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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
2.れっつ、こんてぃにゅー!
41/44

324-1.夜の王子様



※拍手文変更しました。





―――童話では、茨に閉じ込められたお姫さまは、必ず救われるんだ。



…三回目:死因・絞殺


…四回目:死因・溺死



―――だけど、どうしてだろう。お前だけが救われない。



…六回目:死因・病死



―――なんでなんだ。俺が王子様じゃないから目覚めないのか?



…十回目:死因・毒殺



―――俺が駄目な恋人だから、を取り除けないのか?



…百回目:死因・轢死



―――それとも、俺がお前にとって魔女なのか。



…*回目:死因・***











「―――国光くん」

「………文…」

「顔色が悪いよ。少し休もう?」

「…そうだな」

「休んだら、国光くんが大好きなハンバーグを作るよ。…だから、そんな悲しそうな顔、しないで」



これは、どの時のパターンだっけ?


もう思い出すのも疲れる。……でも、行動は似てても、文の言葉はいつも違って、変わらずに優しいから。俺は何度繰り返しても自棄にならない。


「…少し冷えるな」

「おや、紳士だね?…上着、ありがと」


俺は何故歩いていたのかも分からない中庭から、文の手を握って部屋に戻ろうとした。


色素の薄い文の髪が、月明かりに照らされて儚げだった―――俺は……。





「みつけたぁ」



文の腹から、剣の先が突き出て、遅れて血が噴き出す。


始まりに気が抜けていた俺は、懐に倒れてきた文を茫然としたままに抱きしめる。



「…くっ。あっははははは、ハハハハハハハッッ!!!次はお前よぅ?ふふふ、はははは!」



冷えた声のこの女が、自ら出向くのは、初めてだった。


最初の頃のと同じドレスだが……すっごく乱れてる。髪も乱れていて、飾りは解れかかっている―――それなのに、影のある美しさは損なわれない。


ムカつくほどに月の似合う女は、文の血を払うやいなや俺の目を目掛けて突き刺そうと迫る。

俺は文を抱いて横に転がると、なんとか死んでいない文を毛玉に預けて(妖精モードになって文を抱えて消えた)………剣を、抜いた。



「―――その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。気狂い女が」

「はっ、何回やっても好きな女一人守れない盆暗が。喇叭を吹くしか能の無いその汚ぇ口を裂いてやるよ」

「ババアに出来んのか?怖がって今まで出て来もしなかった癖に」

「つい最近生まれてよちよち歩きをしたばかりの坊やに心配されたくないわ」


「さっさと、」


「今すぐ、」


「「死ねええええええええええええええええええええええ!!!」」



そっから先は上下左右の斬り合い打ち合い殴り合い蹴り合いだ。

つっても向こうは相当足癖が悪いんだけどな。…くっそ、ヒールな分、余計痛い…。


後ろに飛んで一呼吸置くと、ギラギラとした、半分理性の飛んだ焼けた瞳で俺を射抜いた女が、単色では表現できない感情の籠った声で口火を切った。



「…憎い、憎い憎い憎い憎いッッ!!あんたが馬鹿の一つ覚えみたいにポンポン時間を戻すせいで、私はいつまで経っても夢が叶わない!二百を越えた時なんてね、あまりにも情けなくて憎くて怖くて誰がどうとか分からなくなってきたわ……なんなのよ、これならいっそ―――…ううん、お前が死ね!!」

「ハッ、俺が何度も時間を戻す原因を半分以上作っておきながら、何をほざくのかと思ったら……死ぬべきなのはお前だ!!てめーの事情なんか知るか!!お前は城の奥で好きな人とのんびり暮らせたんだろ?―――俺は何度も文が殺されるんだぞ!!」

「こっちなんか生殺しよ!!分かる?だんだん狂ったようになって、それでも王命に背いて勝手をしてまでアンタを追い詰めて!留守の間に奸臣が自分の娘を恭ちゃんに勧めてるのよ!?いっつもギリギリで、悪夢と幻覚がごっちゃになって、毎日怖くて!『陽乃様はもうダメでしょう』って隙を作るはめになって!!

恭ちゃんに捨てられるかもって、頑張れば頑張るほど悪夢はしっかり輪郭を伴って私に迫るの!!被害妄想で殺し回って、トチ狂った奴ら用の収監塔行きにもなったのよ!?恭ちゃんが私に『少しの間だけ』って言って……もう、恭ちゃんに失敗は見せられない…恭ちゃんに嫌われちゃう………」



―――お互いが、お互いの苦しみを推し量れない。


俺の怒りも恐怖も、ずっと続くけれど、気持ちを入れ替える区切りと癒しがあった。諦めなければ何とかなると信じてきた。

けれどあの女はまったく見通しのない世界で続く"繰り返し"に精一杯抗い、怯え、やがて狂った―――そういうことか?



「もうこれが何度目かなんて分かんない!何をしてたかも覚えきれない!このままじゃ恭ちゃんがどっか行っちゃうの、陽乃を置いていくの!!アンタを殺して、その首持ってって。そうじゃないと捨てられちゃうの!!!」



この言葉のブレよう、確かに正気じゃない。


しかしそれよりも恐ろしいのは、その剣がどんどん正確さを帯びてきた事だ。単純な怒りではないからか、強迫観念が力を出させるのか―――泣きながら剣を振るうその顔は、まるで迷子の子供のようだ。


俺は怒りも悲しみも恐怖も、心を冷めさせる事で押さえてきたけど。もし限界に達したら、こう、なるんだろうか……。



一瞬ゾッとして、気付いたら迫っていた横薙ぎの剣を避けて、噴水が割れた時だ。



「―――陽乃!!」



白いコートに繊細な羽。魔剣を差した恭は、動きの止まらない女から剣を叩き落とすと、その両肩を掴んで目を合わせた。



「陽乃、なんてことをするんだ!勇者が旅立つ前に俺たちが手を出す事は禁ずると、古の時から神と魔王の間で取り決められている!これ以上の騒ぎは陽乃にだって罰が下るんだよ!?」

「どいてええええ!!どいてよ!あと少しで殺せるの!!そいつを殺して、私はいらない子でも使えない子でもないって、証明するんだから!!じゃないと閉じ込められるの!!捨てられちゃうの!!!」

「陽―――…いや。落ち着いて、もう、誰も陽乃に酷いことしないよ?陽乃を虐める事は俺が許さない!…だから、だから落ち着いて、ね?陽乃は俺にとって、大事な大事な人なんだ。無茶はしないで……」

「だまれええええええ!!退けよ!!さっさと退け!私は、わたしが…―――もういやあああああああああああああああああああああ!!!」



その間、俺は器用に宥めながらこちらを牽制する恭のせいで、二人丸ごと斬り殺せなかった。


恭は真摯に言葉をゆっくりゆっくりと伝えるも、俺だって数えるのを止めた"繰り返し"に擦り切れた女には届かない。


もう、そこに誰が居るのかも分からないんじゃないか―――流石の俺も戸惑っていると、爪を立てる女を叩くでも突き飛ばす訳でもなく、恭はストンと女を抱えて地べたに座った。


母親があやすように、大事に大事に懐に抱えて、乱れた髪を梳いて。



「……疲れたね。」

「!」

「ごめんね、疲れたんだよね。大丈夫、城に戻ったら、俺と一緒に明日の昼までだって、お寝坊しちゃおう。そしたら遅い朝ご飯を食べて、花を愛でようか」

「どうでも、いい…から、」

「甘いお菓子を食べて、またお昼寝もいいね。…ねえ、覚えてる?俺が初めて家出した日。逃げ込んだ森はとても入り組んでて、俺自身迷子になっちゃって。怖くて泣いてたら、陽乃は王子様のような格好で迎えに来てくれたね。腕に怪我してたのに、誤魔化してさ」

「退け!退けってばあああああ!!」

「あの時俺は、とてもとても安心したんだ―――だから、次は俺が、陽乃の役をするよ」

「退……」



爪に引っかかれて、肩から血が滲んでる。

それでも、恭の口調は変わらずに、穏やかなまま。



「ありがとう」

「ぁ……?」

「俺はね、ずっとずっと陽乃のおかげで救われたから、今度は、俺が陽乃を怖いものから守るよ」

「………」

「…だから、陽乃はもう、何の心配もしなくていいんだよ」



お家に帰ろうねえ、と。動きの止まった女に微笑んだ。


女は口を半開きにして数秒黙ると、ひくり、と唇を震わせて、


「…っく、う、わああああああああああんん!!ああああああああ!」


恭の胸を叩いて、やっと見つけてもらえた子供のように泣き喚いている。

思いっきり泣いてるのに、むしろ気持ち良くすら感じるのは、女が(認めたくないが)美人だからか。


しばらく泣かせ続けると螺子が切れたように落ち着いて、恭は軽く背を叩いてから羽を動かした―――ふわりと、二人は宙を浮く。


「手出ししないでくれてありがとう」


嫌味も何もなく、きちんと礼を言えるところが、やっぱり憎めない。

俺が何とも言えない顔でいると、恭は袖から高そうな小瓶を渡してきた。……恐る恐る受け取ると、


「…君の大事な人を怪我させてしまったよね。……これで君にも、神様にも許してもらえるか分からないけど……でも、女の子の身体に傷が残るのは良くないと思うし」

「……ありがと」

「受け取って、くれるの?」

「……………お前は、敵であろうと毒を渡す奴じゃ、ないからな」


ぽそり、と呟く。

俺の恭への感情は、多分、捨てきれない甘さだ。願望だ。

世界はまだ、そんなに酷いもんじゃないって、信じたいが故に―――……いいや。


あの日、俺と友達になって、本当に嬉しそうだった、あの恭を信じたいんだ。


「……信じてくれて、嬉しいな」


月光に溶けそうな微笑みで、恭は敵である俺にも慈愛の瞳を向けた。


その瞳はどこまでも澄んでいる。……ある意味、覇者の目とも言えるのか。


「――――おい、」

「ん?」


清浄な光の中に消えようとした恭を呼び止めると、恭は女を抱き直しながら俺を見る。



「……俺は、勇者を辞めるつもりだ」

「!」

「…今まで、何人もの神様に治してくれって頼んだけど、駄目だった。…俺たちに命を賭けろと言うくせに、文の病を治せないって、そう言うんだ。なら――いっそ、てな。

もしかしたら、『勇者である』ということが、文を追い詰めているのかもしれない…少しでも戦場から離れられれば、文も長生きできるかもしれない。…苦しい死に方をせずにいられるかも――だから、勇者を辞めて、どうにか自力で帰れる方法を探すことにした」

「……本気?運命の女神は怒るよ?」

「知るか。運命の女神の前に俺がキレてんだ」



ちょっとだけ、今なら先輩勇者の気持ちが分かる。


ただこの選択は本当に先が読めないが、文が殺されないという可能性だけは高いように思える。…いや、新しい選択肢を自ら生んだせいか期待感が強いのか……。


いつかの時のように文が病死してしまうかもしれないが、それでも、限られた時間を文と過ごしたいんだ。……せめて文を、幸せにしたい。


「俺は、自衛以外ではお前たちを攻撃しない。だから、放っておいてくれ…頼む」

「………」


―――対して、恭は俺の目をじっと見る。

その空気は確かに指導者のものだ。間違いがあってはならないと、じっくりと観察する―――そのお眼鏡に、



「……分かった。あとで陽乃にも伝えよう」

「……ん」

「帰り道を探すというのなら、東を目指すといい。あそこは古い文献や魔法が眠っているから―――ただ"下は"賊さんがたくさんだから。オススメしないね」

「…ご忠告どうも」

「……もし駄目だったら、末娘様を頼りに俺のところにおいで。……信用してくれるなら」

「信用は…してるさ」



その言葉に、恭はくすりと微笑んで今度こそ消えた。


それと同時に虫や鳥の音が戻って来て―――ああ、結界が張ってあったのか、と気付く頃には城の警備員さん的な騎士がやって来て「ご無事ですか!?」と俺の身体を確認する。


「もう一人の勇者様は一命を取り留められまして、意識もございます」



―――誰かの報告に、俺はやっと心臓が楽になったような気がする。







次回は逃亡編!






補足:


色々な神様がいる設定のこの世界ですが、その中でも↓


・医療の神様⇒「病気」を治す。医者としての技能を上げる。ちなみに毒を扱う人間も崇めることが多い。


・末娘様⇒「救済」を司るので、万病傷病平癒以外にも「呪い」や上手くすると悲惨な「運命」から救われる手助けも。しかしそれらの発動条件は限定条件。なので万能とは言い難い。

※迫害された神なので、国光くんはこの神の存在をよく分かってない。



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