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嵐の前 (其の一)

考えがまとまらないまま、気が付けば誕生祭は明日に迫っていた。

何とかしないと、気ばかりが焦り頭が痛い。

ノア王子の護衛ではないが、エドウィンがまだ戻ってきていない今、私が彼の変わりに頑張らないと。


前日ということもあり、お城ではパーティー準備が慌ただしく進められていた。

退院してからトレイシーの姿を見ていない。

ノア王子が何か対策してくれたのだろう。


生誕祭にトレイシーが来ないとなると、黒の教団はノア王子を狙うはず。

警備体制はもちろん万全にするつもりだけれど、なんだろうこの不安は……。


そんな中、令嬢たちの間で白熱したバトルが繰り広げられていた。

まだ決定していない王子のパートナーの座を狙い、あちらこちらでバチバチと火花を燃やしている。

前日にも関わらず、パートナーが決まっていないのは珍しい。

いつもの生誕祭では、クレア嬢が選ばれていたはずだけれど。


クレア嬢とノア王子は親戚で古い付き合いだ。

婚約者との噂も一瞬でたが、二人は犬猿の仲。

すぐにその話はなくなったが、こういった夜会などのパートナーとして彼女を選んでいた。

予想するに、変に令嬢を選んだことによる面倒ごとを避けたかったのだろう。


パートナーがまだ決まっていないのなら、婚約発表ではないのだろうか。

それなら大事な話とはいったい?

そんなことを考えながら城内を歩いていると、ふと名を呼ばれた。


「リリー」


振り返ると、ノア王子が緊張した面持ちでこちらへやってくる。

私は笑みを浮かべると敬礼をみせた。


「どうなさったんですか?」


ノア王子は挙動不審気味で視線を逸らせると、おもむろに口を開く。


「いや……もっと早く言うつもりだったんだけど……。新しい仕事はどう?顔を見る限り順調そうだね。あー、それと、髪伸びたよね、似合っている」


「はい、ノア王子と出会ったぐらいになりましたね」


私は髪を軽く振ると、伸びた髪を触る。


「そうだねって、いや、じゃなくて……。誕生祭なんだけど、まだパートナーが決まっていなくてね……」


「そうみたいですね」


何を言いたいのかさっぱりわからない。

言い淀むノア王子を首を傾げ見つめると、青い瞳と視線が絡む。


「……ッッ、リリー、今日の予定は?」


そう問いかけた彼の頬が、若干赤みがかった気がした。


「えっ、今日ですか?生誕祭の警備の最終確認で、サイモン教官と打合せをする予定です。エドウィンがはまだ戻ってきてませんし、護衛ではありませんが……彼の分も頑張ります。えーと、何か急用ですか?」


「いや、聞いてみただけ。……そっか……そうだよね。ありがとう」


ノア王子は悲しげに瞳を揺らすと、背を向けスタスタと速足で去っていった。

なんだったんだろう?


サイモン教官の事務室へやってくると、ノックをし入室する。


「失礼します」


「やぁ、リリー、早速始めようか」


彼はテーブルへ会場の地図を広げ、各警備配置を確認していく。

会場は城から数メートル離れたイベントホール。

出入口は全部で4つ。

庭園に面する西側と南側は前面ガラス張り。

窓は二階ほどの高さに設置されている。


「君の提案した通り、出入り口には持ち物を確認するブースを用意した。ほかに気になるところはあるかい?」


「あとはそうですね、この西側の警備なのですが……」


話し合うこと数時間。

だいたい話がまとまり最終確認で地図とにらめっこをしていると、サイモン教官がクスクスと笑い始めた。


「こうしてみると、もう立派な騎士だね。最初のころとは大違いだ。まぁ大事なものを守るには、まだまだ足りていないところもあるけれどね」


珍しい賞賛?の言葉に、顔を上げると思わずにやける。


「あっ、ありがとうございます」


「ところで学園を卒業したらどうするんだい?」


卒業したらなんて……正直考えたこともなかった。

私は言葉を詰まらせると、そのまま固まる


「その反応、まったく考えていなかったのかい?しょうがない子だね君は」


図星を刺され頭を垂れると、気まずげに目をそらせた。


「すみません……。無事に騎士学園を卒業出来たら、一度家に戻った方がいいのかなと……」


咄嗟に思いついた言葉を口にすると、教官はブラウンの瞳をこちらへ向ける。

いつもの軽い様子ではなく、真剣な瞳だった。


「外野が口を出すことじゃないかもしれないけれど、君の教官としてアドバイスしてあげよう。家は正直やめたほうがいい」


「どうしてですか?」


「この話はごく一部の上層部しか知らない極秘事項。誰にも話さないと約束できるかい?」


「はい、もちろんです」


一体何を言われるのだろうか。

不安が胸をよぎる中、教官は向かいのソファーへ座ると足を組んだ。

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