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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
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5.仲間(?)が増えたよ!




僕には、双子の兄がいた。


けれど、まだ赤ん坊の頃に高熱の末に亡くなったらしい。僕は母親がわんわんと泣く中、祖母の腕の中で健やかに眠っていたらしいが…。



―――それ以来、僕には「兄」がしがみついている。



「文ちゃんは絵がお上手ねぇ」

「文ちゃん、大きくなったわねぇ、お母さんにそっくり」

「だけど肝が座ってるのはお父さん似かな?」



当時の僕は初孫で"生き残り"でもあったからか、大変可愛がってもらった。

父も仕事が忙しくて疲れて帰ってきても、僕が頑張って起きて出迎えるととても嬉しそうだった。おっとりとしていた母も、可愛らしい服を着せては、人形遊びにはしゃぐ女の子のようで……。


「文がこれだけ上手なんだもの。文怜ふみさとだってきっと上手だわ」


うんうん、と。母は傍で聞いていた祖母の顔色が変わるのに気付かず、僕がどんなに褒められても文怜兄さんの「将来」を出す。

僕が祖母と頑張ってカレーを作っても、「文怜も食べましょうねえ」と幼いながらに一生懸命綺麗によそったそれをテーブルの空いた席に置かれた。


―――より悪質なのは、いつだってその声色は無邪気で、悪意が無いこと。母はきっと、母親になるには幼かった。……そして、幼い僕は、母が嫌いになった。


当時はちゃんと「わたし」だったのを「ぼく」に、人形遊びのように与えられた可愛いお洋服は男の子のお洋服に変えたのが、確か僕の反抗の始まりにして「真似事」の始まりだった。

それでも母は変わらず、僕が褒められても口を開いても兄ばかりだから、僕はしだいに無口になる。



「ね、ねえ、文ちゃんどうしたの?何かあったの?」



返答しない。

僕の心は冷めていて、だけど母が恋しかった。まるで仕返しのようだけれど、でもこれは子供ながらの「気付いて」のメッセージ。僕はじっと母を見つめる。

抱きしめて、欲しい。



「あんた、文ちゃんの前で文怜のことばっかり言うからよ!」

「俺は何度も言ったろ、文と文怜のことは別々に、生き残ってくれた文を幸せにしようって―――」



自分の母親にも、夫にも責められた母。味方であって欲しい僕は父が好きで祖父母に懐いていた。―――多分、その時、母の何かは崩れたと思う。


虚ろになった目が、何かを探してた。



固まった母に祖父母はしばらく頭を冷やせと、僕は祖父母の家に預けられ、父母と別れて住んだ。

奇妙な心境の僕だったけど、祖父母が甘やかしてくれるものだから、久し振りに文怜兄さんの名前が聞かなくて済んだのが嬉しかった。


だからその日の夜、僕は珍しく明るい声だったと思う。お父さんに「おやすみなさい」の電話をして、無言の母にもそう告げた。

そうして孫と思う存分遊んだ祖父が「もう寝ようか、文子さん」と声をかけ、祖母は「そうですねぇ、」と僕の手を取ろうと、した頃。



真っ赤な紅葉を炭に変えながら、我が家は火事で燃えてしまった。



遺体は酷い有様だったらしく、火葬するその時すら会わせて貰えなかった。

母の姉が「文ちゃん、おばちゃんの家にいらっしゃいな?」と、先月子供が生まれたばかりなのに言ってくれた。だけど僕は大人ぶって「祖母の家で待っていたいと思います」と答える―――母の姉は、何とも言えない顔をした。


―――だって、最後の最後まで父母と面会出来なくて、僕は「両親が絶対帰って来ない」という現実をまだ理解できていなかった。


そして皆が皆、僕に気を使って静寂を保っているのも、非現実すぎた。

憎い火事の原因は分からず、どうしようもない僕は暇さえあれば、あの時皆に責められた母に声をかければ良かったと後悔してる。……今でも。


僕は最期の最後まで、母にとって何であったのだろう……。


父の顔はもうぼんやりしているのに、母の――死者むすこがすぐそこにでもいるのに否定されたような、そんな不思議な顔が忘れられない。


もしかしたら僕は、母に恨まれていたかも………。




「みかなぎさんって、いっつもぼんやりしてるよねー」

「ねくらだよねー」

「しょうがないだろ、おやがやけしんでるんだもん」



「やけしぬって、くるしいのかな」と、子供らしい、無邪気で酷い声が聞こえる。だけど僕は抜け殻で、先生が子供たちを叱る声も、飽きて会話を止めてしまう子たちもどうでもよかった。僕は四六時中―――…



「あっ、」


―――そんな毎日が変わった、ある日。

…あれは多分、小学二年生の、夏に入る前の事だ。


子供の話題はさっさと移ろう物だが、あのクラスにとって僕は最底辺の、格好の弱者で餌食だった。


僕のクラスの女子が言うには、僕は「悪霊に取り憑かれてる」らしい。

男の子は囃したてるように「可哀想」とか「親いないけど毎日どんな感じ?ねえねえどんな感じ?」と低能過ぎる声ばかりだった。


僕はそれに対し基本的に無関心だが、たまに苛々してしまう。

―――そういえば、あんまりにもしつこい男子に「せいぜい親を大事にする事だな」と大人ぶって言い捨てたこともあった。

「両親うぜ―」とこれまた大人ぶっていた男子に言った――その放課後。彼の母親が階段から転がり落ちたらしいから、それ以来面白がった女子に「こっくりさん」とかそういう類の物に参加させられるようになって……偶然とはいえ、その子を犠牲にして僕は女子と多少の仲を持ててしまった。

……あの日以来、僕は彼に憎まれ、怖がられている。


しかし男子というのは単細胞というか何というか――酷い目に遭ったのがいても、ちょっかいを出し続けるのだからすごい。あの日はあの日で男子に筆箱を吹っ飛ばされて鉛筆数本が行方不明になったりしてた。


その後先生に叱られていたその子―――の、復讐だろうか。……帰宅途中の僕は水風船を投げられてびしょびしょの服を憂鬱に摘まみ上げる。

……まあ歩けば家に付く頃にはもう乾いてるだろう。さっさと歩きだした僕に、「彼」は「おいっ!」と声を荒げた。



「おい!ムシすんな!」



………。

……………誰、だっけ…。




―――なんて、大変失礼だが、それが僕と国光くにみつくんとの出会い。

当時の彼は猫っ毛をピンで留めていて、ぷにぷにのほっぺで、何故かプンプンしていた。

まあ、とりあえず振り向いたしもういいかと、その日は彼を置いて、さっさと帰ったのだけど…。


家に付いたら意外と服が渇いて無くて、祖父母に心配された。暑かったから川で遊んでいたと嘘を吐いたが、夕食時の彼からの電話で、バレてしまった。



「……ごめん…さい」



当時から、国光くんは真っ直ぐで、不器用で、本当に可愛らしかった。

彼はさっさと帰った僕が怒ったか家で泣いてると思って―――自分も何故か泣いたらしく、ぐずる音が電話越しに聞こえた。


―――彼曰く、何事も基本的に無反応な僕を、彼なりに心配したらしいのだ。

もしかしたらあれは無反応ではなく「我慢」してるんじゃないかと思い、我慢しすぎて死んじゃうんじゃないかと幼いながらに思ったとか。

そこでなめられやすい容姿の彼が物理的に何かしたら、いつも陰口を言われても黙っている僕も流石に怒るなりなんなりして「スッキリ」するんじゃないかと子供ながらに考えたらしい――色んな物をすっ飛ばした思考は、やはり当時子供だったからかな。

……まあそう決意した幼い彼でも、石を投げる度胸は無かったようで、水風船だったけど。


本当は単身僕の家に謝りに行きたかったらしいが、電話番号は分かっても家までは分からなかったらしい。鍵っ子の彼の家はまだ両親が帰っておらず、こうして電話での謝罪というわけだ。


僕は同い年だったけど、彼の子供らしくて失敗する所も、短絡的な所も、それをちゃんと謝れる所も、好ましいと思えた。

……だからこそ、勇気を出して、初めて「明日、一緒に遊ぼう」と言えたんだろう。



「ふみ!あっちいくぞ!」


―――それ以来ずっと一緒で、僕が虐められたのに何故か怒って相手の子と喧嘩して帰り道でぐすぐす泣いたり、「夫婦かよ!」とからかわれて喧嘩するも負けそうになった所を僕が中身の入ったメロディオンで撃退するという結末に、情けないやらなんやらと泣き出したり、可愛らしかった。


……そんな姿を、君は情けないって、愚痴っていたけれど。―――僕はね、


泥臭いし不器用だしお馬鹿さんだけど優しい君の、一番格好良いところ、知ってるよ。












「くにみつ、くん?」

「ふおっ!?」



意識が飛びかけて、身体が傾いた時。目が覚めたらしい文が名前を呼ぶのと同時に俺を支えてくれた。


そして気だるそうに瞬きをした後、俺が放り投げてた剣に目を留めて、「ご立派なお土産だな」と一言。ちょっと照れてたが、……俺はハッと、気付いた訳で。


「文!おまっ、どうかしたのか!?ていうかあの血の痕は!?」

「あの血は野犬の血だ。僕じゃない――おや、"あの子"は?」

「あの子?」

「あの子」


オウム返しに言うと、文はきょろきょろと辺りを見渡す。そして、「毛玉―?」と……毛玉?


「おい、何だ"毛玉"って」

「―――君を待っている間に会ったんだ。大変可愛らしくて…だけど苦しそうに毛玉を吐いていたものだから…」

「出会いがそうだったからって"毛玉"って名前付けんなよ!?」

「毛玉も毛玉でいいと言ってくれたぞ」

「マジで!?……って…!」



俺は見た。


文の隣の草むらから、まずは耳がぴょんと出、次に何考えてんのか読めない顔が―――、


「でっ…出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「おかえり、毛玉」

「な゛ぁーお」

「鳴き声可愛くない!!」

「………」

「…国光くん、女の子になんて酷いことを言うんだい」

「女なのこいつ!?」

「ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり」

「何で歯ぎしり!?」

「照れているだけだ。『あんまり見つめないで』と言っている」

「見つめてねーよ!照れんな!!」

「……………」

「国光くん……」

「俺が悪いの!?」



おかしいだろ、俺は「照れんな!」しか言ってないじゃん……絶対謝んねーぞって、唇を噛んだら。


鍵尻尾をピンピンと左右に振った後、くるりと俺たちに背を向けて草むらから……野犬の、く…っびぃぃぃぃぃぃ!!!



「んな゛ぁー」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!何なの、何なのよ!?許して下さいごめんなさい!!」

「謝罪の品らしいぞ。……毛玉、もしかしてこの首は、さっき僕を襲った子かい?」

「んぁー」

「すごいな、そんなに小さいのに野犬を仕留めるとは……」

「ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり」

「ふふ、可愛らしいな」

「ていうか何でお前そいつと意思疎通出来てんだよ!?」

「え……いや、なんか……脳内変換出来るというか何と言うか……」

「脳内変換!?」

「んっにゃあ゛ー」

「……へえ。国光くん、この子は僕の――使い魔、らしいぞ」

「マジで!?」

「そして僕の武器を持って来てくれたらしいが、国光くんが格好良すぎるあまり、恥ずかしくて後ろから付いて来ては様子を窺っていたらしい」

「あの一言にそんな長文が!?……ていうかそれストーカーじゃねーか!」



俺も文も野犬の首に喜ばないのを見るとすぐさま茂みに放り捨てた二足歩行の猫、毛玉。

猫の癖に靴はいてるしパーカー着てるし、……あと、空振りする所というか方向性が残念な所らへんが文に似てる……ような、気もする……。


つーかこいつ、いつから俺らをストーキングしてたんだろ。付けてたんなら野犬戦の時に助けに来てもいいだろうに……。



「な゛ー」

「え、今出す?…でも…どこに閉まって――――」

「な゛!」

「おおっ、すごいぞ毛玉。まるで某青狸型ロボットのようだ!」

「そういう問題かよぉぉぉぉぉ!!!おかしいだろ!お前のポケットより酷いだろ!何これ不思議すぎんだろ!!」



パーカーの、腹の所のポケットから「にゅいーん」と。

さながら錫杖しゃくじょうのような、一本の銀。……が出てくるっておかしいだろおおおおおおお!!!何なの?何でお前らには一般の常識が通用しないの!?



「んあ゛ぁぁぁ」

「何でお前は俺の頭ポンポンするんだよ!猫に頭ポンポンされるってどういうことだよ!何で慰められてんの俺!?」

「くあ゛ぁぁぁぁ」

「だから鳴き声怖いって!ていうか何言ってんのか分からん!文、翻訳―――……文?」

「…………いや、」



「君たち本当に仲良しだね」と、錫杖から目を離して文は俺をからかう。

すると毛玉は調子に乗って俺の頭によじ登って来て、振り落とそうとしてわーわー喚いてた俺は、聞こえなかったんだ。



「………逆十字、か……」



文の、微かな物憂げな声を。









補足:


・国光君を待っている間に野犬に襲われる⇒毛玉(使い魔)が戦う

⇒結果、使い魔を使役するのに疲れて爆睡。初めての使役は疲れてダウンしちゃうものですよね。


・勇者の武器はその人その人で違います。


・国光くんのようにオーソドックスに剣であった人もいたけれど、刀だったりレイピアとか。弓だったり斧だった人もいました。


・そして説明しませんでしたが国光くんの剣は鍔が鳥の羽のようなデザインの剣です。…伏線です。


・文の武器として与えられた錫杖の、頭部の輪の中の所が逆十字でした。…これも伏線です。


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