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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
西方巡礼編
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第30話「勇者再来」

 ファランの義妹ラナが、侯爵の子ハグヌに無理やり言い寄られていることを知ったソフィたちは事態の解決に乗り出した。


 手始めにアリーナの修道院からマリアとレオを呼び出し、ラナの孤児院に拠点を移したソフィたちは、早くも子供たちに取り囲まれていた。子供たちは全部で七人、男の子は先程ファランを呼びに来ていた子を含めた四人、女の子は三人である。


 ソフィは男の子にも女の子にも人気だったが、イサラは怖そうな雰囲気のせいなのか誰も寄り付かず、マリアとレオは一緒になって遊んでいる。


「お姉ちゃんたち、どこから来たの?」

「ねぇ、この子って、いぬ? ねこ?」

「いつまでいるの?」


 周りでピョンピョン跳ねながら聞いてくる子供たちに、ソフィは微笑みながら答えていく。


「私たちは帝都から来たんですよ。その子はレオンホーンと言って、どちらかと言えば……」


 ソフィが確認するようにイサラを一瞥するとイサラは


「猫ですね」


 と答えてくれた。そんな感じで質問攻めにあっていると、ラナが子供たちを窘めるように叱りつけた。


「こら、アンタたち! ソフィ様たちを困らせないのっ!」

「わぁラナ姉が怒った~」

「きゃ~逃げろ~」


 子供たちは蜘蛛の子のように散ると、ラナがソフィに頭を下げてきた。


「ごめんなさい、ソフィ様。あの子たちお客さんが珍しいみたいで、はしゃいでしまって……」

「別に構わないわ、ラナさん」


 ソフィは笑いながら答えると、逃げていった男の子の一人が壁に隠れながらからかってきた。


「そんなに怒ると、ロディに嫌われるぞ~」

「なっ、なんですってぇ!」


 ラナが顔を少し赤くして反論すると、男の子は一目散に逃げていった。


「ふふふ、みんないい子ですね」

「えぇ、まぁ……お恥ずかしい」


 優しい目をしたソフィに褒められて、ラナは照れたように微笑んだ。



◇◇◆◇◇



 その日の午後、ソフィはイサラを連れてギントの冒険者ギルドを訪れていた。解決すると自信満々に宣言したものの、そのための情報がまったく足りないのが現状だった。それに手を打たなければいけない案件が一つあったからである。


 位としては皇帝に(つぐ)とされる大司教の方が高いのだが、さすがに侯爵家が相手となれば、殴って終わりというわけにもいかないのである。


 冒険者ギルドはどこも同じような造りになっているもので、受付用のカウンターがあり依頼の掲示板(クエストボード)には、新人からベテランまでの冒険者が自分にあった依頼を捜している。そして、この街のギルドでも食事が出来る酒場が併設されていた。


 元冒険者のイサラが主に情報を集めると、現侯爵のカルロ・エフ・ギントは五年ほど前に当主になったらしい。引退した先代侯爵は民からも慕われた立派な方だったが、現侯爵は珍しい動物を収集するのが趣味の変わり者とのことだった。さらには悪徳商人と組んで、認可品の不正を働いているとの噂もあった。そして、その息子のハグヌ・エフ・ギントはさらに評判が悪く、領主の子であることを笠に着て、やりたい放題している放蕩息子であるらしい。


「先代様が可哀想だぜ。街外れの別邸に軟禁状態って話だしな」

「なるほど、ありがとうございます」


 イサラはお礼を言うと、情報提供者に銀貨を一枚置いてソフィの元に戻ってきた。そして、今まで集めた話をまとめてソフィに伝える。


「先代侯爵には、会っておいたほうが良さそうだね」

「えぇ、あのクソじじ……いえ、タドリー司教に頼めば会えると思います。確か二人は友人だったかと」

「それはよかった。後は……っ!?」


 ソフィたちが話していると、一人の青年がいきなりソフィの対面の椅子に腰を掛けた。


「やぁ美しいお嬢さんたち、俺と一緒に飲まないかい?」


 眩しい笑顔を浮かべながら、声を掛けてきた青年の顔にソフィは見覚えがあった。


「確か……ロビンさんでしたか?」

「あれ~俺と会ったことあったっけ? 君みたいな美人なら絶対忘れないと思うんだけどなぁ?」

「ちょっとロビン、すぐに女の人に声を掛けるのやめろって言ってる……アレ、貴女?」


 彼を追いかけるように周りに集まってきたのは、魔法使い、神官、剣士の女性だった。彼女たちもソフィを知っている様子に、イサラは怪訝そうな顔で尋ねる。


「どなたですか?」

「アリストの街で会った西の勇者一行です」

「あぁ……猊下に不浄な手で触ったという……どうやら、まったく懲りてなかったようですね」


 魔法使いのローナ、神官のコレット、剣士のリーン、そして勇者のロビン、これが西の勇者と呼ばれているパーティだ。彼らは許可なくソフィたちの座っていたテーブルに腰を掛けると、そのまま話し掛けてきた。


「やっぱりアリストにいた神官の子じゃない! ほらロビン、謝んなさいっ!」


 ローナはそう言いながら、手にした杖でロビンの後頭部を殴る。それに対してロビンは頭を押さえながら抗議する。


「いてぇな、この乱暴女! 何で俺が謝んなきゃいけねぇんだよ?」

「アンタが、アリストの街で酔っ払って絡んだの彼女よ!」

「えっ、マジで? まったく記憶にないんだが……とりあえず、すまなかった」


 潔く頭を下げたロビンに、ソフィは驚きながらも微笑むと


「いえ、気にしてませんよ」

「そうか、そうか! いや、やはり美しい女性は心も大らかだ、どこぞの乱暴女と違ってなっ!」

「な、なにぃ!?」


 喧嘩を始めたロビンとローナをコレットが仲裁している間に、リーンが声をかけてきた。


「しかし、奇遇だな。前はあまりゆっくり話せなかったが、この街には何をしに来たんだ?」

「私たちは巡礼の旅をしています。この街へはその途中で寄りました。貴女たちは依頼(クエスト)ですか?」

「いや、終わって戻ってきたところさ、この街は我々のホームでね」


 ソフィは少し考えたあと、鞄の中から小袋を取り出してテーブルに置いた。


「それでは皆さんは、いまお暇ということですね?」


 その一言に仕事の気配を感じたのか、ロビンとローナは喧嘩をやめて椅子に腰をかける。


「何か依頼かい? 美人の頼みなら断りたくないんだが、俺らへの依頼は高いぜ?」


 ロビンがウィンクをすると、ソフィは小袋から一枚の金貨を取り出してロビンの前に置いた。ロビンは置かれた金貨を手にして一瞥すると首を傾げた。


「見たことない金貨だな、偽物じゃないだろうな?」


 ローナやコレットもそれを覗き込んだ。その瞬間、コレットが驚きの声を上げた。


「せ……聖アルカディア金貨じゃないですか!? ちょっとロビンさん、て……丁寧に扱ってくださいっ!」


 聖アルカディア金貨 ── 流通しているルスラン金貨の数倍の価値があると言われている金貨で、皇帝の許可の下シルフィート教会が鋳造した祝福された金貨とされる物。手にするためには多額の寄付が必要とされ、貴族や大商人ぐらいしか持つことが許されていない。


 この金貨はソフィが大司教に襲名した時に記念として作られた物だった。


「依頼を受けていただけるなら、この金貨をそれぞれに一枚ずつ差し上げます」


 ソフィはそう言いながら、他のメンバーの前にも一枚ずつ置いていく。


「い……一枚ずつ!?」


 西の勇者一行は食い入るように身を乗り出したが、ローナが深呼吸をすると皆に落ち着くように言う。


「ちょっと待って、その話……絶対ヤバイ奴でしょ!? 誰かの暗殺とかそんな感じの!」

「そ……そうだな、確かに美味い話には裏があるっていうしな」


 その回答にソフィが少し困った顔をすると、イサラが金貨を回収してから、ロビンに手を向けた。


「それでは、この話は終わりです。それも返してください」

「いや、ちょっと待ってくれっ! 依頼内容を先に聞かせてもらえないか?」

「受けないなら、お聞かせできませんので」


 ロビンが返すか返さないか迷っていると、リーンがイサラに手を差し出す。


「面白そうだ、私は受けるよ」


 その言葉にロビンは、金貨を手にした右手を突き上げて答える。


「お、俺も受けるぜっ!」

「本気なの? ロビン!?」

「あぁ、美人の頼みは断らないのが俺の信条だ」


 ローナは呆れた様子で深くため息を付くと、イサラに手を差し出した。


「仕方ないわね。アンタたちがそう言うなら、付き合ってあげるわ」

「それじゃ……私も……」


 おずおず手を差し出すコレット。イサラはソフィを一瞥してから頷くと、彼女たちの手に聖アルカディア金貨を一枚ずつ置いた。


 ローナはその金貨を握り締めると、身を乗り出して尋ねる。


「それじゃ、聞かせて頂戴! その依頼とやらを!」


 こうして酒場の雑踏の中で、ソフィは彼らに依頼内容を伝えるのだった。

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