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ヒロインとの出会い (其の二)

その出会いから、トレイシーと城で会うと他愛のない話をするようになった。

こんなに早くヒロインに出会えるとは思っていなかった。


「でねぇ聞いてくださいよ、もう本当ムカつくんです!」


「あはは、それは大変だったね。でも言い返したんでしょ?」


「もちろんです。言われっぱなしは嫌ですもの。それでですね~」


最初は小説とのイメージの違い戸惑っていたけれど、慣れるとそんなくだらない事を気にすることもなくなった。

彼女は感情豊かで、よく話よく笑う、そんな令嬢。

仕事での愚痴を話してくれたり、令嬢たちの噂話を教えてくれたり。

身分や仕事に関係なく、自然で気軽に話せてとても楽しい。


業務を終え宿舎へ戻ろうと廊下を進んでいると、トレイシーが待っていたとばかりに駆け寄ってくる。

可愛らしいその姿に胸がほっこりすると、彼女は腕を絡ませ並んで中庭へと向かった。

花壇の傍にある長椅子へ腰かけると、沈む夕日を眺めながら話し始める。

今日の出来事や、笑い話。

本当はノア王子の事を聞いてみたいけど、どうもタイミングが難しい。


話が盛り上がり笑いあっていると、気が付けば月が昇り始めていた。

そろそろ戻らなければいけないと立ち上がると、トレイシーが服の裾を掴む。


「楽しかったです。あの……リリー様とこうして出会えて本当によかったですわ。私はどうも女性に好かれないみたいで……。だけどリリー様は、お優しくて頼もしくて、面倒な私の相手をしてくれる。……私のお姉様みたいですわ」


お姉様?

トレイシーに姉なんていただろうか。

確か小説では弟が居た気がするけれど……。


「面倒だなんて、そんな事を思ったことないよ。私もこうしてトレイシーに会えて幸せ。ところでトレイシーにはお姉さんがいるの?」


「はい、リリー様のように芯があり、お強い方で……私の大好きな人ですわ。……また明日もここで待ってます」


「うん、じゃぁね、また明日」


彼女へ手を振り去ろうとした刹那、月明かりに照らされたトレイシーの表情は、なぜか消え入りそうな笑みを浮かべていた。


数日後、私は雑務を終え回廊を進んでいると、窓際に佇む人影が映る。

ここは人通りの少ない場所。

珍しい人の姿に思わず隠れた。


シルエットを見る限り、男と女。

何となく身を顰めると、聞き耳を立ててみる。


「※×〇△◆※……どうして……※◆×△〇□……」


声が小さくてよく聞き取れない。

気づかれぬようゆっくりと近づいてみると、また身を顰めた。


「最近、リリーと仲が良いみたいだね」


この声は……ノア王子。


「えぇ、リリー様は強くてお優しくて、本当に素晴らしい方ですわ。それが何か?」


相手はトレイシー。

二人の恋は、もう始まっていたんだ。

人気のない場所で密会。

小説にも出てきていた気がする。

その場所に自分がいるなんて夢みたい。

叫びたくなる衝動を抑え、一人感動していると、二人の会話が進んでいく。


「何か、じゃない。君は自分の立場をわかっているの?ばれたらどうする」


「ばれても構いませんわ。リリー様であればきっとわかって下さいます」


これってまさか、すでに二人はそういう関係に!?

ストーリー的には早い気がするけれど……母親の事件で彼の性格が変わらなかった影響で、ストーリーが順調に進んだ結果?


「はぁ……そういうことじゃない。君は僕のことをわかっているだろう。だから早急にリリーから離れてほしいんだけど」


「断りします。ノア王子こそ、さっさと婚約者を作り、お立場を守ったほうが宜しいのでは?令嬢に興味がないその姿、メイドの間では男色との噂が流れておりますわよ」


「なにそれ……ますます頭痛がひどくなる。はぁ……とりあえず気をつけてね」


「言われなくてもわかってますわ」


二人の表情は見えない。

意味深な会話に、胸がドキドキと高鳴る。

小説でもノア王子の男色噂は書かれていた。

だけどそれは女嫌いからの噂だったはずだけど……。


もしかして今のノア王子も、女嫌いなのだろうか。

だけど私に対しては普通の態度。

基本学園での生活で、ノア王子と令嬢の絡みはみたことがない。

女嫌いを変えたと思っていたけれど、違うのだろうか?


それよりも、ばれたらというのは、きっと二人の関係。

もし知ったとしても、私は誰にもいうつもりはない、寧ろ応援してる。

それにトレイシーの信頼も得られているし、私が彼女を虐めたと断罪されることもない。


あーでも小説で、婚約の話が出ていた気がする。

トレイシーとの関係がばれそうになり、彼女を守るためにノア王子が婚約者を作ろうとする。

まぁ……もっとロマンティックな会話だった気がするけれど……。

二人には幸せになってほしい。

私に出来る事なら、何か協力したいんだけれど……。

遠ざかって行く二人の足音を聞きながら、私はじっと考え込んでいた。

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