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黒い靄のその先に (其の五)

私は駆け足で近づくと、間髪入れずに木製の扉を蹴破る。

中へ入ると、屋敷から運び出した荷物をせっせと詰めるガブリエルの姿。

彼の後方の床には開けっ放しの扉。

きっとこの扉は彼の屋敷へ続く隠し通路。

これがあったから、トレイシーを緑地公園へ誘ったのだろう。

ここなら誰にも見られることなく、屋敷へ戻れるから……。


彼は目を大きく見開きこちらへ顔を向けると手を止め固まった。


「リリー!?生きてッ、なっ、なぜここが!?」


「ガブリエル、覚悟しなさい!」


私はガブリエルへ飛び掛かると、腕を捕らえ後ろへ締め上げる。

痛みに暴れる彼の体を押さえつけると、逃げないよう関節技を掛けると、そのまま腕の骨を外す。


「待ってくれ、がぁっ、いたっ、待て、ああ”あ”あ”あぁ”あああああ」


痛みに悶絶するガブリエルを見つめながら、私はもう片方の腕の骨も外すと、馬乗りになり怒りに任せガブリエルの顔面を殴る。


「あなたのせいでエドウィンがッッ、あなたのせいで!!!」


違う、彼のせいじゃない。

軽率な行動が招いた私のせい。

分かっているけれど……振り上げた拳の行き先が欲しかった。


「うぅッ、ひぃっ、ガハッ、やめっ、グハッ、うぅぅぅ……ッッ」


何度も何度も彼の顔面に拳を振り下ろす。

殴りすぎて拳の骨が折れたのだろうか……ミシミシと音を立て激痛が走る。

それでも私は殴るのをやめなかった。

拳が赤く染まり始めた頃、バタバタバタと足音が響くと、ノア王子とピーターが小屋へ現れる。


「はぁ、はぁ、はぁ、リリー、こんなところにッッ」


ピーターはすぐに私の体を捕らえると、ガブリエルから引き離した。

抵抗するように必死で暴れるが、ピーターは私の体をガッチリと抱き抱える。


「離して、ピーター!」


「落ち着けリリー、こいつを殺すつもりか。もう意識はない、気絶してる」


顔が腫れ口から血を流し、ピクリとも動かないガブリエル。

私はようやく我に返ると、先ほど止まったはずの涙がまた溢れ、雨の雫と一緒に落ちていった。


★おまけ(エドウィン視点)★


俺の主様があいつの人形になってしまった。

俺が守り切れなかったから……俺のせいだ。

だけど本当の主様は中にちゃんといる。


それは魂の繋がりがあるからわかるんだ。

彼女は酷く苦しんでいる。

だからどんなことをしても早く元に戻さないと。


狼の姿へ変わったあの時、あいつを仕留めておくべきだった。

ピーターならあそこできっちり仕留めていただろう。

だけど俺には出来なかった。

主様を傷つけることが怖くて……動くのをためらった。


地下室を出て行ったあいつを追いかけて、やっと開いた扉。

何度も扉に体当たりした事で体中が痛む。

腕の傷が開き血が止まらない。

意識が朦朧とする中、過去の映像が脳裏を過った。


俺はいつもそうだった。

後先考えずに行動した結果、何も果たせない。

意気地なしで臆病者で、後先考えずに行動して……。

人狼の街に居た時も同じだ。

俺は誰よりも早く走れ、誰よりも強かった。

そう自負していた、なのに両親を守れなかった。


俺の両親は山に住む獣に襲われて死んだ。

子供はつれていけないと言われたのに、無理矢理ついて行った俺のせいで。

獣が俺を襲ってきて、立ち向かおうとしたけれど、怖くて足が動かなかった。

両親はそんな俺を庇い負傷し、俺を助けるために獣を引き付け殺された。

大事なものを守れなかった。


足が震え動けないまま、目の前で食われていく両親の姿を今でも鮮明に覚えている。

だから強くなろうと決めた。

もうこんな思いをしたくなかったから。


主が現れて今度こそって思っていた。

なのに……なのに……。

血を流しすぎたのか……意識が遠のいていくのを感じる。

その視界の隅に、主様の姿が映った。


ガブリエルに捕らえられる彼女の姿。

しっかりしろ俺。

ピーターのように格好良く救いだせなくても、必ず助けるんだ。

あの瞳の色……主様はまだ助かっていない、苦しみ続けている。

先ほどまで感じていた主様の意識が薄れていくのがわかる。

このままでは彼女自身が消えてしまうかもしれない。

それはダメだ。


俺は必死に重い体を持ち上げると、気配を消し壁沿いに主様へ近づいて行く。

音を立てず慎重に。

ガブリエルの視界に入らないよう、物陰に隠れながらゆっくりと。

その刹那、ガブリエルが壁に現れた穴を抜けて飛び出した。

彼女は剣を自らに向けると、ゆっくりと瞳を閉じる。

俺は思いっきり地面を蹴ると、主様へ手を伸ばした。


スローモーションで流れる映像。

剣先が落ちていくその様に、俺は主様の体を抱きしめる。

剣が皮膚を裂き突き刺さり貫通すると、激痛が走った。


目の前には彼女の瞳。

暗かった瞳の色が、いつもの色に戻っていくのがわかった。

彼女に怪我はない。

俺の知る主様の姿。

やっと守れたんだ。

俺は安心するように瞳を閉じると、暗闇の中へと落ちて行った。

主様の笑った姿を瞼の裏に描いて――――。

*******************************

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

第三章はここで完結いたします。

暗いお話だったかと思いますが、いかがでしたでしょうか?

ご感想等ございましたら、お気軽にコメントください。


次章よりやっと謎が徐々に明かされていきますので、ご安心ください!

(前置きが長すぎですね、すみません(-_-;)サイモン教官もまた登場しますよ!)

当初よりも話数が増えてしまい、章の追加をさせていただきました。

どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです!

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします

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