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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
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27.誰が誰の死神なんだろう



「……み、……ふみ―――文!」

「…あ、」



今までピクリとも動かなかった文だけど、俺が情けなく泣きついて数分でやっと目を覚ましてくれた。


ボロに近い服をどうにかしてやりたいけど……オロオロしてたら、文が自分の冷えた手をずっと温めていた俺の手に気が付いたようで、ふっと笑って。


「……あったかい……」


―――そうじゃないだろ。


……って、言いたいけれど。でもその顔にホッとしてしまったから、俺は何も言わないでおく。

文の足を温めていた毛玉はパタパタと尻尾を左右に振っては文にぎゅうっと抱きつくと、「ありがとうね」と褒められ撫でられて上機嫌だ。



「……国光くん、ここはどこ―――で、今は何時?」

「あ、ああ…ここな、街外れの森だ」

「街外れ……」

「お前を探しまわってやっと見つけたは良いものの、俺らが勇者だってのはバレちゃったし……宿入るまではバレてなかったんだけど、モールと姫様探したり荷物まとめて毛玉のポケットに入れてる間に警察官っつーの?…が来て……慌てて逃げたんだけど、馬車まで辿り付けなくて……」

「……え、待ってくれ、モールとデステアが……?」

「そ。荷物は大体そのまんまで…慌ててたもんだからあいつらの荷物そのまんま…あ、でも路銀はちゃんと持ってきたから大丈夫!」

「そうか……―――すまない国光くん。君にそんな大変な思いをさせて…」

「気にすんな。…それより、」



身体は、大丈夫か。


そう聞くと、文は予想通り曖昧に笑った。……そうだよな、いっぱいいっぱいだよな。



「……文、無茶しないでくれ」

「してないよ」

「…お前に死なれたら…どうすればいいんだよ。デートも誕生日もどうする気だよ」

「……うん」

「死ぬなよ。絶対―――…まさか、死ぬ気だった?」

「―――いいや?」



国光くんを置いて死ぬわけ無いじゃないか。そう言ってあいつは俺を毛玉を挟んで抱きしめて。

髪切れてるね、とかここ怪我しちゃったねって背中を擦ってくれるのに、俺は涙がぼろっと零れる。


おずおずと両手を文の背中に縋るように回せば、文から火薬の匂いがした。……昔は、すれ違うと薄ら石鹸の香りがしたのに。……それが、とても悲しい。


悲しいくせに、無意識に温もりを求めて身体を寄せると、文からコロンと―――宝石?



「…ああ、国光くんには見せたことが無かったね…これがあの時、国光くんを連れ戻す為に使った神器だよ。名前は"出戻り魚"――パライバトルマリンみたいで綺麗だろう?」

「パラ……?」

「魔力を使って希望する時間まで戻る事が出来る。だからあの時、デステア達からしたら僕の君を探す旅も一秒程の事に思えただろうね」



パラ何とかって文が例えた石は、本当に綺麗な空色だ。

もしくは海の浅い所で、水面を挟んで空を見上げたような色。まるで自分から輝いているみたいだ。


空を閉じ込めた球の中には白い魚みたいのが今にも泳ぎだしそう―――だから「出戻り"魚"」なのか。



「……これは本来、二つあった…が、"彼女"に奪われていたようだ」


ほけーっと宝石を見ていたら、文が暗い顔で呟く。

へえ、これって二つあったのか……じゃないっ、"彼女"って?



「魔族か」

「…うん、さっき僕と争った女性―――陽乃ひのさんが、ね。魔王のお嫁さんだと言っていた…」



どこかせつなそうに、苦しそうに―――…え、あ、あの、恋に落ちたとかそういうんじゃないよな…!?


「浮気だ!」

「お馬鹿さんだね君は」

「(´・ω・ `)」


なんだよ……としょんぼりしてたら、文はよいしょと身体を起こす。


そして毛玉に頼んで薬やら絆創膏やら取り出して、浅く切れた俺の頬にそっと、優しく貼ってくれて。


「後で切り揃えようね」と手櫛で梳いてくれるのが、とても気持ち良かった。



(……頑張んないと)



文が、また倒れる事の無いように。―――そう誓っていたら、暗闇の暗闇から、くたびれた金髪の男が出て来た。



「…ははっ、いやー、こんなとこに居たんですか御両人」

「モール!…てめーどこ行ってたんだよー!」

「ちょっとねー…いや、実はですね、姫様がご実家で軟禁されてるんですわ。俺ぁそこからこう、頑張って抜け出してきたんですけども」

「えっ……デステアが!?何故!」

「色々あって姫様の祖国が魔王領になったんですわ。んで、陛下も殿下方も自刃とかして生き残りは姫様しか居なくてですね、……捕まっちゃいました☆」

「…?こうは言いたくないが…デステアを生かす理由があるのか?」

「ありますよぅ!姫様の祖国は"神聖同盟"っていう過激な魔王様ぶっ殺すぞチームの大御所その一でして。神聖同盟の破棄なり内部への過激派を抑える為だったり国民への云々だったり―――人間と魔族の舵取りをする上で、だぁーいじな御身ですよ」

「……よく生きて戻れたな、お前…」

「俺ぁ戦闘は非力ですけども、こういう"移動"に関しては飛び抜けてましてね」



ふざけた口調は健在だが、不意にモールの身体が倒れかける。慌てて手を伸ばすと、その手は冷えてて凄い汗を掻いていた。


「おい……?」

「いやはやすいません。大丈夫…――で、悪いんですけども神殿巡りコースとか悠長なこと言ってられなくっ…て、ですね、俺が今から魔王様との最終決戦場まで連れていきますけど良いです…っほ、……か?」

「…しかし、モール…君、本当に大丈夫か?」

「大丈夫ですって!…っ、…今魔王は一人ですから。お二人で頑張ればお家に帰れますよ」



―――さあ、この手を取って。



モールの具合のせいか、月すら姿を見せてくれないせいか……それとも、魔王を殺す決意すら持てないからか。―――その手は死神のようだ。


けれど文は迷わずその手を取る。その横顔は凛としていて、俺はこいつを守るって、決めた事を思い出して……複雑だったけど、その手を取る。


「道中、女神様に最大の加護を与えられると思います。宣誓するように言われるでしょうから、不敬の無いようにね」



そう言って目を閉じたモールの服に、血が飛んでいた事に気付いたけれど。


俺が声をかける前に、もはやトラウマに化しているあの白い空間に飛び込んだ。











――――私が編んだとはいえ、何とも稚拙な運命よ。



女神は、ヒステリックなあの声ではなく、疲れきった声で溜息を吐く。



――――まあいい。…誓え、"世界の為に命を賭ける"と。必ずやあの女の恩恵を受けし子供を殺すと。



微かに恨みが覗くその声色に、俺は慌てて「誓います!」と叫んだ。


ややあって、隣の文も瞳を閉じてこくんと頷く。……あれ、もしかして声に出す必要無かった?



―――そなたらが世界を救った暁には、その願いを我ら十二神の力で以て叶えてしんぜよう。さあさ、その望みは?



―――社会での華々しい成功か?最高の伴侶か?楽に進む人生か……。



そんなもの、要らない。


俺はさっさと帰って、文の誕生日を祝う。初めてのデートだって。…何より、文から石鹸の香りがして、俺を苦笑いで起こしてくれて、小さくご飯が美味しいと言えば嬉しそうに微笑む、あの時に帰りたいんだ。



――――……。



……女神から、返答は無い。


…え、こんな程度叶えてくれるだろ?…そう思ったら、文が小さく「…どうして?」と呟く。

どうやらこっちで話が難航しているのか。……やっぱり、毛玉は連れて行けないのかな。



チラチラ文を見ていたら、白い世界は崩壊した。


おい、返事はどうしたよと思ったが、力が不自然に湧く感覚がしたから、受理されたのかな。



―――そして地に足が着く感覚がして、俺は目を開けた。……ら、




「うっ、げほ、ごほっ……う、ぁ……」



見慣れた白い、長くて優雅なあの上着。


小さな王冠。しゃらりと鳴る銀細工。花の飾りが儚くて。


月夜の優しい雰囲気の黒髪。苦しそうな…青と、緑が神秘的な、色の瞳が………。




「―――恭?」

「…く…に、みつ…くん…?」




その口からは、あいつに不似合いな赤が零れていた。







その頃、彼の王子様は急いで食事中(文に与えられた傷が治らない為)


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