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放浪聖女の鉄拳制裁  作者: ペケさん
【南方聖戦編】
109/130

第109話「古城崩壊」

 落ちていたリュートを目撃した瞬間、唖然としたソフィの意識が少女から離れた。閃光が輝きソフィは目を細めると、避けている時間はないと悟り右腕を前に突き出した。


「モード:(シールド)!」


 ガントレットの鎖が螺旋を描きながら急速に伸びて盾を形成する。ガントレットの持つモードチェンジの中で、完全に要塞化してしまう(ルーク)を除けば最も防御力の高い(シールド)。その頑強な盾が少女が放った閃光を防ぐ。閃光の力に押されながらも、それを防ぎ切ったソフィはカタルフを睨みながら叫んだ。


「カタルフ司教! エリザちゃんをどうしたのっ!?」


 突如激昂したソフィに、カタルフはまったくわからないと言った風に首を傾げる。


「エリザ? はて……誰のことじゃ?」

「とぼけないで! このリュートを持ってた子のことよっ!」


 ソフィが指差したリュートを見て、カタルフはようやく思い出したのか小刻みに頷いた。


「あぁ、あの連絡員の娘か……丁度条件が良かったのでな、使わせてもらったよ」


 何の感情も感じない冷たい言葉に、ソフィは「何に使ったのか?」とは聞けなかった。それを聞いてしまったら、もう彼女が帰ってこない気がして怖かったのだ。


 ソフィは歯噛みすると、モード:(ナックル)に切り替えて拳を構える。


「まずは……あの子をなんとかしないと」


 そう呟くのと同時に地面を蹴ったソフィは少女が放った閃光の下を潜り抜け、少女との間合いを詰めると右拳で顎を砕くように突き上げた。


 ソフィの一撃によって打ち上げられた少女は、天井に激突すると瓦礫と共に落ちてきた。


「ヤァァァァ」


 ソフィは再び地面を蹴って落ちてくる少女に向かって飛び掛かった。そして彼女の腹に右拳を叩き込むと同時に、身体を捩りながら地面に投げ捨てるように振り回した。


 ソフィは地面に叩きつけた少女を睨みつける。巻き上がった粉塵によって姿は見えないが、相変わらず殴った感触が人のものとは違い、確かな手応えを感じられなかったのだ。


 落下していたソフィは足元に防壁を展開すると、それを蹴って空中から再び高く飛び上がる。


「お願い、レリ君っ!」


 身を翻しながら右腕を振って、鎖を少女に向けて伸ばすと粉塵の中から少女が飛び出してきた。やはり大したダメージは受けていないようだった。少女の手から光の刃が伸びており、ソフィを斬り裂こうと腕を振り上げていた。


 ソフィは天井を蹴ると一気に加速して、右手を突き出してモードチェンジする。


「モード:(ハンマー)


 拳の先に形成された光の拳によって少女の光の刃を防ぎ、そのままカウンターで身体ごと地面に押し潰した。床が砕け散りクレーター状になっている中心で、少女はようやく動かなくなっていた。


 ソフィの攻撃で巻き起こった粉塵で、吹き飛んでいたカタルフが何とか立ち上がると、目の前に飛び込んできた光景を見て絶望を露にする。


「なっ……なっ……なんじゃと、そんな馬鹿なっ!?」


 ソフィはそんなカタルフにゆっくりと近付いていくと、悲しそうな顔をしながら尋ねる。


「一つだけ聞かせてください。貴方の実験の犠牲になった者を元に戻す方法はありますか?」

「くっははははは、まさかあの娘を助けるつもりか? 無駄じゃ、無駄じゃ! そんなことが出来るわけがない! ……それこそ奇跡でも起こさない限り無理じゃろうよ」


 カタルフはソフィを馬鹿にしたように大笑いをしていた。しかしソフィは気にも止めず、その言葉について考え始める。


「奇跡……」


 ソフィがそう呟いた瞬間、彼女の後ろから爆発音が聞こえてきた。彼女が驚いて振り返ると、倒したはずの光輝く少女が立ち上がっていた。その光は今にも消えそうにぐらい儚いものになっている。


 立ち上がってくるとは思ってなかった少女に、驚いたソフィが咄嗟に右手を構えるとガントレットの鎖が勝手に盾を形成しようと鎖が動き出す。しかし、その前に少女の掌から閃光が放たれてしまう。


「……間に合わないっ!?」


 ソフィはダメージを覚悟して身構えたが、その閃光はソフィの横に逸れて通り過ぎる。その瞬間、扉が開け放たれてイサラたちが部屋に雪崩れ込んできた。


「猊下、御無事ですか!?」

「……先生?」


 一瞬だけイサラたちを見たソフィだったが、すぐに少女に視線を戻した。しかし少女は閃光を放った状態でピクリとも動かなくなっており、身体の発光も完全に消えていていた。先程まで感じていたプレッシャーも完全に消えている。


 何かの答えを求めてイサラの方を向くが、彼女の顔は蒼ざめていた。ソフィは彼女が向けている視線を追って振り向く。そこには……


「なっ!?」


 カタルフが……正確にはカタルフだったものがそこに立っていた。彼の上半身は失われており、下半身だけがそこに立っていたのである。先程の閃光に巻き込まれて、声も出さずに絶命していたのだ。あれほどの野望を語りながら、あっけなく死んでしまったカタルフの遺骸を、ソフィは哀れみと悲しみが混じったような瞳で見つめる。


 そして、顔を上げると奥にあった『神魂の大釜』も見事に引き裂かれていた。これほどの大穴が空いてしまえば釜としての本分を全うすることはできないだろう。あまりの出来事にソフィが立ち止まっていると、再び背後からイサラの声が聞こえてきた。


「猊下っ!?」


 ソフィが慌てて振り向くと、今度は少女が積み上げられた塩が崩れるようにボロボロと崩壊していく最中だった。ソフィたちが近付いて確かめてみるが、その塩の固まりはそのまま崩れ去ってしまった。


「猊下、いったい何があったのですか?」


 イサラの問いかけに、ソフィはこの部屋で起きたこと聞いたことを話した。聖堂派が企てている恐ろしい計画、先程の少女の話、エリザのリュートの話をする。特にエリザの話には、仲良くしていたマリアやクリリが驚いていた。


 そんな話をしていると、ソフィがあることに気が付いて不安そうに尋ねる。


「先生、キースさんは?」

「そうでした! 猊下、キースが重傷で……猊下のお力が必要なんです」

「えっ!? わかりました。急ぎましょう」


 ソフィは一度だけ振り返るとエリザのリュートを見て躊躇したが、その時には大釜や天井が崩壊し始めていたので、仲間たちと共にその部屋を後にするのだった。



◇◇◆◇◇



 マリアたちが戦っていた鎧の集団は、ほとんどが消し炭になっていた。走りながらマリアに尋ねると、レオが短い時間だったが雷獣化して蹴散らしたとのことだった。ソフィが驚いてマリアの頭の上のレオを褒めると


「にゃふ~」


 と自慢げに鼻を鳴らすのだった。


 一行はそのまま広場を走り抜けて聖堂に続く階段の下まで来ていた。しかし聖堂の壁が崩落したらしく瓦礫が階段を埋めていた。


「そんな崩れているなんて……キースっ!?」


 階段の近くに倒れていたキースを心配したイサラが叫んだ。その声を聞いたソフィは短く息を吸い込むと右拳に力を入れて構える。


「どいてくださいっ! モード:(ナックル)!」


 聖印が輝き鎖が消えると、ソフィは超過強化(リミットブレイク)を発動させて拳を瓦礫に叩きつけた。かなり本気で殴ったらしく、巨大な瓦礫は放物線を描いて聖堂中央まで吹き飛んでいった。


 階段が通れるようになると、イサラが慌てた様子で駆け上がっていく。ソフィたちもその後に続いた。


「キース!?」


 いち早く聖堂まで上がってきたイサラが、先程までキースがいた場所に駆け寄った。そこには瓦礫が山積みになっていたが、一緒に倒れてきたらしい女神シルの石像が彼を瓦礫から守っていた。イサラは女神シルの感謝の念を込めて祈りを捧げる。


 ソフィもキースに駆け寄ると、すぐに治癒術を施す。引き千切られていた左腕も戻り、キースの傷はみるみると治っていく。まさに奇跡とまで呼ばれる治癒の力で彼は一命を取り止めたが、血を失い過ぎたのか意識を失ったままだった。


 治療が終ったところで、周辺から何かが崩れるような音が聞こえてきた。度重なる破壊に古城が耐えれなったのだ。この聖堂は特に破壊が酷かったので、すでにボロボロと崩れ始めている。


「マリアちゃん、キースさんをお願い」

「はーい、フィーとクリリは盾をお願い」

「わかった」


 マリアは手にした盾をフィアナとクリリに手渡すと、レオは彼女の頭の上からソフィの足元に移動する。そしてマリアはキースを軽々と担ぎあげて肩に乗せる。


「よいしょっ!」


 普段から巨大な荷物を背負っている彼女にとって、細身のキースなど軽いものである。


「とにかくここから離れましょう!」


 ソフィの提案に一行は頷くと、崩れていく古城の中を入口に向かって走り始めるのだった。

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