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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
東方激動編
87/130

第87話「横断街道」

 次の目的地を決めた聖女巡礼団は、早朝から水や食料などを買い足してモルドアンクに向かって出発していた。今度は横断街道を進むため半月ほどの道程である。


 モルドイーラからモルドアンクを繋ぐ横断街道は、馬車が通りやすいようにある程度整備されている。他の土地のように宿場町はないが隊商が行き交っているため、所々で商品の販売などが行われていた。


 モルドイーラを出発してから五日目、ソフィたちが街道を少し逸れて野営の準備をしていると、街道の方から聞き覚えがある声が聞こえてきた。ソフィたちがそちらを見ると、一台の馬車が街道を逸れて向かってきていた。御者台には見覚えのある老人が座っており、馬車の横には馬に乗ったモルドの民族衣装を着ている男性が付いてきていた。


「嬢ちゃんたち! やっぱり嬢ちゃんたちじゃないか!」


 そう声を掛けてきた老人は、以前モルドイーラの町の酒場で出会った織物商人のバロックだった。


「バロックさん、お久しぶりですね」

「あぁ、まだレオンホーンの生息地を探してるのかい?」

「いいえ、そちらはもう……今はモルドアンクに向かってます」


 バロックは頷きながら腰を掛けると、以前と同じようにちゃっかり居座り始めた。それに対してモルドの民が渋い顔をして問い掛ける。


「おい、バロック爺さん。先を急ぐんじゃないのか?」

「堅いことこと言うんじゃないわい。お前のような仏頂面と旅しとると、嬢ちゃんたちみたいな可憐な乙女と話したくなるんじゃ!」


 バロックの力説にソフィたちは苦笑いを浮かべていたが、気を取り直してモルドの青年について尋ねることにした。


「バロックさん、そちらの方は?」

「おぉ、こいつはよく護衛に雇っているザガロだ。あ~……何族だったかの~?」


 バロックが答えながら首を傾げると、ザガロはさらに渋い顔をしながら答える。


「モルダー族だ、耄碌爺が……そっちの小娘は、見たことあるな」


 ザガロがクリリを睨みながら言うと、彼女は胸を張りながら答える。


「モルガル族のクリリだぞ」

「あぁ、やっぱりモルガル族かっ! リムロの野郎は元気か?」

「お前、リムロ兄を知ってるのか?」

「なんだ、お前リムロの妹か? はっははは、全然似てないなっ!」


 その後、二人は意気投合して話し始めた。そして、ちゃっかり居座ったバロックはソフィたちの近くに野営することを決め、馬車から食材を持ってくると彼女たちに振舞いはじめたのだった。


 ソフィは食事を取りながら、東部の様子についてバロックに尋ねることにした。


「バロックさんは、ハーランの街に行ったことはありますか? 私たち東部についてはあまり知らなくて」

「ハーラン? まぁたまに行くがの。あそこは羽振りがいい街じゃな。海洋貿易が盛んで珍しい織物なんかも出回っておる。別嬪さんも多くてのぉ」


 街にいる美女でも思い出しているのか、バロックがニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「冒険者ギルドはありますよね?」

「ん? あぁ東部地区の本部があるな。とびきりデカイのがな」

「それはよかった」


 目的地に冒険者ギルドがあることが分かり、ソフィは一安心といった様子で胸を撫で下ろした。バロックは何かを思い出したように頷くと話を続けた。


「ハーランの冒険者ギルドって言えば、『東の勇者』が拠点にしてるはずじゃぞ」

「東の勇者ですか? ロビンさんみたいな感じかな?」


 ソフィは首を傾げながら呟くと、バロックはカラカラと笑い出す。


「なんだ、嬢ちゃんたち西の勇者ロビンを知っておるのか? 噂じゃ女好きらしいのぉ、他人な気がせんわい」

「あはは、東の勇者さんはどんな方なんですか?」

「ワシも会ったことはないがのぉ、確か女で凄い槍の使い手らしいぞ?」


 バロックの話にソフィは興味津々に呟いている。勇者と呼ばれるほどの冒険者が、女性ということに親近感を覚えたようだった。


「女性なんですね。会ってみたいかも」

「かかか、運が良けりゃ会えるじゃろうよ」

「楽しみです」


 東の勇者を想像しながら、ソフィはニッコリと微笑むのだった。その後もバロックの話は続き、色々と東部地区の話を聞きながら夜が更けていった。



◇◇◆◇◇



 七日後ソフィたちはバロックと別れてから、ひたすらモルドアンクを目指していた。その間にフィアナはファザーンに乗れるぐらいまで慣れていたが、マリアは相変わらず威嚇されていた。


「本当にこの馬、可愛くないっ!」

「マリアが嫌っているから、ファザーンも心を開かないのよ」


 怒っているマリアに、フィアナが慰めながら嗜める。マリアは頬を膨らませると近くにいたナタークに抱きつく。


「その子が乱暴者なだけっ! ナタークは優しいから、そんなに暴れたりしないしっ!」

「ベェェェ」


 いきなり抱きついてきたマリアに、ナタークは特に気にした様子はなく草を食べている。ヤクルは比較的温厚な動物だが、ナタークはその中でもさらに大人しい個体で、マリアは大層気に入って世話をしていた。


 そんな二人を見つめながら、ソフィとイサラは困ったような表情を浮かべていた。


「マリアちゃん、わかってるのかな?」

「いえ……あの感じはわかってませんね。私の方から機を見て伝えておきます」

「できるだけ優しくお願いしますね」


 その日の夜、イサラから告げられた事実にマリアはひどく落ち込んでしまった。この時に告げれれたのはナタークとのお別れについてだった。


 ヤクルはモルドゴル大平原を中心に荷物を運ぶのに使用される動物だが、あまり暑い場所では活動できず、これから向かう東部地区には向いていなかった。そのためモルドアンクで手放すことになっており、その方がナタークのためであると諭されたマリアは、納得できなかったがナタークのためと渋々と諦めたのだった。


 その日のマリアは天幕の中ではなく、ナタークの側で眠った。



◇◇◆◇◇



 それから数日後、モルドアンクに辿り着いた聖女巡礼団は馬商人のところに行き、モルドイーラの商人から受け取った札を見せてナタークを引き取って貰った。


 マリアは暗い顔でレオを抱きしめていたが、レオは歯軋りをしながらも大人しくしていた。どうやらソフィに「マリアちゃんが落ち込んでいるから優しくしてあげてね」と言われたのを守っているようだ。


 ナタークとお別れした一行は、モルドアンクに着いた際に目を付けていた宿屋に向かった。宿屋の前の広場までくると、弦楽器の澄んだ音が聞こえてきた。


「何の音かな?」

「吟遊詩人がいるようですね? あら、あの方は……」


 ソフィが目を細めて見ると、そこにはモルドイーラであった見習い吟遊詩人のエリザが、弦楽器を鳴らしながらリクエストを募集していた。


「エリザさんだね。こっちに来てたんだ」


 しかし彼女の客寄せでは誰も足を止めてはくれず、ポロンポロンと哀しげな音を響かしていた。ソフィたちが近付こうとすると、その前に衛兵と思われる兵士が二人ほど駆けつけてきた。


「おい、お前! 誰の許可を得て、こんなところで商売してやがるっ!」

「えっ!? 許可がいるの?」

「いいから詰所に来い! 話はそこで聞いてやるっ!」

「ちょ、ちょっと放して!?」


 どうやら許可がいる場所で無許可の商売を咎められているようで、衛兵に捕まりそうになっているようだ。ソフィは困ったような顔をするとイサラに向かってお願いする。


「先生、どうにかなりませんか?」

「仕方ありませんね。ちょっと行って来ます」


 イサラはそう言うと、衛兵に捕まりそうになって騒いでいるエリザに近付いていく。


「すみません。そちらの方は私たちの友人なのですが……」

「ん? なんだ、アンタ」


 衛兵は訝しげに眉を寄せるとイサラを睨み付ける。しかしイサラの格好や司祭の護符(タリスマン)を見ると急に態度を改めて敬礼する。


「これは失礼しました。司祭様のご友人とは……」

「ここでは商売しないように、よく言って聞かせますから」


 イサラが頼まれた衛兵たちは、お互いの顔を見合わせて頷き合う。


「わかりました。今後は気を付けるように」


 衛兵たちはそう言い残すとその場を後にする。何が起きているのかわからないエリザは、戸惑った様子で首を振っている。そこにソフィたちが近付いていき声を掛けた。


「エリザさん、大丈夫ですか?」

「えっ、あっ! ソフィさんっ!」


 突然現れた見覚えのある顔に、エリザは満面の笑顔を見せるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エリザも何かとキーマンになってくるのかな?
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