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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
16/44

16.アリスが帰って来ない件



※暴言注意






今、文の目の前にはライオンの頭のモンスターが居る。


「やあ、よく来たねぇ」


その声は、どことなく聞き覚えがある―――金曜日の夕方に聞こえていた、だみ声だ。



「……国光くんをどこへやった?」

「どこだと思う?」

「此処よりも酷い所か?」

「さあ、どうだろう。ある意味酷い所かもねぇ」

「彼は無事なのか」

「上手い事やっていれば、きっと」

「……命乞いの準備は?」

「したって、聞きもしない癖に」



竜を喰らった下僕と巨大なゴーレム二体を引き連れて、文はしゃんと銀の錫杖を鳴らした。



「――――撃ち方、始め」



爆発する熱量に、背後で見学のパーティー魔法障壁で身を守りつつ、色んな神様に祈りを捧げていた。











「―――…で、だな?その……せめて、せめてこう…恋人繋ぎ?みたいなの、いい加減、出来るようにしたいなって……」

「ふふ、古風な人なんだねぇ」

「お、おう!」

「そうだなー…毎日毎日、少しずつ慣れさせていったら?それか握りたい衝動に任せるとか」

「それが出来てたら苦労しない!」

「案外さらっと出来るよー?俺なんて気付いたら陽乃の手を握ってたもん」

「う、うら―――破廉恥!」

「えっ」

「破廉恥!破廉恥―!」

「(´・ω・ `)」

「(`・ω・´)」

「(´;ω; `)」

「(`;ω;´)」



ふんっ、リア充なんて皆滅んでしまえ!滅べー!


………ぐすん。



「……ご、ごめんね、酷かったね……えーっと、こういうのは、パートナーからも協力を仰ぐべきじゃないかな?」

「きょうりょく…」

「そ。慣れるまで、一日に何回か握って貰ったりとか、握れなくても出来るだけ頑張ってみるのに付き合ってもらったりとか」

「………」

「あ、いっそキスしちゃったらどうだろう!そしたら手を繋ぐことくらい「破廉恥!」……ごめんなさい…(´;ω; `)」

「―――き、キス、したら、嫌がられた時とか、止められなかったら…どうすんだよ…」

「…………(´;ω; `)!」

「(´・ω・ `)」

「…破廉恥(´;ω; `)」

「」

「言い返しちゃうんだから(´;ω; `)」



なにこのグダグダ苛々させる会話はって思った奴、いいか、俺らはこれでもさっきよりも打ち解けてる方なんだ。


ていうか慣れてきた俺がリア充の恭(名前教えてもらった…その由来まで)に一方的に爪を立ててる、っていうのが正しいのか。…うぅ…。


「……恭」

「なに、国光くん!」


呼ぶと、恭はすっげー嬉しそうに反応してくれる。


ちなみに二人で食べてるのは真っ白でふわふわなホイップクリームに木苺のソースがかかっているチーズケーキだ。

恭は上品に食べるのを止めて、俺の言葉をにこにこと待っている。



「お前って…キスしたことある?」

「ん?そりゃあるよー!もう俺、百歳過ぎたもの!」

「百…いや、そりゃいいわ……え、えっと、何歳の時?」

「成人する前の頃だったかなー。誕生日を祝う舞踏会の時にね、初めて陽乃がドレス姿で出て来て……白なんだけど、とても目立ってたなー。ヒールの高い靴でさ、大人に負けないようにお化粧とか…"背伸び"してて、とっても可愛かったのー。踊って下さいって誘った時の陽乃もすっごく(ry」

「………」

「―――で、舞踏会に疲れてね、二人で抜け出して噴水の前で休んでて、色んな事を話してて…その時の物憂げな顔に思わずキスしちゃってね、『不安な事なんて何にもないよ』って」

「…………」

「『僕が陽乃のお婿さんになって、怖いのから守るんだー!』って、子供ながらに…あれ、国光くんどうかした?何で椅子の上で体育座り?」

「……べ、別に悔しくないんだからね…!」



何もしてないのに俺のライフはどんどん削られていく……15の時にキスって、大人過ぎる。……俺なんてその頃……ん?何してたっけ。

毎日馬鹿やってたような…あ、引っ越し騒ぎでぐちゃぐちゃだったな。



思い出してぼんやりしてると、いつのまにか近づいていた恭に手を両の手で握られた。


「―――大丈夫だよ。今は羞恥が邪魔をしてても、きっと恋情の方が勝っていつかは自然と握れるから」

「……本当?」

「本当だよ。困った事だって何だって救えるのは"愛"だもの。皆が皆、大好きな人を愛せたら、愛が勝ったら、悲しいことなんて起きないよ」

「…んー…でも、昔話とかだと女の取り合いで戦争になった話があんだろー?」

「そうだね。愛は時に暴力になる。……でも、分かち合うことも、許す事が出来るのも愛だ。それはとても難しいことで、迷い子である俺らは常に手探りだけれど…」

「うん、」

「楽園ではね、愛は純粋なものに至れるんだよ」

「楽園……」


急に話が重い方に流れたが、恭の口調は変わらず柔らかい。


両手もとても優しく握っていたけど、剣ダコが出来ているのに気付いた。…へー、剣なんて使えるのか。



「俺はね、この世界がとても綺麗なもので埋められたら、神代の時に戻れるんじゃないかって、思うんだ」

「神代―?…それが"楽園"ってこと?」

「そう。…神代の頃、神様も何もかも賑やかで安定していた頃。人間も魔族も、日々田畑を協力して耕し、恋人たちは何の不安も無く愛を謡っていた。主神が変わられても―――そして主神が去られるまで。

…魔族と人が引き離された理由は、主神が裏切りに泣いたが故らしい。つまりね、魔族は今でこそ神に背いているけど、それは主神に対する裏切りじゃなくて、"裏切り者"への復讐なんだ。だけど年を経るごとに皆それを忘れてしまった……」

「……長い……」

「ふふ、ごめんね。歳をとるとどうにも話が長くなる…」

「でも面白い。人間の本だとそう詳しく書かれてなかったし。それが真実なのか?」

「うーん、人間はこの話は"不都合"として認めてないけれど…地方によってはまた話が変わるし……でもね、女神様が嘆いておられるのは本当」

「何で分かんの?」

「…偶にね、会えるんだよ」



そう言うと、恭は手を離して……虚空を掴んでゆっくりと放すと、その手には桃色の蝶が生まれていた。



「俺にはね、"創造"の権限が与えられているんだ。それは主神が裏切られた際に…服を掴まれて、ボタンが弾け飛んだようなものかな。…だからね、その力を与えられる"王様"は時々、会う事が出来る」

「ほぉー!カッケ―!」

「先代様まで、俺のような事はしなかったから……主神はね、俺の作る綺麗なものに、笑ってくれるんだよ」

「へえ」

「これは全て陽乃に捧げているんだけどね。…でも、主神は嬉しそうで、『安心する』らしい。泣かれてばかりだったけど、少しずつ元気になって…旦那様とのんびりしてたりするよ」

「…ん?旦那様?」

「だからね、俺は思ったんだ。世界を綺麗なもので埋め尽くして、愛が溢れたら。主神は座に戻られて、神代のあの頃に戻れるんじゃないか……」

「…………」

「―――何てね!あんまりにも繊細なものばかり創っては大臣に怒られてしまってね、自分を正当化する為に勝手に思ってるだけだよ……でも、」

「でも?」

「……こうして綺麗なものを創ってしまうのは、ただただ陽乃が好きだからだよ」



その言葉は、とても切なくて。


きっととても美しいんだろう恋人への、男らしい想いを感じた。











【"彼"の彼女】



「ふふ、こぉーれが!欲しかったのよー!視察に来ただけなのに一番欲しかった物がゲット出来るだなんて!」

「陽乃様、ですがその"出戻り魚"は神器です。魔族は扱えないのでは…?」

「いいえ、使えるわ。…まあ、勇者ほどではないけど…三回だけ、ね。―――二個も持てない仕様らしいし、諦めて一個にしましょうか」

「了解です。…ではこれを、…隠しておきます?」

「必要ないんじゃない?だってこのラビリンスの守は低レベルが勝てるような相手じゃ―――」



どぉぉぉぉぉんん……ごごご……どぉーん、どぉーん…



「………」

「………」

「……爆発音ね。アレは接近戦が得意の筈だけど」

「しかも連射されてますね。外道です」

「おっかしいわねー。妾は"女の子"を拉致しろって言ったのだけど」

「おや、男の子ではなく?」

「ええ、妙なものを召喚する子なんて面倒でしょう?……移転先は魔王城の地下牢で、飢えた獣に犯させてぐちゃぐちゃのぶっかけられまくって×××にしてから戻そうかと思ったんだけど…」

「流石未来の王妃様です。感服致しました」

「魔法使いが有能だったのかしら?うーん…ん?」

「どうされm、」

「―――恭ちゃんが浮気してる!!…勘がする!」

「え、勘ですか?」

「許さん、絶対許さんあのアバズレが!!巨乳で恭ちゃんをオトそうとしても無駄よ!!」

「え、巨乳なんですか?もしかして想像で言ってません?」

「クソ売女がぁぁぁぁ!!お望みなら手足もいで肉便器にしてやるよぉぉぉ!!最期に私の新しい太刀と鞭の練習台になった後、斬首して実家の廊下に飾ってくれるわ!」

「え、え、ちょ、陽乃様…」

「どいつもこいつもぶっ殺しても虐め抜いても可憐な恭ちゃんを狙いやがってぇぇぇぇ!!私が王妃になった暁には絶対にバンバン雌豚を串に刺したらぁぁぁぁぁぁ!!!今夜は焼き豚じゃぁぁぁぁぁ!!」

「あ、待って下さい!陽乃様―――!」











「……あ、あのね!その…お、俺と友達になって、くれる…?」



照れ照れと、難しい話も終わって二度目のお菓子ガッつきタイムで、恭は強請るのだ。


「えっ―――お、おぅ…べ、別に…いいけど…」

「本当――!?」


きゃあ!……って感じに、恭は大喜び…うぅぅぅ、止めろ、何か余計恥ずかしいだろ!



「俺ね!こんな身分なもんだから同性の、対等に扱ってくれる友達いなかったの!…嬉しいなあ」

「お、俺は……久々に、友達になろうって、言われた……」



思えばずっと文と居た(同居してるのもあるけど)からか、俺は新しく友達も出来なかったし、出来ても割とぼんやりした関係だったかも。


……だけど文が色々予定を入れて俺を引っ張り回すから、偶のお誘いも断っちゃうし、ある意味これで正解だったかな。



何となくもじもじしてると、恭が「あっ」と残念そうな声をあげた。


「残念、もう道が出来ちゃった…」


道?と聞き返すと、「国光くんの帰り道だよ」と答えてくれた。


「途切れちゃうと悪いから」とあらかじめラッピングしていたお土産を押し付けると、恭は俺の手を引っ張って小川の方へと連れて行く―――。



「……国光くん、また来て…っていうのは難しいかな。うーん…でも、いつか会えるといいなぁ」

「…会えるだろ、……と、友達だし」

「―――!…うん!」



何故か俺にハグしてくる恭に何とも言えない気持ち(女の子の匂いがする…)でいると、恭は寂しさを無理に笑顔で隠しながら、今度は俺の手をぎゅっと握った。



「君の恋路が幸多いものでありますように」



妖精の王様にそう言われると、何だか本当にそうなりそうな気がする。



「お互い、恋に全力で。……ふふ、いつか彼女さんに会わせてね」

「お、おー!」

「今から小川に落とすけど、そしたら真っ白で壁も何もない所に出る筈だから。耳を澄ませて、君を呼ぶ声の方に歩いてね。道草しちゃ駄目だよ」

「おー!……あ、ありがとな!ケーキ美味かった!また食いたいっ」

「…!うん!こちらこそっ。………じゃあ、お元気で―――ていっ」



ぱしゃん、と俺は落ちていった。






―――

―――――

――――――――



「恭ーちゃんっ」

「わぁっ!陽乃……もー!どこに行ってたのー!」

「友達の所―……ふむ、男の匂いか」

「え?」

「ううん。…ねえ、お友達でも来てたのー?」

「……うん!友達だよ!」

「そう?…しっかし犬みたいな食い方する子ね―――まあ、いいや。恭ちゃーん!甘えてもいいー?」

「うんっ」

「ふふ……」

「今日の陽乃は機嫌が良いねぇ。何か良い事あった?」

「ええ!欲しいものが手に入ったの!」

「それは良かった……あ、そうそう、結婚式のドレスの事なんだけどね、どうせ延期するならもっと手間のかかった物がいいと思って――――」











『……つ…くん、…―――光、くん…』



文の声の方へと、俺は急いで駆ける。


すると遠くで光りが見えて、俺は思わず文の名を呟いて、速度を上げた―――




≪ちょ―――っとぉぉぉぉぉぉぉ!!!この段階にまできてそれってどういうことよぉぉぉぉぉぉ!!!これじゃあ勝てないじゃない!≫


「えっ……あ、あれ?あん時の…女神様の声―――」


≪ざっけんじゃねぇぞああああああ!?こっちがひたすら!自分の幸せも考えずに恋人も出来ないってーのにそれでも糸を紡いで織ってるのにぃぃぃぃぃ!!テメー何してんだああん!?女にデレデレしてましたってか?―――遊びじゃねーんだぞクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!≫



勇者の剣をブッ刺してきやがった、あの冷たい運命の女神様が、何故か知らんがヒス起こしてる。


俺はビビらないでさっさと文の方へと走ればいいのに、悪魔の声が聞こえるまで、ぽつんと。



≪強制レベル上げ決行しまぁ――す!先の魔王の時代に遡って千人斬りでもなんでもして甲斐性上げてこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!≫




ぱりんと、俺の足下が割れる。


そして、


  落


    ち

  て


 い

  っ










運命の女神様は攻撃的な喪女みたいな…設定です。


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