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女騎士への道 (其の五)

何度も切先が風を切り、彼の木刀を交わしていると、彼の腕が大きく振りかぶった。

気が付けば後ろは壁。

追い詰めた私を仕留めようと動いた大ぶりな一撃。


私は土を蹴り上げ、彼の肩へ手をのせると、そのままジャンプし背面へと回り込んだ。

空振りしバランスを崩した彼の背中へ木刀を振り下ろし、袈裟切りで薙ぎ払う。

彼の木刀が土に転がり、体が前に倒れると、辺りがシーンと静まり返った。

はぁ、はぁ、はぁ、勝った……よかった……。


「見事だリリー。さぁ、次はだれが対戦する?」


士官は生徒たちに目を向けると、彼らは気まずげに視線を逸らせたのだった。


あの日から私に対しての態度は軟化し、不満をあらわにする生徒たちはいなくなったのだが、その代わりに……。


「リリー、もう一度勝負だ。今度は俺が勝つ」


毎朝毎朝練習が終わるや否や、ピーターが私の元へやってくるようになった。

打ち合える相手を見つけたいと思っていたのだから、いいことではある。

けれど彼は相当な負けず嫌いなようで、訓練や授業以外の空き時間があれば勝負を挑みに来るのだ。


最初は練習できると喜んでいたが、休憩、放課後の度にやって来れるとさすがにつらい。

物語で出てくる彼は王子の御付きで、真面目で誠実でさっぱりしたイメージだった。

まさかこんな暑苦しい男だったとは……。


逃げることも出来ず彼の挑戦を受け全勝中。

そんな私の姿に、周りも認めてくれたのだろう、他のチームメイトたちとも話せるようになった。

ピーターは少年騎士の中では一番強い騎士で、そんな彼を負かした私は一目置かれる存在になったようだ。

訓練の一貫で彼以外の生徒達とも打ち合ってみたが、負ける気がしない。

ここまで成長できたのは、偏にも二重にも士官と教官のおかげ。


今日もピーターは勝負だと押しかけてくる。

あまりにしつこいから、負けてみようとも考えたんだけれど。

負けると言う事は、あの木刀を体で受けなければいけない。

絶対に痛い、間違いなく痛い。

先日彼の木刀が肌にかすっただけで、青紫の筋ができ、ジンジンと痛みが続いたしね。

やっぱり負けるのは無理。


少年騎士たちで順位を決める剣術試験では、上級生をも負かし私はトップの座にたった。

そしてピーターは二位。

上級生たちには悪い事をしてしまった気がするけれど、実力の世界なのだからしょうがない。

座学もいまのところは問題ないが、だんだん難しくはなってきている。

ついていくのに必死で、あっという間に一年が過ぎると、私は15歳になった。

このままいけば来年は青年騎士へ無事に進級出来る。

令嬢から騎士学園へ入って約4年、十分な成績ではないだろうか。


そんな事を考え満足していたある日。

訓練を終え一息ついていると、ピーターが私の元へやってくる。

最近は進級試験に忙しく、勝負を挑まれることは減っていた。

はぁ……せっかく落ち着いたと思っていたのに……。

彼の声に私は慌てて机の下へ隠れしゃがむが、すぐに見つかり引っ張り出される。


「ピーターまた?今日は座学をしないとダメなの、試験までもう一月きってるのよ」


首根っこを掴む彼を見上げると、不機嫌そうに顔を歪めた。


「バカッ、違う。ノア王子が俺とお前呼んでるそうだ。士官に連れてこいって言われたんだよ」


ノア王子が?

私はすぐに正装に着替えお城へ向かうと、久方ぶりに見るノア王子を見つめた。

以前よりも大人びて、大分小説の彼に近づいてきている。

けれど表情は柔らかく、ブルーの瞳も温かい。


「よく来たね。今日呼んだのは、少年騎士の中で一番強いという君たちに仕事をお願いしたいんだ。明日僕と一緒についてきてほしい。学園には許可をとってあるよ」


「「承知いたしました。お任せください」」


ノア王子に跪き私たちは深く頭を下げる。

私達の初仕事、ノア王子の護衛。

喜びに心の中でガッツポースしていると、ある疑問が浮かんだ。

どこへ行くのか、どんな仕事なのか。

小説では王子が16歳になってからしか書かれてない為、さっぱり見当がつかない。

気になるが、シーンと静まり返った空気を読む限り、聞いてはいけないのだろう。


話が終わり部屋を出ようとした刹那、ノア王子に呼び止められる。


「リリー、正直ここまで来るとは思ってなかったよ。明日から宜しくね」


そう年相応に笑った彼の笑顔は、とても印象的だった。



★おまけ(ピーター視点)★


俺は誰よりも一番強いと思ってた。

上級生にだって勝てるし、同じ年の奴らの中で敵なし。

剣なんてまともに見たことない女に負けるはずない。

そう思ってた……けど負けちまった。


ネズミみたいにすばしっこく逃げやがって。

背がちょっと高いからって、調子に乗りやがって。

俺の剣が当たらないなんて初めてだった。


何回やっても結果同じ。

悔しいけどあいつの実力は俺より上だと痛感した。

型や動きもしっかりしていて、今まで練習を積み重ねてきたのだとわかったから。

改めてリリーを認め話してみると、普通の令嬢と違って話しやすくて、剣に対しての本気度が伝わってくる。

その姿勢に女だからと決めつけていた自分が恥ずかしくなった。

彼女を見ていると、自分も頑張らなきゃ、そう思えるようになったんだ。

良いライバルを見つけた。

俺はこれから変わる、そして絶対にリリーに勝ってやるんだ。

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