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静寂の会場で

無事に事件は解決し、誕生祭は終了した。

最後はめちゃくちゃだったけれど、とりあえず犯人は死に危険はなくなった。

会場へ戻り片付けの作業を手伝っていると、気が付けば月は真上に差し掛かっている。

もうすぐ日付が変わる。

やっと最後の事件が終わるのだと感慨深い思いで、私は眩く光る丸い月を見上げた。


「これでやっと終わりかな……」


独り言ちると、また何かが引っかかる。

会場で感じた違和感と同じ。

パズルのピースが欠けているような……。

最後の荷物を運び出し会場へ戻ってみると、床一面に散らばっていたガラスの破片と教祖の死体は、綺麗に片付けられ、先ほどまでちらほら残っていた騎士たちも引き上げていた。


あれだけ賑やかだった会場は、ガランとし薄暗く何もない。

今は騎士としてここに立っているが、前世を思い出さず令嬢として育っていれば、ここでダンスを踊っていたのかな。

私は無意識に中へ入ると、誰もいない会場の中央に佇む。

華やかだった貴族たちの風景を思い描いていると、ふと足音が響いた。


「リリー、まだ残っていたのか?」


「ピッ、ピーター!?」


先ほどの追及の続きかと思い逃げようとするが、その前に捕まってしまう。


「逃げるな、もう聞かねぇよ」


彼の言葉にほっと胸をなでおろすと、私はおもむろに振り返る。


「そう言ってもらえると助かる、説明しづらくて……。ぇへへ、ところでピーターはこんな時間まで何をしていたの?」


「さっきまでサイモン教官とちょっとな。お前こそ、何してたんだ?」


「えっ、あー、えーと」


令嬢としてドレス姿で踊る姿を想像していたとは言えない。

なんと誤魔化そうかと考えていると、ピーターがクスっと笑った。


「なんだ?令嬢たちに交じってダンスでも踊りたかったのか?」


「はっ、へぇえ!?」


なんでわかったの!?

図星を刺され変な声が飛び出すと、私は思わず口を塞ぐ。


「おい、まじかよ。適当に言ってみただけだったんだが……」


「いや、違う、そんなこと思ってない!」


恥ずかしさに慌てて否定すると、ピーターは肩を揺らせて笑い始めた。


「はははっ、お前本当にわかりやすよな」


私はプクっと頬を膨らませると、もう知らないと、会場から出ていこうと歩き出す。

するとピーターは私の前へ回り込むと、おもむろに跪いた。


「リリー嬢、俺と一曲踊っていただけませんか?」


私の手をそっと握ると、紅の瞳と視線が絡む。

いつもの彼とは違う姿に、胸がドキッと高鳴ると、頬に熱が集まった。


「なっ、踊りたいわけじゃ……ッッ」


「ははっ、今朝は素直だったのにな……。まぁ、そういわずに踊ろうぜ」


「踊りなんて数年やってないから無理だよ」


「大丈夫だって、俺にまかせとけ」


ピーターはスマートに私の手を引くと、慣れた手つきで腰へ手を回す。

思ったより密着し、硬い胸板を感じた。

先ほどの高鳴りがまた大きくなると、ドクドクと波打つ。

ちっ、近いッッ!

距離を取ろうとすると、腰に回った腕に力が入る。

有無を言わさぬその腕に狼狽していると、彼の足がゆっくりとステップを刻み始めた。


私も慌てて足を動かすと、彼の腕に体を預け会場内をゆったりと移動していく。

おぼつかない私の動きをしっかりとサポートする彼。

私と同じ剣術バカだと思っていたのに……ダンスは完璧。

音楽も明かりもない、静かな会場で。

月明りに照らされた私たちの影だけが浮かび上がる。

そっと顔を上げると、紅の瞳が嬉しそうに細められた。

その姿に胸がまた波打つと、私はあわてて目を逸らせたのだった。


★おまけ(ノア&トレイシー)★


「ピーター様、抜け駆けですわ!きぃぃぃ!私だってこんな姿をしてなければリリー様をお誘いするのに……」


今にも飛び出しそうなトレイシーを、ノアは舞台裏へ引きずると、サファイアの瞳が細められる。

大人しくしろとのことなのだろう、トレイシーは察すると不服そうな表情を浮かべた。


「ちょっとノア、いいのあれ?」


「焚きつけた張本人が何を言っているの?」


ノアは胸の前で腕を組むと、トレーシーを睨みつける。


「むぅーあれは……はっきりしないお二人にムカついて……。それにリリー様がお二人を大事に思っているのはわかってますわ。その感情がどんなものかはわからないけれど、リリー様の大切な方に私の気持ちを分かってもらう必要はあるでしょう」


トレーシーはパシッとノアの手を振り払うと、おもむろに立ち上がった。


「何度も言うけれど選ぶのはリリーだ。それよりも着替えないの?はぁ……」


ノアはドレス姿のトーレシーを上から下まで見つめると、深くため息をついた。

トレーシーはふふっと笑うと、ドレスの裾を持ち上げクルッとターンを決める。


「着替えませんわ~。こんな美しいドレスを着られる機会なんてそうそうないですもの。それに……姉が死んだ今、もうこんな格好できないですし……」


寂し気に呟くと、名残惜しそうにドレスに触れた。


「トレイシーのことは僕も残念だよ。もし彼女が生きていたら……いや、何でもない」


ノアは薄暗い会場で楽しそうに踊る二人の姿を見ると、トレーシーの腕を引きその場から逃げるように連れ出したのだった。

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