表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
東方激動編
99/130

第99話「竜魔法」

 いきなり襲いかかってきた男たちだったが、すぐにその動きを止めることになる。突如放たれた眩い光に目を細めた瞬間、先頭にいた男が一人天高く打ち上げられたのだ。


「話を聞く気がないのは……よくわかりました」


 その光輝く聖女が、突き挙げた右拳をまるで剣に付いた血を払うように振り下ろすと、打ち上げられた男が地面に落ちてきた。生きているがピクピクと小刻みに震えている。


 その突然の出来事に、男たちは完全に動けなくなってしまっていた。その光景を見ていたクレスは興味深そうにニヤリと笑う。


「へぇ……面白い」


 そして槍を構えながら一気に駆け出すと、ソフィの隣で楽しげに尋ねてくる。


「私が半分ぐらい貰ってもいいよな?」

「それは構いませんが、殺さないでくださいね?」

「はっ! 面倒な注文だが、神官さんの頼みとあれば仕方がないねっ!」


 文句を言いながらも余裕の笑みを浮かべていたクレスは、槍を回して石突きを前に構えると武装した男たちに突撃していく。石突きで二連突きを繰り出して二人の肩を打ち据えると、男たちはサーベルを落として崩れ落ちた。その隙に槍の柄を振り回して違う男の横顔を殴り飛ばしていく。


「さぁさぁ、どんどん掛かってきなっ!」


 クレスが威勢のいい啖呵を切ると、男たちも叫びながら斬りかかっていく。しかしいくら屈強な船乗りたちでも、東の勇者とまで呼ばれる冒険者であるクレスの相手になるわけもなく、次々とその槍に打ち倒されていった。


 本来の目的であるソフィたちにもサーベルを振り上げて襲い掛かってきたが、ソフィは超過強化(リミットブレイク)を発動させて一人ずつ殴り飛ばしていく。それに合わせてフィアナやイサラたちも参戦して順調に倒していった。


「くらえぇぇぇ!」


 突然男たちの後ろから聞こえてきた叫び声に、ソフィたちが注目すると巨大な火球が宙に浮いていた。ソフィが驚いて目を見開くと、その火球は周りの男たちを巻き込みながら彼女に迫ってきていた。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 巻き込まれた男たちの悲鳴に眉を顰めるソフィ、その前に飛び出したマリアは両手に装備した盾を構えると、守護者の光盾(ガーディアンウォール)を展開した。先程洞窟内で発動した素手の守護者の光盾(ガーディアンウォール)に比べて、巨大かつ強固な光盾は飛んできた火球を完全に防ぎきる。


「ありがとう、マリアちゃん! そのまま皆を守ってあげて」

「はーい」


 元気良く返事をするマリアに対して、ソフィは微笑むと守護者の光盾(ガーディアンウォール)を回りこんで火球を放ったフードの男と対峙した。船乗りたちはいきなり起きた爆発に混乱しており、逃げ惑ったりその場にしゃがみこんで震えている。


「仲間ごと焼き払うなんて、なにを考えているの?」

「このような輩が、いくら死のうが関係ないわっ! 貴様だぁ! 貴様さえいなくなればっ!」


 男は敵意むき出しで完全に目が血走っている。ソフィは首を横に振ると腕をクロスして宣言する。


「それ以上の暴挙は決して許しませんっ! 『聖女執行セイントジャッジメント』!」


 ガントレットの宝玉がより一層光輝くと聖印が浮かび上がる。その輝きを見て、フードの男はさらに激高する。


「なぜ貴様のような小娘が、それほどの聖光を放てるのだぁ! やはり神も間違えることがあるっ! その証拠が貴様なのだ! ソフィーティア・エス・アルカディアァァァ!」


 フードの男の腕輪にはめ込まれた黒い宝石が怪しげに輝きだすと、両手をソフィに突き出しながら呪文の詠唱を始めた。


「邪悪なる竜より出でし聖者を滅する槍よ。我が……」


 男の腕輪から発せられた禍々しい黒い光は、男を包みこんで彼を何かに変貌させていく。その様子を見てイサラが驚いた様子で叫ぶ。


「猊下、避けてくださいっ! アレは竜属性の魔法です!」


 ソフィは振り向いて微笑むと右拳を握りこんだ。竜属生の魔法とは古代魔法の一種で、文字通りドラゴンの力の一端を具現化させる魔法である。シルフィート教では人の脅威になるという理由から禁呪に指定しており、遥か昔のことだが竜属生の魔法が書かれている魔導書を焚書処分している。


 そのため使い手は殆ど現存していないはずだが、目の前のフードの男は竜属生の魔法を発動させようとしていた。イサラは驚きながらもある噂を思い出していた。焚書処分を命じられた一部の聖職者がその力を失わせるには惜しいと考え、その秘術の深淵を自分の物にしたのだという。その力を使って教会の汚れ仕事を請け負った一派が、今の聖堂派の前身だという噂だった。


 フードの男の突き出した手の中に黒い槍が具現化していく。ソフィは目を細めて腰を落として力を貯めると拳に力を込める。


「モード:(ナックル)!」


 伸びていた鎖がスルスルとガントレットに消えていき、完全にガントレットのみになった。フードの男が目を見開きながら魔法を発動させる。


聖者すらを滅する槍(ドラグ・スピアリア)!」


 フードの男から射出された槍は一直線にソフィに向かって飛んでいく。ソフィはその槍に対して掬い上げるように拳を振り上げた。


「ヤァァァァ!」


 拳と槍が衝突すると激しい音と衝撃波が、近くにいた男たちやクレスを噴き飛ばしていく。クレスは空中で体勢を整えるとそのまま地面に着地した。


「よっとっ! なんだい、ありゃ!?」


 下から強い力が加わった聖者すらを滅する槍(ドラグ・スピアリア)は軌道を変え、マリアが展開していた守護者の光盾(ガーディアンウォール)を飛び越えると、大海原の処女号(オーシャン バージン)号のフォアマストを破壊しながら、そのまま山なりに水平線の彼方まで飛んで行き大爆発を巻き起こした。


 衝撃波と共に高波が発生し灯台島にも押し寄せ、アジョット船長は頭を抱えながら自分の船の惨状を叫ぶ。


「お……俺の船がぁ!?」

「竜魔法、噂には聞いてましたが……凄まじい威力ですね」


 イサラがそう呟いて呪文を発動させたフードの男に目を向けると、彼の顔面にはすでにソフィの右拳がめり込んでいた。錐揉み状に何度も回転したフードの男は、そのまま顔か地面に落ちて動かなくなった。


 ソフィが拳を払うように振り下ろすと、守護者の光盾(ガーディアンウォール)の前に立っているのは彼女とクレスだけになっていた。



◇◇◆◇◇



 その後ソフィたちは爆発に巻き込まれた者たちを、捕縛しながら治癒して回ったがかなりの被害が出ていた。最初の火球に巻き込まれた者たちはもちろん、聖者すらを滅する槍(ドラグ・スピアリア)の衝撃波に巻き込まれた者にも無傷の者は一人もいなかったのだ。


 中でもフードの男は身体的には生きていたが、精神的には完全に壊れてしまっていた。ソフィは自分の一撃によるものかと心配したが、イサラの見立てでは聖者すらを滅する槍(ドラグ・スピアリア)を使った反動だという話だった。


 彼からは話を聞くことができなくなっていたが、ソフィたちの治癒術によって何とか持ち直した者たちに事情を聞くことになった。


 彼らの話では自分たちは雇われた船乗りで、別の大陸にあるスパタルト連邦から運び込まれた荷をルスラン帝国の船に乗せ替え、帝国内に運び込む仕事をしていたということだった。運び込んだのは、よくわからない物で何かの儀式に使うと聞いていた。


 このフードの男は依頼主ではなく、ただの仲介人でスパタルトの船が帝国に入る際の偽装にも力を貸していたらしい。その話にクレスが眉を顰めると、船乗りの一人の襟首を持って問い質す。


「おい! ひょっとして、そいつは幽霊船か?」

「あ……あぁ、そうだ。船乗りは迷信深い、幽霊船に偽装すれば近付きやしないと……うぅ、苦しい」


 男を締め上げているクレスをソフィが慌てて止めると、クレスは呆れた様子で男を放して呟いた。


「どうやら私の依頼も片付いちまったようだな」


 男は咳き込んでいたが、ソフィが治癒術を掛けるとすぐに喋れるようになった。


「す……すまねぇな、あんた」

「それで何でいきなり襲ってきたのですか?」

「あぁ、それは……」


 男が東の秘密港でマリアとクリリ、そしてレオが巻き起こした騒動を話すと、マリアにはイサラがクリリにはクレスが拳骨を落としていた。レオはいつの間にか姿が見えてなくなっている。


「痛いっ! こいつら、東の港で何か積み込んでいたんだよっ!」

「何を積み込んでいたのですか?」

「よくわからないが、なんかでっかい釜だったぜ」

「大きな釜ですか?」


 ソフィが首を傾げてイサラを見ると、彼女にもわからなかったようで首を横に振る。クレスは槍をクルクルと振り回すと彼女たちに提案をする。


「とりあえず行ってみようか、見ればわかるかもしれないしな」


 こうしてクレスと聖女巡礼団は、東の港に向かうことになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ