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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
2.れっつ、こんてぃにゅー!
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1-3.その扉を開けてはならぬ、



※血の表現があります。





「ねえ、このお茶……喜んでくれるかしら?」

「さぁーて?何せ淹れるのが姫様ですからねー?」

「どういう意味ですのよ!」



国光が氷を砕いている頃、モールとデステアは買い物中でした。


背が高い故に、一生懸命モールを見上げるデステアの頬が赤くて、モールは面白くてついつい指で突いてしまいます。


「れ、レディになんてことするんですのー!」

「いやー姫様ってよく見ると童顔だなーって」

「ど…童顔んんん!?」

「ありゃりゃ、嫌でした?」

「当然ですわ!童顔だなんて……」


拗ねてしまったデステアが視線を落としてしまうのを、少しだけモールは寂しく思ったのですが。


「……それじゃ、あなたと釣り合わないじゃない……」

「え?」

「あっ」


独り言のつもりが、人通りも少ないこの町では―――いえ、魔族である彼の耳にははっきり聞こえて。

聞かれてしまったことに気付いたデステアは、真っ赤な顔でモールをもう一度見上げました。



「聞いた!?」

「聞いちゃいましたー☆」

「う……べ、別に変な意味なんて無いんですからね!」

「ほー。変な意味とは?」

「あ、あぅ……辞書でも引いてらっしゃい!」

「何です、俺の心の辞書でいいですか?」

「もう勝手になさいよー!」



その言葉にモールがふざけてデステアの肩を抱き、蹴られてしばらく、やっと宿に着きました。


するとデステアはぽつりと、


「文、大丈夫かしら」

「あー…病弱ですもんねー」

「女神様も、どうして文のようにか弱い子を喚ばれたのかしら……こんなので元気、出してくれるかしら…?」

「何事も気持ちですよー?大丈夫大丈夫、よっぽど不味くなければ喜んでくれますって」

「殴り飛ばされたいのあなたは!?」


噛みつくように怒鳴れば、適当に交わしていたモールは不意に「あ、すんませんトイレ」と言って早々に離脱しまして。

「レディの前で…」とプリプリしながら、デステアは文と国光の部屋の扉を叩きました。


「デステアか?」


何故か額から血を出している国光にドン引きすると、デステアは無言でハンカチを差し出しました。


そして一回咳をすると、毛玉を撫でている文に微笑みます。



「文!旅の時のお茶は飽きたでしょうから、今回は甘いお茶を買ってみましたの!一緒に如何?」

「甘いお茶?…美味しそうだね。飲みたいな」

「そうでしょう!」


ふふん、と胸を張るデステアと先程の幸せを引き摺ってる文を安心したように見つめていた国光は、「悪いな、」と言って片手をちょっと上げました。



「実は文の事で神殿の人と話をしてくる。文の具合が悪化すると悪いから動かしたくないんで、来てもらいたいんだが―――そういうのって、出来るものか?」

「一般人なら無理でしょうけど、勇者様の一大事となれば神殿も人を差し向けましょう。疑われないように勇者専用武器と毛玉を連れて行きなさいな」

「……毛玉も?」

「召喚士が原因不明の病に倒れた場合、動かせない場合は最初に召喚した子を診せるのですわ。それで呪いかどうなのかも分かりますの」

「ああ、そうなのか。…じゃあ文のこと頼めるか?咳止めは此処にあるから」

「分かりましたわ」



デステアの返事に念を押すように「頼んだぞ」と言うと、国光は毛玉を抱えて神殿に向かいました……。







―――その下では、堅い表情のモール……いえ、ディートハルトが、目の前の蝙蝠からの命令を黙って聞いていました。


この蝙蝠は彼にとって恐ろしい主―――魔王の妃となる、吸血鬼一族の姫、陽乃の下僕です。



「我らが主からの命だ。勇者を殺せ。すぐにだ」

「すぐ…ですか」

「それから神器も奪え。"出戻り魚"を二人のうちどちらかが所持している筈だ。可能ならば片方は生かして連れて来い。"生きているならばどんな状態でも良い"」

「はあ……」

「―――成功した場合、主はお前の罪を許されるそうだ。そしてお前の願いも褒美として叶えると言っておられる」

「え……で、では、……国一つ、欲しいと言ったら…?」

「与えよう。……主はどういう訳か、お前の望みを知っていたようだが」

「っ」

「"お前の願いがぐちゃぐちゃにされなければいいな"。……失敗は許さん。以上」



そうして蝙蝠が飛び去ると、モールは思わず荒んだ手を口に当てて、壁に身体を預けました。


―――今までにないほどに、成功させたいと、否、させてみせると意気込みました。


懐を探ると綺麗な白の水――毒が、ありまして。

その白に浮かぶのは罪悪感では無く、金髪の彼女の横顔でした。






「いぇーい、お嬢さん方元気ですかー」

「ああ、元気だ」

「ちょっ、ノックも無しに、無礼ですわね!」

「そりゃすいませーん…んで、すいませんついでなんですが、」

「なんですのよ?」

「俺、持病の薬切らしちゃったんですよー。悪いんですけど姫様、これ買って来てくれます?」

「えーっ。自分で行きなさいな、持病なんでしょう?」

「だってぇー、モールこれから報告書書かなくちゃいけないんですもんー」

「もう……ごめんなさいね、文。先に飲んでて下さる?」

「ああ、待ってるよ。気を付けて」

「さーせん」

「本当ですわ!」



―――と、デステアは頬を膨らませて部屋を出て行きました。


その足音が聞こえなくなると、部屋には音が無くなって。……けれど、不思議と苦しくない雰囲気でした。


モールはいつもの読めない笑顔で八重歯を見せると、「お茶、淹れますね」と空になったカップを指で弾きます。

「すまない、」と僅かに文が頭を下げた隙に"呪い"をカップに入れて、モールはゆっくりと紅茶を淹れていきました。



「はい、どーぞ」

「ありがとう」

「…―――そういやあ、文お嬢さん、あの坊っちゃんは?」

「国光くんか?国光くんなら神殿で、毛玉を連れて僕の事を相談しに…」

「ああ、じゃあ時間かかりますねぇ…ねえ、文お嬢さん?」

「…、…ん、はい?」

「ああ、飲んでる所すいません。いえね、ちょっと探し物をしてて。こう、丸っこい宝石を見た事あります?俺の宝物なんですよー」

「失くしたのか?僕のにも国光くんの荷物にも潜り込んでないが…」

「あー…そうですか。残念です」

「力になれなくて、すまな、」



がしゃん。


カップが割れて、どんどん零れていく紅茶の中に、赤い滴が落ちました。


何が起きたのか分からない―――そんな顔の文が、何かを言う前に、死が彼女の喉元で暴れ出します。


「がふっ!?、げほ、っぐ!…う、え、ぇ…」

「……いやー残念だ。さっさと探し物、見つけたかったんですが」

「ごほっ、あ……に、みつ……げほっ!」

「すいませんね、即死の薬が手持ちに無くて。その薬、辛いでしょう?散々血を吐かせた後に心臓が止まるもんですから、ド派手な死に方になりますよ」



告げて、触れようとした手をなんとか叩き落とすと、文は震える腕で何とかベッドから抜け出しました。

…いえ、この場合転がり落ちた、が正しいかもしれません。それでも必死に這って、口も顎も胸さえも赤く汚して、文はやっと辿り着いた扉を前に、がりがりと爪で引っ掻きます―――もう、立てないのです。



「や、だ。やだぁ……くにみつ、くん…!―――で、ぇ、げほっ!あ、と……」



幸運な事に、元々体の弱っていた文は、さらなる苦しみを味わう前にこの世を去りました。


引っ掻かれた扉は血だらけで、その指は爪が剥げています―――モールは、…いいえ、ディートハルトは、死んだばかりの文の首根っこを掴むと、赤く汚れたシャツを無理矢理引き千切りました。


「……無い」


今度はスカートのポケットを探りました。捲りもしました。


「……無い」


―――不味いです。主の死は、毛玉がすでに感知している筈。


ここはトンズラすべきでしょう。こういう時の為に彼の愛するデステアは買い出しに行かせましたし……この際ブスに罪を擦り付けるのいいかもしれません。


ディートハルトは文を床に捨てると、この街に一つしか無い薬屋へ"移動"しました。











「んあ゛――――!!ああああああああああ!!!」

「え、ちょ、どうしたんだ?」



神殿の人に話を聞いてもらい、担当の人が来るまで待っていた。


そしたら毛玉が目をカッと開けて、狂ったように叫び出す。挙句の果てには頭を壁に打ち付けて……。


流石にこれは文に何かあったのかもしれない―――近くの神官に宿の場所を教えて、俺は駆け出した。


召喚しやがった国が祀ってる神様の恩恵である「加速」を使い、行きの倍以上の速さで宿に着き………流石に宿だからな、階段くらいは人並みにした。


ちなみに俺達の部屋は奥。で、部屋の都合上ブス達は遠く向こうの部屋―――くそ、奥なんて選ぶんじゃ無かった。



「…はぁっ……文、デステア。何かあったか?」


そう言って開けると―――あれ、開かない……。


俺は後で弁償すればいいと、思いっきり扉を蹴飛ばした。



不格好になったが開いた扉―――ぶわりと、鉄の匂いがして。



「……文?」



爪が剥げてて。


顔は苦しそうで、口から下が真っ赤で。


シャツは無理矢理誰かに引き裂かれてて。


何より、その肌は、あの時のと、一緒………。



「……ふみ?」



苦悶の顔の文は、光の無い目から涙を流してた。


喉を押さえた痕もある。―――毒でも、飲まされたのか…?誰に?



『文!旅の時の茶は飽きたでしょうから、今回は甘いお茶を買ってみましたの!一緒に如何?』

『甘いお茶?…美味しそうだね。飲みたいな』

『そうでしょう!』




「あ…の…くそアマあああああああああ!!!文を、文の友達面して、文にこんな、こんな………!!」



殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる――――絶対に、殺してくれる!!



俺が、とても文には見せられない酷い顔をしていると、背後から軽やかな足音が聞こえた。



「ねえモール!買いに行く必要なんてなかったの、私の部屋にね………?」



間抜け面の女は、凄惨な部屋に固まっていた。


俺は血が固まった文の頬にキスすると、そっと上着を被せて寝かせる。


ゆらりと立ち上がって、俺が剣を抜いても。


この、虫にも劣る屑女は動きもしなかった―――。






…その扉を開けてはならぬ、あなたの帰りを待っているのは絶望だけだ。



そして姫様逃げて――――!


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