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誕生祭 (其の二)

王の挨拶が終わり、ノア王子とトレイシーが舞台から降りてくると、貴族たちがまたざわめき立つ

しかしノア王子は気にする様子もなく、爽やかな笑みを浮かべ挨拶を始めた。

トレイシーは周りへ見せつけるように、ノア王子へ密着し嬉しそうな笑みを浮かべている。

令嬢たちは不服そうな表情でトレイシーを睨みつけるが、ノア王子から離れないその姿に、動くのをためらっているようだ。

なんとも挑発的なトレイシーの姿に頭痛がしてくる。

令嬢たちのピリピリとした空気に、別の事件が起きそうで冷や冷やした。


うぅぅ……何としてでも怪我人を出さずこの場を乗り切りたいのに……。

トレイシーらしいと言えばそうなんだけれど、あぁ……このタイミングではやめてほしいな……。

私はノア王子とトレイシーが見える位置へ待機すると、警戒しながら辺りを見渡す。

もちろんピリピリとした令嬢たちの警戒も怠っていない。

ピーターは私と逆の位置につき、目で合図しながら周辺を探っていた。


音楽家たちの演奏が始まり、中央では踊り子たちのダンスが披露される。

踊り子たちが身に着ける、ひらひらとたなびくリボンが宙を舞い幻想的な演出。

ショーが終わると、貴族たちが男女ペアで中央へ集まり始めた。


ノア王子とトレイシーも会場の中央で踊り始めると、令嬢たちの殺気に胃が痛くなる。

キリキリと痛む胃を押さえながら、疲れに思わずため息が漏れると、ふと肩に手がかかった。

慌てて振り返ると、そこにいたのは父と母の姿。


「リリー久しぶりね。あなたの素晴らしい活躍、耳に届いているわよ」


「おっ、お母様、お父様、お久しぶりです」


私は緊張しながらピシッと敬礼すると、母は扇子を畳み上品な笑みを見せた。


「ふふふ、昔と違って随分殊勝な態度なのね。これも騎士となった成果かしら?学園を卒業したらもちろん騎士団へ入団するのよね?」


真意はともかく、クレアの一件を知った以上、迂闊に答えられない。

私は言葉を詰まらせ、誤魔化す様に笑って見せる。


「えーと、あー、その……」


「あら、なぁにそのはっきりしない態度は。あなた騎士になりたかったのでしょう。騎士団へ入ればいいじゃない。今度は全面的にサポートしてあげるわ。ねぇ~あなた?」


父はじっと私を見下ろすと、あぁもちろんだと、貼り付けたような笑みを浮かべる。

その笑みの奥に見え隠れする感情は、ギラギラとした野心。


「騎士団へ入団して国のために働くなんて、とっても名誉なことだわ。初の女性騎士、いい響きだわ~。あなたは公爵家の誇りよ、その調子で頑張りなさい」


「あぁ、そうだ、リリーは僕たちの希望だよ」


うっとりとした表情を浮かべる母と満足げに笑みを深める父。

こちらを見ているが、その瞳に私は映っていない。

二人に見えているのは貴族として成功する、自分たちの姿なのだろう。


彼らは知っているはず。

騎士団へ入団するということは、戦場へ赴くということだ。

最前線で戦い、遠征の毎日。

普通の親であれば、戦場へ娘が放り込まれるのを心配するのではないだろうか。

私は騎士団へ入団したいと一度も言った覚えはない。

私がなりたいと言ったのは、ノア王子の護衛騎士。

きっとそんなこと覚えてもいないのかもしれない。

この二人は私を娘としてではなく、盤上の駒としか見ていないというのを改めて実感した。


サイモン教官が話していた通りなのかもしれない……。

この両親なら野心のために、他の貴族を貶めかねない。

黒いもやもやとした感情がこみ上げると、私はスッと一歩下がった。


「すみません、仕事があるので、私はこれで失礼します」


私は痙攣する頬を無理やり持ち上げると、軽く頭を下げ急ぎ足でその場を立ち去った。


どうも私は前世と同様、両親の引きが悪いようだ。

前世の親も最低だった。

自分のことしか考えていない屑、あの二人も同じ。

自分たちが良ければ、他の誰かがどうなろうと知ったことではないのだろう。


前世は後悔の連続だった。

自分以外の誰も信じれなくなって、いつも一人だった。

やる前から全てを諦め卑屈になっていた。

だけどこの世界では違う。

もう後悔はしたくない。

リリーとして築き上げてきたものがある。

だから私は頑張れるのだ。

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