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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
2.れっつ、こんてぃにゅー!
40/44

小話:狂う彼女



※最後に作者絵がありますのでご注意。






何度繰り返せそうと、私の思いは変わらない。


いとしいひと。私はあなたの為なら喜んで戦場で舞い、敵の血を啜って勝利を捧げよう。


それが、私が踏み躙った者たちに出来る、せめてもの償い。



「同志よ立ち上がれ!!陛下と末娘様の名の下に正義を知らしめよ!」

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」



爪先まで血が浸透した靴。愛用の太刀には油がたっぷりと付いていて、家紋の竜が描かれたマントは破れ汚れ焼き痕が残る。

魔族と人間の混じる軍を率いて、私は何度も何度も人間と英雄の群れに先陣を切る。黒馬は息も荒く私を血の中に誘い、戦場に在れども亡霊もうそうは私を追いかけた。


―――けれど躊躇いはしない。もう怯えるのは止めた。泣いても変わらぬなら打って出てやる。……そう、私の一刀に、私の幸せと恭ちゃんの命が賭けられているのだから。


誓ったじゃないか。私は恭ちゃんに勝利を与える女神になるのだと。……例えまた繰り返す事になろうと、この行為に意味はある……!


「辛くなんか、ないわ」



――――そう呟けたのは、確か百と四十ほど繰り返した時だった。












たぶん、あと少しで二百回目という時に、恭は戦場に進んで赴く陽乃に言い辛そうに告げた。



「―――陽乃、もういいよ。……別に陽乃じゃなくてもいいんだ」



ここから、この二人の言動は面白いことになる。


回数を重ねるごとに亡霊もうそうが増えて重くなって、そのうえ追いかけてくるそれのせいで被害妄想が酷くなる陽乃と、純粋に彼女を想う恭の、面白いすれ違い。



「これは恭ちゃんの為だもの」

「ううん。俺の為じゃない。そう思っているなら、有難迷惑だよ」

「え……?」

「誰も頼んでない。何でそう思うの?おかしいよ。陽乃は俺に何を隠しているの?頼りないところがあるなら教えて」

「か、隠してなんか……」

「嘘つき」

「っ」


―――嘘つき。


恭が睨む(ように見える)。

有難迷惑?嘘つき?それって私のこと、私のこと、(嫌い、なんですか?)

―――ああ、どうしよう。怖すぎて心臓が痛い。


「いい加減にしてよ、陽乃。俺がいつまでも陽乃の陰で怯えてる男だと思ったら間違いだよ」

(まって、それって、)

「もう、陽乃がお守しなくたって、俺は一人で出来る」

(いらないって、こと?)

「もういいんだ。だから、今度は、俺が、」



―――はい、ぱしゃん。


また新しくリセットされた世界で、無邪気に微笑んでくれる恋人を見ながら、陽乃はじっと聞こえることのなかった言葉を考えて―――怖くて、震えていた。



(恭ちゃん、私は役に立たないの?)


(やだよ、お父様とあいつらみたいに言わないで。ねえ。)


(戦場以外で役に立つ所って、どこにも無いよ)



分からない答えに苛々する。八つ当たりをする。怒られて、二人の仲はあやふやになる(ように感じてしまう)。


その様を亡霊もうそうは哂っていて、毎日毎日彼女に愛しそうに粘着質に、囁いて。


二日酔いよりも酷い頭を抱えて少しでも廊下を歩けば、



「知っていて?あの陽乃様ったら、ついにおかしくなっちゃったみたいよ」

「あら、私は新しいお力に目覚めたと聞いたけど?」

「くすくす、相手が何を言うのか分かってるようにどんどん話していって、すぐに部屋に引っ込んでしまうヤツでしょう?」

「気味悪いわぁ。…侍女が言うには、真夜中になるとお一人の部屋で怒鳴ってるらしいわ」

「ああ怖い怖い。そんなだから陛下も戦場に連れて行かなかったのね」



余裕がない彼女の婚約者は今、侵攻された国を取り戻している最中。

「連れて行って」とどんなに縋っても、彼は難しい顔で首を振り、「今の陽乃を連れて行くだなんて危ないこと、出来ない」とまで言われた。


(私が、手負いの獣みたいに騒がしいから、連れて行かないんだ。私が凶暴で、うるさいから。)


陽乃はもう、自分の手を振り払って去って行った恭の顔を思い出せない。

なんとなく、疲れた顔だったような気がする。失望が滲んでいたかもしれない。……もう、帰ってこないかも。


その未来を想像して、陽乃は急いで自室に戻る。

みっともなく吐いたけれど、胃が空っぽだからすっきりしない。体の中が荒れているのが分かる。


(一番怖いのは、帰ってこないことと、それと―――)


ふらついて、指令書の他に色んなものが投げ落とされ散乱した床に倒れこむ。もぞもぞと仰向けになって、ゆっくりと息を吐いた。


(その隣に、新しく誰かがいること)


もう、まともに恭と会話をしていない。大体話の流れも似てるから、つい相手の返事を待たずにこちらの返答を突っ込んで強制的に終わらせてしまう。

毎夜毎夜、仕事が終わってくたくたなのに会いに来た彼に、陽乃は上手く会話どころか顔も見れなかった。顔を上げると亡霊≪もうそう≫がこちらを見てるか、顔を借りているかなのだから。


「主、陛下が帰って来られました」


下僕はおどおどと彼女に告げる。

起き上がり、ふらふらと部屋から出ると、恭はたくさんの花を手に栄光と羨望の眼差しの中で微笑んでいた。―――近づけない。


これが昔だったなら、人を蹴り飛ばしても彼のもとに向かうのに。

柱に縋って見ていると、不意に白い法衣が見えた。儚げな金髪に菫色の瞳。匂いからして、人間だ。


「おや陛下、そちらの方は妻にされるおつもりで?」

「!」

「え、いや、まさか―――彼女は末娘様に仕える人だから。それに……うん、しばらくは――そうとも、ディヴェール、すまないね、俺は……誰とも結婚しないつもりだから、ね」



(ダレトモケッコンシナイ?)


(どういうこと。どういうこと……?私とも?何で?)



「今は―――…いや。国難の時だからね」



そう言うと、くすりと隣の法衣の女に笑う。

「心得ております」と控えめに女は微笑し、恭は「じゃあ部屋に行こうか」と促した。


いまだ話を続けたいと追いすがる貴族たちにやんわりとした微笑を返して。



陽乃は気づかれないように部屋に戻ると、どうすればいいのか分からなくて部屋をうろうろする。

止まると亡霊≪もうそう≫がくすくすと嗤っているような気がして、疲れてるのに休めない。


「陽乃?」


きっちりと、二回ノック。

その声色は弾んでいて、扉からは微かに女の匂いがした。苛々と扉の前に立つ。


「起きてるかな?―――あのね、会わせたい人がいるんだ」


そもそも鍵はかかっていない。恭はゆっくりと扉を開け、照れたような笑みで続けた。


「陽乃の具合が悪いままでしょう?だから、」


ブンッと唸りを上げる。

「え?」と恭が見上げてしまうくらいだから、人間の彼女には防ぎようがなかった。

大振りのナイフが女の頭に、鼻まで刺さって―――目がぐるんとひっくり返る様を嗤うと、我に返った恭が陽乃の肩を掴んで怒鳴った。


「陽乃!どうして、どうしてこんな酷いことを……!」


陽乃がぼんやりしているのを揺さぶりながら、恭は涙交じりに叫んだ。


「彼女は陽乃に危害を加えないッ、陽乃を治そうと、俺が―――」


連れてきたのに。


そう最後まで言えなくて、恭は口を噛んだ。

陽乃は自分を見ていない。どこまでもぼんやりしていて、「指令を出さないと」とうわ言のように呟いて死体を跨ぐ。


恭は、「どうにもならない」ことを知ると、彼女の腕を掴んで城の奥に幽閉した。











「だして。出せえええええええええええええええええええ!!!」



扉を蹴る。殴る。爪を立ててみる。


あのよく知りもしない女を殺して幽閉されてから何遍も魚は波紋を立て、勇者をどうにも出来ずに陽乃はますます孤独を深める。


「来るの、すぐ、そこでっ、誰かあああああああああああ!!!」


悪いことなんてしてないのに。

毎回毎回、波紋によって時の巻き戻る世界で恭は、女を連れて陽乃の前に立つ。もしくはどうしようもない陽乃を哂って有力貴族が自分の娘を彼に差し出そうとする―――だから、殺した。


彼女は自分の居場所を守っただけなのに、繰り返す世界で(数えるのも馬鹿らしい)何度目かの幽閉となってしまった。

恭はそんな彼女に呆れるどころか笑っていて(そう見えてしまう)、ニタニタと(たぶん、)花やお菓子を持ってくる。

だから彼女はそれら全てを目の前で踏み砕いて、その顔が変わると安心する。まだ世界は正常であり自分の妄想に浸っていないと実感できる。


「どうして……、っ…ぇっく、…陽乃なんて嫌い!」


白い布の塊を持ってきたから、破り捨てただけなのに(それ以外に見えない)。何かの虫みたいだから、「気持ち悪い」と言っただけなのに。


何でそう言われなくちゃいけないの?―――陽乃は気持ち悪いそれを踏み躙る。



「………。きらいって、いわれちゃった」



―――どんなに繰り返しても、言われたことなかったのになぁ。


一瞬だけ正気に戻った彼女は、破られ踏まれた――…「ウェディングドレス」を胸に抱くと、格子の窓に体を押し付けた。


異常な寒さに涙が出る。ぎしり、と鳴ったのは心臓か、窓か。



「あ………」



―――ある陰謀で、元々その窓は壊れやすかった。


堕ちる、その最中、彼女は寒さに耐えるように白いウェディングドレスを抱いた。


美しいその裾は愛しい人のそれと似ていて、まるで心中しているようだった。



(ああ、いっしょにおわれる)




                      「

                       だ

                       い

                       す



                       き



                        」




禍々しく尖った柵へと、彼女は幸せそうに落ちていった。











―――

―――――

――――――――


―――硝子の棺の中、白雪姫はキスをしても目覚めない。


すっと硝子の縁に指を這わせ、寄りかかった体勢のままステンドグラスを見上げる。いつの日か、「美しい」と笑った彼女を思い出した。


『でも、ここは亡くなった人にお別れを言う場所だよ』

『そうよ。だから美しいのよ。―――残酷に』


硝子から桃色の髪に触れ、くるりと巻いてみる。痩せた輪郭だけれどもそれでも美しいところは流石だと、苦笑した。



「……陽乃に相応しい、男になれなかったなあ」



もしかしたら、自分じゃなかったかも。


もっと強くて、勇ましくて、彼女の悩みも吹っ飛ばせる豪快さと、寛大さを持った……。


―――理想の男性には程遠い、と笑おうとして、彼女の真珠の首飾りに涙が溶ける。


自分はなんて愚かなんだろうと、彼は唇を噛んだ。きっとこのドレスを見たら、あの日の彼女が見れると、そんな浅はかな期待を持って。なんて馬鹿なんだ。

少し考えれば分かったのに……彼女の本心ではないと分かっていたのに―――「きもちわるい」その一言に胸を突き刺されて、現実から逃げて。


異変に気付いて駆け付けても全て遅く、体の全てが凍ったようだった。

彼女が何をしたというのだろう。無残にも柵の先が彼女の胸を突き破っていて……。


けれどその顔は彼が見たかった表情のまま、ドレスを抱いて―――あまりにも幸せそうで、本当に死んでいるのか、しばらく分からなくて……。


無理だと、諦めろと引き離されるまで、彼女の傷を全て癒していた。

……そのために、この硝子の棺に眠る彼女への未練と錯覚が、いつまでも彼から離れないのである。



「好きだよ。大好き。愛してる。…好きだよ……」



扉の向こうでは、彼の臣下がおろおろとしている。 (どうでもいいことだけど)

だって、もう一月、遺体の傍から離れていないのだから。 (離れたくないんだもの)

大丈夫、彼らは優秀だから。 (もう少しだけ、時間を頂戴)




「―――末娘様、俺は絶対に楽園を取り戻します。だから、だから、前倒しのご褒美をください…俺を救ってください…ッ」



返事は。


ステンドグラスから差す光の中、ひっそりと佇む、兎が――――。




ぱしゃん。












補足:


メンタルの強さは


恭ちゃん>越えられない壁>夕凪>国光=文>クローディア>陽乃 です(笑)


恭ちゃんの「結婚しない」は、普段うるさい陽乃ちゃんがヒッキ―してる間に、自分の娘との縁談を進めていた貴族への言葉で、「(陽乃以外とは)誰とも結婚しないよ」という、陽乃ちゃんがその場にいないだろうと思っていた、(陽乃ちゃんの治療のために先を急ぐ)恭ちゃんの失言ミスでした。


幽閉の件は陽乃が庇いきれない罪をしでかす前に、隔離してメンタルの回復を図るためで、恭ちゃんは一生懸命ニコニコしてたけどメンタル崩壊寸前の(ry)


やることなすこと裏目に出るカップルでした……。




※ここから先には作者絵があります、ご注意ください。↓






挿絵(By みてみん)

ま、まだギリ桜の季節だよね!…ということで桜と陽乃ちゃん。

桜があんなに美しいのはその下に死体が埋まってるからだ!(どやっ とか言ってた人がいたそうですが、私もそう思います。だって地元の病院の桜、めっさ綺麗な上に赤みが……げふんげふん。


冗談はさておき、陽乃ちゃんが美しいのも、ある意味彼女の生の下には何人もの死体があるからかもしれません。対して恭ちゃんはどちらかというと、死に至る誰かを救ってあげることが多い設定。

背中合わせの二人だからこそ、ぴったりくっついてるのかなあ……。


なお、今回の修羅場と絵は、椎名さんの「眩/暈」を聞きながら作りました。

そして、実は桃色の(若干)強い花の咲いた枝が彼女の胸に突き刺さってる設定。


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