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欠けたピース (其の二)

リリーが捕らえられたのはパーティー会場じゃない。

エドウィンの傷も会場でつけられたものじゃなかったんだ。

ノア王子とトレイシーが指輪を交換するのあの場所。

物語はまだ終わっていない。


はっきり思い出した今、さっきの男は偽物だと確信できる。

ずっと感じていた違和感の正体がようやくわかった。

きっと本当の教祖はそこにいる。

会場を飛び出し、庭を走り抜け城をへ戻る。

ピーターは戸惑いながらも、手を振りほどくことなくついてきてくれた。


ここで逃がすわけにはいかない。

必ず取られて全てを終わらせる。

窓から見える月は、もうすぐ真上に差し掛かろうとしていた。

誕生祭が終わってしまう、急がないと……。


スピードを上げ裏口付近へやってくると、私は立ち止まり肩で息をしながら振り返った。


「ピーター、はぁ……はぁ、はぁ、はぁ……ここから倉庫へ続く回廊に向って歩いてきてほしいの。……ッッ、きっとその途中逃げてくる犯人とかち合うから、はぁ、はぁ、はぁ……ッッ。捕らえてほしい」


「おい、どういうことだ?犯人って何なんだ?ちゃんと説明しろ!」


ピーターは行こうとする私の腕を掴み引き寄せる。

私は紅の瞳を真っすぐに見上げると、乱れた呼吸を必死で整えた。


「ぅぅん……、さっきの男は教祖じゃない。真犯人は別にいる。ノア王子とトレーシーがまだ狙われているの」


「どういうことだ?……なんでそう思う?」


「詳しく説明している時間はない。だけど間違いないと言い切れる!お願い、私を信じて!」


ピーターは私の瞳をじっと見つめると、渋々といった様子でわかったと頷いた。


「わかった、だがちゃんと後で説明しろよ」


「うん、約束する。ありがとう」


私はピーターを置いて走り出すと、あの場所へ向って行った。


走りすぎて息が苦しい、だけど急がないと間に合わない。

チラチラと月を見上げながらも走り続ける。

回廊を抜け、渡り廊下へやってくると、むこう側に二人の姿が浮かんだ。


物語と同じ、二人はそこにいた。

私は辺りをグルリと見渡すと、庭に浮かび上がる人影。

その人影の手にはキラリと光るナイフが握られていた。


「やめなさい!!!」


人影に向かって叫ぶと、ノア王子とトレーシーが振り返る。


「リリー、どうしたんだ?」


「リリー様、どうされたのですか?」


二人の問いかけに応えている暇はない。

私は渡り廊下の塀を乗り越えると、人影に向かって走る。

すると犯人はこちらへナイフを投げつけ、慌てた様子で逃げ出した。

絶対に逃がさない!


ナイフを避け脚に力を入れると、思いっきり土を蹴り上げる。

続けざまに投げられるナイフを交わし、人影に近づくと避けきれずナイフの刃が肩を掠めた。

袖が避け皮膚が切れると、赤い血が流れだす。


ピリッとした痛みを感じるが、私は構わず追いかける。

犯人の背を追っていく中、入り組んだ城の構造に迷うことなく、出口へと一番最短コースを進んでいった。

最初から裏口へ誘うつもりだったが……犯人は相当この城の構造を知り尽くしているようだ。


角を曲がり一直線の長い回廊へやってくると、向かいからピーターの姿。


「ピーター、犯人はそいつよ、捕まえて!」


ピーターは私の声に反応すると、犯人を鋭く睨みつけた。

突然現れたピーターに慌てて止まろうとするが、その前にピーターの手が犯人を捕らえる。

そのまま腕を捻り押さえつけると、床へ押しつけしっかりと拘束した。

やった、挟み撃ち作戦は成功だった。

私はすぐさま駆け寄ると、うつ伏せで呻く犯人を見下ろす。

これでやっと終わり。


私は深く息を吐きだすと、犯人の傍にしゃがみ込む。

そっと黒いフードへ手をかけるとめくった。

現れたのは見覚えのある顔。

黒い髪に、黒い瞳、小柄な女性。

嘘でしょ……?

あまりの衝撃に言葉を失うと、私は犯人を見つめたまま動くことが出来なかった。

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