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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
西方巡礼編
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第23話「引き裂く爪」

 急に眩いばかりの光を発したソフィに、山賊たちは目を見開いて立ち止まった。強化の度合いに応じて輝きが増す身体強化だが、ソフィの使う超過強化(リミットブレイク)は、およそ三倍程度の強化がされている。


「ぐるるるるる! がぅ!」


 レオは唸りながら雷の矢を六つ展開すると、それを山賊たちに向かって発射する。発射された雷の矢(ライボルト)は二人の山賊に当たって吹き飛ばすと、レオはもう一人に向かって飛び掛り爪で引き裂いた。


「ぎゃぁぁぁぁ!」

「おい、そいつは大事な商品だ、生け捕りにしろっ!」


 倒された山賊の悲鳴の後ろから、ギルースの無茶な命令が聞こえてくる。


 それを皮切りにソフィたちも動き出した。ギルースの方を向いた男の横面に、ソフィの一撃が入ると森の中まで吹き飛んでいく。


 身体強化を発動させたマリアは、盾を構えたまま姿勢を低くして走ると、山賊の脛を盾で叩き割って転倒させる。脛を砕かれて転がりまわる山賊に対して、冷静に盾を叩きつけて沈黙させる。


 イサラは手近の山賊を一人殴り倒すと、ギルースの隣にいる片目が髪で隠れている男を目で追いながら呟く。


「あの男は……どこかで?」


 初手で六人を打ち倒された山賊たちは、すでにニタついた顔が消えて独特の緊張感を醸し出していた。山賊に身を落としたとしても彼らは元傭兵なのだ。


 ギルースも馬上から命令を出していく。


「こいつら手強いぞ、三人一組でいけ! そっちの光ってる奴は、四組で当たれっ!」

「おぉぉ!」


 山賊たちは命令通り三人一組になると、それぞれ近い相手に向かっていく。しかも身体強化を発動させているため、まずはマリアが劣勢になってしまった。


「お、お前ら卑怯だぞっ! こんな可愛い子に寄ってたかってっ!」

「うるせぇ、このクソガキがっ!」


 山賊たちは粗いながらも連携を取って攻撃をしてくるため、マリアは両方の盾で必死に防いでいくしか手段がなくなってしまった。イサラ曰く彼女は格闘術のセンスがあまりないため、躱しながら攻撃するような器用な真似ができないのである。


 そんな彼女にイサラは、ため息をつくと救援に向かおうとする。


「まったく修練をサボるからです……よっ!」


 駆け出そうとした瞬間、目の前に三人の男が邪魔するように割り込んできたので、問答無用で一人殴り倒した。しかし残りの二人が一斉に攻撃してきたので、後ろに飛び退いて距離を取る。


 その頃ソフィは、十二人の男たちに取り囲まれていた。ガントレットの鎖の結界で近付かせていないが、盾持ちがいるため鎖の攻撃も防がれてしまっていた。


「モード:(ナックル)!」


 このままではジリ貧と思ったソフィが強行突破を図ろうとした瞬間、山賊たちはソフィの動きを止めるべく、網のような物を投げ込んできた。


「きゃぁ!」


 ソフィの短い悲鳴にイサラが一瞬気を逸らすと、その隙をついた山賊たちの一撃を受けてしまった。


「……くぅ!」


 左の二の腕から血を流しながら後ずさるイサラに、勝利を確信した山賊たちは再びニヤついた表情を浮かべる。


「おいおい、あんまり傷つけるなよ? 商品にならないだろ?」

「あぁ、わかってるぜ」


 男たちの下品な言葉にイサラは舌打ちをすると、右手で出血する左腕を押さえながら向かってくる山賊たちと対峙した。


 一方、攻撃を捌き続けていたマリアの腕も、悲鳴を上げようとしていた。疲労軽減や防殻系の法術を発動させようとしても、連続攻撃を防ぐことが精一杯で発動の間を作ることが出来なかったのだ。


「こ、このままじゃ……!」


 マリアが諦めそうになった瞬間、彼女の背後から頭の上に何かが飛び乗ってきた。


「な、なに? って、いたたたっ!」


 生暖かいものが頭の上に乗ったかと思えば、何かが食い込んでくる痛みで悲鳴を上げる。


「がぅ!」

「えっ、レオくん!?」


 この刺さるような痛みは、マリアの頭の上でレオが爪を立てている痛みだった。突如現れた白い獣に山賊たちが驚いていて攻撃の手が緩んだ。その瞬間、レオが咆哮を上げると口の前で収束した雷の束が、マリアに襲い掛かっていた山賊たちを薙ぎ払った。


「ぎゃぁぁ!」


 突然頭の上から放たれた閃光に驚いたマリアだったが、頭の上のレオを軽く撫でると感謝の言葉を口にする。


「ありがとう、レオくん」

「がぅ!」


 そのまま視線を仲間たちの方に向けると、イサラが二人組みの連続攻撃に晒されていた。


 彼女は攻撃を躱しながら、自身で治癒術を施して血を止めて応急処置をすると反撃に移る。山賊の大振りの振り下ろしを躱すと、指の第二関節を立てて山賊の喉に突き込んだ。喉が潰され声も出せずに転げまわる山賊を横目に、怯んだ山賊の一人に向かって、一歩踏む込みながら顎を突き上げて打ち倒した。


 そして倒した二人に目もくれず、イサラはそのままソフィの元に走った。


「猊下っ!」


 その瞬間、ソフィを囲んでいた山賊たちの間から眩い光が放たれたのだった。



◇◇◆◇◇



 網に絡め取られてしまったソフィは、追い詰められていた。絡みついた網のせいで上手く動けず、引っ張られて倒されるのを何とか耐えている状態だった。


「へへへ、もう動けねぇだろ」

「大人しくしなっ!」


 山賊たちはニタニタと笑いながら、ソフィの周りを取り囲んで汚い言葉を浴びせてくる。しかし、そんな言葉には耳を貸さず、ソフィはこの窮地を脱出することだけを考えていた。


「この網を何とかしないと……そうだ!」


 その時ソフィの脳裏には、この戦いが始まった時のことが思い出されていた。拳を解いて指を曲げると力を込める。そして、切り裂くイメージを固めてから叫ぶ。


「お願い、レリ君……モード:(クロー)


 そのソフィの言葉に呼応するように、ガントレット:レリックの宝玉に聖印が浮かび上がり、眩いばかりの輝きを放った。鎖が腕に巻きつくと、ガントレットが荒々しい形状に変化していき、指先に光の爪が現れた。


「切り裂いてっ!」


 ソフィがそう叫びながら右手を振るうと、頑丈に編みこまれた網はいとも容易く引き裂かれ、網を引っ張って男たちは尻餅をついていた。


 脱出したソフィはその隙を逃さなかった。上空に跳び上がると右腕を振り上げて叫ぶ。


「モード:(ハンマー)


 再び聖印が輝くとガントレットの形が変わり、右拳を中心に巨大な光の拳が現れた。


「えぇいっ!」


 ソフィが振り下ろした拳が地面に当たった瞬間、強烈な衝撃波を発生させて集まっていた山賊たちは吹き飛ばされたのだった。着地したソフィにイサラとマリアが駆け寄ってくる。


「猊下、ご無事ですか?」

「うん、私は大丈夫! 二人は怪我してない?」

「この子が爪を立てるから頭が痛いですっ!」


 若干涙目のマリアが雷撃で、ボサボサになった頭を下げてソフィにレオ見せる。


「がぅ!」

「レオ君も無事みたいねっ」


 全員の無事を確認したソフィは、ギルースの方を向いて右の拳を突きつける。


「貴方の仲間は、あとそれだけですよ? 無益な争いはやめて、罪を悔い改める気になりましたか?」


 彼女の周りには三十人以上の山賊が倒れており、ギルースの周りには十人程度の部下しかいなかった。ギルースは顔を引きつかせて叫ぶ。


「ふざけんなっ! 何なんだ、テメェらは!」


 ソフィは優しげに微笑むと、その問いかけに答える。


「私たちは、聖女巡礼団! 女神シル様の大いなる慈悲を伝え導く者です」


 まるで理解できないものを見たように震えるギルースは、隣にいたキースに怒鳴りつける。


「おい、キース! なに涼しい顔をしてやがる! 高い金を払ってんだぞ、働きやがれっ!」

「断る……契約時に女子供は斬らないと言ったはずだ」


 キースと呼ばれた男はきっぱりと断わった。ギルースの顔はみるみると赤くなっていく。


「なっ! ふざけんなよ、テメェ! 何が女子供だ! ありゃ、どう見ても化け物だろ! てめぇの専門のなぁ。クソがぁ、もう金も払わねぇからなっ!」

「好きにしろ……お前らとの契約は終了だ」


 キースは馬を翻して離れていく。しかし、一度だけ振り返り


「一応、忠告してやるが……戦おうと思っているならやめておけ、貴様では勝てんぞ」


 と忠告を与えて、そのまま離れて行ってしまった。その様子を見ていたイサラがボソリと呟く。


「まさか……キース?」

「先生、どうしたんですか?」

「いえ、何でもありません。それより、どうやら説得に応じるつもりはないようですよ?」


 イサラの言葉にソフィが前を向きなおすと、ギルースは馬から飛び降りると手にした戦斧を振り回す。


「やかましいっ! 俺が相手だ。この化け物めっ!」


 予想通り耳を貸さなかったギルースに、小さくため息をつくと拳を構えた。


「モード:(ナックル)!」


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