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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
東方激動編
80/130

第80話「神獣の丘」

 翌朝、聖女巡礼団が天幕の中で身支度を整えていると、クリリが天幕の中に顔を覗かせて元気良く声を掛けてきた。


「起きてるか~、飯だぞ」


 まるで昨日の出来事などなかったかのような、元気な様子にソフィは少し困惑していたが、すぐに気を取り直して微笑むと、すぐに向かうことを告げた。


 しばらくして準備を整えた後、天幕から出るとクリリが待っていた。


「お待たせ、クリリちゃん」

「お腹空いたぞ」


 クリリがくるくると回りながら、一番大きな天幕に向かって歩いていき一行はその後に付いていった。天幕の入り口でリセロが仰々しく布に包まれた何かを馬に積んでいた。


「おはようございます、リセロさん」

「ふん……お前か」


 クリリは不思議そうに二人を見ながらリセロと話し始めた。モルド語での会話だったがイサラによる通訳によると、なぜソフィを知っているのかということと、これから丘に向かうのか? と訪ねているようだ。


 リセロの方は一言二言返事をすると、そのまま馬に乗って集落(バッパー)の外に出て行ってしまった。


「どこに行ったのかしら?」

「彼は死者を葬りに行ったようです。確かモルドの民は風葬でしたか?」


 風葬とは遺体を風雨に晒して風化させる葬儀の方式で、死んだ者は自然に還るというイクタリス教の考え方によるものだった。やはりシルフィート教の彼女たちには理解出来ない鎮魂方法だったが、考え方が根本的に違うのだと無理やり納得させると、離れていくリセロをただ見つめることしか出来なかったのだった。



◇◇◆◇◇



 大きな天幕に来ると長老のモルガルが座っており、その妻のララとクリリの母のクルルが朝食の配膳を進めていた。手伝おうとしたソフィはイサラたちに止められて、大人しくモルガル長老の前に座っている。他の三人はララとクルルを手伝って素早く準備を進めている。準備が終るとクルルたちに進められえて敷物の上に座った。


 モルガル長老は、ソフィたちをジッと見つめると掌を彼女たちに向けた。


外来人(モルドダン)よ。お前たちは、お前たちの神に祈るがよい。我々も同様にさせてもらうからな」

「お心遣い感謝致します」


 それぞれ神に感謝の祈りを捧げると、さっそく朝食を取り始めた。朝食のメニューは、何かの粉を水と一緒に捏ねたものに具材を巻いた物と、何かを煮込んだ熱いスープだった。


 包むものは味を付けた肉や野菜だった。ソフィたちは最初は上手く巻けなかったため、モルガル長老たちに笑われたが徐々に慣れて食べることが出来るようになった。


 ソフィたちは食事をしながら、まずは目的だったレオンホーンの話を尋ねることにした。


「モルガルさん、レオ君……いえレオホル(レオンホーン)の生息地はどの辺りにあるんですか?」

レオホル(レオンホーン)は、ここより東に二日ほどにある神獣(レオホル)の丘を中心に生息しておる。だが、そこのチビスケとは違い成獣のレオホル(レオンホーン)は獰猛じゃぞ」


 指差されたことに気が付いたレオは、立ち上がって牙を向き出しにしながら唸り声をあげる。しかしソフィが頭に手を置いて撫でると、唸るのをやめて伏せの状態になると鼻を動かして撫でる位置を要求し始めた。


「良い子良い子」

「ふむ、聞いておったが……随分とレオホル(レオンホーン)を手懐けておるのじゃな」


 レオンホーンが人に懐くという珍しい事例に、長年モルドゴルの自然と共に過ごしてきたモルガル長老は不思議そうに見つめていた。そこに彼の妻のララが話しかけてきた。


「それに……密猟者も増えていると聞いておるのじゃ」

「あぁ、奴ら狩場を荒らすばかりか、我らモルドの民にも敵対をしておる……」


 モルガル長老は怒りに満ちた表情で歯軋りをさせている。ソフィが口を開こうとした瞬間、横にいたイサラが割って入った。


「ひょっとして昨晩の騒ぎは?」

「……奴らにやられたのじゃ! チュロは若く良い戦士になるはずだったのにっ!」


 狩りに出ていた男衆は、狩りの最中に密猟者の集団と衝突したらしい。リセロ率いるモルガル族は密猟者を追い出したが、その際にチュロは負傷し昨晩帰らぬ人となったのだった。


「奴らは許せんっ! 戦士たちを出して八つ裂きにしてくれるわっ!」


 モルガル長老の皺だらけの瞼から薄っすらと見える瞳には、復讐の炎が燃えさかっていた。ソフィがちらりとクルルの方を見ると彼女は心配そうな顔をしていた。おそらくこの場にいない夫のモイヤーや、息子のリセロが戦士たちの指揮を取るのだろう。


 ソフィはイサラを一瞥するが、視線に気が付いたイサラは軽く首を横に振った。手を貸してはどうかというソフィにイサラが否定した形である。この件は宗教や風習といった文化や考え方が複雑に絡んでおり、彼女たちが迂闊に手が出せる案件ではなかったのだ。


「そんなワケで貴女たちを連れていける男衆がいないの」

「いいえ、そんな……私たちは場所さえ教えていただければ問題ありません」


 済まなそうに言うクルルに、ソフィは首を横に振って答えた。クルルの横にいたクリリは立ちあがり、ソフィの隣まで歩くと振り返って自身満々に宣言する。


「安心しろっ! ソフィーたちは、クリリがきっちり連れていくからっ!」


 こうして聖女巡礼団は、引き続きクリリの案内で神獣(レオホル)の丘に向かうことになったのだった。



◇◇◆◇◇



 様々な文化的な違いを痛いほど感じたモルガル族の集落(バッパー)を出発して二日が経過した頃、聖女巡礼団は目前に大きな丘とその周辺にある深い森を発見した。荷台から顔を出したソフィは、その丘を見つめながら呟く。


「あれが神獣(レオホル)の丘?」

「そうだぞ」


 羊馬車(ようばしゃ)に横付けしていた馬上のクリリが答える。ソフィが視線を下ろすと地面には人と思われる白骨が無残に転がっていた。


「密猟者の死体?」

「そうですね。もう彼らの縄張りに入っていると思っていいでしょう。注意しないと……」


 レオンホーンは一匹の雄を中心とした群れを構成し、縄張り意識もかなり強いと言われている。死体が転がっているということは、すでに縄張りの中に入っている可能性が高かった。ソフィは荷台に体を戻すと、そこにいたマリアに言う。


「マリアちゃん、一応戦闘になるかもしれないから準備をしとこう」

「はーい!」


 マリアは返事をすると、自分の背嚢から盾を取りはずして装備する。ソフィも鞄からガントレットを取り出して右手の装着した。レオは仲間の臭いを察知したのか、落ち着かない様子で唸り声をあげている。


「話を聞いてくれればいいのだけど……」


 ソフィがそう呟くと、ガントレットの鎖が何かに反応して動きはじめる。その様子にソフィは荷台から顔を出して叫ぶ。


「フィアナちゃん、先生っ!」

「女神シルよ、大いなる慈悲で悪しき者から我々をお守りください……守護者の加護(ガーディアンベール)!」


 ソフィの言葉に反応してフィアナはナタークを止め、イサラは守護者の加護(ガーディアンベール)を発動させた。イサラを中心に光の防壁が展開され、近くに寄っていたクリリを馬ごと包み込んだ。その瞬間、左斜め前から巨大な雷の流れがソフィたち目掛けて飛んできていた。


 その雷の潮流はイサラの守護者の加護(ガーディアンベール)に阻まれ周辺に撒き散らされるが、それに驚いたナタークは大きく仰け反ると反動で転倒してしまい、羊馬車(ようばしゃ)は横倒しになってしまった。


「うわっ!?」

「きゃぁ!」

「落ち着け、ファザーン!」


 同様に驚いたクリリのファザーンだったが、彼女が巧みに手綱を操り落ち着かせていく。倒れた羊馬車(ようばしゃ)からはフィアナやイサラが投げだされ、ソフィとマリア、そしてレオは荷台の後から飛び出した。


 そして馬上のクリリが、攻撃が飛んできた北西の方角を見つめて大声で叫ぶ。


レオホル(レオンホーン)だっ!」

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