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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
9/44

9.美味しいご飯を食べましょう


※次回からブラック(?)度が上がります。ご注意ください。







「―――国光くん。さっきから君の背中から出る事が出来ないんだが」

「あ、あああ当り前だろうがー!おま、こんな整形失敗した熊さんなのかゴリラなのか分からんモンスターの相手させられるわけ無いだろうが!」

「しかしこのままだとブスがぶすっとやられてしまう」

「あ?舐めんな。ブスはな、やれば出来るんだよ頑張れるんだよだからお前は馬車の中に引っ込んでろ!」

「国光くん、」

「なんだ!」

「手、震えてる…」



―――しょうがないだろ、俺は剣道部でも柔道部でも空手をやっていたわけでもない。

野球とかサッカーとか、そんな活気のあるとこに所属した経験も無い、帰宅部なんだ。家帰って水戸黄門観るかお前の部活が終わるのを待つのが俺のスタイルだったんだぞ。


「……べ、つに。アレだし。寒いだけだし」


大丈夫、覚悟を決めろ。それに言うだろ、あにょれ……あ、アドレナリンがいっぱい出てると痛みを感じないって。だから多少の怪我は大丈夫。突っ込めば何とかなる。大丈夫、大丈夫……。



「この――――!」






―――

―――――

―――――――――


「―――に、みつくん。…くにみつくん、国光くん!」

「ふぁ!?」

「国光くん、飲食店で寝ないでくれたまえ。…気持ちは分かるが…」

「え!?あ……ああ、そっか……夢か…ごめん……」



さっきまでのどたばた戦闘を夢の中で繰り返すとか、トラウマ化してるだろこれ……。


―――でもしょうがないよなぁ…散々過ぎたし…ブスなんて今教会で神父さんに治療してもらってるし、モールはその付添、姫様は隣の宿屋で寝てる。……仲悪い癖に、やたらと文(錫杖振り回して打撃に専念してた)と相性良かったな…ぶっちゃけ姫様の功績がデカイ。


俺なんて文の手を引っ張って逃げ惑ってたからな。剣を振るって倒したのはせいぜい一匹。それもガタガタだったし…くそ、何とかしないと。



「……国光くん、顔色が悪いが…本当に宿で休まなくていいの?」

「え?ああ…だって腹空いたし。飯食ってから寝るわ」

「そう……じゃあ僕は買い出しに行ってくるから、毛玉の面倒を見ていてほしい」

「お前も休めよ。初めて毛玉にビーム二回も出させてその杖振り回してたんだぞ。最初っから頑張りすぎたら後で擦り切れるんだろ」

「そしたら国光くん、君で充電する。…今のところ、僕は戦闘面では頼りないから、出来るだけこういう所で役に立ちたい」

「お前は俺よりも役に立ってるよ。あんなに頑張って前に立とうとして…女なのに、俺より……」

「―――国光くん、お互いまだ始まったばかりだし、野犬の時と勝手が違うのだからそこまで落ち込む必要はないだろう?今は格好悪くても、お互い生き残れればそれで良いじゃないか」

「でも!こんなんじゃ汚名返上出来ない!俺はお前に、女連中に守られてびくびくしながらやり過ごすなんて嫌だ!」



だんっとテーブルを叩く。

文の膝に座り、テーブルに顔を突っ伏していた毛玉はガツンとテーブルに顔をぶつけていたが、正直それどころでは無い。


―――カッとなるのは俺の悪い癖だ。しかもそれを向けてしまうのはいつだって文で、……一度も暴力なんて振るったことはないけれど、俺の言葉や態度がこいつを傷つけてるんじゃないかと不安になる。

文は傷つけられてもなかなか気持ちを爆発させないもんだから、そういう意味でも心配だ。

……それに…いつか急に見捨てられそうで…。



「国光くん、そんなつまらないものに囚われていると早死にするぞ。ここはゲームの中の世界じゃないんだから、」

「つまらないモノのわけがあるか!俺だってな、男なんだぞ。守る守るって言われてどうもと返してお前の後ろに隠れてばかりなんて情けないこと出来るか!!お前をそれこそ盾みたいに―――」

「かまわない」

「はあ!?」

「盾と思ってくれてかまわない。…もういいじゃないか。この話題は止めよう。ご飯も来たし」

「えっ」

「…ご、ご注文の品、お届けに参りましたー」



すっごく居辛そうなウェイトレスさん。


俺は慌てて頼んでいたステーキ(和食食べたい…)を受け取ると、苛立ちを全部ステーキに向けた。……こんな風に、敵をばっさばっさ斬り倒せたらいいのに。


文はおまかせランチ、毛玉はお子様ランチ(そわそわして食べたさそうにしてたんだよな)とステーキ、ちょっとグロい魚を焼いたものを注文して、「さあ、ご飯の時間だよ」と文が毛玉を揺り起こす―――と、毛玉は目をギラつかせて魚に顔を突っ込んだ。…ちょ、汚い!飛んでる!!


それを注意せずに、文は毛玉が食べやすいように(意味無い気もするけどな…)ステーキをカットしてやって、「いただきます」と呟いてから渋々サラダを口に入れた。……渋々?



「……おい、文」

「なんだね。食事中だ」

「いや……どうした?具合悪いのか?」

「別に……」

「別にじゃねーだろ、全然箸…スプーンが進んでねーじゃんか」

「君が話しかけるからだ」

「…なんで急にツンツンしてんだよ」

「してない」

「してる!」

「してないってば」

「してるだろ!?」

「……しつこい男だね、君は」



思わず、びくっとした。


舌打ちなんてしてないのに、まるでしたかのような、そんな雰囲気。

さっきまでストレスを溜め込みそうで不安だと心配だった文の苛立ちに、安心するどころかビビって固まってしまった。


その次の言葉は―――「どっか行って」なんじゃないかって。



「…もういい。僕は出る」

「は!?」

「約束通り毛玉の面倒を見ていてくれ。これは代金ね、」

「え、ちょ、」


まだ全然食べてない。

少しずつ苛立ちを隠し始めた文の手を慌てて掴むと、俺は「女が一人で買い物なんて危ないだろ!」と――今までの会話的に「荷物持ちするよ」の方がどう考えても上手く転ぶのに――俺は、やっちまったのだ。


「気にしないでくれ。モールに付き合ってもらう」


そう断って、文はさっさと店から出てしまった。


俺が思わず椅子に座りこみ、目の前のステーキをそのままに俯いて唇を噛んでいる――と、毛玉はテーブルによじ登って両手で慣れない風にフォークを握り、一生懸命食べさせようとしてくれた。


―――それが、異様に切なく思う、なんて。












「あれ、こんな所でどうしたんです」



上からの声にのろのろと顔を上げると、今は憎くてしょうがないモールがいた。


宿の玄関先で座りこむ俺の近くでは毛玉が桶の溜め水で遊んでいて、ぴしゃぴしゃと通りに水滴が飛ぶ音がする。



「……文は」

「文お嬢さん?会ってませんけど」

「…お前と買い物に行くからって、食事中に出てったんだ」

「ははあ、喧嘩しちゃったんですか」

「………」

「んで、追いかけようにも土地勘無いし、会っても何言えばいいか分かんないから営業妨害?」

「…営業妨害はしてない」

「してますって。こんな陰気臭いのが玄関先に居たら客も来ませんよ」

「………」

「ま、使い魔に後を追わせれば会う事が出来ますんで。んじゃ」

「待て」

「はい?」

「……俺、嫌われたかな」



……何が嬉しくて、こいつに相談してんだろうか。


でもこいつが一番手頃で、唯一の同性だからすんなりいけそうな気がする。第一「賢者」だし。何かしら知恵あるだろ。……馬鹿な俺より。



「さあ?俺ぁ、その場に居たわけじゃないんでね、分かりませんけど」

「……」

「まあでも、夕方頃には仲直り出来てんじゃないですか?あなたたち本当に仲良いですもん」

「そうか…?」

「そうですそうです。あの戦闘の時だって、一生懸命あなたの為に頑張ってたじゃないですかー」

「………」

「それに、あなたが文お嬢さんを心配したり後ろに庇ったりすると、お嬢さん焦った顔してたけど嬉しそうでしたよ」

「えっ」

「俺ぁ横から見てて『こんな腰が逃げてる男に庇われてもなぁ』と思ったもんですが、お嬢さんには頼り甲斐ってもんを感じたんじゃないですか?」

「……!」

「最初あなたに会った時、なんて情けない男だと思いましたがね、戦闘のとき女の影に隠れてばかりじゃなくて、自分の意思でああやって踏み込んだのを見た時は、ちょっと感心しましたよ」

「……お前が…?」

「そ。戦闘初めての子があそこまで男見せれたら大したもんですよ。剣士はどうしても慣れが大事だから、最初はアレでしょうけど、まあ焦らないことですって」



それじゃあこれで。…と去るモールが持っていた本はどうみてもピンクな内容の本に見えたが、俺は突っ込まずにすくっと立ち上がった。毛玉に「行くぞ」と声をかけると、「待ってました」と言わんばかりに走り出す。


「んな゛な゛―――――!」


―――薄い人波を上手に切り抜け、直進し、現れた角を曲がって真っ直ぐに。この街の東の東へと毛玉は駆ける。


そして路地裏に数歩入った所を追いつくと、体育座りで顔を埋めている文がいた。



「―――……文、路地裏は危ないだろ、何かあったらどうすんだよ」

「な゛ー」

「……別に…」

「…お前って、何て言えばいいのか分からなくなるとすぐに『別に』って言うよな。悪い癖だぞ」

「………」

「ま、そう黙りこまれるよりいいけど」



とりあえず俺も文の目線に合わせると、少しだけ顔を上げた文の目尻は赤くなっていた。


毛玉がぷにぷにの手で文の頬をぺたぺたすると、文はぎゅうっと毛玉を抱きしめる。


「―――…ごめんなさい」

「……いや、俺もごめん…カリカリしてた。本当は………お前に、ありがとうって言わなきゃいけなかったのに」

「そんなの―――…僕。…分かってたのに、ぼく……」


ぎゅうと毛玉に顔を埋めて、文はくぐもった声で続けた。


「君にいつも、窮屈な思いをさせてたんだって、思って。『君を守る』ことがこんな…結局、君を不快にさせてて。…この行為は、僕がただ安心する為の身勝手なものだと思わなくて、ぼく――……その、あの…違うの。ごめんなさい。そうじゃなくて、……すきなの」

「……うん」

「だから、もう離れたくない。お別れする、あんな気持ちもう味わいたくない。から、私の持てる力を出し尽くしても頑張ろうって、それだけだった。―――ごめんなさい…」


文の震えた声は、今にも泣きだしそうで。言っていることも、ぐちゃぐちゃだったけど。

申し訳ない反面で、愛しく思えた。


「―――いや。…ありがとう、文。いつも気にかけて貰って、安心したよ」


俺は文の頭をもしゃもしゃと撫でた。


本当は抱きしめてやるのが正解なんだろうけど、そんな難易度高いのは俺にはまだまだクリア出来そうにない。


だけど、せめて、この手を自分から、優しく握ろう。



「……帰ったら、絶対に水族館行って、それで初デートしよう。文」



―――観たいって言ってたホラー映画でもいい。何てことない散歩でも、買い物でもいいよ。


俺から初めてそう提案すると、文は笑ってくれた。そして「今、前倒しがいい」と珍しく我儘を言った。



「向こうでね、和食じゃないけど、…中華に似たようなご飯出してる店、見つけたんだ。一緒に食べようよ」

「中華か…エビ玉食べたいな」

「僕はチャーハンが食べたい」

「な゛ー!」



空気を読んだのか毛玉は俺達の先を歩き、俺はそっと文の指を絡め―――ようとして、失敗した。


僅かに触れた指先が、切ない。



「…やっぱりアレだな、食が合わないと苛々するな」

「そうだね。人間って意外と面倒臭いものだ―――あ、」

「あ?」

「いや……ふふ、そういえば、」

「なんだよ」

「君が、切迫した場面以外で僕の名前を呼ぶの、本当に久し振りだ」

「え、……あ。」



そういやそうかも。

俺は何故か前転で店を目指す毛玉の首根っこを掴むと、「勘違いだろ」とそっぽ向く……ああくそ、頑張っても素直になれない…!


俺ってまだまだ、未熟だなぁ……。



「だいすき、国光くん」

「はぁっ!?」

「な゛っ」

「あ、毛玉……酷いじゃないか、毛玉をその高さから離すなんて」

「きゅ、急に告白するお前が悪い!!」

「君からも聞きたいな、国光くん」

「はあ!?」

「いつも僕からだと…不安だなって」

「………」

「………」

「…す……」

「!」

「す、すす……す、き。だよ…――――エビ玉が」

「んな゛っ!」

「いった!何すんだよ毛玉!」

「誤魔化すんじゃないこのドヘタレが!!…と言っている」

「お前最近俺に対して攻撃的だろ!上下関係ってもんを分からせてやってもいいんだぞ…!」

「な゛あああああああ」

「ぬこビームを喰らえ!…と言っているが」

「ちょ、それは駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」




なあ、―――こうして、ふざけて誤魔化してしまうけど。


いつか、この指先を絡めてみたい…な。








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