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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
西方巡礼編
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第21話「進路変更」

 レオンホーンの襲撃で、荷物持ち用の馬に逃げられてしまった聖女巡礼団は、今後の進路のことで途方にくれていた。当初予定していた道のために用意してあった食糧や水が、馬に積んであったからである。


 イサラは馬が逃げた方角を見つめながら眉を顰める。


「困りましたね……いつもの野営の用意は、シスターマリアが持っているので大丈夫ですが、このまま進むには水と食料が足りません」


 マリアは背嚢を下ろして中を調べている。背嚢の中には水が三日分、食料が五日分入っていた。ソフィとイサラもそれぞれ一日分持っているが、元々の予定では十日ほどは人里などがなく、水や食料の確保が可能かが不透明なのである。


「上手くやり繰りして……六日ぐらい? うわっ!?」

「がぅ~」


 マリアが食料の数を数えながら答えると、後からレオンホーンに飛び掛かられた。マリアが驚いて落とした食料を、レオンホーンは恐ろしい速さで奪い取ってソフィの後に隠れてしまう。


「あぁ、わたしの食べ物~!」

「あら、お腹が空いてたの? レオ君」


 ソフィは微笑んで撫でながら勝手に付けた名前を呼ぶ。イサラは困ったような顔をして尋ねる。


「猊下、名前を付けられたのですか……そのレオンホーンをどうするつもりですか?」

「何かに追われてたみたいだし、安全な場所まで連れてこうかと思っているけど」

「……そうなると、さらに選択肢が狭まりましたね」


 イサラが呆れた様子で言うと、マリアはレオに向かって


「ちょっと返しなさいっ!」

「がぅ! ぐるるるるぅ!」

「怒ってる! さっきはあんなに可愛かったのにっ!?」


 食事を邪魔されたレオは鬣を逆立てて唸り声を上げる。ソフィは柔らかく微笑みながらマリアを窘める。


「マリアちゃんには、私のを分けてあげるから……ねっ?」

「ぐぬぬ……」


 マリアはガクッと肩を落としながら背嚢に戻ると、確認のために出した水や食料を詰め込んでいく。


「その子を連れていくとなると、今食べられてしまった分を考慮しても、補給なしで動ける範囲は三日ぐらいになりますね。一度、サコロに戻るか……そのまま進んで何とか自給自足するか」

「う~ん……いっそのこと、東から進むのはどうかな?」


 ソフィの提案にマリアは元気良く手を上げる。


「は~い、わたしは賛成です~! 東のルートなら三日でギントの街に着けるらしいしっ!」

「山賊が出たらどうするんですか?」


 イサラが冷静に尋ねるとソフィは少し考えてから、右手のガントレットを握り締めて


「強行突破?」


 と、少し照れた表情をしながら答えるのだった。



◇◇◆◇◇



 こうして山賊が棲むというヤトサー山の麓ルートを、選択することになった聖女巡礼団は、少し戻ってから東のルートを進むことにした。


 前衛は相変わらずマリア、中衛には急な襲撃に対応するためにガントレットを装備したままのソフィ、そしてその足元にはレオンホーンのレオが大人しく付いてきており、すぐ後には徒歩になったイサラがいた。


 しばらく進むとヤトサー山が見えて来ており、正面には木で組み上げられた砦のような建造物が見えてきた。それを見つめながらイサラは深いため息をついた。


「何とか見つからないように進みたいと、思っておりましたが……あれは関所ですね」

「こんな山奥に?」


 ソフィが首を傾げながら尋ねると、イサラは首を振って答える。


「帝国のものではありません。山賊が勝手に作ったものでしょう。この距離だともう見つかってるかもしれませんね……ほら、来ましたよ」


 イサラの言葉にソフィが砦の方を見ると、扉が開いて何人か出てきたようだった。マリアは背嚢を下ろすと盾を外して装備する。しばらくして汚い革鎧に剣や槍を装備した山賊風の男たちが、彼女たちのところまで来て大声で怒鳴りつける。


「おい、てめぇら何者だっ! どこから来た?」

「私たちは、各地を巡礼の旅にまわっている聖女巡礼団です。サコロの町からギントの街に向かっています」


 怯えた様子もなく自然に答えたソフィに、山賊たちは逆に驚いた顔をしてお互いの顔を見合わせる。


「こいつ……状況がわかってねぇんじゃねぇか?」

「まぁいいじゃねぇか! 俺は、あの後の気の強そうな女が好みだぜ」

「俺はその若い女がいい!」

「げぇ、じゃそのお子様かよ?」


 などと勝手に彼女たちの値踏みを始める山賊たちに、イサラは眉を顰める。


「十人ですか……構いませんね、猊下?」

「そうだね、友好的な話し合いは望めそうもないし」

「わかりました……光輝(シャイニング)!」


 イサラは頷いた瞬間、いきなり山賊たちに向かって光輝(シャイニング)の法術を放った。光輝(シャイニング)は、軍隊の信号にも使われる強い閃光を放つ玉を打ち出す法術である。


「な……なんだ!? ぎゃぁっ」

「うぁ……がぁ!」


 目が眩んだ山賊たちは、為す術もなく倒されていく。結局、光輝(シャイニング)の目眩ましから一分も経たないうちに山賊たちは全滅していた。内訳はソフィが四人、イサラが三人、マリアが一人、光に驚いたレオが放った雷の矢(ライボルト)にやられたのが二人である。


「イサラ司祭、光輝(シャイニング)を使うなら、先に言ってからにしてっ!」


 若干閃光にやられて涙目のマリアが文句を言うと、イサラは小さく首を横に振って答える。


「文句を言いながら、ちゃんと反応してるじゃないですか。偉いですよ、シスターマリア」

「ギリギリ! 本当にギリギリ目を閉じるのが、間に合っただけだから!」

「まぁまぁ、マリアちゃん」


 ソフィは興奮しているレオを、撫でて落ち着かせながらマリアも宥める。


 その後、聖女巡礼団はその山賊たちを彼らが持っていたロープで縛り上げると、そのままその場に放置して砦に向かった。扉が閉まっていたため、モード(ナックル)で扉を打ち壊し中に隠れていた二人を倒すと同様に縛り上げる。そして、先程倒した者たちも合わせて一箇所に集めて砦を占拠してしまった。


「おい、てめぇら! 放しやがれっ!」

「いてぇ……いてぇよぉ」


 山賊たちは文句を言う者やうめき声をあげている者など、様々な反応だったが縛られていては、何も出来ないので次第に大人しくなっていった。


「せっかくなので、この砦お借りしますね? 明日には出て行きますから」

「はぁ?」


 ソフィが微笑みながら頼むと、何を言われているのか理解できなかった山賊は、素っ頓狂な返事をする。ソフィは特に気にせずイサラたちのところに戻ると、イサラが砦の中から出てきた。


「猊下、食料や水などは少量しかありませんね」

「お宝とかもなかったです!」

「そうなると、やっぱりここが本拠地じゃないんだね」


 この砦はあくまで街道を封鎖するための前線基地であり、大山賊ギルース団のアジトは別にあるようだった。


「とりあえず全て没収しておきましょう。彼らが飢えても問題ありませんが、猊下がお腹を空かせては大問題ですから」

「えぇ!? ダメですよ、先生。それじゃ泥棒じゃないですかっ!」

「わかりました……では、彼らに許可を取ってきますね」


 イサラはニコッと微笑むと、指を鳴らしながら山賊たちの方へ歩いていく。ソフィは慌ててイサラを止めた。


「わかりました! わかりましたから……最低限! 最低限だけいただきましょう」

「猊下がそう言われるのでしたら、仕方ありませんね」


 イサラは説得に応じたので、ソフィは安堵のため息をついた。


 しばらくして気絶した山賊たちが起きて騒ぎ始めたので、イサラは眠りの精霊術を使ってまとめて眠らせてしまった。


 本来であれば眠りの精霊術は、興奮している相手には効果が薄い。しかし彼女は癒しの法術と組み合わせることで、興奮状態を落ち着かせて眠らせていた。このような複合術式は非常に難しい上に時間が掛かるのだが、相手が縛られて動けないことからこの方法を使用したのだった。


「猊下、先にお休みください。あの小屋を使おうかと思いましたが、正直猊下が泊まるには耐えないと判断しました。天幕を用意しましたのでそちらへ」


 イサラが指差した小屋は山賊たちが使用していた小屋なのだが、あまりにも部屋が汚すぎたのだ。ソフィはニコリと微笑むとイサラにお辞儀をする。


「はい、後で見張りを交代するので起こしてください」

「わかりました」


 こうして聖女巡礼団は、砦で一夜を過ごすのだった。



◇◇◆◇◇



 翌朝イサラとマリアが起きてくると、ソフィが朝食の準備をしようとお湯を沸かしていた。慌てた二人はすぐに朝食の準備を交代して、ソフィはレオと共に山賊たちの様子を見張っているように言われてしまった。


「仕方ないなぁ、レオ君」

「がぅ!」


 ソフィが山賊たちの様子を見に来ると、よほど深く眠らせられているのか山賊たちは揃って眠ったままだった。


「特に異常なしだね」

「がぅ」


 しばらくボーっと眺めていると、マリアがソフィを呼びにきた。


「聖女さまっ、朝食が出来ましたよ~」

「はーい。レオ君、行こう!」

「わぅ!」


 一鳴きしたレオと共に、ソフィは朝食を取るためにイサラの元に戻るのだった。

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