疑惑の調査 (其の四)
チラッとエドウィンを見ると私は軽く頷き合図を送る。
そのままメイドと共に部屋を出ると、お手洗い場に入った。
メイドは廊下に待機したまま。
私はカギをかけそっとお手洗い場の窓を開けると、外へ下りた。
辺りを警戒しながら目的の場所まで素早く進む。
警備兵たちは基本侵入者用の配置になっているため、こうして中から外へ出れば見張りは比較的少ない。
そうはいっても、メイドや執事たちがうじゃうじゃいるから気は抜けない。
だが時間的に昼食が終わった正午過ぎ、休憩に入っている使用人が多いはず。
記憶を頼りに壁沿いを進み、エントラスから右側へとやってくる。
すぐに調理場を見つけると、換気用の窓を慎重に開けた。
中を覗き込むと、人の姿はない。
私は窓に手を付き足を掛けると、飛び上がり中へ入った。
時間はあまりない、すぐに調べて戻らないと……。
調理場の奥に扉を見つけると、ドアノブを回してみる。
鍵がかかっているかと思ったが、すんなりと回った。
ガチャッと開けてみると、そこは倉庫。
保存用の食材が並んだ棚がズラリと並んでいる。
棚をまじまじ見つめてみると、どうやらここは非常食が集められているようだ。
メイドや執事はここへ入らないのか……、掃除はされておらず棚には埃かかっている。
慎重に奥へ進んでみると、その先に記憶と同じ扉を見つけた。
壁と同系色の扉。
扉は微かに開いていて、そこから冷たい風が吹き込んだ。
開いていなければ気が付ないほどに、精巧に作られている。
恐る恐る中を覗き込むと、薄暗い先に石段が下へ続いていた。
扉の内側にカギはなく、何かを閉じ込めるための部屋……、きっとここだ。
これを知らせれば……警備兵を動かせる。
とりあえず先に戻らないと、そろそろ怪しまれる。
戻ろうと振り返ると、外から足音が響く。
私は慌てて食品棚に隠れると、じっと身を顰めた。
息をひそめ様子を窺っていると、部屋に先ほど応接室でブローチを受け取った騎士がやってくる。
心臓の音がバクバクと響く中、騎士が目の前を通り過ぎた刹那、後ろからガタンッと大きな音が響いた。
慌てて振り返ると、地下から戻っていたのだろう、ガブリエルの姿。
咄嗟に逃げようとするが、こちらに気が付いた騎士が私の体を押さえつける。
「ぐっ、がはっ、……ッッ」
「おやおや、リリー殿、こんなところで何をされているのかな?」
口を閉ざし、ガブリエルを睨みつけると、彼は楽しそうに私を見下ろした。
「ふーん、まぁいい。あの小汚い少年の事を思い出したんだ。彼はあの子のお兄さんだね。それで僕の事を聞いたのかな?君は初めからこれが目的だったんだろう?あの少年を見てから君がここへやってきた。怪しいと思ったんだ。そこでこのブローチを調べてみて、さっき君が購入した物だとわかった。本当の目的がなんなのか探ろうと思っていたが、手間が省けたよ」
くぅ……はぁ……失敗した……。
思いつきで動くべきではなかったのだ。
後悔するが今更遅い。
エドウィンだけでも何とか逃がしたいところだけれど……。
「君の連れて来たエドウィンと言ったかな?彼は既に捕らえてある。君も大人しく来るんだ」
私はすぐに顔を上げると、彼へ訴えかける。
「彼は何もしらない、関係ない!手を出さないでッッ」
押さえつける腕に力が入ると、鈍い痛みに顔が歪んだ。
「まぁまぁそう熱くならず、落ち着いて、……少し眠ろうか」
ガブリエルは胸ポケットからシルクのハンカチを取り出すと、私の口元へあてた。
急激な眠気に意識を失うと、私の体は騎士に抱かれ運ばれていく。
そのまま応接室へやってくると、私の首へ短剣が押し当てられた。
「エドウィン殿、お待たせしたね」
ガブリエルは私の髪を引っ張ると、エドウィンへ笑いかける。
「主様、貴様ッッ」
腰の剣に手を伸ばした刹那、切先が首の皮を切った。
「君が暴れると大変そうだ。少しでも動けば彼女の首が赤く染まるよ。さぁ剣から手を離してくれ」
エドウィンは彼を睨みつけながら舌打ちすると、剣から手を離し両手を挙げた。
「彼の腕にこの手錠を、二人とも地下室へ連れて行く」
ガブリエルは騎士達へそう命令すると、私達は地下へと運ばれたのだった。
★おまけ(エドウィン視点)★
今日は初めてのお休み。
俺は主様に会いに行くと、部屋に姿はなかった。
匂いを頼りに探してみると、主様はどこかへ出かけるところだった。
声を掛けると、大きく肩を跳ねさせ、明らかに動揺している。
俺は怪しんで無理矢理主様についてきた。
主様はいつもとんでもない事をしでかすから。
この前の村でだってそう、火を消すはずが、あんな大けがを負う事になるなんて……。
今度は絶対俺が守るんだ。
主様の目的を聞き出そうとするが、なかなか上手くいかない。
ピーターなら聞き出せたるのかな……。
そう考えるとイライラが止まらない。
俺だって主様を守りたいんだ。
そのために強くなったはずだった。
だけど結局俺は主様を守り切れなかった。
ピーターみたいなヒーローになれない。
腰の剣は取り上げられ、手には手錠、口にはロープ、足には足枷と鎖。
意識を失い、鎖で吊るされた主様の姿に、俺は……。




