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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
北方暗躍編
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第51話「公爵令嬢」

 公爵と別れ会場に戻ったソフィには、イサラの指示で聖騎士たちがガードに付いた。その後は取り囲まれることもなく比較的穏やかに過ぎていき、前夜祭を何とか切り抜けることが出来た。


 閉会の言葉が終わり公爵と一言二言交わしたあと、ソフィたちはそのまま聖騎士団の宿舎に戻ってきていた。


 聖騎士団の宿舎前に到着した馬車に、留守番をしていたマリアとレオが駆け寄ってきた。


「おかえりなさい、聖女さまっ」

「ガゥガゥ!」


 レオはソフィの周りをクルクルと回って、服に付いた料理の臭いを嗅いで唸り声を上げる。まるで「お前ら何を食ってきた?」と言わんばかりの態度である。マリアも何かお土産はないのかと、期待に眼を輝かせている。


「マリアちゃん、公爵さんからお土産をいただいてきたよ~」

「ケーキのようですよ」


 イサラが箱を掲げて見せると、マリアたちは今度はイサラを取り囲んではしゃぎ始めた。しかし、マリアは何かを思い出したように頬を膨らませると、文句を言い始める。


「そう言えば、ここの人たち酷いんだよっ! 聖女さまがいないからって、夕食が堅いパンと薄いスープ、あと謎の肉だけだった! こんなことならわたしも行けば良かった~」


 昨夜はソフィたちもいたことから、食事もそれなりのものが用意されていたが、今夜はソフィたちが前夜祭に参加するため夕食は断ったので、通常のメニューになったようだ。その言葉に、フィアナは心外だという表情で釈明する。


「聖騎士団は教会の機関ですので、信者の方々の寄付金などで運営しています。そうそう贅沢などできないんですよ」

「それは良い心がけですね。フィアナさん」

「きょ、恐縮ですっ!」


 ソフィに褒められると、フィアナは少し顔を赤くして俯いた。マリアは納得できないという顔をしていたが、ソフィに「明日のお祭りで一杯食べれる」と窘められたことで大人しくなる。レオは虎視眈々とイサラの箱を狙っていたが、彼女がキッと一睨みするとソフィの影に隠れてしまった。


「さぁ中に入って、皆でいただきましょう」


 ソフィのその提案に一同は頷き、聖騎士団の宿舎に戻っていった。



 ◇◇◆◇◇



 翌朝ノックの音でソフィが目覚めると、すでに起きていたイサラが扉の向こうの人物と何やら話していた。ソフィは身を起こすと畳んであった服を着ながら、チラッとマリアの方を見てみる。


 マリアはまだ寝ており、その上ではレオが丸まって寝ていた。レオは顔を上げて扉の方を一瞥すると、興味なさそうに欠伸をして再び丸まる。


 簡単に身だしなみを整えたソフィが扉に近付くと、丁度話が終ったイサラが振り向いた。


「起きられましたか、猊下。おはようございます」

「おはようございます、先生。……今のは?」

「フィアナでした。猊下に用があるとかで、公爵家の方が来られたとのことです」


 ソフィは首を傾げて、昨夜会った金髪の青年の顔を思い浮かべる。


「公爵家……アル様の使いの方でしょうか?」

「どうでしょう? 応接室に通してあるそうなので、準備が整ったら向かいましょう」


 ソフィは頷くとベッドに座って、髪を梳くなどの身だしなみを整え出す。イサラはベッドで寝ているマリアの横まで行くと、両手を腰に当てて怒鳴りつける。


「シスターマリア! いつまで寝ているのですかっ!」

「ふにゃ……おーもーいー」


 イサラの声に眼を覚ましたマリアは、腹部に感じる重みに苦しそうな声を上げた。


「レオ君、マリアちゃんから退いてあげて」

「がぅ!」


 レオは軽く吼えるとマリアの上から跳び降りて、ソフィの足元で甘え始めた。


「お客さんが来ているようです。早く準備をなさい」

「はーい」


 腹を押さえながら身を起こしたマリアは返事をすると、桶に水差しで水を張って顔を洗い始める。しばらくして準備が終ると、一行は客の待つ応接室に向かった。


 廊下ですれ違った女性の聖騎士たちが挨拶をしてきたので、ソフィは微笑みながら軽く手を上げて答えた。いつもは鎧姿か騎士のジャケットを着用している彼女たちだったが、今日は少し華やかな平服に身を包んでいる。


 おそらくリント祭に参加するためだろうが、聖騎士団は「堅いな」と思っていたソフィは、普段からそんな感じにすればいいと思っていた。それでも数日接した感じでは、帝都の聖騎士団よりはフォレストの街の聖騎士団のほうが親しみやすさがあった。


 応接室は宿舎のエントランスにある。ここは女性宿舎であるため基本的に男子禁制だが、エントランスと応接室は入ることができるのだ。もちろん許可なく立ちいれば、袋叩きの上つまみ出される。


 ソフィたちがエントランスに現れると、フィアナが応接室の前で待っていた。


「おはようございます、皆さん」

「おはようございます、フィアナさん。お客様はそちらですか?」

「えぇ、どうぞ」


 フィアナは頷きながら扉を開けて、ソフィたちに応接室に通すのだった。



 ◇◇◆◇◇



 応接室に通されたソフィは、少し驚いて目を細めた。目の前に仁王立ちした金髪の美少女が立っていたのだ。歳はマリアより幼いかもしれない。整った顔立ちはどこかで見たことがある気がする。その後には老齢と言って差し支えない老紳士が控えていた。


「お待たせしました。初めまして、ソフィーティア・エス・アルカディアです。こちらはイサラ司祭と修道士のマリア」


 ソフィの紹介でイサラとマリアは会釈をする。それに対して仁王立ちしていた少女ではなく、後の老紳士がお辞儀をする。


「お初にお目にかかります、大司教猊下。こちらはレーティア・フォン・フォレスト様です。公爵閣下の妹君であられます。私は執事長のクローベ・シー・オウミルでございます。お見知りおきを」


 その紹介にソフィは驚いた表情を浮かべた。確かに言われてみれば、目の前の少女の顔は昨夜会ったアルバート・フォン・フォレスト公爵と似た雰囲気があった。


「レーティアお嬢様、ご挨拶を」

「なんで?」

「公爵家より大司教猊下の方が、上位でございますので……」

「えっ、本当にっ!?」


 レーティアは少し驚いた顔を浮かべていた。公爵家の上には通常皇帝しかいないため、彼女の人生の中で出会った人物は、自分と同格かその下しかいなかったのだ。少し取り繕った後、レーティアはドレスのスカートを端を掴み美しい所作でお辞儀をした。


「初めまして、レーティア・フォン・フォレストです。げ……猊下におかれましては、ご機嫌麗しく」


 咄嗟のことでも礼儀正しく挨拶できるところが、レーティアの育ちの良さが窺えた。公爵家の令嬢として幼い頃から礼儀作法を叩きこまれているのだろう。


「お二人とも、よろしくお願いしますね。どうぞ、そちらへ」


 ソフィは微笑みながら答えると二人にソファを勧める。レーティアはソフィに勧められるままソフィに腰を掛けたが、クローベは彼女が座ったソファの後に立っていた。ソフィは気にしないが立場を慮ったのだろう。


 聖女巡礼団の三人はレーティアの対面のソファに座り、フィアナは護衛としてソフィの後に立っている。


「さっそくですが、どのような御用向きでしょうか? アル様……いえ、公爵様から何か?」

「いいえ、お兄様ではなく。わたくしが用があって来ましたの」

「レーティア様がですか?」


 予想外の答えにソフィは首を傾げた。目の前の少女とは今日初めて会ったのだ。一体どんな用があるのか、想像も付かなかった。


「げ……げい、猊下は……」


 言い慣れない言葉だからか、何度か言い淀むレーティアにソフィはクスッと笑う。


「ソフィで結構ですよ、レーティア様。公式の場ではありませんし、普通に話していただければ」

「それは助かりますわ、ソフィ様はお優しい方なのですね」


 レーティアが笑顔を見せると、ソフィも釣られて一緒に微笑む。


「それでレーティア様の御用とは?」

「本日は祭り見物に行かれるのでしょう? それにわたくしも同行させていただきたいのです」

「レーティア様をですか? 私は構いませんが……」


 ソフィはそう言いながら、後で控えているクローベを一瞥する。その視線を感じたクローベは静かに頷いた。どうやら公爵家としては了承済みのようだ。


「そうですね、では一緒に行きましょうか?」

「本当!? ありがとうございます、ソフィ様。さすがお兄様が……いえ何でもありませんわ」


 最後の言葉に『真実の瞳』が若干反応している。しかし特に害意は感じなかったため、ソフィは軽く首を横に振ると微笑みながら答える。


「お祭り楽しみですねっ」

「はいっ!」


 レーティアは歳相応の笑顔で答えたのだった。

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