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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
東方激動編
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第96話「クリリの大冒険」

 灯台島で大海原の処女号(オーシャン バージン)号の修理をしている間、ソフィたちは暇を持て余していた。船や灯台があるため天幕を張る必要もなく、食事の準備を進めていたマリアとフィアナも、船乗りの一人が作るので不要と言われてしまったのだ。


 ソフィとイサラは灯台の上で周辺を確認を続けていたが、フィアナは空いた時間を利用してクレスに稽古を付けて貰っていた。


 フィアナは守護聖衣(セントアムド)で盾を生成すると騎士剣と共に構えており、対するクレスは半身になり槍の穂先を下ろす形で構えている。


 稽古であるため、両者ともに身体強化は使用せずに戦うようだ。最初に動いたのはフィアナだった。


「ヤァ!」


 盾を腕と肩で固めたままクレスに突撃すると、クレスは槍をグルンと回すと石突きを前にすると盾の隅を突いた。そこは一番力が入らない箇所であり、フィアナはバランスを崩して盾を維持することができなかった。


 そして開いたガードを縫うように、二撃目がフィアナの喉目掛けて突き出された。フィアナは守護聖衣(セントアムド)の盾を消し去ると両手で騎士剣を振り上げて、クレスの槍を弾き飛ばしてから後ろに飛んで距離を取った。


 その動きにクレスは、少し驚いた様子でニヤリと笑う。


「へぇ若いのになかなかやるじゃないか」

「ふぅー」


 フィアナは長く息を吐いて騎士剣を構え直す。フィアナの剣術はかなり基本に忠実なものだったが、彼女には柔軟な思考があり、咄嗟の判断の思いっきりもよい。


 対するクレスは長い手足に柔軟な筋肉を有しており、かなり精巧で強靭な槍捌きを武器にして戦うタイプのようだ。フィアナが先程何とか防いだ二段突きも、実力差を考慮して本気で放ってはいなかった。


 それを見ていたマリアとクリリが茶々を入れてくる。


「フィー、盾の使い方が甘いよ~」

「あははは、さすがクレス姉は強いなっ!」

「貴女たちうるさいっ!」


 フィアナがマリアたちに怒った一瞬の隙に、クレスの槍がピクッと動いた。フィアナは気がついていなかったが、実戦であれば今の一瞬で終わりである。


 フィアナが意識をクレスに戻した瞬間、眼前に石突きが飛んでくる。フィアナは体を沈めながらそれを躱すと、一歩前に出ながら騎士剣を振り上げた。


「相手は槍っ! 間合いを潰せばっ!?」

「フンッ、まだまだ甘いっ!」


 しかし、その一撃は立てられた槍に防がれてしまう。フィアナの一撃は十分に重さを乗せた一撃だったが、クレスからすれば片手で受け止めれる程度である。基本的な力量(レベル)が違いすぎるのだ。


「くっ、びくともしないっ!」

「よっと!」


 クレスが槍を打ち上げると、跳ね上げられたフィアナの騎士剣が舞い上がり地面に突き刺さった。


「勝負ありだね?」

「くっ、もう一度ですっ!」


 フィアナが剣を拾って悔しそうな顔で剣を構え直すと、クレスもニヤッと笑うと槍を回して再び槍を構えた。


「いいよ、掛かってきな」



◇◇◆◇◇



 しばらくはフィアナとクレスの稽古を見ていたクリリとマリアだったが、次第に飽きてきたのかキョロキョロと周りを見回し始めた。


「この島何にもないから暇だな~」

「よしマリーア、島の中を冒険に行こうっ!」


 クリリのいきなりの提案にマリアは驚いたが、あまりにすることがなかったためその誘いに乗ることにした。マリアは荷物をまとめて置いてある場所まで戻ると、大きな背嚢から自分の肩掛け鞄を取り出す。肩掛け鞄の中には、水筒や念のために携帯食を詰めてある。一瞬盾を見たが少し島を見て回るのには必要ないと思い、背嚢からは取り外さなかった。


「よし、準備完了っ!」

「遅いぞ、マリーア!」


 クリリの装備は腰に巻いたロープとカバン、そして短剣だけである。どうやら彼女もちょっとした散策のつもりのようだ。


「待ってよっ……あれ? レオくんも来るの?」

「がぅ」


 いつの間にか側に来ていたレオにマリアが尋ねると、レオは一吠えして同意を示す。


「それじゃ、行こう~」


 こうしてマリアたちは灯台島を巡る散策に出発するのだった。


 灯台島は小さな島で、外周を歩いても一時間も掛からない程度の大きさである。施設としては灯台の他には港しかなく、北の絶壁に繋がる山と森が少しあるぐらいだった。


「何にもないね」

「変わった動物がいるぞ、獲るか?」

「え~、でも弓もないんでしょ?」

「大丈夫、大丈夫~!」


 クリリはケタケタと笑いながら駆け出して、鹿のような四足動物を追い掛け始めた。突然走り始めたクリリを追いかけるように、マリアとレオも慌てて森の中に入って行くのだった。



◇◇◆◇◇



 クリリが夢中に追いかけていたが、鹿は木々を縫うように逃げ回っている。そのためクリリでも追いきれない状態だった。


「がぅ!」


 しかしレオが掛け出したと思えば、木の幹を飛び跳ねながら鹿を追い掛けはじめた。そして、木の上から跳び降りるように翻ると、鹿の首に咬みつき確実に仕留めた。


「おーさすが、レオホル(レオンホーン)だな!」

「グゥゥゥゥ」


 レオは唸りながら首を咥え込んでおり、鹿はピクピクと動くだけでもう長くはないだろう。クリリは

手早くトドメを刺すと、腰のロープを解いて鹿を逆さ吊りにして血抜きを始める。


「手際がいいね」

「おー、狩りをしていれば当然だぞ」


 血抜きが終ると、そのままテキパキと解体していってしまう。あっという間に肉の塊に変えたあと、その辺りの葉っぱに包みながらニパッと笑う。


「今日の晩飯確保だな」

「そうだね……ところで、ここはどこ?」


 マリアが周りを見回すと、思ったより森の奥へ入って来てしまっているようだった。クリリは聳え立つ山を指差しながら答える。


「東にあの山も沿って、西に向かえば灯台があるはずだぞ」


 この島には山という非常に目立つ目印があるため、地理感覚に優れたクリリがいれば迷うことはない。マリアは彼女が一緒にいることに安堵のため息をつく。万が一マリアだけだったらこの程度の森さえ抜けれるかわからなかった。


「よし、先に進むのだっ!」

「えっ帰らないの?」


 マリアが仕留めた肉を鞄に詰めながら尋ねると、クリリは首を横に振って答えた。


「それじゃつまらないのだ!」


 クリリはニヤッと笑うと気にせず歩き出してしまった。マリアたちは再び彼女を追いかけて行くのだった。



◇◇◆◇◇



 森を抜けたマリアたちは山の麓まで来ていた。山はゴツゴツした岩が転がった岩山で木などは殆ど生えていないようだった。動物などもいないようでクリリは面白くなさそうに山頂を見つめていた。


「この山は何もいないのだ」

「急勾配だし、登るのは無理でしょ」

「がぅ」


 かなりの急勾配であり、登るにはそれなりの装備が必要だった。山を登るのは諦めマリアたちは灯台に向かうことにした。しばらく話しながら歩いても特に代り映えしない風景が続いたが、途中で山の方を見ていたクリリがあることに気が付いた。


「あそこに何かあるぞ」

「えっ? どこどこ?」


 指差された方角を見てもよくわからなかったマリアは首を左右に振る。クリリはピョンピョンっと岩山を登って行き、大きな岩のところで止まった。


「マリーア、ここだ~」

「ちょっと待ってよっ!」


 マリアが何とか登っていくと、後からレオが楽々と追い越していく。大きな岩のところに辿り着いたマリアが首を傾げる。


「何があったの?」

「ほら、見てみろ! 洞窟だぞっ!」


 クリリが嬉しそうに言うと、マリアが大岩の裏を覗き込む。大岩に阻まれて正面からは気付かなかったが、確かに人が一人入れるぐらいの亀裂がある。マリアは眉間に皺を寄せて尋ねる。


「これ洞窟? ただの亀裂じゃなくて?」

「名前なんてどっちでもいいぞ。ここに入ろう」

「えぇ、やだよ~。真っ暗じゃない! わたし、灯火(ライト)は使えないよ?」

「任せろっ!」


 クリリはそのまま岩山を駆け下りて、森に入ると再び戻ってきた。その腕には太めの枝と細い枝が、数本抱えられていた。マリアは不思議そうな顔をしながら首を傾げる。


「それをどうするの?」

「松明を作るんだぞ。ちょっと待ってろ」


 太めの枝に布と先程の解体した動物の皮を巻き付けて、ロープで巻きながら小さな枝を挟みこんで固定していく。そして木屑を集めると、腰に付けたカバンから火打ち石を取り出して火をつけた。燃える木屑に先程作成した松明を近付けて火をつける。


「出来たぞ、行こう!」

「えぇ~本当に行くの? これどこに続いているのかわからないよ?」

「大丈夫っ! 海のニオイと風の音が聞こえるのだ」


 クリリは自信満々に胸を張ると、そのまま洞窟の中に入って行ってしまった。マリアはため息をつくと諦めた様子でその後に付いていくのだった。

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