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疑惑の調査 (其の二)

裏路地へやってくると、少年の声が響き渡る。


「離せ、離せぇ!!!せっかくのチャンスだったのに!くそっ!!!」


暴れまくる少年を片手で抑え込むエドウィン。

二人の傍へやってくると、私は少年へ視線を合わせるよう屈んだ。


「落ち着きなさい、あなた平民でしょう。その小さなナイフで、何をしようとしていたのか知らないけれど、すぐに取り押さえられて終わりだよ」


「うるせぇ!!!あいつが、あいつが僕の妹を連れ去ったんだ。返してもらうだけだ!」


妹を連れ去った?


「どういうこと?」


少年は目に涙を浮かべながら黙り込むと、拳を強く握りしめた。


黙り込む彼の背を落ち着かせるように撫でると、少年は目に涙を浮かべながら顔を上げギュッと唇を噛んだ。


「大丈夫、話してみて。私の名はリリー、君の名前は?何か力になれるかもしれない、こうみえて騎士見習いなんだよ」


少年は大人しくなると、ボソボソと話し始めた。


「……僕の名前はサム。僕の妹が数日前にいなくなったんだ。街へ行ったきり帰って来なくて……こんなこと今までなかった。だから僕すぐ探しに行ったんだ。だけどどこにもいなくて……。街中探し回って貴族街の近くに来た時、あの馬車から妹の靴が落ちてきた。あれは僕が誕生日プレゼントした名前入りの靴で絶対妹ので間違いない!キャサリンって書いてあるんだ!靴を拾って追いかけたんだけれど……貴族街に入る前に騎士に捕まって……どうしようもなくて。……絶対にあいつが僕の妹を……連れていったんだ……うぅぅ、ひぃく、ふぅッッ……」


ポロポロと大粒の涙が溢れると、少年は慌てて拭う。


「靴があったのなら、騎士警察に話せば、何とかしてくれるでしょう?」


少年は勢いよく顔を上げると、涙をあふれさせながら私を強く睨みつける。


「話したさ!靴をみせて全部説明した!だけど僕みたいな孤児の話を、まともに取り合ってくれなくて……うぅ……ッッ」


悔しいと少年は拳で地面を殴ると、土に涙が滲んでいった。


ガブリエル伯爵が少女を誘拐?

小説にそんな事件なかった気がするけれど、彼は根っからの変態。

少年の顔立ちを見る限り、妹さんもさぞ綺麗なのだろう。

このタイミングで伯爵の誘拐説……小説で起こる事件と何か関係があるのかもしれない。

たとえ違ったとしても、変態を捕まえるのは世の女性のためになる。


「わかった、私が協力する」


「主様、本気?ダメ、危険だ。一度宿舎へ戻ろう」


エドウィンは私の腕を掴むと、金色の瞳を真っすぐに向ける。


「危険かもしれないけれど、こんな話を聞いて放っておけない。宿舎へ戻っても証拠を見つけるまでは、大ぴらに動けないだろうし、とりあえず私が彼に会いに行ってくる。エドウィンはサムとここで待っていて」


立ち上がろうとすると、エドウィンが持っていた私の腕を強く引っ張った。


「ありえない、主様一人で行くなんて絶対にダメだ。俺も一緒に行く、これは譲れない」


「エドウィン……サムが一人だと危ないでしょう。あなたに守ってもらいたいの」


言い聞かせるように話すが、エドウィンは首を横へ振ると、捕らえる腕に力が入る。


「嫌だ、俺の主様はあなただけ。危険なところへ行こうとする主様を、一人にはさせられない。行くなら俺も一緒」


強い意思を感じる金色の瞳。

これは梃子でも動かないだろう。

私は諦めるように深い息を吐き出すと、胸ポケットからペンと紙を取り出し地図とメッセージを書いた。


「はぁ……わかった、サムはここへ行ってみて、安全だから。ピーターて人を探してこのメモを見せればいいよ。事の詳細は話さないでね。彼にこれ以上迷惑を掛けられないから」


私は宿舎までの道のりを示したメモと手紙を手渡すと、サムの手を引き立ち上がらせ、汚れた土を払い落す。


「リリーお姉さん……本当にいいの?」


「もちろん、騎士として必ずあなたを助けるからね。話を聞いてくるだけだから、夕刻までには戻るつもり。サムは一人で大丈夫?」


「うん、大丈夫。あのッ、ありがとうございます!」


サムは地図をギュッと握ると、眩しい笑顔で笑ったのだった。

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