表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
22/44

21.だって、好きだし



「ねぇ、絶対こっちの方が似合うと思いますの」

「駄目だ。その色は合わない」

「じゃあこっちのリボン!」

「ならこのレースの……」



やあ皆――――助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!


お願いです、助けて下さい。女子二名が俺を玩具にして小物だの装飾品だの何だのを批評中なんだ。少しでも身じろげば姫様の胸が当たるし嫌がるのは出来ない……何故ならこれも俺の贖罪の為だ。

それに文も楽しそうだし……あれ、何か重い!?え、何これ、な―――いやあああ首筋に何かファサファサしたの当たったぁぁぁぁ!!



「…いや、デステア。この帽子は無いだろう。鳥一匹使ってるせいで最先端超えてるぞ。…あ、国光くん動かないで。君の耳に当たってるのは足だ」

「ひぃぃぃぃぃ!!」

「うーん、何かもっと斬新なの……あ!文!これはどう!?」

「あ、軽くなった……」

「デステア、流石にこれは百年の恋も冷めるぞ。蝉を帽子に飾って誰が得をするんだ」

「いやああああああ取って――!!お願い取ってぇぇぇぇもう許してぇぇぇぇぇ!!」

「うーん、悩むな。こうまで帽子の数が多いと…あ、このカチューシャ可愛いぞ国光くん」

「見れないんだけどぉぉぉぁぁあああああ!!」

「はいはい、店では静かにって親から習わなかったんですか騒々しい。…ほら、姫様にはこの程度で十分ですよ。葡萄盛りだくさんの飾りとか面白いっしょ?」

「え、本当……ふ、ふん!あなたにしては良い物持って来たじゃない!」



け、汚された……。


俺は帽子をとってくれた文に礼も言わず、椅子の上で膝を抱えて泣いていた。そしたら毛玉に頭をなでなでされたんだが何これ虚しい。


「国光くん、」

「あー?」

「ねえ、この帽子、似合うかな」


不貞腐れ中の俺が顔を上げると、文がクリーム色の帽子を被ってきょろきょろしてた。

造花がいっぱいの、割とよくありそうな帽子……だが、大きすぎて肝心の文の顔が見れない。しかも重さに耐えられなくてふらふらと危なっかしい。


「馬鹿、転ぶぞ」


まったく、と俺が文から帽子を取り上げた。―――ら。


ちりんちりんと鈴が鳴って、従業員が皆慌てて入口に集まり、綺麗に並んで深く礼をして……。




「―――御機嫌よう。……ああ、もう三十秒も過ぎてしまった……」



ぱちん、と懐中時計を閉じると、真っ白でくるくると巻かれた、とても長い髪の女は落ち着いた声で呟いた―――何だ、あれ。

…そう思って突っ立ってたら、モールが俺と文に頭を下げるようにジェスチャーした。



「おお、魔女様。今回も私めの店をご贔屓にして頂き、有難うございます」

「あなたの店はそれだけの価値がある。…人間とはいえ、ね」



文面だと皮肉だが、最後の言葉は何というか、ふわっとしてた。


それがとても気になって、頭を少し上げて"魔女"ことこの国の監督者を見上げた。


(……ああ、うん、魔女だ)



真っ黒のつば広帽子には、でっかいシックなリボンを懐中時計の少し大きい版(ちゃんと動いてる)で留め、黒から白にグラデーションしたふっさふさの羽、ルビーとか宝石を垂らしてみたり何だり。


肌をそれなりに曝しているのに気難しさを感じさせる人で、黒味の強い紫を基調に艶々した布やレースをふんだんに使った、後ろに広がる所がまた優雅なドレスだ。

そんな大人っぽいドレスだが、所々のリボンや薔薇が女の子らしさっつーか何つーか、甘さを出しているというか。絶妙でいてぴったり似合ってる所に魔女の美女ぶりが分かる。


案外笑ったら幼く見えるんじゃなかろうか―――と思いつつチラチラ見上げていたら、魔女の背後からふらっと男が出てきた。


年齢は…大学行ってそうなほど。黒髪でさらさらだけど、恭と違ってすっごく冷たい印象を受ける。


片目は眼帯で、黒い軍服…んー、軍人の礼服か?旧日本軍っぽいかんじ……何あの服カッケ―…。


ちょっと羨ましい男もやっぱり帽子を被ってて、何つーか下官用じゃ無くて、上官っぽい感じ。腰に差してるのは指揮刀じゃなくて日本刀で、そこに痺れました正直。



―――でもそれと同時に、「あ、こいつヤバいな」と危機察知しましたというか。俺は何となく文を隠した。


「!」


うわああああああ目が合ったぁぁぁ……!

アレ、殺されちゃう?殺されちゃう系?…いや、待て。この店は無駄に障害物多いし、俺が無茶をやっている間に文くらいは、



「…今日は体調が優れないの。早く見せて頂戴」

「ええ、ええ。もちろんですとも。どうぞこちらへ」

「……何をぼんやりしているの。早くなさいな」

「……………」

「……置いてかないから。だからその顔やめなさい」



背後の男に溜息を吐くと、魔女はさっさと階段を上る―――途中、不意に足を止めて、こちらを見た。


その視線は一瞬文に移り、そしてゆっくりとモールを見る。……モールが堅くなるのを、俺は初めて見た。


「魔女様…?」

「…ああ、ごめんなさい」


結局、何事もなく魔女様ご一行は上の高そうな部屋に消えてしまい、従業員と俺たち客はホッと息を吐いた。

腰が痛いわと擦っていると、上の部屋が気になる様子の文が目に入った。その足下には毛玉がしっかり縋り付いてる。


両者の頭を撫でる頃には、他の客やら従業員の声が賑やかになった。



「―――あー吃驚した。魔女様がいらっしゃるなんて」

「まああんなに素敵なお城でも、ずっと籠るのは辛いですものねぇ…でも、こんな時に城下に来られるだなんて」

「そうよねぇ…アレかしら。最近、野蛮なのが目立って来たじゃない?勇者が立ったって一報が入ってから調子付いたというか―――実際の様子を見たかったのかしら」



姫様は同じ……あ、恭曰く同じじゃないか…でも、まあ似た物同士として、何か感じるものがあったのか固まって動かなくて、モールはぶっきらぼうに「早く出ますよ」と腕を引っ張る―――あ、でもその帽子は買うんだ。


折角の自由時間なのに、今回は微妙な気分で幕引きらしい。







――――

―――――――

―――――――――――




「とても、楽しかった」

「なー!」

「…そいつはよかった」



久し振りの良い宿の一室で、団子を解いた文が笑う。

ストレスも解消できたみたいで、その笑顔はこの世界に来る前の文が浮かべていた物に近い。


毛玉が文を真似て淹れた紅茶を冷ましていると、文が「あのね、」とカップを両手で持ちながら口を開いた。



「あのね、服を選んでる時―――デステアがね、教えてくれたんだ」

「ん?」

「モールが好きなんだって」

「あー…はあ。」

「……驚かないのかい?」

「いや、分かりやすかったもんだから」

「むぅ。国光くんは鈍感だから気付いてなかろうと思っていたのに……まあいい。それでだな、ええっと……国光くん、モールからその手の話を聞いたことはないかい?」

「ないない」

「何かしらあるものだろう?どこの港に何人の愛人がいるとかそういうの」

「いや、そういう会話は親友レベルでもしなくないですか」

「猥談も何も?」

「俺、ほとんどお前らが居る時しかあいつと喋ってねーんだぞ!?するわけねーだろ!」

「……困ったな。デステアの助けにならないじゃないか」



そう言って口を尖らせる所が、何か女の子らしい。

……そういや文ってクラスでは大抵の女子と可もなく不可もなく、もっというと美術の才能もあってか上手に折り合い付けてたけど、女の友達っていなかった気がする。


休日だってほとんどを俺と過ごしてばかりで、……なんか意外だわー。



「…お前とデステアって、最初の頃はあんなに仲悪かったのにな」

「しょうがないだろう。君と既成事実を作る宣言をしたんだぞ」

「……お前、あの日のこと謝っといた方が良いぞ、マジで」

「デステアは気にしてないらしいし……何というか、彼女は君に似てるからな。デレるタイミングとか」

「………そうですか…」

「―――だから、幸せになって欲しいんだが……モールはこのパーティーの中でもデステアの面倒は割としっかり見ているし、断るにしろ酷い振り方はしないと思うんだが…」



ふぅ、と溜息を吐いた文の隣で、毛玉は温くなった紅茶をびちゃびちゃと飲んでいた。


「…なあ、国光くん。夜中に変な男が来て、慌てて好きな人の所に逃げ込んだらちゃんと匿ってくれて、追いかけてきた男を殴り飛ばした後、自分のベッドを譲ってくれたら―――その男の人は、脈アリか?」

「えー…もしこれが対等な奴同士なら頷くけど、モールと姫様は……何だろ、主従関係というかさ、身分もあるし。紳士に振舞っただけじゃね?」


ていうか、あいつって肝心なところ見せねーし胡散臭いし、何か大丈夫な気もするけど後押しの言葉は出せない。


それに好き同士でも身分差どうすんだよ…姫様と賢者ってどんだけの差が、……ん?


「なあ、モールって貴族なのか?」


賢者とはいえ、まさか農民とか、そういう一般庶民が、しかもあの程度の若さで勇者パーティーに突っ込まれるか?

いや、若いから旅は良いだろうけど……何というか、このパーティーってつまり、大人の都合で集められてるわけで、モールにも後ろ盾なり何なりの権力がある筈だ。じゃなきゃ戦闘時使いもんにならないのを入れる訳ないだろ……多分。



「んー?……んー…デステアが言うには、幼い頃から気が付いたら居たとか言ってたぞ」

「割とアバウトだな!」

「面倒臭がりでぼっさぼさなのを無理に矯正させたそうだが。大雑把で色々酷いとこもあったが、色々な事を知っていたものだから懐いたみたいだよ」



ふーん、と俺はやっと微温湯になった紅茶を飲むと、「まあ、なるようになるだろ」とカップを置いて、



「―――大変ですわ!!」


かちゃん、の繊細な音を掻き消すほどに派手な音を立てて、さっきまでの話題の中心人物が部屋にかけ込んで来た。


「どうした?」と思わず二人して聞いてしまうと、姫様はそれを少し羨ましそうに見てから、口を開いた。



「ブスが、ブスがこのパーティーを抜けるって!」

「ええ!?」

「…急な話だな。どうして……」



文が聞き返す声に被さる形で、モールの「あ、ちょ、待てこら」というやる気の無い声が向こうから聞こえ、ドスドスとちょっと女性としてその足音はどうなんですかなブスが、姫様を突き飛ばして穏やかな俺達の部屋に、猛牛みたくやって来た。


「ぶ、ブス…さん。あの、……何かありましたかね?」


無いとは思うけど文に何かされると不味いし、俺はベッドから立ち上がり、のそのそとブスの前に立つ。


言葉はともかく、行動は多少気に入られたようで、ブスは「ふーっ」と息を吐いてから口火を切った。



「もう貴様らの"ごっこ遊び"には付き合いきれん。貴様は仲間のことを平然と置き去りにするわ、どいつもこいつもアホみたいにこの腐れ切った国にキャーワー言いおって!」

「は、はぁ……」

「だがブス、正直第三者の目から見てもこの国は素晴らしい。国光くんのことは僕のせいだし、そこは言い聞かせる。……から、もう一度考え直してはくれないか」

「ふんっ、その気はない。―――私はな、魔物使い、貴様のような穢れた人間と長居をしたくないのでな」

「おいッ!!てめっ、文が穢れてるだと―――!?」



感情任せに掴みかかろうとして、ブスが「あ?」と凄もうと―――するも、主人愛の強い毛玉が弾丸のように飛び出してぬこパンチを繰り出した。


モロに喰らったブスは二発目を振り上げた毛玉を殴り飛ばすと、悲鳴のように毛玉を呼んで抱きしめる文を、それこそ生ゴミに集る蠅か何かのように見た。


俺はもうさっきの時点でだいぶ来てたが、この時ぷちっと何か切れてはいけない物が切れてしまった音がして、気が付いたらブスに剣を振り下ろしていた。



避けたブスの腕に多少の傷を与えてしまった所で理性が戻ったが、俺は謝りもせずに、文を庇うように、隠すように移動してブスを真っ直ぐ睨みつける。



「――――もういい。…出てけよ」

「………ッ!」



侮辱されたような表情のブスの背後で、モールが突き飛ばされていた姫様の足に氷を当てていた。

一切こちらを見ない所から察するに、モール自身も別にかまわないってとこだろう。


「私は私らしく生きる!」と逃げるように出て行ったブスに、俺は結局あいつと、最後まで仲良くなれなかったんだなぁとも思っていて、怒りたいんだが悲しいんだが分からない感情を抱えて、蹲ったままの文の頭をぽんと撫でる。

毛玉は毛玉で、文に「大丈夫」と抱きしめて埋めるその頬にすりすりと甘えていた。




――――思えば、これが始まりの合図だったのか。







フラグが立ちまくる話でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ