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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
北方暗躍編
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第53話「追跡」

 ソフィとイサラが人の波を掻き分けて、現場に着くと酷い有様だった。爆発の原因はわからないが衝撃で十人以上は血塗れで倒れているし、体の一部が欠損している重傷者も多い。爆心地には原型を留めていない死体が転がっている。


「先生は軽傷者からお願いします。私は重傷者をっ!」

「わかりましたっ!」


 ソフィとイサラはすぐに行動に移り、それぞれ負傷者に治癒術を掛けていく。ソフィは落ちている腕を拾い上げると、近くで腕を失った男性に駆け寄り、切断面を無理やりくっつけると治癒術を施して接続させる。


「ウギャァァァァ!」


 神経が繋がる痛みに男性が悲鳴を上げるが、ソフィは意に介さず処理の終えた男性を置いて、すぐ側で倒れている女性に駆け寄る。この女性は片脚を失っていたが、辺りを見回しても彼女の脚が見当たらない。


「どれかわからない……仕方がない!」


 ソフィは歯をくいしばると、女性の脚の切断面に手を当てて、そのまま傷を塞いで止血する。彼女の今後の人生を考えれば脚を戻したい。しかし彼女だけを優先していては、助けられる者も助けられなくなってしまう。


 その後マリアとフィアナが合流し、衛兵隊も集まってきたので彼らと協力して、次々と治癒術を施していく。しかし爆心地から逃げた民衆の下敷きになった人々など、最終的に負傷者は軽傷を含めてかなりの人数に及んだ。


 一通り応急処置が終わったソフィたちは、ようやく安堵のため息をつく。


「ふぅ……なんとか終わったみたいね」

「そうですね、応急処置ですが……後は他の神官たちに任せてもいいかと」


 無尽の体力を誇るソフィはともかく、イサラは治癒術の使いすぎでかなりの疲れが見えていた。そこにマリアが駆け寄ってきた。


「聖女さまっ、イサラ司祭、大変だよっ!」

「どうしたの、マリアちゃん?」

「路地裏でクローベさんとカーティスさんが倒れてるっ! 特にカーティスさんが重傷で、聖女さまじゃないとっ!」

「えっ!? どこ? 案内してっ!」


 ソフィは驚いて目を見開くと、マリアに案内を頼む。マリアは頷くとソフィたちを連れて、路地裏に向かって走りだした。


 路地裏に入るとクローベは頭を押さえて座り込んでおり、額を切ったのか血を流している。そして倒れているカーティスの脇腹には、大振りのナイフが突き刺さっていた。


「マリアちゃんは、クローベさんを!」

「りょーかい!」


 マリアはクローベの頭に治癒術を掛けていく。ソフィはカーティスの脇腹からナイフを抜くと、傷を押さえながら女神シルの息吹(ブレス オブ シル)を掛ける。治癒術の緑の光が輝くと、土気色だった彼の顔に赤味が戻ってきた。


「うっ……くぅ……」

「これで、とりあえず大丈夫なはず」


 ソフィが一息つくと、マリアの治癒術で復活したクローベがうろたえながら叫ぶ。


「お、お嬢様がっ! レーティアお嬢様が攫われてしまいましたっ!」



 ◇◇◆◇◇



 その後、フィアナや衛兵を含めて話し合いが持たれた。


 爆発が起きた時、クローベとカーティスはちゃんとレーティアを保護していた。そして、襲いくる人の流れを避けて路地裏に入ったところを、クローベは後ろから殴り飛ばされ、カーティスも後ろから刺されたのだという。


 意識を失いそうになりながらも、クローベは最後に麻袋に詰められていくレーティアを見ており、爆発を含めて計画的な犯行であることが窺えた。


「犯人は傭兵風の男二人ですな? 衛兵隊! 直ちに捜索を開始せよっ!」


 衛兵隊の隊長は、そう叫ぶと隊員たちを共に捜索に向かっていった。管轄は違うがフィアナも緊急事態ということで提案をしてくる。


「私も詰所に戻り、聖騎士団を出動させます。多くは非番ですが残っているものもいるはず、猊下も一緒にお戻りください」

「私のことは結構ですから、フィアナさんは行ってください」

「しかし……」

「早くっ! 大司教としての命令です」


 ソフィに強く言われて怯むと、フィアナは悩んだ末に敬礼してその場をあとにした。


「クローベさんたちとイサラ先生は、少し休んでいてください。私はレリ君で追ってみます。マリアちゃんはまだ動ける?」

「まかせてー」

「がぅ!」

「私も……」


 イサラも同行しようとしたが、先程の騒動で治癒術を使いすぎたため消耗が激しい様子だった。これは負傷から復活したクローベやカーティスも同様である。ソフィは首を振りながら、肩掛け鞄からガントレットを取り出すと装着していく。


「大丈夫、休んでいてください。レリ君お願い、レーティア様を捜して!」


 ソフィがそう言いながら右手を振ると、鎖がスルスルと伸びて北側を示した。


「それじゃ行って来ます。行こう、マリアちゃん」

「はーい……って、うわっ」


 マリアが返事をすると、レオが背中を駆け上がって頭の上に乗る。ソフィはそれを見ながらクスッと笑い、北に向かって駆け出したのだった。



 ◇◇◆◇◇



 爆発があった一角は衛兵隊によって封鎖が始まっていたが、その他の区画ではリント祭の真っ最中だった。屋台の爆発は希にあることで、今回の事件もただの事故と認識されているのである。


 その為、路地裏から出ようとしたソフィたちは、早々に人混みに進路を阻まれてしまった。


「急いでいるのにっ!」


 ガントレットの鎖は人混みの先を示している。突破する方法を考えながら、狭い路地裏で天を見上げた。建物に挟まれて切り取られたような青空が綺麗で、こんな状況でなければ眺めていたいと思えるほどだった。


「仕方がない……飛ぼうか」


 ソフィはそう呟くと、ガントレットをモード:(ウィップ)に切り替えて、屋根の出っ張りに絡ませた。そしてマリアを抱き寄せると告げる。


「マリアちゃん、レオ君をちゃんと持っていてねっ!」

「ひゃぁあぁぁぁぁ!」


 マリアがレオを手で押さえたのを確認すると、ソフィは鎖を巻き上げながら屋根の上に飛び乗った。レオはマリアに押さえ付けられたのが気に入らないのか、マリアの手を噛んでいる。


「いたたた……レオくん、噛まないで~!」


 ソフィが周りをキョロキョロと見回して、人混みで埋まった道の向こうに渡れるルートを捜す。西側に大きな建物が見えた。どうやら聖堂の一つのようで、この辺りでは一際目立つ立派な建造物だった。


「あれなら……マリアちゃん、行くよっ」

「うぇ!?」


 ソフィはマリアを小脇に抱えると、超過強化(リミットブレイク)を発動させて、その聖堂に向かって駆け出した。二人分と一匹分の重量に超過強化(リミットブレイク)中の強い踏み込みのせいで、駆け抜けていく屋根がベキベキと捲れ上がっていく。しばらくは雨漏りで悩むかもしれないが、今は緊急事態である。


 ソフィは聖堂の塔のように高い部分に視線を合わせると、そこに向かって跳躍した。


「うひゃぁぁぁ」


 マリアは叫びながらレオをぎゅっと抱きしめていたが、ソフィは空中で右手を振って聖堂の塔に鎖を絡めると、振り子のように揺られて大通りを飛び越えた。そして道の向こうの屋根の上に着地した。着地した家の屋根は今までで一番激しく破壊されている。


「ごめんなさい、後で修理費を持ってきますからっ!」


 ソフィは独り言のように謝るとマリアを抱えたまま、鎖に導かれるまま屋根の上を走っていく。



 ◇◇◆◇◇



 その後、何とか北門まで辿り着いたソフィたちだったが、鎖はさらに北を示していた。つまりレーティアを攫っていった男たちは、すでにフォレストを出ているということだ。


 祭期間中は対応仕切れないためか、門は開き放たれており、誘拐犯も問題なく通り過ぎることができたのだろう。現状を北門の門番に伝えたあと、レーティアを追って北進したソフィたちだったが、いくら進んでも一向に犯人の姿が見えてこなかった。


「急がないとっ!」


 焦りながらそう呟いたソフィは、地面を踏みしめてさらに加速をしようとしたが、マリアの足が止まってしまっていた。


「せ……聖女さま……わたし、もう無理……」


 体力には自信があるマリアだったが、さすがにこの距離をソフィと並走するのは無理があったようだ。ソフィは足を止めて、肩で息をしているマリアの頭を優しく撫でる


「マリアちゃんはちょっと休んでいて、私だけ先行するからっ! レオ君はマリアちゃんをお願い」

「がぅ!」


 まだまだ元気そうなレオは、マリアの周りをグルグルと回りながら吠える。ソフィはニコッと笑うと、マリアたちに背を向けて北に向かって駆け始めた。

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