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ヒロインとの出会い (其の一)

ノア王子が私を正式に任命すると、晴れて城で働けることになった。

ピーターとエドウィンは前回の試験後、すぐに任命されているので先輩だ。

働くといっても、騎士としてではなく、1年契約で基本書類整理など雑務を行い、騎士の仕事サポートするそんな立ち位置。

もちろん護衛の仕事もあるが、先日の事件もあり、解決するまでノア王子が街の外へ出る事はないだろう。

まぁなんにせよ、ノア王子の護衛を諦めていたところで、こうしてお城へ上がれるようになり本当によかった。


小説のストーリーはすでに始まっているはず。

お城のどこかにヒロインが居るはずだけれども、どこにいるんだろう。

もうノア王子との甘い恋物語が始まりかけているんだろうか。


ワクワク気分で城内を歩いていると、人気のない廊下に令嬢たちが集まっている姿が目に映る。

令嬢たちは誰かを囲うように集まり、只ならぬ雰囲気だ。


そっと壁に隠れ様子を窺ってみると、囲まれている女性の姿がチラッと見えた。

何があったのだろうか……。

そっと近づいて様子を窺ってみると、どうやら揉めているようだ。


「ちょっと聞いてるの?何なの、その態度は。ノア王子のお知り合いみたいだけれど、侍女の分際で馴れ馴れしいのよ」


「すみません……」


「謝ってすむ問題じゃないのよ。あなたみたいな低俗な人間が令息に取り入って何様なの、立場をわかっているの?」


「立場は重々理解しております……何度も言ってますが、私はそんなことしてません。あなたの婚約者なんて知りませんし、興味もないですから」


反抗的な態度でキッと睨みつける令嬢。

ブロンドの長い髪に、エメラルドの瞳。

可愛らしい容姿に、目を惹く存在感。

それはまごうことなき、小説のヒロイン。


しかし彼女は、私の知るイメージと随分違う。

小説に登場したヒロインは、控えめで、令嬢たちからの攻撃をグッと耐え忍そんな性格だったような。

しかし容姿の特徴を見る限りヒロインで間違いないだろう、それに侍女という点でも同じ。


令嬢は彼女の態度にカッと顔を赤くすると、手を振り上げる。

その様に私は柱から姿を現すと、令嬢の後ろから近づき腕を捕らえた。


「こんにちは、こんなところで何をしているの?」


声を掛けてみると、令嬢はサッと表情を取り取り繕った。

腕をスッと引くと、身なりを整え笑みを浮かべる。


「あら、リリー様ごきげんよう。あのっ、これは……少し……お話をしていただけですわ、ふふふ」


令嬢は誤魔化す様に笑うと、取り巻き達も賛同するようにうんうんと頷いた。


「そっか。だけどあまり楽しそうな話ではなさそうだね。確かあなたは侯爵家のご令嬢だね。お父上は騎士団の隊長、とてもお世話になっているの」


ニッコリ笑みを深めると、令嬢は顔がサッと青ざめる。


「あー、私用事を思い出しましたわ。失礼いたします」


令嬢は早口でそう言うと、そそくさと去って行く。

それに続くように、彼女の取り巻きも慌てた様子で逃げて行った。


彼女の父上は厳しい方で有名。

間違った事を嫌い、堅物という方が良いだろう。

くだらない理由で、侍女に絡んでいたと知れば、面倒なことになるに違いない。


去って行く令嬢へ手を振り見送ると、改めてヒロインをまじまじと見つめる。

小説ではどんな顔なのかイメージでしかなかったが、実際に見るととてつもなく可愛い。

クリッとした大きな瞳に長いまつ毛。

真っ白で透き通るような滑らかな頬に、真っ赤な唇。

身長は同じぐらいだが、守ってあげたくなる可憐さ。

これは女嫌いな王子でも、好きになるのも納得できる。


「あの……ありがとうございました。私はトレイシーと申します」


名前も小説と同じ、やはりヒロインで間違いない。

彼女は深々と頭を下げ顔を上げると、大きな瞳に私が映り込んだ。

柔らかい笑みは美しく、女の私でも胸がときめく。


「私はリリー。大丈夫だった?彼女たちの言葉を気にする必要はないからね」


「はい、ありがとうございます。大丈夫ですわ。こうやって御令嬢に絡まれることはよくあるのです。私の美しさに寄ってくる令息が悪いのに、私が言い寄ったのだとか、魅了したのだとか何とか、いちゃもんばかりつけてきて……本当に困った方ばかりですわ」


思ってもいなかったその返し、一瞬フリーズした。


「……えっ、あー、そうなんだ」


やはり小説と随分イメージが違う。

小説に登場する彼女は誰に対しても優しくて謙虚で不満を内に秘め、表には出さない。

こういうことは言わないイメージだったんだけど……。

じっと見つめたまま固まっていると、彼女は不思議そうに首を傾けた。


「リリー様、どうかなされましたか?」


「いや、あー、綺麗だと大変だね。次に絡まれることがあればすぐに教えて、助けになれるから」


彼女の肩に優しく触れると、彼女は花開くように笑った。

さすがヒロイン。

女のですら魅了してしまう笑みに、私は思わず見惚れてしまったのだった。

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