはず。そこをもう三本の刀による『絶断鎌鼬』で追撃し、それを躱したところへ私自身が縮地法で接近して、残る四本で決着をつける)
勝利までの道筋を立てる深恋だった……が、
「『一面結界』」
イーバが全方位に一面だけのスモークガラスのような結界を張る。
空間に干渉し、本来は一枚張るだけで数分かかる上級技だ。気操作に秀でた士なら一分以内に張ることは可能だが、それでも複数枚張るとなれば、一枚ごとに時間が掛かるはず。それをイーバは八枚張っている。
深恋は心の中で舌打ちした。
(『串刺凶』を読んで、予め『一面結界』の準備をされてた…ッ!?)
「同じ技で二度も裏をかけると? 中々見くびられたものですね」
イーバが冷静に告げると同時に、カキンカキンと本物の刀が弾かれ、刀の幻影も半分近くが霧散してしまう。
「行きますよ」
間髪入れずにイーバが右手を下段に構えたまま異常なスピードで詰め寄ってくる。
「十元屍葬流『竜巻柱』ッ!」
全く同じタイミングで深恋も技を発動する。
空中の刀四本が急回転し、イーバの四方で四つの竜巻を起こす。これは竜巻によって豪風を起こし、体の自由を半減させる技だ。
これなら例え超強化されたイーバの身体能力と言えど、万全のスピードの出すことは難しい。
「…ッ」
イーバの体のバランスが崩れ、スピードが落ちる。
(『膨破の雷右手』に集中している所為で他の大技が繰り出し辛い! 攻めるなら今!)
「十元屍葬流『蜂斬』ッ!」
『竜巻柱』を利用した技『蜂斬』。『竜巻柱』が起こす豪風に他の五本の刀を乗せて縦横無尽に相手を斬り刺し狙う技だ。
イーバは真正面から飛んでくる刀を少し屈んで躱し、次の瞬間左右から迫る二刀を僅かに重心をずらして躱し、その次の瞬間死角から襲いくる低空の刀を跳ねて躱し、更にその次の瞬間に斜め左右と真正面から飛んでくる三刀をビリッと雷を散らせて軌道を逸らして躱す。
見事な身のこなしで躱しつつ、イーバは四つの『竜巻柱』に囲まれたままだといずれ『蜂斬』の餌食にされると考えたのか、その包囲網の外に離脱を試みるが、イーバから離れた位置にある『竜巻柱』二つが回転をやめ、別の刀がイーバの行く先に回り込んで新しい『竜巻柱』を起こす。
対処しようにもしきれない。最高度な臨機応変の剣術。これが十元屍葬流である。
(『膨破の雷右手』は対人用とはいえ、刀を壊すぐらいなら簡単でしょうに、隙を見せることと気が減ることを危惧して甘んじて躱すことに徹してる。……慎重ね。だったら)
深恋が『竜巻柱』に込める気を増やす。
(風力アップ! これで『蜂斬』の速さを上げて、隙が出たところを私の縮地法で詰め斬るッ!)
ボンッッッ!!
その刹那、深恋の『竜巻柱』四つが爆破した。
「ッッッ!?」
刀が爆破したわけではないが、その爆破によって『竜巻柱』の威力が弱まり、同時に直接操作せずに風に乗せていた五本の『蜂斬』の刀も加速を失って地面に落ちてしまう。
すると、気が付けばイーバは深恋の眼下まで低姿勢のまま迫っていた。
数瞬遅れて、深恋は何が起きたか悟った。
(これは…ッ! 多分小型爆弾を詰めた『増膨気剤』を風に乗せて『竜巻柱』の周囲を旋回させ、私が気量を増やすタイミングで爆破させた…ッ!? その隙に浸透法で身を低くして接近…ッ!)
自分が攻め切ろうとした気を込めた瞬間の急反撃。深恋は反応が遅れたと言っても、コンマ数秒の話だ。しかし強敵との戦闘では、そのコンマ数秒が生死をわける。
イーバは右手を、『膨破の雷右手』を深恋へ向けて突き出しながら、言った。
「駆け引きでこの私に勝てるとでも?」
「ッッ!!」
深恋はイーバの右手に触れないように風を巻き起こし、腕ごと軌道を逸らす。いくら防御が効かないと言っても、それは手の平の話しだ。
「甘い」
「グッッ!?」
しかしそれを読んでいたイーバが左足で深恋の右脇腹を蹴る。貫穿法は施されていなかったが、それでも不意打ちの強打は全身に響く激痛を伴った。
そして顔を歪める深恋へ、容赦なくイーバが右手を突き出す。
触れたら終わる右手。
深恋は反射的に刀を下から振り上げ、イーバの右腕の切断を狙う。
「怖いですね」
パキンッ!
「ッッ!」
だがイーバはそれも読んでいたのか、その右手を引き、刀が振り上げられるスピードに合わせて『膨破の雷右手』を再度突き出し、刀を掴んで握り壊してみせた。
刀を纏う気を貫穿法ですり抜けたのだ。そうなれば多少頑丈な刃物でしかなく、気を纏った手で壊すことは容易である。
そして今度こそ防ぐものがなくなった深恋へ、文字通り魔の手が伸びる。
……しかし。
「十元屍葬流『死散歩』」
そんな言葉が深恋の口から紡がれ、直後にイーバの右手を、深恋の左手が正面から掴んだ。
「ッッッ!? ここで無敵法ですか……ッッッ!!」
イーバが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
「貴方の言う通り……ッ、駆け引きじゃ叶いそうにないん……でッッ! 強硬手段ですッ!!」
深恋も汗を浮かべて辛そうに笑む。
十元屍葬流『死散歩』。
気を極限にまで凝縮し、他からの攻撃・干渉を遮断する凝縮系特有の理界踏破一歩手前の超上級法技、無敵法を身体と刀に纏い、相手を斬り捨てる剣術である。
イーバの右手に宿る〝貫穿法〟。
深恋の左手に宿る〝無敵法〟。
奇しくも、最強の矛と盾が激突した。
瞬時に深恋は右手に持つ刀でイーバの心臓を突き狙う。折れたとしても、僅かに残った刃の部分を活かせば突き刺せないことはない。
しかしさすがに野放しになっていた刀に気付いていたのか、その深恋の右手首を左手で掴む。深恋は全身を無敵法で覆っているので、イーバが深恋の右手首を掴んだ瞬間、濃密で重厚な気の覇気に左手が弾かれそうになってしまうが、深恋の気が左手に集中していたおかげで、イーバは歯を食いしばって掴み続けることができた。
お互い向き合い掴み合った状態で硬直する。
いよいよ以て、貫穿法と無敵法の戦いとなった。
どちらかの気が尽きれば、そこで決着である。
「イル……ッッッ!!」
イーバが怨念の籠った声を絞り出すように言う。
「駆け引きでは敵わないからってッッ!! 最初からこの状況に持ち込むことが目的だったのですか……ッッ!!」
「……さあッ、どうかしらね!」
「イル……ッッ! 貴様ッッ!!!」
間近でイーバの威圧を受けながら、深恋は内心で思った。
(……そんなわけないじゃない。……本当は躱して態勢を立て直して、トドメを刺す時に『死散歩』は使うつもりだった……。でも、駆け引きで敵わない以上、態勢を立て直してもこちらが不利。いくら昔の教えがあっても、やっぱり実戦となると話が違ってくる……だから咄嗟に、一か八かでこの状況に持ち込んだのよ)
深恋は顔では強がりつつ、心臓の鼓動はバクバクと騒々しい音を立てていた。
(………正直言って、スターチスさんがいる時点で私達の敗北はない。例え私が人質にされようと、殺されそうになっても、スターチスさんがなんとかしてくれる……)
湊がスターチスをここに残した理由は考えるまでもなく〝最悪の事態〟に備えるためだ。
(……………でも、それに甘えるなんて言語道断! ここが正念場ッ! 深恋! ラベンダー! ここで命を賭けなければ『聖』にいる資格はないッッ!)
深恋は左手に込める気の凝縮度を更に跳ね上げた。
※ ※ ※
………少し見ない間に、強い信念を持つたくましい子に変貌した娘の背中を見て、………父親は、涙を流していた。
長くなったのに決着までいかなかったです…。
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