表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
東方激動編
92/130

第92話「路地裏での出会い」

 スパイシーなスープに鼻を付けたレオは驚きのあまり逃げ出してしまった。追いかけて酒場を飛び出たソフィは、レオを捜して辺りを見回した。


「レオ君、どこに行ったの?」


 辺りは少し薄暗くなってきており、大通りには仕事が終わった人々が溢れ始めていた。この中で小型犬ほどの大きさのレオを捜すのは困難だったが、それでも目立つ白色の獣が路地裏に入っていくのを目の端に捉えると、ソフィは急いでそちらに向かった。


 路地裏に入るとそこは木箱が積み上げられていた。どうやら倉庫として使われているらしく見通しが悪かったが、どうやら先は行き止まりになっているようだった。


「レオ君、どこ?」


 ソフィがゆっくりと奥に進みながら呼びかけると、木箱の陰で鼻を押さえながら悶えているレオを発見した。


「ギャゥギャゥ!」

「レオ君、大丈夫? ちょっと見せてみて」


 近くに座るとレオの鼻に触って治癒術を施していく。舌と鼻に感じていた痛みがスーッと引いたレオは、差し出されていたソフィの手をペロペロと舐めてきた。ソフィは微笑みながらレオの顔を撫でる。


「さぁ、皆が待ってるから帰りましょう」


 ソフィがレオを抱き上げて帰ろうとすると、裏路地の入り口からニヤついた男たちが裏路地に入ってきていた。如何にもゴロツキといった風貌の男たちを見て、ソフィは怪訝そうに目を細める。


「何か御用でしょうか?」

「なぁに、路地裏に美人のねぇちゃんが入ってたのを見かけてよぉ」

「へへへ、下手に抵抗はやめときな。無駄に殴られるのは、痛いだけだぜぇ?」


 下品な笑みを浮かべる男たちから、自分の右手に視線を移すとソフィはため息をつく。


「慌てていたとは言え、神器を置いてくるなんて……」

「ぐるるるるぅぅ」


 レオはソフィの腕から脱出すると、男たちに唸り声を上げる。しかしソフィは慌てて抱き上げなおした。


「レオ君、こんなところで雷撃はダメっ! 街の人にも被害が出ちゃうよ」

「がぅ~?」


 レオは納得してない感じで一鳴きする。そんなやりとりをしている間に、男たちはどんどん近付いて来ている。しかも男たちの中の一人は短剣を手にしている。


「身体強化だけで何とかなるかな……?」


 ガントレット:レリックの補助なしでは、ソフィの能力は装備時より格段に落ちる。身体強化だけで、目の前の屈強な男を三人に殴り掛かるのは少々分が悪いと言えた。


 それでも覚悟を決めたソフィが腰を落として拳を構えた瞬間、男たちの後ろから誰かが声を掛けてきた。


「アンタたち、何してるのさ?」

「誰だっ!?」


 男たちが慌てた様子で後に振り向くと、そこには褐色の美女が立っていた。鳥の羽などで装飾が施された槍を抱え、聖騎士が着るようなレザーアーマーにモルドの物と思われる羽織を着ている。そして頬にクリリと同じような模様が描かれていた。


「なんだよ、こっちも上玉じゃねぇか。一緒に楽しもうぜぇ」


 男の一人がそう言いながら女性に近付いて行くと彼女の美しい脚線が閃き、壁に吹き飛ばされた男はそのまま崩れ落ちた。


「お呼びじゃないんだよ、下種野郎がっ!」

「てっ……てめぇ!?」


 残った男たちは一斉に腰の曲刀を抜いた。褐色の女性は目を細めるとボソリと呟く。


「抜いたね? 死ぬ覚悟が出来ているってわけだ?」


 彼女は担いでいた槍を振り回しながら構える。それに対して男たちが曲刀を振り上げて襲いかかろうとした瞬間、その中の一人がくの字に曲がった。もう一人の男と褐色の女性が驚いてそちらを見ると、光輝く聖女の拳が脇腹に突き刺さっていた。


「おごぉ、うげぇぇ」


 男は苦悶の表情で崩れ落ち、もう一人の男は慌てて振りあげていた曲刀をソフィに向けて振り下ろした。ソフィは頭を守るために、反射的に右手で挙げてガードの構えを取った。


 その瞬間鋭い槍の一閃が曲刀をへし折った。そのまま槍を振り回して、ぐるんとソフィの頭の上を槍が通り過ぎると曲刀を振り下ろした男の顎を砕き割る。


「うぉあがぁぁぁ」


 砕けた顎から大量に血を流しながら男はその場で蹲った。女性はこれで終りと言わんばかりに槍を地面に突き刺すと、ソフィに向かってニヤリと笑った。


「やるじゃないか、神官さん。こりゃ助けに入らなくてもよかったかな?」

「いえ、助かりました」

「ははは、たまたま見かけて気になっただけさっ! ……んっ? その子はレオホル(レオンホーン)かい?」


 女性は興味深そうにソフィの腕の中のレオを見ると、突然ガシガシとレオの頭を撫でる。


「ぐる……にゃふ」


 いきなり撫でられたレオは不機嫌だったが、女性の手を咬んだり引っ掻いたりはしなかった。


「へぇこんなに大人しいのは初めて見たよ。こいつらは私に感謝しないといけないねぇ。私が来なきゃ今頃丸焦げだろ」

「あははは」


 その可能性もあっただけに、ソフィは乾いた笑いを浮かべる。そんなソフィにその女性は首を傾げながら尋ねてきた。


「しかし、神官さん。こんなところで何してたんだい? 正直、この街は物騒だからこんな路地裏に入るなんて自殺行為だよ?」

「この子が逃げ出してしまって、追いかけていたら……」

「あははは、そいつぁ災難だったな。住んでるのはどこだい? 送ってこうか?」


 女性はソフィを気遣って尋ねたが、ソフィは首を横に振って答える。


「いえ、すぐそこの宿屋ですから」

「そうかい、それじゃ気をつけんだよ」

「はい、ありがとうございました」


 ソフィが深々と頭を下げると、安心した女性がその場を去っていった。ソフィは顎が砕かれて呻いている男性に軽めの治癒術を施しながら


「もうこんなことしないでくださいね?」


 と窘めてから、イサラたちが待つ酒場に戻って行くのだった。



◇◇◆◇◇



 翌朝、聖女巡礼団は宿屋の店主に場所を聞いて、ハーランの冒険者ギルドに向かって歩いていた。ギルドは港の側にあるようで、朝早くから積荷を下ろす船乗りや、市場から鮮魚を運び出す男たちによって活気に溢れていた。クリリとマリアはだいぶ先行して、初めて見る船などに目を輝かせている。


「マリーア、なんかでかいぞ!」

「うん、大きな船だねっ!」


 ソフィがそんな二人を見つめながら微笑んでいる。


「なんだか二人は姉妹みたいですね?」

「二人とも、まだまだ子供ですね」

「フィアナちゃんは、マリアちゃんたちに混ざらなくていいの?」


 ソフィが首を傾げながら尋ねると、フィアナは澄ました顔をして答える。


「私はあんなことで、はしゃぐような子供ではありませんから……それに昨夜は護衛として不覚をとりましたし」


 フィアナは昨夜の襲撃時に、暢気に食事をしていたことを気にしているようだった。一方でソフィは別に気にした様子はなく微かに笑う。


「昨夜は良い人が助けてくれたし、大丈夫だったのに」

「猊下、単独行動する時は神器だけは忘れないでくださいね」


 イサラが窘めるように言うと、さすがに軽率だったとソフィは少し肩を竦めた。


「モルドの女性と言ってましたが、この辺りまで出てきてるんですね? 彼らはモルドゴル大平原から殆ど出ないのかと思ってました」

「最近は交易が盛んになって、行動範囲が拡大しているのかも知れませんね」


 フィアナが尋ねるとイサラが頷きながら答えてくれた。


「えぇ、とても流暢な共用語でしたし、モルドゴルから来た感じじゃなかったわ。でも、失敗しましたわ……名前を聞き忘れたのが心残りです。またお会いすることができればいいけど」

「人の縁は意外と強いものですから、ひょっとしたらすぐに会えるかもしれませんよ?」


 笑いながら話していると、先行していたマリアたちが手を振っている。


「聖女さま~、あの建物だよね~?」


 ソフィたちが顔を上げてマリアたちを見ると、その奥にはかなり大きな建物が見えてきた。看板には冒険者ギルドを現す剣と杖、そして翼の紋章が掲げられているので間違いなく冒険者ギルドである。


「随分と大きいね?」

「こういう大きな街は人も仕事も多いですからね。聖堂やギルドは自ずと大きくなるのです」


 ソフィは納得したように頷くとマリアたちと合流した。そして期待に胸を膨らませている彼女たちの背中を押していく。


「それじゃ、入りましょうか」

「おー! 楽しみだなっ!」


 クリリは両手を広げながら喜びを表現すると、ソフィたちと一緒に冒険者ギルドの中に入って行くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ