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嵐の前 (其の三)

両親は私を利用して重鎮貴族になるため画策し、クレア嬢の家をはめた……?

想像もしていなかった事実に唖然としていると、教官が私の瞳を覗き込んだ。

先ほどの表情とは違い、彼は優し気な笑みを浮かべている。


「大丈夫かい?まぁ騎士学園で頑張っている君に、直接関係はないだろうから安心するといい。君は剣術バカだからね、貴族のいざこざには向いていないだろう」


「剣術バカって、まぁ、そうですけれど……」


悪役令嬢にならないよう、がむしゃらに頑張ってきた。

小説と同じ出来事が起こるこの世界。

だけどこうやって小説ではなかった話を聞くと、ここは現実世界で時間が流れているのだと改めて実感する。


「ところで一つ提案なんだけれど、卒業したらこのまま私の下で働かないかい?正式な護衛騎士になれないのはわかっているだろう?先日の事件もそうだが、君の実力ではピーターやエドウィンに劣る。騎士団というのもいいけれど、戦場の最前線で危険が多いし、規律を重んじる部隊に、わんぱくな君の性格は合わないとおもうよ。君のいいところは、素直で純粋で、考えるより先に行動するところだ。まぁ前置きはともかく、私は純粋に君を気に入っている。貴族世界へ戻り、あんな腐った陰湿な所で君が汚されていくのを見たくはない」


「へぇ!?」


思いもよらぬ誘いに、私は顔を上げるとブラウンの瞳が優し気に細められた。

令嬢たちが見惚れるような甘いフェイスに、思わず見惚れる。


「驚きすぎじゃない?あははっ、まぁゆっくり考えるといい。警備体制はもう十分すぎるぐらい検討しただろう。戻っていいよ」


サイモン教官は地図を折りたたむと、おもむろに立ち上がる。


「ほら、なにぼさっとしているの、もしかして私に見惚れているのかな?」


からかうように笑うと、私の顎に手を添えクィッと持ち上げる。

ブラウンの瞳に私の姿が映ると、沸騰しそうなほどに顔が熱くなった。


「へぇっ、ちっ、違います!すみません、失礼しました!」


何とかそう返事を返すと、私は飛びのき、バタバタと大慌てで部屋を出ていったのだった。


★おまけ(ノア王子視点)★


17歳の生誕祭。

成人となる記念すべき日。

リリーをパートナーとして誘おうと思っていたが……騎士として頑張る彼女の邪魔にはなりたくないと諦めた。


その夜、僕は何とかパートナーを見つけると、誰もいない深夜自室へ向かっていた。

当然ながら急な決定で準備やらなにやらに時間がかかったが、明日はこれで何とかなるだろう。


回廊を進んでいると、倉庫の扉が少し空いていた。

そっと近づき、聞き耳をたてると、ガサゴソと微かに音が聞こえる。

僕はゆっくり体を離すと、ドアノブをそっと握った。

こんな時間に誰が……まさか#黒の教団__やつら__##?

腰の剣を確認し、慎重に扉を開き、中を覗き込む。

薄暗い倉庫に浮かび上がる人影。

どうやら何か台に乗り、棚をあさっている。

月明りを頼りに目を凝らしてよく見ると見知った姿だった。


「……リリー?こんなところで何をしてるの?」


「へぇっ!?ノア王子、あっ、わああっ、うわああああああああ」


不安定な台に乗っていたのか、彼女はこちらへ振り返ると、そのままバランスを崩す 。

僕は慌てて手を伸ばすと、彼女を抱きすくめた。

そのまま彼女の下敷きになるように倒れ込む。


「いたたたっ……ひぇ、ノア王子すみません。だっ、大丈夫ですか!?」


立ち上がろうとすると彼女の腰を掴み、顔を覗き込む。


「大丈夫。それよりも何をしてたの?」


「あー、えーと、荷物を片付けてました。空いてる場所があそこしかなくて……」


彼女は棚の一番上を指さすと、僕は深くため息をついた。


「こんな不安定な台に乗って?」


床に倒れたボコボコの木箱を見ると、彼女は小さく呻きすみませんと呟く。

シュンっと項垂れる彼女の姿は、叱られた子犬のように可愛い。

月明りに照らされた肌は白く、透き通るように滑らで、思わず抱き寄せると、触れる体が柔らかく、甘い匂いが鼻孔を擽った。


「……ッッ、あのッッ、ノア王子、重いですよね、すぐ退きますから!」


耳まで真っ赤にした彼女は、僕から逃げようと必死だ。

僕の胸を押し返す彼女の腕をとると、そっと耳元でささやく。


「動かないで」


その言葉に彼女はえっ!?と動きを止めた。

あわあわとする彼女の姿が可愛くて離したくない。


「えーと、あの、何かありました……?」


抱き締めていたいんだと言えば、彼女はどんな反応をするんだろうか。

彼女を見上げるように顔を上げると、瞳に僕の姿がはっきりと浮かぶ。

純粋で真っすぐな瞳。

その瞳に僕だけを映したい。


ライバルは何人もいる。

トレイシーは彼女へ思いを伝えた。

ピーターはいつも彼女の傍にいる。

エドウィンは恋情ではないにしろ、彼女を独占したいとの気持ちが全面に出てる。

そんな中、僕だけ行動を起こしてない。


話をする機会も少なく、どうしても立場が邪魔をする

早く思いを伝えたい衝動に駆られるが、今じゃないと自分に言い聞かせた。


明日の誕生祭で、きっと全てが解決する。

それが終わったら、はっきり気持ちを伝えよう。

君を誰にも渡したくないんだ。


「リリー、全てが片付いたら……伝えたい事があるんだ」


「以前お話していた、大事な話ですか?」


覚えていてくれた事実が嬉しい。

僕はあぁと笑みを浮かべると、彼女の頬がまた赤く染まる。


「あのっ、どんなお話なんですか?今だとダメなんですか?」


「今はまだ言えない。言ったら君はきっとビックリするだろうし、仕事どころじゃなくるなるかもね」


「ビックリすることですか……?」


考え込む彼女の姿を眺めながら、伸びた髪へ触れると毛先を弄る。

伸ばしてほしいと僕が言った言葉を、覚えていてくれているのだろうか。

出会った頃よりも伸びた髪は、本当にとても良く似合っている。

自分のために伸ばしてくれたのかと思うと、さらに嬉しくなる。


「えっ、あの、ノア王子、何しているんですか?」


「いや、長い髪がよく似合っているなと思ってさ」


そう耳元で囁くと、彼女はカッとゆでだこのように赤くなると、ありがとうございますと小さな声でつぶやいた。

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