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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
2.れっつ、こんてぃにゅー!
42/44

324-2.ある意味これが勇者さま



※拍手文変更しました!






初回と違って病弱になってしまった文だが、意外と怪我が治るのは早く。

恭から貰った薬(メモ付きだった)を塗っていくと、綺麗に痕も消えていった。



「…ねえ国光くん、何をしてるの?」


俺が麻袋を何個か(パクって)持って来るのに首を傾げて、文はパタン、と召喚術の本を閉じる。


―――何回目の頃だったか、馬鹿な俺がやっと文にこの世界の神様連中がくれる「加護」の存在を教えるべきなんじゃないかと気付いて以降、「本で読んだから」と言って文にも習得を勧めている。


この繰り返しによる経験上、文は庇われるだけだとストレス溜まって死亡フラグを軽々と踏むからな。逆に何かに熱中してくれると死亡フラグも少なくなる。


現在は召喚の神の加護(俺がこの時間に「戻った」以前に隣国の神殿に詣でたらしい)を身につけ、一度目の文の頃に近くなって来てる。……って言っても初回と違って時間制限とか色々あるけど……―――まあともかく。


現在、王城に魔族のお偉いさんが攻めてきたと思われる事件やらでいっぱいいっぱいのお上は俺たちに旅に出るなと止めている。

ふと今回のパーティーメンバーはどうなってるんだと思ったが、麻袋パクった際にドレス姿の姫様の笑顔が遠目で見えたから、……まあ、良い方向なんじゃないの。


「文、……あー、文」

「なんだね?」

「………俺と、逃げ出さないか?」


すると、文は「逃げ出す?」と毛玉と同時に首を傾げる。指先を唇に当てる所まで一緒で、久し振りにほのぼのした。


「…今更だけど俺たち、関係ないだろ。なのに剣持たされて―――俺が絶対帰る方法見つけるから、まずは太古の文献とかあるらしい東の方に行ってさ…」

「………」

「……いや…か?ならそう言ってくれ。俺は、お前に、……無理強いは、したくない…」

「……国光、くん…」

「…………振り回してばかりで、ごめん……」


ぎゅう、と。拳を握った。



「…――まったく。国光くん、愚問極まりないぞ。…僕は君の恋人。君が死地を求めようが最高の宝を探そうが、どんな所だろうが僕は君に付いていくつもりだ。例えその結果死のうとも、僕にとっては本懐というもの」

「………、文…お前って……唐突に、イケメンタイムが来るよな…」

「?」


なんか悔しいぞこれ……って、ああもう、今はまだ安心出来ないんだ。まだ不抜けんな、俺。



「…国光くん、僕が疑問に思ったのは君のその行動力だ。そして知識。……日本神話の始まりすらも碌に覚えていられない君が何故に此処まで詳しいのか、とね」

「あー……そりゃ、………落ち着いたら話す、じゃ、駄目か…?」

「可愛いから許す」

「可愛……可愛いいいいいい!?」

「こら、静かに。隣の部屋でメイドさんがベッドメイキング中だぞ」

「あ、ごめん……―――で、話は変わるけど、いいんだな?」

「僕個人としてはかまわない。…しかし、勝手に辞めてもいいものだろうかと…」

「ああ、んなもん大丈夫だろ。女神は俺らのこと張ってんだから、何となく察してくれるだろ」

「国光くん、いくら人の良い上司でも無断で職務放棄すれば流石にブチ切れると思うぞ」

「じゃあいいよ。辞表提出すればいいんだろ。…心の中で送っとく。はい、メール完了しましたー」

「国光くん……小学生か君は。そういう場合は適当に病名を上げて悪化したからと理由を連ねるべきだ。…女神も女性だ。生理痛が重いと言えば多少は分かってくれる筈だ」

「男が『生理痛苦しいの』って言ったらおかしいだろうがー!俺はイタリア人か!?そんなんだったら実家の猫が爆発とか未知への探求心がうんたらの方がまだいいわ!」

「元気いっぱいだな国光くん。その意気だ国光くん」

「国光くんじゃねーよおま…あー!時間が無い!文、手伝え!」

「さーっ」

「な゛ーっ」



一人と一匹に麻袋を渡すと、仲良く同時に袋を開けた。


……なんか、久し振りに良い怒鳴り方をして、ちょっとスッキリ。



「いいか、此処を出るにあたって、旅の路銀が必要だ」

「ふむ。……ああなるほど、金目の物をぶん盗ろうと……君はどこのRPGの主人公だ」

「お前が好き過ぎてしょうがない方の主人公だな」

「やってる事は同じだがね。…あまり目立つ物は良くないな。国光くんは服、毛玉は金細工の小物、僕は他の旅支度、でどうだろう?」

「OK、それで行こう」



俺がクローゼットを開けていると、文は毛玉の麻袋に引き裂いた枕などを詰め込んでいる――あ、そっか、そのままだと傷つくもんな……考えて無かった。


でも文自身思いつきなのか、駄目そうな顔をして毛玉にあれこれと教えていた。



「……文、」

「なんだろう、国光くん」

「いや、お前ってその……空飛べる、人も運べる使い魔って、いるか?」

「…今手持ちではいないが…おそらく、やろうと思えば喚べるだろう。何匹だ?」

「一匹で大丈夫…と思いたい。あんまり多くても困るしな」

「分かった、何とか都合を付けよう…うーん…」



恭の言葉を信じると、馬での旅は危険だからな……いや、上の旅もだいぶ危険な気がするけども。


馬車は拝借出来ないし、いざとなった時の文の面倒見てくれる人間もいないから、今までみたいに戦闘上等なんて出来ねーし……。

………。


「この本、まだ読み切ってないからっと」

「なー?」

「ん?…よしよし、それは大丈夫だよ」

「んあー」

「…文、今更だけど……食料どうする?」

「お昼ご飯を多めに頼んで、日持ちしそうなのを持って行こう。あとはパンとナイフと…」

「ん?」

「ランプを鞄に詰め込んで?」

「熱い眼差しとか思いとかどうすんだ」

「国光くんに期待してる」

「すんな」

「じゃあパンとナイフと……あ、毛玉はチーズが大好きだったね?」

「んあー!」

「…一気に天空の城からアルプス臭が漂い始めたな……」



ぎゅ、と袋の口を閉めて、俺はベッドの下に隠して毛玉の手伝いを始めた。











「―――はぁーっ、疲れた……」

「お疲れ様」



多めに頼んで怪しまれたかと思ったが、毛玉の暴飲暴食ぶりはいつものことだから何とも思われなかったわー。ていうか顔引き攣ってたわ……。


あ、ちなみに食事中は二人と一匹だけがいいって言ってあるから、メイドさんは隣の部屋で待機中。

で、俺が何とも言えない面下げて注文してる頃、文が手際よくサンドウィッチやら何やらしている隣で毛玉が摘まみ食いしてた件。

……まあ俺も、食い意地汚い毛玉を摘まみ上げたら文に「国光くんも味見どーぞ」とサンドウィッチ食わせてもらった身なんだけども……。




「よし、出来た――はずっ」

「はず!?」


―――やっと準備も終わって、夕暮れの赤も燃え尽きそうだと窓を見ていたら、文がしゃらんと錫杖を鳴らした。



「……くぉーん」



召喚に応じたのは、白に水のグラデーションがかかった……尾もヒレもひらひらして幻想的な………。



「……これ、世界的に有名な黄色い電気鼠アニメの初期に出てくるジュゴ―――」

「ドンゴンだ。霞みを食す、とても温和な魔物らしい」

「いや、これ角が恐ろしいジュゴ、」

「察したまえ国光くん」



静かな声だった。


文は釈然としない俺を放置して、目が円らなジュゴ……ああああもう!これ何て呼べばいいんだよ!?

―――苛々してる俺の目の前で、文はもっふりしたジュ…どんごん?の顎を撫でる。


「……可愛い…」


……うん、確かに可愛いけども。

下手すると毛玉を越える可愛さだよな、と足下で不満げに頬を膨らませているだろう毛玉を見ようと、したら。


「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」


嫉妬に駆られてる毛玉さん怖ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

目がドス黒いわ、手からはいつもは引っ込めてるやべー尖りようの爪をわきわきしてる。

しかもドン引きしたまま見守っていると、毛玉は口を、ばかんと。


もうお前顎外れてんだろ、って突っ込もうとしたら毛玉は毛玉で自分より遥かにデカイ召喚獣を口ん中に突っ込もうとして、めっさ慌てた時だ。


「……でも、やはり小さいのがいいな―――毛玉、」

「んぁーん!」


背後で何が起きてるかも分からん文が振り向くと、さっきまでのキモイ超えて怖い毛玉はガラッと態度も顔も変えて、ゴロンゴロンと喉を鳴らして文の胸にすり寄る。


文は、「ふふ、可愛らしいなあ」と抱き上げて、頬をすりすりしてたけど―――……その、尻尾は。召喚獣のドンゴンの瞼にバシンバシンと鞭のように当たっていた。



「……マジで先が不安だわ……」



―――その晩、俺たちの逃走劇は始まった。








――――

――――――――

――――――――――――



「―――ちょ、知ってる?今人間界が面白い事になってんのwww」

「うはwwwマwジwでww」

「俺、こっちの方応援してんだよねwww」

「じゃあ俺こっちwww」

「負けたらお前の信仰領土ブン取るからなwww」

「俺は更に仕事も押し付けてやんよwwww」



動き出した俺たちと同時に、神様共の方でも世界を二分する動きが始まっていた―――。






どっちが屑かと聞かれると悩む件。


※拍手文に「文ちゃんの中学生時代」の話を載せました。

短編として出そうか悩みましたが……ちなみにちょっとネタバレを目指す予定。




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