ヒロインとの出会い (其の六)
その後湯あみを済ませ着替えを貸すと、トレイシーは自分の宿舎へ戻って行った。
事情というのは聞けなかったが、それよりもノア王子はトレイシーが男だと知っているのだろうか?
ノア王子が彼女をこの城へ連れてきたようだし、それにとりあえず二人は付き合っている。
本で見た男色との噂は、本当だったのかな。
私との婚約がなくなった今、ノア王子は未だ婚約者を作っていない……もしかしたら。
前世ではBLにそれほど興味はなかったけれど、ノア王子とトレイシーならありなのかも。
どちらも整った顔立ちで、想像すると大変美しい。
これはこれであり。
何はともあれ二人には、幸せになってほしい。
二人の恋路は身分さ性別と困難が多いけれど、乗り越えてほしい、そう切に願ったのだった。
★おまけ(トレイシー視点)★
リリー様の事は以前から知っていた。
女でしかも爵位も高い御令嬢が、女騎士として騎士学園にいることを。
私の姉も彼女と同じ、剣が好きだった。
強くて優しくて穏やかで……。
逆に私は令嬢がする裁縫や花、料理が好き。
戦う勇気もなく、弱いくせに気だけは強い。
姉と性別が逆に生まれてきたとよく言われていたの。
男であるにも関わらず、女のような私を皆が笑っていた。
何度か男らしくなろうと努力したこともある。
だけど男らしいとは何なのか、女らしいとは何なのか、わからなくて……。
姉はそんな私を支えてくれた。
そのままで良いと言ってくれた。
姉だけが私の味方だった。
姉のおかがで、次第に笑われるのも気にしなくなって、くだらない事に従おうとしている自分が馬鹿らしくなって、言い返す術を覚えた。
だけどここへやってきて、私の味方は誰もいなくなった。
皆が女だと信じているから笑われることはないけれど、その分変なやっかみが増える。
私の可愛さに言い寄ってくる令息。
私は女の恰好は好きだけれど、恋愛対象は女、男に興味はない。
味方がいないお城の中で、唯一の癒しがリリー様だった。
リリー様はどこか姉と似ていて、ノア王子のお気に入りとの点でも同じ。
だけど侍女の私が彼女と話す機会はなかった。
だけどのあの日、リリー様と城で出会えた。
このチャンスを逃すわけにはいかないと、すぐに話しかけた。
仲良くなりたくて。
話すと本当に優しくて、こんな私の相手をしてくれる。
一緒に居ると辛い事も悲しい事も耐えられるそんな気がした。
次第に仲が深まり、私の中にある感情が芽生え始めた。
異性として惹かれている事実。
だけど彼女は私を女だと思っていて……。
そこで初めて私は、男として見てもらいたいと思った。
今日も令嬢に絡まれてうんざりしてたところに、リリー様がまた助けてくれた。
水浸しになった私を部屋まで連れて行くというが、私は男、行きたいけれど行くわけにはいかない。
しかしお風呂との単語で、彼女の入浴姿を想像すると、頭が沸騰しそうになった。
あたふたと混乱していると、気が付けば彼女の部屋。
部屋に入るや否や、彼女は服を脱ぎ捨て下着姿になる。
いつも服で隠れていた肌があらわになると共に、豊満な胸から目が逸らせない。
固まる私の姿に、彼女がゆっくりと近づいてくる。
思わず後ずさるが、気が付けば後ろは壁。
大変な状況のはずだが悲しいかな男のさが。
自然と谷間に視線がいくと、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
滑らかな肌に、柔らかそうにゆらゆら揺れる胸。
そんな気持ちを知る由もない彼女は、私の濡れた服を逃がそうと手を伸ばした。
強く拒絶すれば、リリー様はきっとやめてくれる。
だけど心の奥に、男だと知ってほしいそんな邪な思いが頭を掠めた。
バレてはいけない事実。
それにどんな反応をされるのか怖い。
だけどノア王子が信頼している彼女ならと……どこか期待した。
男だとバレてしまったが、リリー様は姉と同じように私を認めてくれた。
すごく嬉しかった。
私にはリリー様しかいない。
姉以外で、こんなに誰かに対して強い感情を抱いた事なんてない。
私の中でリリー様の存在がどんどん大きくなっていく、そんな気がした。




