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平穏な日常 (其の一)

男だという事は、誰にも話さないと約束し、落ち着いた彼女を私は部屋に送り届けた。

何か困ったことがあればいつでもサポートする。

でもノア王子が知っているのかどうかは聞けなかった。


秘密を共有したことで親密になると、トレイシーは休みの日に宿舎にやってくるようになり、彼女と過ごす時間が増える。

正直ノア王子との時間は大丈夫なのかなと考えることもあるんだけれど、なんせセンシティブなところ。

以前よりも聞くのが難しくなってしまった。


前世の記憶がある私自身、男の同士の恋愛にそれほど抵抗はない。

だけどこの世界は別。

白い目で見られるだろうし、王子ともなれば大変だろう。


そんな平和な日常が過ぎ去っていくある日。

朝の訓練が終わり食堂へやってくると、私はピーターの姿を探していた。

しかしどこにも見当たらない。

おかしい、いつもここにいるはずなんだけれど……。


今日は、城での仕事はお休み。

学園が終わった後、練習に付き合ってもらおうと思っていたのに。

私はピーターの友人を見つけると、声をかけた。


「ねぇ、ピーターを知らない?」


「ピーターなら今日は風邪で寝込んでるぜ」


ピーターが風邪!?

驚き目を見開くと、昨日の彼の様子を思い出した。


昨日の彼は城での仕事が終わり、珍しく宿舎に帰ろうとしていた。

いつもエドウィンの訓練で、仕事が終わった後も、毎日居残りしていた彼が。

予定がなさそうな彼の様子に私は思わず飛びつくと、自分の訓練相手をお願いしたのだ。


あの時少し顔色が悪かった気がする。

困った様子で言葉を濁していた彼を、強引に訓練場へ引っ張ったのは私。

うぅ、あれって体調悪かったんだ……。

あー、やっちゃったな……。


私は学園が終わると、トレイシーに会うために城やってきた。

洗濯籠を運んでいる彼女を見つけると、手を振り声を掛ける。


「トレイシー、仕事が終わってからでいいんだけれど、料理を教えてくれないかな?体に優しい物を作りたいんだ」


「料理ですか?いいですけれど……突然どうされたのですか?」


トレイシーは空っぽになった籠を持ち直すと、こちらへ体を向けた。


「ピーターが風邪をひいてしまってね、お見舞いにとおもって」


「ピーター様ですか。うーん、わかりましたわ。その代わり一つ条件がございます。リリー様の手作り料理を一番最初に食べさせてください」


「えぇ、もちろん。そんなことでいいの?」


「はい、十分ですわ。ノア王子に自慢……いえ、何でもありません。えーと、まずは材料の買い出しですわね。場所は別棟にあるキッチンが自由に使えるので、そこでやりましょう」


私はトレイシーと共に街へ向かうと、賑わう市場へやってきた。


この世界の食材は前世の食材とよく似ている。

けれど全然違う食材もある。

例えばよく料理で使われるトマトやニンジン、カボチャなど色合いが全く違うのだ。

それと見た目はどうみてもリンゴなのに、食べるとミカンの味がしたり。

最初わかったときは、あまりの違いに目と舌を疑い、ビックリしたのはいい思い出。


食材を買い込み、別棟へとやってくる。

そこは城で働く従業員が暮らしている場所。

城の西側に位置し、宿舎とは正反対の為、初めてやってきた。


トレイシーへ続き中へ入ると、メイドや執事の姿。

私の姿に丁寧な礼をすると、何も言うことなく道を開けるようにスッと下がっていった。

さすが城に仕える者、教育が徹底されている。

私は苦笑いを浮かべながら廊下を進んで行くと、食堂へやってきた。


奥にある厨房へ入ると、整理整頓され磨き上げられたシンク。

前世で一人暮らしをしていた私のキッチンとは全然違う。

ピカピカに磨かれ、綺麗に並べられた皿を見て感嘆と声を漏らした。


トレイシーはテーブルの前へ立つと、買い込んだ食材を並べていく。

私も慌てて手伝うと、野菜の水洗いを始めた。


「初めて来たけれど、大きな屋敷なんだね。私の部屋でと思ってたけれど、こっちの方が厨房も綺麗で広い」


「へぇ!?部屋ですか?」


トレイシーは手を止め顔を上げると、驚いた様子で目を見開く。


「えぇ、何か問題があった?まぁここまで設備は揃ってないけれど……」


青いトマトを水で洗い流しまな板へ置くと、彼女の手がまた動き出す。


「いえ、別に……。その……リリー様って本当に危機感が足りないですわ」


難しそうな表情を浮かべると、ボソッと呟いた。


「うん?何か言った?」


「いえ、何も。念のために言っておきますけど、そんなホイホイ部屋に人を上げちゃだめですわよ」


「さすがに誰でもというわけじゃないよ。トレイシーだから」


ニコッと笑みを浮かべると、彼女の頬が赤く染まる。


「ッッ、なんだか複雑ですわね……」


トレイシーは表情を手で隠すと、慌てた様子で調理器具の準備を始めた。

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