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誕生祭 (其の一)

生誕祭当日。

朝から城ではバタバタと大忙し。

侍女や執事が城内を走り回り、まるで戦場のようだ。

騎士の私たちも同様。

午前中にお城のバルコニーから国民へ向けての挨拶が行われ、警備体制も行事によって変えていく。


サイモン教官の指示のもと、周辺の確認作業に走り回る。

ノア王子のパートナーはどうなったのだろうと頭を過るが、確かめている暇はない。

バタバタと城中走り回るっていると、あっという間に日が沈み辺りが薄暗くなっていく。

街も王子の生誕を祝う祭りが開かれ、賑やかな灯りが灯されていった。


辺りが暗くなり月が昇り始めた頃、夜会が無事に開場すると、続々と貴族たちが集まってくる。

私はピーターとペアを組み、会場内の最終チェックを行っていた。


「ピーター、そっちはどう?」


「異常ない。リリー何度も言うが、何か気になることがあるなら行動する前に俺に相談しろよ」


彼は言い聞かせるように語尾を強めると、私の瞳を覗き込んだ。


「わかってる。いつもありがとう」


彼へ向かって笑みを浮かべると、ピーターは頬を染めながら目を逸らせた。


「急に素直になるのかよ……ッッあー、さっさと会場へ行くぞ」


ピーターは照れ隠しなのだろうか、私の腕を荒っぽくグイッと引っ張ると、一緒に会場内へ入っていった。


会場内の人はまだ疎らで、王族たちは舞台奥で待機している。

ノア王子の護衛は、王より選任された本物の騎士がついていた。

念入りな荷物検査を行いホールへ入場してくる貴族たちをチェックしながら、私は出入口に佇むメイド長へ声をかける。


「忙しいところごめんなさい、トレイシーの今日の担当場所を教えて欲しいのだけれども」


「あら、リリー様、トレイシーは……本日休みになっておりますわ」


休み?この年に一度の忙しいときに?

ノア王子の指示だろうか?

命の危険があると言ったが、侍女相手にそこまで配慮してもらえるのものなのかな?


まぁいいのかな……だけどそれはそれで心配してしまう。

部屋で一人でいるのだろうか……?

もちろん護衛はついていると思うけれど……うーん。

小説ではこの会場で事件が起こるから大丈夫だとは思うんだけれど……。

気になるけれど、騎士である私がこの場を離れるわけにはいかない。


不安が胸を過る中、会場が人で埋め尽くされてくると、パーティー開始の合図である鐘が響いた。

集まった貴族たちは舞台へ顔を向けると、王と王妃が入場する。

その後ろから正装姿のノア王子。

小説の挿絵にあったイラストが鮮明に蘇った。

胸に王族の紋章を付け、スラっとした白いブレザー。

髪はオールバックにセットされ、いつもより大人びて見える。

ふいにサファイアの瞳と視線が絡むと、胸がドキッと大きく高鳴った。


その後ろから遅れてやってくる令嬢が一人。

ノア王子が選んだパートナーだろう。

白いドレス姿に、もやっとした気持ちが胸の奥からこみ上げる。


ノア王子の隣は、ずっとトレイシーだと思っていた。

だけど違う、一体彼の隣に立つ令嬢は誰なのだろう……。

胸を押さえながら華やかなドレス姿の令嬢をじっと見つめる。

ブロンドの長い髪が、光に反射して輝き、顔はまだ見えない。

令嬢はノア王子の隣に並びおもむろに顔をあげると、会場内がどよめいた。


(これはどういうことだ?)

(嘘でしょう?どうしてあの女が?)

(なんてことなの、ありえない、ありえないわ!)

(まったく王子は何を考えているんだ?)


私もノア王子の隣に並ぶ令嬢の姿を目の当たりにし、開いた口が塞がらない。

どうして……彼がそこに?

そう、ノア王子の隣にいるのはまごうことなきトレイシーだった。


あれ、どういうこと?

彼は男で恋人同士ではないと言っていた。

なのに……ってその前にトレイシーは命を狙われている。

目の届かないところにいるのも不安だが、あんな目立って大丈夫なの?

まさかこんな登場をするとは思ってもみなかった。

これでは小説と全く同じ。

トレイシーが狙われる、絶対に守らないと。


トレイシーは凛とした様でドレスの裾を持ち上げると、来賓者に向かって花咲くような笑みを浮かべた。

その笑みに貴族たちが唖然とする中、トレイシーは静かに下がると、何事もなかったように、王と王妃の挨拶が始まった。


ノア王子とトレイシーが並び立つ姿に、挨拶が頭に入ってこない。

男同士だが、非常に絵になる。

露出を抑えたふんわりしたドレスが、トレイシーにとても良く似合っている。

桃色の紅が艶やかで、誰もトレイシーが男とは思わないだろう。

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